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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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シェラの願い

 ギルドの一行はディアーク王都に向け、パナソニ・ロックをあとにした。
 帰途は楽なものだった。帰り荷などは存在せず、荷物と言えば自分達の食料と水位だ。それも日に日に減って荷が軽くなるわけである。この調子なら帰りは早いなと誰もが思っただろう。実際砂嵐にもあわず、懸念したサンドワームも出現しなかった。ルシはこれも塔の魔法機能が作動しなかった所為かもしれないと思っていたが口にはしなかった。
 たまに出くわすのは大サソリかオオトカゲ。なんの問題もなく倒していった。まぁ昼間の暑さと夜の寒さはどうしようもなかったのだが……
 そんな感じで大した問題も無く9日で無事王都に辿り着いたのであった。
 一行はギルドで依頼の完了報告を行い、それぞれ成功報酬を受け取り散会する。ルシも金貨10枚(100万G)を受け取り、ギルドをあとにしようとした。
「おぃおぃ、ルシ君、ちょっと待ちたまえよ」
 そう溜め息混じりに言って引き止めたのはヴァルザードだった。
「ん?」
 ルシは非難がましい顔で振り返る。
「君は魔剣を受け取りながら、再戦の話もせずに帰るつもりなのかい?」
 と、ぞんざいに肩をすくめるヴァルザード。
「あぁ、なら王国主催の武闘大会はどうだ?」
「なに? 君はあれにでるのかい?」
「あぁ、一応申し込みは済ませてある」
 ルシがそう言うと、すぐさま受付で申し込みを済ませたヴァルザードだった。

 そしてルシは久方ぶりに『山猫亭』の扉を開けた。
「あら、おかえりー 早かったんだね」
 そう声を掛けてきたのは女将である。
「あぁ、ただいま」
 そういってカウンターの席に座りエールを頼む。
「クーちゃ―――ん! ちょっと下りて来ておくれ―――!!」
 女将の声が店内に響き渡った。すぐ横にいたルシは非難がましい顔を向ける。
「は―――い!」と言う声が階上から聞こえると、すぐクーは下りてきた。
 ルシに気付いたクーは満面の笑みを浮かべる。そして「ルシ様―――!」と絶叫し一目散に駆け寄っていく。その両腕は左右に大きく開きルシに飛びつこうとしていた。
 だが、ルシの直前で立ち止まってしまった。
 ルシは少し首を傾げる。
 クーは姿勢を整え「お、おかえ、りなさい、ませ」と、表情を強張らせ恭しく頭を下げる。
「……」
「あらあら、この子はもう……」
 女将がなんともいえない表情を浮かべていた。そしてガタガタ震えるクーの横に屈む。
「クーちゃん。あんたはもう奴隷じゃないんだから、ほら、我慢しなくていいんだよ」
 そう言って女将はその小さな背中を軽く押す。しかし一歩出ただけでクーは止まる。
 その顔がゆっくり上を向き、遠慮勝ちにルシを見つめた。
 ルシはそんなクーに、小さく頷いた。その表情は今まで見せたことが無いほど穏やかだった。
「ル、シ、様。おか、え、り、なさい。ワァ――ン」
 クーは顔を皺くちゃにし、目には涙が溢れ、ルシの胸に飛び込んだ。
 なんともいえない表情で、その頭を軽く撫で「ただいま」とルシが呟いた。
 女将の目にもキラッと光るものがあった。

 そのあと、クーは身振り手振りでルシの居なかった約20間の出来事を聞かせたのだった。
 ルシは、驚いたり呆れたり苦笑いになったり。今日ほど色々な表情を出したことは無かっただろう。最後には「顔が疲れた」などと訳がわからないことを言い出す始末である。

「あ、ルシさん。悪いんだけどねぇ、今日から2人部屋を使っとくれ」
 ルシは険しい顔をしたが、その横でクーが呆けた様な顔をしている。
「どういうことだ?」
「いやね、もうじき武闘大会があるだろ? 部屋が足りなくなるんだよ。それにあんたもその方が部屋代安く済むだろ?」
 ルシは困惑し、クーは満面の笑みになっている。そんな対照的な2人の顔を面白おかしく眺める女将であった。

 それから数日後、武闘大会まであと2日と迫った日のことだった。
 バタン!
 扉が壊れるかと思う程の、けたたましい音が酒場に響いた。その開かれた扉から入ってきたのはシェラだった。
「ルシは居る!? ハァハァハァ」
 激しく肩で息をしながらシェラは聞いた。
「あら、あんたどうしたんだい? ルシさんなら2階に居るけどねぇ?」
 女将は驚きながらも、ただ事ではないと思い素直に教える。
 それを聞いたシェラは「ありがと」とだけ残して2階に駆け上がっていった。

「おねがい、助けて……」
 部屋に入るなり懇願するシェラだった。クーはただ呆然と眺めている。
 ルシが「まぁ座れ」と椅子を差し出した。シェラは小さく頷いてそれに座る。
「どういうことだ?」
「キャミが城に、私は、でも逃げてきたけど、それで捕まって、キャノ姫様は会えないし、それでも食い下がったんだけど、捕まりそうになって、キャミが…… お願い手を貸して!」
 シェラの言いようは支離滅裂だった。そうとう慌てているようである。
「落ち着いて話せ。最初からゆっくりな」
 ルシは諭すように言い、クーにお茶を入れさせた。
「それを飲んで、それから話せ」
 シェラはクーからお茶を受け取ると、ゴク!ゴク!っと喉で音を立てながら飲む。そして胸をなでおろした。すこし落ち着いたようだった。
「ごめん、私どうしたらいいか判らなくて、それに相談出来る人も居ないし、だから……」
「あぁわかった、それでオレのとこにきたわけだな」
「うん……。ごめん……」
 シェラはそう言うと俯いてしまった。肩がふるふる震えている。
 いつもなら、文句の一つも言うクーだが、さすがに黙ったままだった。
「よし、じゃ此処を出て行ってからのことを順に話ししてみろ」
 ルシはいつもの無愛想な顔だが、それでも声はかなり優しかった。
 そしてシェラは俯いたまま、ゆっくり語りだした。

「私とキャミは、ルシが何か隠してると思ったの。キャノ王女があのペンダントを人に譲るとか考えられなかった。だからルシが王女に貰ったと言うことが信じられなかった」
 ここでシェラはゆっくりと上目遣いにとルシの顔を伺った。ルシはあえて何も言わず視線で先を促した。シェラは「ごめんね」と小さく呟いて、また語り始めた。
「でも、そのペンダントをルシが持ってる事は事実なんだから、王女になにかあったと思ったわけね? それでカノン王国に帰って確かめようと思ったの。でも、その……ルシに相談出来なくて、それで黙って出て行ったの……」
 また黙り込んでしまうシェラ。黙って出て行ったことで相談し難いのだろう。
 ルシは黙り込んでるシェラに見かねて、クーに視線を送る。クーはルシの言いたいことが判ったようにコクっと頷いた。
「おまえ。……らしくない。言いたいことあるならはっきり言え!」
 クーのその言葉に少し驚いたような表情を見せたシェラは、すぐに微かな笑みを浮かべ「だよね、まさかあんたに助け舟出されるとはね……うん! らしくない!」
と顔をあげ、ルシの顔を真正面から見据えた。その目にはもう迷いは無かった。

「私達は、馬を飛ばして大急ぎでカノン王国に帰ったの。馬には可哀想だったけどね。でも私はもちろん、キャミも王城には入れないでしょ? だから王都でキャノ王女の噂を聞いて回ったのよ。だけどいくら聞いて回ってもキャノ王女を褒め称える話しか聞けなかった。まぁそれは嬉しいことなんだけどさ。でも王都警備兵に捕まっちゃったのよ『王女様のことを、やたらと嗅ぎ回ってるのはお前達か?』ってね。おかしいでしょ? そりゃ多少派手に聞きまわったかも知れないけどさ、それくらいで捕まえるとか変よ。やっぱなにかある! ……でも結局なにも分からずじまいね。そのままキャミは王宮の王室専用区域行きよ。私はキャミを誑かしたとかで地下牢行きになりかけたけど、なんとか逃げたわ。でももうキャミまで連れ出すのは不可能だった。それでここに戻ってきたってわけ」
 シェラは「以上よ」と言って話を終えた。

「で、オレにどうしてほしいんだ?」
「決まってるじゃない! キャミを助け出すから手を貸してって言ってんの!」
 シェラは怒気を孕んだ険しい表情でルシを睨みつけていた。
「わかった」
「えっ?…… ほんとに?…… あんた判って言ってる? 王宮に忍び込んで仮にも王女を誘拐よ? 捕まれば死罪。仮に上手くいっても間違いなく指名手配よ? お尋ね者なのよ?」
 シェラは呆れた様に言いたい放題言ってのけた。
「問題ない」
「ルシ様が気にするわけない。おまえだって、わかってるはず」
 ルシとクーは淡々と答えた。
「だったわね…… 判ってるからここに来たのよ。フフッ」
 シェラはぞんざいに肩をすくめ苦笑した。
「だが、その前にお前に言っておくことがある」
「な、なによ……」
 ルシの言い様にシェラは身構えてしまった。
「キャノ王女は今ここの王宮に居る。人質としてな」
「えっ? 人質? どういうこと?」
「まぁ、和平の為の政略結婚と考えるのが普通なんだろうが、なぜ隠しているのかは判らない」 ルシは淡々と語るが、シェラは聞こえていないのか、目が虚ろで焦点があっていない。
「理由なんてどうでもいい。助けなきゃ! キャミなら絶対そう言うわ!」
 シェラは困惑しながらも、決意したように強い口調で言った。
「この件にはオレは手を貸せないぞ?」
 そんなシェラとは裏腹にルシの表情は真顔で落ち着いた口調で述べた。
「えっ? なんで?」
 シェラはまたも困惑する。キャミの時との態度の変わり様に驚いているようだった。
「王女は自ら来たのだろう。逃げ出す意思が無い者を助ける必要があるのか?」
「なにわけ判んないこと言ってるの!? 自分から来るわけないでしょ! 嫌々仕方なく来たのよ?」
 シェラは今にも殴りかかりそうな勢いでルシに詰め寄った。
「なら聞くが、王女は助けを望んでるのか?」
「えっ?」
「王女が逃げれば和平は無くなる。そうなればカノン王国は滅ぶ。それでも王女を逃がすのか? 王女がそれを望むなら助けてやる」
 そう言われてシェラは言葉を無くし、怒りも消えてしまった。ただ立ち尽くしている。
 シェラには判っていた、あの王女は国の為に自ら望んで来たのだと。
「じゃ、どうすればいいの? このまま見てみぬ振りなの?」
「とにかく、キャミが先だな。キャミを助ければ詳しいことも判るかも知れない。王女のことはそれからだ」
「そっか…… それしかないよね……」
「とにかく事を起こすにしても明日だ。今日は寝ろ」

 そのあと、事情を知らないクーに一から説明する。
 そして翌朝3人はカノン王国に向けて旅立った。

 これも後日談だが、結局ルシは武闘大会は不戦敗扱いである。
 結果、魔剣を持ち逃げされた形となったヴァルザードは「あの泥棒ヤロウ! ぶっ殺す!」と言ってルシ達の後を追うのであった。
どうぞ、評価、感想よろしくお願いします。

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