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受付嬢な悪役令嬢

わたくし?しがない受付嬢です、まあ悪役令嬢なんて意味の分からない呼ばれ方をした事もありますけれど。

一応婚約破棄ものですが、受付嬢という事を前面に出した結果、ざまぁ成分が薄めになっておりますのでご了承下さい。

11/7現在日間短編ランキング1位を頂きました!ありがとうございます!ありがとうございます!ビギナーズラッ……いや嬉しいです!
 お前は何者か、ですって?唯のしがない受付嬢ですよ。悪役令嬢なんて意味の分からない呼ばれ方をした事もありますけれど。
 その悪役令嬢の事が知りたいですって?知りたいのはわたくしの方なのですけれど……本当にあの方達には困った事。でもまあ、悪役なんて呼ばれている経緯位はお話出来ます……ってそうですか、そんなにお聞きになりたいの?なら、つまらないお話ですが、話させて頂こうかしら。


 わたくしは実はかの国の公爵令嬢だったのです。あら、笑うなんて酷いわ。この滲み出る気品がお分かりにならない?……こほんっ、冗談は置いておいて、わたくしには婚約者がおりました。その婚約者の身分は王太子、ええ、次期王ですね、つまりわたくしは次期王妃です。
 あっ、「国が傾くぞ」なんて酷いじゃないですか!……そうですね、わたくしが王妃にならずとも実際傾いていますから、もうかの国の運命だったのでしょう。

 兎に角、わたくしは王太子妃として恥ずかしくないよう自己を研鑽しながら、婚約者ですもの、王太子様と頼り頼られる仲になろうと奮闘した結果、良くも悪くもない仲で落ち着いていました。
 え?奮闘したのに良くも悪くもない程度なのかですって?……違うのです、奮闘したから(・・・・・・)良くも悪くもない位に収まれたのです。何せあのポンコツ……失礼、王太子様は見てくれだけ良い我儘自己中の癖にわたくしに関してコンプレックスを多大に抱いていたようで。

 あの方の可哀想な所は、見た目は完璧なのに中身が見た目に伴わず平凡だった事でしょうね。王子様といえば優しく高潔で完璧と相場が決まっているでしょう?「初耳だ」?乙女達の愛読書ではそうなのです!周囲もそう期待していた、けれど蓋を開けてみれば……。わたくしと王太子様の性別、立場が逆なら良かったのにと言われたものです。

 そしてそんな王太子様のコンプレックスにつけ込んだ毒婦が1人。わたくしや王太子様に期待していた周囲が決して投げ掛けない甘く優しい言葉で瞬く間に王太子様をダメ男にしてしまった。その手腕が国の為に振るわれたならば……と残念な気持ちで一杯ですよ、ええ。「嘘をつけ」?「笑っている癖に」?そこは見逃して下さいませ。

 ……最初の頃、わたくしはあの貴族と平民の違いがまるで分かっていない毒婦に口頭で忠告したものです。まだ彼女が善良な平民だと思っていましたから。「婚約者のいる異性を侍らせるのは如何なものか」「女性としてもう少しでも淑やかな振る舞いを」とね。

 ああ、言っていませんでしたか?彼女は王太子様の他に、宰相子息、騎士団長子息、辺境伯子息、魔術の天才と呼ばれた子爵子息を侍らせていたのです。お得意の甘言を駆使して。……もうそろそろお分かりになってきた頃かと思いますが、わたくしも興が乗ってきた所です、最後までお話させて下さいね。

 あの毒婦は「わたしは皆の心を癒してあげただけ」「あんなに傷付けるなんて人として可笑しい」などと一方的に捲し立てて去って行きました。もうわたくし、ぽかーんですよ。お花畑とひらひら舞う蝶が幻視されましたね。その時点で少し嫌な予感はしていたのですけれど。


 それから半年後、いよいよ王太子様がわたくしの言葉に耳を貸さなくなってきた頃でした。昼休みにわたくしが食堂でお友達とお昼を食べていたら、王太子様と最早見慣れた取り巻き達…いやむしろ、あの毒婦の取り巻き達と表現すべきかしら、彼等が一直線に歩み寄ってきたのです。わたくしの事を疎ましく思っていた筈の、彼等が。そして、人の集まる食堂で言い放ちました。人の、集まる、食堂で。

「貴様のような悪女と婚約していた事が恥だ!今すぐ婚約を破棄、貴様を国外追放する!」

 わたくし、二度目のぽかーんですよ。何言ってんだコイツってなりましたね。ただ、普段なら王太子様を廃嫡にしてハイおしまいで済む筈のこの宣言、国王王妃両陛下が国外へ行ってらした事で実現してしまったんですね。一時的にかの国の最高権力者が王太子様になっていましたから。

 しかし幾ら何でも横暴が過ぎるし悪女と言われても身に覚えがありませんでしたので、どういう事か尋ねたのです。するとあの毒婦のブローチが盗まれていたのもわたくしの所為、教科書が切り刻まれていたのもわたくしの所為、紅茶を掛けたのも、挙句階段から突き落としたのもわたくし、というお話でした。ふふ、正に“悪役”の所業ですね。まあ今だから笑っていられますが、当時は頭が真っ白になりました。100歩譲って婚約破棄はわたくしの貰い手が無くなる程度ですが、国外追放などされたらか弱い令嬢であるわたくしなど国境の森で魔物に食い殺されて即終了ですよ。「中堅冒険者を投げ飛ばしていた癖に何をほざく」?ふふふ、何かの見間違いではございませんか?

 さて、制服のまま家にすら帰らせてもらえず放り出されたわたくしですが、直ぐに魔物が襲い掛かってきました。そしてそこに颯爽と現れたのがギルドマスターとも冒険王とも呼ばれるあのお方です!巨大な魔物を一太刀で切り伏せるそのお姿……!何と凛々しい事でしょう!そもそもあのお方は……っと、少しトリップしてしまいましたね、あのお方の素晴らしさを語るのは後でも出来ますものね。え?ええ、後で必ずこの想いの丈を余さず聞いてもらいますよ?何で引いてるんですか、ちょっとぉー!






「おい!」

 かつてかの国で、精緻な人形のよう、と謳われた美貌の受付嬢と、“悪役”にはどう見ても見えないのに『悪役令嬢』という渾名で呼ばれる受付嬢に興味を持った冒険者の語らいは、無粋な声に割り込まれて終わる事となった。
 受付嬢は彼等…5人の男と1人の女のグループを見て、露骨に顔を顰めた。

「わたくしは貴方方を担当しない事になっておりますので」
「そんな事言うなよリリアン。君と私の仲だろ?」

 整った甘いマスクに甘ったるい囁き。殆どの女性なら容易く陥落してしまうだろうその攻撃も、受付嬢の腕に鳥肌を量産するだけの効果しかない。

「何度も言っております。わたくしはリリーであり公爵令嬢リリアンは死んだとーー」
「何だリリー。また真面目にコイツらの相手してやってんのか?」
「マスター!」

 受付嬢は分かりやすく喜色を浮かべる。同時に受付嬢に絡んでいたグループの内、受付嬢を視線で殺そうかというほど睨んでいた、普段なら小動物のような愛らしさを持つであろう女が目の色を変える。

「私達はお前に用は無い」
「俺だってお前らなんかにゃ用はねえよ。でもな、うちの大事な受付嬢に付き纏ってんのはそっちだ」
「付き纏ってなど……!リリアンは私の婚約者だ!」
「元、でしょう。貴方から破棄した癖に。ねえ、()王太子様?」

 嘲るような受付嬢の言葉に、声を荒げていた一際整った顔立ちの男が唇を噛む。

 此処でひとつ、解説しておこう。
 元王太子が王太子たり得たのは、公爵令嬢リリアンとの婚約あってこそのものだった。王家が無理矢理結んだ婚約だったのである。しかしそれを忘れた元王太子は平民の女に乗り換え。国外追放した後に、国王より全ての事実を聞かされ取り巻き共々廃嫡され、リリアンを連れ帰るまで国への立ち入りを禁じられた。
 当のリリアンといえば冒険者の国にて冒険王直々に保護され、職も得て住み着く気満々。元々貴族生活は窮屈で、王妃教育にも嫌気がさしていた為、帰る気など更々無かった。

「へーぇ。捨てた女に擦り寄らなきゃならん程冒険者暮らしは辛かったかい?まあリリーを捨ててそっちの芋臭いの取るなんざ馬鹿の極みだわな。芋女の方もそこまで男侍らせといてマスターに色目使ってんだから、もう救いようがねえなぁこりゃ」

 それまで黙っていた冒険者が野次を飛ばし始める。野次に耐性など無い男達は顔を真っ赤にするが、何も言い返せず口を噤む。女は馬鹿にされたのが耐え切れなかったのか、聞くに耐えない罵詈雑言を撒き散らし始め、男達は女から少し距離を取った。癇癪持ちの彼女に対して、育ちの良い彼等は気の済むまで叫ばせる以外の黙らせ方を知らないのだ。

「ああそうでした。わたくしは貴方達の担当ではありませんが、特別に次の仕事先の案内をして差し上げますね?」

 受付嬢はニィ、と唇を吊り上げて嗤った。元王太子は、彼女に微笑みかけられたと勘違いして頬を染めながら仕事先が記された紙を受け取る。が、目を通した途端その表情は凍り付く。

「っな……!この遺跡は今まで生還者が居ないのだろう!?それを調査!?こんなもの受けられるものか!」
「何を言います?貴方方は断れる立場でしたっけ?それに……」

 受付嬢はいっそあどけなくも見える表情でもって、言い放った。

「わたくしは国境の森に着の身着のままで放り出されたけれど生きています。それなのに装備を整えてある貴方方は無理だと仰るのですか?」

 絶句。
 元王太子達はこの時初めて、受付嬢に深く恨まれている事に気付いたのだった。
 そして、汚い言葉を喚き散らしていた女がぴたりと口を噤んだかと思うと、血走る目に受付嬢を映し、髪を掻き毟った。

「この……っ、“悪役令嬢”の癖に!!」

 女の心底憎悪した叫びに、冒険者達は騒めく。

「おい、聞いたか?」
「出たよ『悪役令嬢の癖に』」
「悪役令嬢って何なんだろうな?」

 受付嬢は慣れたもので、ただ笑顔を向けるだけだ。

「逝ってらっしゃいませ」



 そして、遺跡に向かった彼等は戻ってくる事は無くーー6つの原型を留めぬ亡骸が後に発見されたという。
逆ハー女は自称ヒロイン。
ギルドに来る度に『悪役令嬢』と連呼しているので受付嬢は冒険者達からからかい混じりに悪役令嬢と呼ばれる羽目に。

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