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セカイの外で 作者:篠原 藍樹
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第七話【旅の予感】

ストックは残っていますが、ここまでが序盤の区切りです
付き合っていただいた方ありがとうございます(^^)

 レイリやキトの拠点となる家は、居住区の一角に佇む、和風造りの二階建て一軒家だ。元は二世帯住宅だったのか、広さは五十坪程度。陽もよく入り、洗濯物を干せる程度には広い庭も有しているという好物件である。
 旅をしているのになぜこんな大仰な物件を二人きりで使っていたのかというと、意外とキトの仕事は日帰りで済むことが多いからだ。
 イフにも説明した通り、ホテルを借りたり野宿をしたりという事はしばしばあるが、それは長期の仕事がある時だけで、実際の寝起きはほとんどこの家である。自在に次元を越える能力を持つキトがいるから、夜遅くに仕事が終わってもすぐ家に到着できるし、逆に拠点がない方が不便なのだった。
 イフとレイリがティーパックの紅茶をすする。

『家も 飲み物も フツー』

 ソファにちょこんと座り、筆談で感想を述べたイフに、レイリは感嘆の声を上げた。

「へぇ、イフの故郷もこんな感じ? 私は慣れるまでに結構時間がかかったけどな」

『大体 同じ』

 差異がほとんど無いことに落ち着いているらしい。安心感からか、イフは全身で寛いでいた。
 現在のイフの格好は、外殻から取り出した当初と同じ、私立校の制服姿だった。 下着は買い揃えることが出来たが、上の服まで買うだけの金銭が無かったのだ。イフに給料が入ればすぐにでも手に入れることができるが、生憎と金蔓のキトがいない。レイリも大した服は持っていないが、それでやりくりしようということになった。
 勝手に冷蔵庫から取り出してきたケーキを頬張り、レイリはテーブルを挟んで対岸のソファに座るイフに話しかけた。

「ごめん、あんまり買えなかったね……。ずっと制服も嫌でしょ?」

『気にしない むしろ お金使わせて 悪かった』

 イフは、ちらりとソファの横に掛かる紙袋を見やった。
 薄っぺらい、小さな日用品と病院で処方してもらった薬が収まるだけの紙袋。レイリがイフのために揃えたものだが、やはり充分とはいえない。

『稼げたら お金 返す』

「いいよ、別に。まとまってお金が入れば、その時にもらうけど……おじさまの仕事って一定の収入が入らないし、イフも当面は自分のことだけで精一杯だと思うから」

 キトの仕事は半ば、趣味を兼ねているのだ。別段、仕事熱心というわけではなく、こうやって休日の日もある。まとまって大金を得ようにも、自動的に引き落としが行われるため、普段から必要な消耗品を揃えるだけで手元に残るお金は少ない。
 イフに特殊な才能があれば別だが、当分はムリだろうと判断したのだ。
 しかし、イフには秘策があったらしい。

『ファクターがあれば なんとかなる?』

 危うく飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりつつも、レイリはそれを気合いで乗り越えた。気管支に入った水分を出すように咳き込み、

「えーと……おじさまからかな、その知識は。意味はわかってる?」

『よくわからないで 使ってる』

「……だよねー。じゃあ、説明するよ」

 どこか抜けているイフに呆れながらも、レイリは懐から《魔弾》を取り出し、テーブルの上に置いた。闇のような漆黒の色の銃身がキラリと光り、イフは武器を前に目を瞬かせて驚く。

「イフの国は、武器の所持禁止?」

 こくりと頷き、イフはまじまじと《魔弾》を見つめた。

「私の仕事道具だから触らないでね」

 驚いている割に怖がってはいないイフに、念のため釘を刺すと、レイリは話を続けた。

「で、こういうのが《法の因子<ファクター>》って呼ばれるものなんだけど……。異世界の中でもお宝中のお宝で、おじさまはそれを集める蒐集家なの。もし一個でも持ってれば、大金が手に入る」

『簡単には 手に入らない?』

「掘り出し物市でもあれば、時たま見つかるけどね。そもそもこれだって普通の銃とあんまり変わらないでしょ? 《法の因子〈ファクター〉》を見分ける技術があれば、もうちょっと簡単なんだろうけど……」

 そんな鑑識眼を持っている人物はキト以外に会ったことがない。レイリは肩をすくめて、無理だと否定した。
 そもそも、《法の因子》と呼ばれる物は、魔法のようなファンタジックな性能を抱えた逸品だと誤解されやすいが、実のところ、本質は別にある。
 業界に携わるキトに聞けば、一括りにまとめるとするならば、再現不可能な規則や法則を持つ物体、ということになるらしい。
 例えば、魔力を持つ物品というだけならば、大きな宝石で充分だ。ダイヤモンドにルビーといった、どこの世界にもある鉱物は、世界ごとの謂れによって魔力を抱えるバッテリーとなることが出来る。宝石としての価値はもちろんのこと、魔法が普通に用いられる世界では重宝されるのだ。
 しかし、それらの宝石が《法の因子》かというとそうではない。中には強大な力を持ちすぎて昇華してしまった物もあるだろうが、それは例外だ。何カラットあろうが、基本的に《法の因子》には成り得ない。

「要は、形のある概念として出来上がっちゃってる物体を《法の因子〈ファクター〉》っていうの。一番よく目にするのは……」

 きょろきょろと辺りを見回し、レイリは立ち上がって近くの台所まで駆けていった。
 ガラス製のコップに蛇口をひねって水を注ぎ、再びイフのところに戻って来る。

『水?』

「そう、水。これは汚いからアウトだけど、秘境の湧き水なんかは最弱の《法の因子》に成りうる。理論純水なんかも、そう。それ単体だと変哲のない物だけど、別次元だととんでもない価値を発揮したりするんだよね。そもそも水が、生物にとって必要不可欠なのはどこも一緒だしね」

 そう。科学のような再現可能性を抱えた品でもいいのだ。一個の法則として世界の内に存在しながら、あらゆる側面を見せる例外だらけの品。それが、キトの集める《法の因子》の定理だ。
 机上の空論が形を成したもの、とも言える。
 当然、蒐集家であるキトの求めるクオリティは高いので、ただの水のような希少価値のない物を持って行っても捨てられるだけだが、そこそこ上位になるととんでもない金額を換金してもらえたりするのだ。

『レイリは 持っていったことある?』

「あるある。拾い物だったけどね。でも、私の場合は最高位の《法の因子》を買った側だから、少し珍しい物を持っていったところで、あんまりお金にならなかったけど。貰ったお金も一日で消えた」

『何に 使った?』

「……自動引き落としプラス滞納してた借金?」

 レイリは、苦虫を潰すような顔で情けなく笑った。
 とにかくレイリの借金は多いのだ。小さな国なら買い占めてしまうほどには大きく、少女の身一つではとても一生で払いきれるような額ではない。イフの十倍は頑張らないと、今にも破綻宣告を受けてしまうような貧乏な身だった。
 しかし、レイリは悲観することなく、最後の一口を口に運ぶと、

「ま、半年で一個見つけれるくらいだから、案外その辺に落ちてるかもしれないね」

『宛てがあるの?』

「うーん……あるにはあるけど、なかなかおじさまが行こうとしない場所なんだよ。あと他には、異世界中の人間が集まる祭典とか、フリーマケットとかにはあるらしいんだけど、私は話に聞いただけで行ったことすら無いし……」

『でも 待ってれば いつか?』

「あるかもね、そういったチャンス」

 たたでさえ、キトの仕事は《法の因子》絡みの案件が多いのだ。横取りは敵わないが、そのおこぼれを狙えば、あっという間に返済が終了するかもしれない。
 イフの一言で改めて考えると、光明が指したような気がした。

『目指すは 億万長者?』

「借金全部消えたらそれ目指そうかな」

 二人して笑うと、リビングの扉が開いた。

「あ、おじさま。おかえり」

 いつもの仏頂面で入ってきたのはキトだ。フードは取っているが、所構わず着けているレインウェアを脱ぐつもりはならしい。そのまま、レイリ達のほうへと近づいてきた。
 レイリはソーサーと皿を持ち上げ、イフの隣へと移動し、キトは今しがたレイリが座っていたソファに身を預けた。

「……こんな時間にデザート食うなんざ、いい御身分だな。やること全部済んだのか?」

「後は部屋の整理くらい? 大抵のことはやったよ」

 多少ムッとして言い返すと、キトは無言でイフのほうを見た。
 レイリが来る前に会って話したということで、イフの方に警戒心は見られない。常に威圧的なキトの睨みにも怯まないのは、やはり肝が太いと表現する他ないだろう。
 いつものぼんやりと眠そうな表情のまま、首を傾げていた。

「明日から、働いてもらうからな」

『できることなら なんでも』

 ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らすと、キトはポケットから何かを取り出し、イフに向かって机の上を滑らせた。

「選別だ」

 一冊のメモ帳だ。しかし、イフが持っているより一回り大きく、厚い。中身は無地で、筆談者が使いやすいように作られた物であるのが見て取れた。
 レイリがわなわなと慄き、

「おじさまが、タダで物を?」

「……何か?」

 レイリは、バッと両手を広げてイフを庇う仕草を取った。

「好みの子に巡りあったからって、フツーそんなわかりやすい貢物する!?」

「……アホか。俺がそんなことするわけねぇだろ」

「私には一度もプレゼントなかったのにぃ……」

「借金レッドライン抜けだしてから言いやがれ、そういうのは」

 うんざりとした面持ちでキトは返事し、

「とりあえず、イフ。そいつは文字書くために「綴る」って動作がいらないメモ帳だ。頭の中で文字を書いておけば、そこに転写出来る。ちょっとやってみろ」

 イフが包装のビニールを剥がし、早速試してみる。

『こう?』

 ペンを使わずに、メモ帳には文字が浮き出た。脳内でしっかりとイメージすれば誰にでも書けるらしく、レイリも面白半分に貸してもらうと、同じく文字が浮き出た。

「よし、私――も……?」

 しかし、字面が違う。筆者の普段の字体が浮き出るらしく、レイリが書いた文字とイフが書いた文字は全く別物だった。イフが角が丸めのしっかりとしたものに対し、レイリのはお世辞にも綺麗ではないミミズのような字だ。
 使用者の筆跡そのものが現れるらしい。
 達筆なイフのものと比べると、自分の字の汚さが露呈してかなり恥ずかしかった。

「……割と高性能だね」

「決済の仕事した時に余ったやつだ。便利といえば便利だが、一部の世界じゃ日用品扱いだ。デパートの雑貨売り場で買えるくらい安い」

 実際安い消耗品だから、キトも無料でイフに渡す気になったのだろう。何かにつけて料金を取ろうとする強欲男には珍しいと思ったが、カラクリが割れてしまえば何の事はない。使わないゴミを押し付けたようなものだ。
 だが、イフにとってはかなり有用性のある物品であることに違いない。

『ありがとうございます』

「………ストックはない。次から、自分で買え」

 いつもの素気ない返事だが、感謝されることに慣れていないのか、キトは僅かに恥ずかしがっているようだった。表情には出ていないが、そっぽを向く様子からもこそばゆい思いをしているのが見て取れる。
 それに気付いた二人の少女は、思わず口端を緩めた。


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