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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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エルフの森の謎の祠

 王都に帰った2人(1人と1匹)は武器屋に向かった。魔法『発光』を使う為に魔法石の付いた武器を求めて。
「こんにちはー」
「へい、いらっしゃ……い……」
(ケッ! ガキか!)
「嬢ちゃん、なんかようか?」
 いかにも、金持ってんのかぁ ガキのくせに……みたいな視線にむかついたクーだが、我慢した。その辺は慣れたものである。
「はい。魔法石の付いた武器って無いですか?」
「魔法石ぃ? なんに使うんでぇ?」
「えっとぉ、魔法の練習をするから、魔法石が入ってる武器買って来いって頼まれたんです」
 クーは本当の事は言いたくなかったので、誤魔化すことにした。
「頼まれたって、魔法使いの知り合いでもいるのか?」
 店のオヤジは、訝しむ顔を向けた。今の世は魔法使いは少ないからだろう。
 しつこいオヤジだなぁと思いつつ、誰にしようかと考えたが1人しか浮かばず、その名を告げる。
「えっとぉ、……ル、ルシ様です……」
「ルシだぁ?…… ってあの『神速のルシ』かぁ?」
「へ?」
 クーは何を言われたのか判らず、思わず声が裏返ってしまった。
「だから、あの白か銀か判らん髪で、目が金と赤の変な男か?って聞いてんだ」
「ルシ様のどこが変なんですか! 髪は綺麗だし、目だって素敵じゃないですか!」
 クーはルシを『変』と言われたのには我慢出来ず、身を乗り出して怒鳴り返していた。
 この時点で、クーは猫を被るのを止めた。このオヤジが嫌いになったのだ。
 店のオヤジは、クーの勢いに負けて後退っていた。
 しかしクーはそんなことお構い無しに『神速のルシ』って言うのが気になり、怒鳴り返した勢いのまま、店のオヤジに「ところで、神速って?」と問いただしていた。
 どうやらそれは、ルシに付いた『2つ名』だった。店のオヤジが言うには、ヒュドラを倒したことで有名になっているそうだ。本来『2つ名』はランクAに上がるような偉業を達成した者にしか付かないのだが、ヒュドラを倒すこと事態、その偉業にも引けを取らない程のことなのだ。 それと、これは後から知ることになるのだが、どうやらシェラが言いふらした所為だった。
「そおかぁ、嬢ちゃんは、ルシさんの知り合いかい?」
「それがなにか?」
 猫を被るのを止めたクーの態度は天と地程の差があった。
 横目で下から見上げるように睨みつけるその瞳には、汚物でも見るような嫌悪感さえ滲ませていた。
 さすがにこれには店のオヤジも顔を引きつらせ、態度を改めたようだった。
「そ、そう怒るなって。な? ルシさんの知り合いなら、大マケにしとくからよ。なんせルシさんは、うちの店でミスリルの剣を2本も買ってくれたお得意様なんだし。な?」

 結局、クーは魔法石を先端に埋め込んだ杖5万Gを、4万Gで買った。
 兎と狐狩りで稼いだお金では足りず、大赤字である。一瞬落ち込んだクーだったが、「神速のルシ様」と嬉しそうに何度も呟きながら『山猫亭』に帰っていった。

『山猫亭』に帰ったクーは、酒場の客に聞こえないように、こっそり女将に聞いてみた。
「ねぇおばちゃん、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」
「ん? 声をころしちゃって、いったいなんだい?」
 女将も、クーが内緒の話をしたいんだろうと、同じように声のトーンを落としてくれた。
「あのね、エルフの森に石で出来た祠があるって知ってる?」
「祠? さぁ聞いたことないねぇ……ちょっと待ってな、うちの亭主にも聞いてみるよ」
 女将はそう言ってカウンターの中にいる亭主に、耳打ちで聞いている。そしてまたクーのもとに来てくれた。
「亭主も知らないってさ。てかあんた、森にいってるのかい?」
「えっ? う、うん、ちょっと兎を狩りに。えへへ」
 クーは(まずいこときいちゃったかな)と思ったが、笑って誤魔化した。
「わかってると思うけど、あまり森の奥に入っちゃ駄目だよ。あんたにもしもの事があったら、あたしゃルシさんに合わせる顔がないよぉ」
「うん。大丈夫。それにもしものときは、神狼のリンがいてるから。えへへ」
 そういって、リンの顔を見た。リンは鼻の上に皺を寄せて困ったような表情をしている。
「ほんとだよ。クーちゃんが危ないことしたら、ちゃんと止めておくれよ」
 と、女将もリンの顔を見た。さらに皺を寄せるリンだった。

 ここの亭主は昔、冒険者だったとクーは聞いている。それもこの王都で、冒険者ギルドの専属ギルド員だったらしい。その亭主が知らないとなると、期待と不安がより大きくなる。

 クーは2階の自分の部屋に帰ると、あの祠の中にあった階段のことについて考えていた。
「あの祠って、どう見ても自然に出来た物じゃないし、あの階段だってそう。じゃ誰かが造ったってことになるよね? なんのために? ん~…………」
「あっ、中に神殿があるとか? やっぱ迷宮の入り口なのかな……それとも誰かの家?……」
「まさかね。でも、そうとう錆びてたし長いこと開けられて無いのは確かだよね?…………」
「……ちょっと! リン! なんとか言ってよ!……」
「……クゥ~ン……」
 リンは眠そうな顔で、クーを見た。そして一声鳴いて、後ろ向いてしまった。
「……」

 そして次の日、また早朝からクーはリンと共にエルフの森、その奥にひっそりたたずむ謎の祠に向かった。リンが今日はやけに愚図ったが、「なら1人で行くわ!」とほんとに1人で行こうとするクーに、仕方なく着いて来たようだ。
 祠に向かう途中で一匹の兎を見つけ、捕まえた。あくまで本来は狩りが目的なのだから、そのへんはしっかりしたものだった。そして2人はさらに奥に進む。辺りはいつも通り木々が生い茂り、上空からの日差しは枝葉に邪魔されてほとんど地上に届かない。いつの間にか鳥の囀りも聞こえなくなり、辺りが陰湿な空気に変わっていた。クーが何気なくリンを見た。その目つきが、いつもと違うことに気がついた。
「リン大丈夫?」ちょっと心配になったのか、リンに声を掛ける。
「ワゥ!」と小さく答えるリン。
 どのくらい進んだだろうか、前方に祠が見えた。そしてゆっくり近づいて行く。さすがに森をここまで入ってくると魔獣が心配だが、気配の察知はクーよりもリンの方が早い。そのことを数日の狩りで理解しているクーは、辺りの警戒は完全にリンに任せているようだった。
 祠に到着して、昨日と違うところがないか確認したが、どうやら昨日のままのようだ。魔獣が入り込まないようにと、一応扉は閉めてある。昨日は錆び付いてなかなか開かなかった扉も今日はすんなり開いてくれた。
「じゃ入るわよ? とその前に灯りだね」
 そう言ってクーは『発光』の呪文を唱えた。ゆっくりと杖の先端が黄白色の淡い光に包まれていく。クーは杖の先端を前に突き出して奥を照らし、ゆっくり扉の中に身体を忍ばせていった。リンもしっかりクーの後について入る。
 祠に入ると、すぐ階段が下に伸びている。杖を突き出して先を照らすが、下まで明かりが届かないようだった。ゆっくりゆっくり慎重に階段を下りるが、なかなか下まで行き着かない。
「結構深いよ。やっぱりここは迷宮の入り口なのかも……」
「クゥーン」
 クーも一応は盗賊ギルドに登録しているのだから、盗賊の端くれである。こういう所に罠が仕掛けられていることは承知している。だが承知しているだけで、実際こういう迷宮などに入ったことはない。
「リン、罠があったら教えてよ」
 クーもリンが罠を見つけられるとは思っていない。ただ不安だから言っただけだった。
「ワン!」
 しかし、リンはしっかりと返事をくれた。この吼え方は「任せて!」と言ってる。クーにはそう思えた。
 それでも一歩一歩慎重に階段を下りる。罠が無くても、足を滑らせる危険もある。それに相当古い階段なのだから、いつ崩れるか知れた物ではない。
 30段くらい下りただろうか、ようやく下が見えてきた。階下はそのまま通路になって、真っ直ぐに伸びているようだ。そこから数段下りてようやく階下に着いた。周りをよく照らして見ると、上下左右すべて石で組まれた壁になっている。通路の広さは2人が並んで歩ける程度、高さもせいぜい2メートルくらいだった。しかし杖の灯り以外まったくの闇だ。
「炭鉱とかじゃないね? やっぱり迷宮って感じだよ。エルフの森の謎の迷宮……」
 クーはさらに期待と不安を膨らませたようだった。
 階下に下り立った2人は、ゆっくりを奥に進みだした。2人とも声を出さない。足音も殺している。ゆっくりとゆっくりと進む。ふとクーが足を止めた。
「なんか聞こえない?」
 クーは小さな声で聞いた。耳を澄ませて、神経を耳に集中する。
 ぴちゃん!……ぴちゃん!…… 天井から落ちる水滴音のようだ。雨水でも染み出てきているのだろう。
 クーはそっと胸を撫で下ろした。その手にはいつのまにか汗をかいていた。

 気を取り直し、2人は杖の灯りだけを頼りに、ゆっくり進む。微かに見える前方が突き当たりになって左右に分かれているようだ。突き当りまで進むと、クーはどっちに行こうか迷った。
「どっちが良いと思う?」
 クーが試しに聞いて見ると、リンはすかさず右の通路に進んだ。クーは頷いてリンの後を追った。クーはそのままリンを後ろを歩き、杖をリンの頭上にかざした。そのまま何度か通路が分かれたが、リンはなんの迷いもないように、右、左と曲がっていく。
 唐突にリンの足が止まった。クーはリンにぶつかりそうになる。
「ちょっと!あぶ「ウゥゥゥ!」」
 クーの苦情に被せるように、リンが唸りだした。その目は前を見据えている。クーの背筋に冷たい物が走る。クーはそれでも、目を凝らして前方を見た。微かになにか動いた。
「な、なに?」声が震えている。
 リンが身を少し低くして一歩前に出た。その輝くような純白の身体が淡い光に包まれていく。 そしてリンの身体が前方に飛んだ。
「ガゥゥゥ!」
 リンの唸り声が聞こえる。
 ガン! ギン! ブチィィィ!
 闇の中で戦っているのか、音だけで見えない。
「ガブゥゥ!」
 ベシッ!
 なにかが壁にぶつかった音のようだ。
 微かに白い発光体が縦横無尽に飛び交う。それと同時に赤い2つの閃光が追う。
「な、なに? リ―――ン!」
 ガキィン! ヴチィ! ベチィ! ガヴゥゥ!
 返事はない、ただ闇の中から争う音が聞こえるだけだ。
 グギグギギギィィィ……
 ついに断末魔のような咆哮が聞こえた。
「ハゥハゥ!」
「ワン!」
 その声が自分を呼んでると思ったクーはリンのもとに走った。
 リンはハァハァと口で息をしていた。その足元には体長2メートル近いタランチュラが息絶えている。足は千切れ、目は潰れ、首は有らぬ方に向いていた。
 リンに駆け寄ったクーの顔は今にも泣き出しそうだった。
「怪我は!? 何処も怪我してない!? 大丈夫なの!?」
 クーはその手に大クモの体液が粘りつくことなど構いもせず、リンの体中を調べていく。
「ワン!」
 その鳴き声を聞いて、クーはその場に跪いた。そしてリンに抱きしめる。
「もう、びっくりするじゃない! 無茶しないでよ……」
 そう言うクーの語尾は震えていた。
「クゥーン!」
「帰ろうか……」
 そうして2人は来た道を戻り王都に帰っていった。

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