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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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クーとリン

「クーちゃ―――ん。 朝ごはん食べにおいで―――。」
「は――い♪」「ワゥ!」
 女将の声が階下から響き渡る。1階の食堂で女将が叫んでるのである。
 ここ『山猫亭』の1階は、夜が酒場で朝昼は食堂になっている。そして2階の宿屋に泊まる客の食事を、1日2回、朝と夜の分用意している。ちなみにこの世界の人々の食事は朝夜の2回である。
「おはようございま―――す」
「クーちゃんおはよー。ご飯用意出来てるから、そのテーブルに座っとくれ」と女将が窓際のテーブルを指差して言った。
「ワゥ!」
「あーこのワンちゃんがリンちゃんかい? ルシさんから聞いてるよ。あんたの分もそこに置いてるから、しっかりお食べ。……しっかしあんたの毛は綺麗だねぇ。なんか光ってないかい?」 そういって女将はリンの頭を撫でる。
「ウゥー! ワゥワゥワゥ!」
「ん? この子なんか怒ってるのかい?」
「あーリンはご飯を床に置いてるから怒ってるんだと思います……たぶん」
「ええっ! ほんとかい!? じゃテーブルに置いてみようか?」
 女将は『ほんとかいな!』みたいな顔でテーブルの上にりんの食器を置いた。するとリンは尻尾を扇風機の如くクルクル回して、ピョン!と椅子に飛び乗った。前足をテーブルに乗せ『早くスープ入れて!』と言ってるようであった。
「リンは神狼の子だから、プライド高いんです」
「へぇこの子が神狼!? まぁ確かに毛並みだけ見てたら神々しいねぇ。わっはっはっは!」
 そんな女将を見て、クーは苦笑い、リンは少し拗ねたような表情をしている。
「はぁ…… ルシ様20日も帰ってこないんだよ、どうしよっかぁ?」
 ムグ!ムシャムシャ!ペチャ!ペチャ!ムグムグ!
 リンの咀嚼する音が延々続く。クーの問いに答える気がないよだ。
「はぁ……」
 気を取り直して、クーも食事を始めた。

 ここディアーク王都は城門から南門までのアークキング通りと、西門から東門までのサンシャイン通りの2本の『大通り』がある。その2本の大通りが交差する場所が中央広場だ。アークキング通りを境に東地区と西地区に分かれている。その東地区側のサンシャイン通りを、クーはリンを連れてブラブラ歩いていた。そこはいつも通りの賑わいを見せている。荷馬車を引く者、買い物客風の中年の女、若い娘達は、キャァキャァと若い客引き風の男をからかっている。クーは『平和だなぁ』と思った。
 クーは今、東地区のサンシャイン通りを一本裏手に入ったシェード通りに面する酒場の2階で暮らしているが、つい先日までは西地区に住んでいた。西地区は貧民街と呼ばれ、貧しい者やスリ、泥棒などを生業とする者が多く暮らしていた。大通りは然程でもないが、一歩裏通りに入れば、路上の隅で寝ているのか、死んでいるのかすら判らない、ボロを纏った乞食や、昼間から酔っ払ってゲロを吐いている者、そこかしこから鼻を突く異様な匂い。まるで別世界のような光景が広がっている。クーも先日までは、そんな貧民街の裏通りの住人だった。たまに東地区に出てくることもあるが、そんな時は、スリを行う時くらいであった。
 クーの父は人間だが母親はダークエルフの奴隷だった。その父親はこの国の貴族だったらしいが名前は知らない、クーは5歳の時、その父親に強姦されそうになった。それを母親が助け逃げ出したのだ。その時母親は死んだ。いや殺された。その後クーは1人で貧民街を彷徨っていた。その時に盗賊グループに拾われたのだ。そこでスリや盗みを強要された。稼ぎの無い日は殴る蹴るの上食事抜き。次第にスリなどの技術は身についていった。身に付かなければ売られるか殺されるかだっただろう。もともとエルフは身が軽く動きが素早い、その血を受け継いだのが幸いだったかもしれない。
 今まではあまりの汚さ故か、悪戯されることは無かったが、クーも10歳を超えた。次第に身体が女のそれになっていくだろう。その上エルフという生き物は美しいのだ。色は少し濃いが、かえって健康的に見えるだろう。最近では稼ぎの無い日などは「次に稼げなかったら売り飛ばすぞ!」と言う罵声が頻繁になってきていた。そんな時にルシ達に出会ったのだ。そして奴隷商人の屋敷に連れて行かれた。最初は2人を恨んだ。『あいつらから盗めてさえいれば売られずに済んだのに』逆恨みとはいえ、そう思わずに居られなかった。しかしクーはその2人、いや3人に助けられた。それがまだ数日前のことだ。あの日を境にクーの生活は激変した。毎日暖かいスープとパン、肉などもお腹いっぱい食べられる。綺麗な服も沢山買ってもらい、毎日部屋でコッソリ着替えて楽しんでいる。毎日お風呂に入り自分が臭いと思うことなど無くなった。暖かいベッドで寝ることがこんなに気持ちいいとは想像すら出来なかった。幸せになりたいと言う夢はあった。しかしこれほどの幸せを想像することが出来なかった。自分が想像しうる以上の幸せをルシに与えられたのだ。
 もっともルシにはそんな気は全然なかった。ただ、囚われの身であるクーが自分の過去と重なって、助けただけである。まさか面倒を見ることになるとは思っていなかった。それを強要したのがシェラだった、それを助けたのがキャミだった。クーはこの2人にも感謝している。だがどうしてもシェラに対してだけは素直になれなかった。
 そんなことを考えて、ニヤニヤあるいわ苦笑いを浮かべサンシャイン通りを歩いていたのだ。 ふとある看板の文句に目が留まった。そこには『素材買取』と書いてあった。そして、これなら私にも出来るかも? と思ったのである。ルシが砂漠に行って暇なのもあるが、ルシから貰ったお金を使わず、自分でお金を稼ぎたかったクーは、すかさず店に入り、どんなものを買い取ってくれるのか聞いてみた。それは多種多様に様々であったが、クーにも集められそうな物もあった。店主に「その犬の毛皮なら高値で買い取るよ」と言われたときのリンの怯えようは後々語り草になるが、今は別のことである。

 そしてクーは翌日朝早くからエルフの森に来ていた。クーはスリとしては一流と言えるくらいの実力があった。その手の早さ、身軽さは仲間内でも定評があったのだ。しかし、武器などは殆ど使ったことが無い。そんなクーが狙う獲物は兎や狐だった。防具や武器の素材になるものでは無いが、毛皮はなかなかの値段で買い取ってもらえそうなのだ。
 エルフの森はあまり奥に行くと魔獣が出るので、街道から1時間以内の場所をリンと狩りする毎日だった。一匹も獲れない日もあった。それでも根気強く頑張っていた。

「ゥォン」と小さくリンが吼える。クーにしか聞こえない程度の声だ。それが、獲物を見つけた時の合図だとクーも判っている。すぐ身を低くし気配を出来るだけ殺す。そしてリンが見据える先をクーも目を凝らして見つめる。立ち込める木々の先に居たのは狐だった。2人(1人と1匹)は二手に別れ、狐を挟み込むように移動する。そしてじわじわ近づく。
 パチッ!
 小枝の折れる音が森の静寂を破った。クーが小枝を踏んでしまったのだ。狐がそれに気付き、素早く逃げる。「しまった!?」と思うがすぐさま追いかける。距離がまだ遠い。しかも狐は素早かった。クーは追いかけながらも諦めかけたが、リンは諦めなかった。木々を躱し倒木を飛び越え茂みに突っ込みどんどん先を走る。とうとうクーは見失ってしまった。リンの声を頼りに追いかけ、クーが追いついた時には、狐はリンの前足で押さえつけられて息絶えていた。
「リン、やったね!」ワゥ!とリンは自慢げにそれに応えていた。
 狐の手足を縛りそれを背負う。狐を追って、かなり森の奥に入ってしまったことに気付いた。 辺りは先ほどとは違う陰湿な空気が立ち込めていた。「やばいなぁ」と思うが後の祭りである そこで視界の片隅に小さな石造りの祠のような物が映った。なんだろう? と近づいて見ると入り口は鉄の扉で鍵が掛かっている。リンに目をやると「クゥーン!」と小さく鳴いた。
 クーは少し悩んだ。はやくここを立ち去らないと危険だが、この祠も気になる。しかし今までずっと危険と隣り合わせの生き方をしてきたクーは、危険には敏感であるが、危険の先には大きな収穫があることも知っている。危険に立ち向かう勇気も備わっていた。
 クーは呪文を唱え、『開錠』と口にした。するとガチャ!っと鍵が開いた。
 扉は錆び付いていてなかなか開かなかった。引っ張る、蹴る、叩く、押す。粘ること数分。
 ギギギギィっと錆びた鉄が擦れる音と共に扉が開いた。中を見るとすぐ下に降りる階段になっていた。その奥は真っ暗で何も見えない。魔法で灯りは作れるが、魔法石のついた杖などが無ければ、長時間の点灯は無理だった。松明も無い。
「リンどうしよか?」「クゥーン」
「思い切って入ってみる?」「クゥーン」
「灯りも無いし明日にしよっか?」「ウォン!」
 そうして2人は森をでた。
「森の奥はエルフか結界を張ってるって聞いてたけど、無事に帰れたね♪」
「明日こそあの祠の中を探検だよー♪」
 と浮かれ気分のクーだった。しかしクーは知らなかった。リンが森の結界より、さらに強力な結界で2人を包んでいたことを。もしその結界がなければ今頃2人は永遠に森に閉じ込められていたかも知れないと言うことを。
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『ルシ外伝』と『そこはゲームのような世界だった』もよろしくです。

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