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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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ルシvsヴァルザード

修正作業と同時進行です。
更新がおくれないように努力いたします。
 「ギルドの皆様方、遠路はるばるご苦労様でございます。エンムギは塔に篭っております故、ご挨拶はわたくしめが代わってさせて頂きます。こんな場所ですので、大した御持て成しも出来ませぬが、ごゆるりと御くつろぎ下さいませ」
 そう言って初老の男は深々と頭を下げた。エンムギは姿を見せる気が無いのだろうとルシは思った。(ならこっちからいくまでか……)
 ギルドの面々は、それぞれ豪華とは言えない食事と酒で10日ぶりのゆったりした気分を味わっているようだった。明日からまた王都に向かって砂漠の旅が待っている。
 砂漠を徒行中は、頭から一枚布をすっぽり被り、顔もほとんど見えない状態だったが、今は誰もそのような格好はしていない。さすがにルシの見た目が奇妙な所為か、好奇の視線が自然と集まるようだ。ルシはそんなことは一向に気にする様子も無いのだが、それでも声を掛けてくる者も少なくなかった。
「やってるか?」
 そういって酒の入ったグラスを両手に男が近づいてきた。ルシも見覚えのある男、専属ギルド員のジークだった。歳の頃は20代後半。その短髪は黒く、肌も浅黒い。体格もルシより一回りは大きく冒険者というより傭兵と言った感じの男である。
 ルシはジークに一瞥をくれ、全く興味なさそうな顔で1センチ程度顎を動かす。
「ふっ、相変わらず無愛想だな」
 ジークはそういってルシの横に腰を降ろし、片方の手に持った酒をルシに差し出した。
「そういや、あの綺麗なお嬢さん達は来なかったんだな? なんかあったのか?」
「あぁ、大したことじゃない」
 にべもなく答えるルシに気を悪くするでもなく、「ならいいんだがな」とジークもどうでも良いという感じで話を切った。そして何かを思い出すように目を細め満天の星空を見上げた。
「なぁルシ君よ。君はあの時、まだまだ本気じゃ無かったと思うんだが、どうだ?」
「さぁ どうだったかな」
「そうか……、ならちょっと俺と仕合ってみないか?」
 そう言うジークの顔は唇の端をが少し上がり薄笑いを浮かべている。
「面白そうだねぇ。俺も混ぜてくれないかい?」
 声の方を見ると、長身痩躯の男が近づいてくる。年齢は30くらいであろうか? 少し長めの金褐色の髪を耳に掛け、肌はやや白い。冒険者と言うより貴族のそれである。その男の名前はヴァルザード。ギルドメンバーのリーダー役で、只1人ランクAの男である。ルシは徒行中とはずいぶん印象が違うなと思った。

「ヴァルザード殿もルシ君に興味があるのですか?」
 ジークは少し驚いた様に、ヴァルザードを見て(自分は引くしかないか)と思った。
「まぁね。『神速のルシ』なんて2つ名が付いたんじゃ、興味も沸くさ」
 ルシは怪訝顔をした。
「そういえば、ヴァルザード殿の2つ名は『見えざる剣』でしたね。あぁ『疾風』というのもありましたか……」
「まったく、どこのどいつか知らないが、恥ずかしい2つ名を付けてくれたもんだ、とは思うのだがね。で、どうだい?『神速のルシ』君」
「まぁ別に構わないが、『神速のルシ』とはなんのことだ?」
 そのルシの言葉に2人は固まった。いや、3人の会話に聞き耳を立てていた他のギルド員達も固まっていた。自分の2つ名を知らない冒険者は、まぁ珍しい。

 ルシはおもむろに立ち上がりジークに視線を向けたずねた。
「じゃまずはジークからでいいのか?」
 ジークは少し驚いた表情でルシの顔をまじまじ見上げた。
「すごい余裕だな…… じゃ俺から頼もうか。ヴァルザード殿もそれでよろしいですか?」
「うむ、俺に回ってくることを祈るよ」
 ヴァルザードは屈託のない笑顔を向けた。
 少し広い場所に移動する3人の後を、その場に居たギルド員全員が付いて行った。

 審判役のヴァルザードを挟み、数メートルの距離で対峙するルシとジーク。
 辺りが静寂に包まれていく。
 見守る全ての者は誰一人として声を発しない。
 その静寂を破ってヴァルザードが開始の声を発した。
「はじめ!」
 ジークがすーっと鞘から剣を抜き中段に構える。ルシは柄に手を掛けただけである。
 ジークがなんとも言えない表情ルシを見据える。
「剣を抜かぬのか? フッ……まぁいい。すでに仕合は開始している!」
 静かな声音だったが、語尾が爆ぜる。
 言下にジークは飛び出した。
 数メートルあった互いの距離を一気に詰める。ルシは微動だにせず剣も抜いていない。
 ジークは距離を詰めるその一瞬で剣を上段に持ち上げていた。そしてそれがルシを襲う。
「獲った!」そう叫んだのはジークだった。
 ジークは確かに見た。その剣がルシを捉えたのを。しかし手応えは無かった。
 ジークの斬撃は残像を切っていた。ルシはその名が示すように神速を持ってジークの背後に回ったのである。
 いつの間にかルシの右手には剣が握られていた。ヴァルザード以外、ルシが鞘から剣を抜くの見た者は居なかった。その剣はジークの背後から、その背に突きつけて止まっている。
 ジークの背に冷たいものが走り鳥肌まで立っていた。「ま、まいった……」
 あまりにもあっさりと終わった。誰もがそう思った。しかし誰一人ジークが弱かったのだ、とは思わなかっただろう。

「いやぁ、大したものだねぇ。『神速』が伊達じゃないってことは判ったよ」
 そう言って冷笑を浮かべるのはヴァルザードだった。
「正直、君の実力はランクAだね。こんなこと言うと、ここに居る全て者に悪いんだが……」
 淡々と言って頭を掻きながら、「それでもあえて言わせて貰うが」と付け足した。
「ランクAとBというのは、一見ランクが一つ違うだけなのだがね、その実力は雲泥の差があるのだよ。だから『神速』などと言われても所詮ランクBだと馬鹿にしていた。いやぁほんとにすまない」そう言って頭を下げさらに続けた。その顔はどこか嬉しそうだ。
「だが今は違うよ。君の力は判ったし、君をランクAの冒険者だと認めた上で戦う。俺にはもう驕りという隙はないからね。覚悟してくれたまえ」
 そう優しく諭すように話すヴァルザードだったが、ルシは興味ないといった顔をしている。
「どうでもいい」とそれだけ言い放った。
 ヴァルザードは真顔で頷き、その瞳が暗い闇に包まれていく。そして二人は距離を置いて対峙した。

 ルシとジークの時と違い、辺り一帯の空気がビリビリするのを、皆感じていた。
 仄かな松明と星明りだけの闇の中、二人の身体が薄っすらと光を帯びているようだった。
「はじめぇぇ!」
 今度はジークが開始の合図を発した。
 2人とも剣はまだ抜いていない。柄に手を当ててすらいなかった。突如、皆の目からヴァルザードの姿が消えた。
 ガキィィィィン!
 剣と剣がぶつかり激しく火花を散らす。
 ヴァルザードの姿はルシの目の前にあった。そのヴァルザードの横から凪ぐ居合いの様な斬撃をルシが受け止めていたのだ。
 ヴァルザードの持つ剣は魔剣だった。薄い桃色の光を発する魔剣はルシの持つミスリルの剣に刃こぼれを生じさせていた。
 二人は同時にバックステップで距離を取った。
「この剣、高かったんだがな……修理代出してくれるんだろうな……」とルシがぼやいた。
「君がここから生きて帰れたらね!」
 言下にヴァルザードが、また間合いに飛び込む。斜め下からの斬撃。しかし目に映るのは薄桃色の閃光だけ。さらにそこから無数の斬撃がルシを襲う。幾重にも薄桃の筋がルシの身体を交差していく。ルシは体捌きと足捌きでそれらを全て躱していく。
 さらに斬撃の速度が増す。ルシの身体もぶれてその実態が希薄になる。それでもさらに剣速が増して行く。『見えざる剣』と言われる所以であった。その剣は、もはや音のみで誰にも見えていない。ルシの身体を無数の薄桃糸が絡まるように見えるだけだった。

 もはや通常の剣技では捉えられないと判断したヴァルザードは、突如その攻撃を止めた。
「はあぁぁぁぁぁー」
 気合とともに、空気を切り裂く鋭い剣突きを繰り出した。そしてさらにその攻撃のベクトルを急激に変化させたのだ。
「むぅ!」
 身体の中心線を狙った、その剣突きを体捌きで躱したルシであるが、突如ルシが躱した方向に剣筋が変化したのだ。流石にルシもこれには剣で受けるしかなかった。
 ルシの顔が歪む。ルシは自分の剣を心配したのだが、ヴァルザードはルシに剣で受けさせたことに微かな笑みを浮かべた。
「フッ! どうした? 全て躱すのかと思ったのだがね?」
 ルシは非難がましい顔をヴァルザードに向けた。
「はぁ!」
 ルシは腕に力を込め、受けていた魔剣を弾き飛ばした。ヴァルザードは一瞬よろめくが、そこにルシの横薙ぎの剣が唸りをあげて襲いかかる。それを大きく体を反らせて躱し、そのままバック転を2回3回と距離をとっていく。
 しかしルシは逃がさない。猛然とダッシュし一気に距離を詰めた。
 そこから首筋を狙うように斬撃を繰り出す。
 それをかろうじて受け止めたヴァルザードの額に汗が流れた。
 またルシの剣が刃こぼれを起こし、ルシの眉間に皺が寄る。その目が一瞬、自分の剣を見た。その一瞬をヴァルザードは見逃さなかった。
 ドカァ!
 ヴァルザードの蹴りがルシの股間を襲う。ルシをこれを左手で受けるが、その予想もしなかった巨大なパワーに身体が浮いた。一瞬ヴァルザードの目が光った。
 受けた手で威力を殺したつもりだが、それでも数10センチは身体が浮いてしまったルシを、ヴァルザードの横薙ぎの剣が、風を纏い強襲した。ルシは体が浮いて足捌きは使えない。
  ルシは剣で受けるが、足が地に付いていない状態では、そのまま吹き飛ばされた。数メートル飛んだであろうか。とっさに片手を付いて、そのまま反転。
「うぉりゃぁぁぁ!」
 そこにヴァルザードの剣突きが襲う。ルシはその剣突きを身体を回して避ける。その回転にあわせた斬撃がヴァルザードの胴を凪ぐ。
 ピシュー!
 ルシの剣先がヴァルザードの胴を捉えていた。掠った程度だが鮮血が舞う。
 ヴァルザードは構わず無数の剣突きを繰り出してきた。またしてもルシは体捌きと足裁きで躱していく。そしてまた突如攻撃のベクトルを変化させた。しかし今度はルシが大きくバック転を繰り返し距離をとった。
「同じ攻撃は2度は通じないぞ」
 溜め息混じり呟くルシ。
 急速にヴァルザードの闘気が萎えていく。
「フッ! 楽しかったよ。 剣では俺の負けだ。 あっはっはっは!」
 ヴァルザードはそう言い、いかにも満足したように、その場に座り込んでしまった。

「じゃぁ剣の修理はしてもらうぞ」
「おぃおぃ、まじで言ってるのかい?」
 なんとも言えない表情でヴァルザードはルシを見た。
「とうぜんだ、俺は借金だらけで、金が無い」
「……君は、ほんとに面白い男だねぇ…… まぁ修理代を請求してくれれば、払わんことも無いが、それより、俺のこの剣をやってもいいが、どうだ?」
「なに? どういうことだ?」
 ルシが疑心に満ちた表情でヴァルザードの顔を見た。
「言葉の通りだよ。この魔剣を君に譲ると言っている」
「ほんとうか?」
「もちろんだ! だが一つ条件がある。もう一度俺と勝負しろ!」
「なんどやっても同じだぞ?」
 ルシは醒めた表情でそう言った。
「ただし、俺は槍を使う!」
 ヴァルザードはどこか得意げな笑みを浮かべていた。
 そしてルシはヴァルザードの魔剣を譲り受けた。

 さらに後日談になるが、ルシは刃こぼれしたミスリルの修理代も請求したのだった。
「あの、貧乏ヤロウ!」と苦笑いのヴァルザードだった……。
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