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第十三話 「家族会議再び!? 母さんがやってくる」

 今日、王都に母さんがやって来る。なぜ、こんな急に母さんがやってくるのかといえば、近況を知らせた手紙のせいなのだ。俺は定期的に母さん達に手紙を送っている。父さんも母さんも子供達だけで王都で暮らすことにすごく心配していた。だから、小まめに手紙を送って安心させていたのだ。その手紙のやり取りの中でつい店の経営について愚痴を書いてしまった。


 すると、母さんが「店の帳簿を送ってくれ」と手紙に書いてきたから帳簿を送ったんだけど……。


 なんかそれがまずかったらしい。


 急遽、母さんから王都に来ると連絡があって、今、ヘタレ(ビセフ)が母さんを迎えにいっているのだ。母さん、手紙では切羽詰まったような感じだったけど、杞憂なんだよね。もう、店の経営については問題ない。ドリュアス君のアイデアのおかげで店も持ち直すはずだ。母さんが心配することはないのに……。


 まぁ、いいや。久しぶりに母さんに会えるのだ。楽しみには違いない。お店の話はすぐに終わらせて、親子で団欒といこうではないか。


 で、そろそろ着くと思うんだけど……。


 すると、遠くから馬車の音が聞こえてきた。


 もしかして……。


 店の外へと飛び出す。そこには馬車から顔を出す懐かしき母さんの姿があった。


「母さん!」


 思わず母さんのもとへと駆け寄り抱擁する。


「ティレア、久しぶりね。元気にしてた?」

「うん、私もティムも元気だよ」


 ふぁあ、母さんだ、久しぶりに甘えちゃうぞ。母さんのお胸にすりすりする。わぁい、柔くてあったかい。それに懐かしい母さんの匂いだ。くんくん。


「や、やぁ。ティレアちゃん、久しぶり!」


 母娘のスキンシップ中にヘタレ(ビセフ)が割り込んできた。


 まったく、空気読めっての! 俺と母さんの憩いの時間だよ。タイミングを見てよね。


 つい恨めしげにヘタレ(ビセフ)を見る。ヘタレ(ビセフ)は睨まれると思っていなかったのか、困惑顔で狼狽えていた。


 ふむ、少し可哀想か。よくよく考えたらヘタレ(ビセフ)は身銭を切って母さんの送り迎えをしてくれたのだ。そこに下心があるかどうかは別にして、お礼ぐらいは言わないといけないね。


「ビセフさん、母さんを迎えに来てくれてありがとうございます」

「いやいや、大したことしてないよ」

「そんなことないです。助かりました」

「いいって、いいって。どうせ、俺は王都に来る用事があったしね」

「用事?」

「あぁ。実はね、俺も王都に住むことになったんだ」

「えぇ、そうなんですか!」

「ふふ、驚いたかい。これから何か不安があれば、いつでも俺を頼ってくれていいんだからね」

「はは……そうですか」

 

 ヘタレ(ビセフ)よ。てめーの正体は、ばっちりわかっているんだ。何が悲しゅうて、あんたを頼らなくてはならぬ。もうね、あんたに頼るぐらいなら自分で解決したほうが全然ましなのよ。


 俺が冷めた眼でヘタレ(ビセフ)を見ていると、


「ビセフさん、本当にありがとうございます。娘を宜しくお願いします」


 母さんがヘタレ(ビセフ)にお礼を言っている。なんかそのセリフ、ヘタレ(ビセフ)のところに俺を嫁に出すみたいだから勘弁してよ。


「お義母さ――ゴホン、セーラさん、任せてください。ティレアちゃんとティムちゃんは俺が守ります」


 おい、今、なんて言おうとした? もう俺の夫気取りか! 


 ――って母さんも未来の息子みたいな眼をヘタレ(ビセフ)に向けるのはやめてくれ。ヘタレ(ビセフ)が勘違いしちゃうでしょうが!


 それからヘタレ(ビセフ)は俺と親公認の仲になったと思ったのか、上機嫌で出て行った。軽くスキップをしているし……。


 ヘタレ(ビセフ)よ。今後、もし勘違いした行動を取ろうものなら容赦なく鉄拳を振るうから。まじだよ。


  そして、しばしの母娘の抱擁後、母さんが本題を切り出してきた。


「ティレア、帳簿は見せてもらったわ」


 母さんがすごいため息をついている。きっと「借金はどうするの?」って感じなのだろう。だが、店の借金については策があるのだ。母さんを安心させてやらないとね。


「ま、まぁ、ちょっと足が出ちゃったけど、大丈夫。ちゃんと挽回策も考えてあるんだよ。何より私の料理の腕は天下一なんだから」

「あ、あなた、あの赤字がちょっとですって! ふざけるんじゃありません。なんでもっと早く相談しなかったの!」

「ご、ごめんなさい。でもね、価格設定とか立地条件とか色々考えて――」

「ティレア、もうそんな段階じゃない。手遅れよ」

「そ、そんなことないよ。確かに数千万ゴールドの赤字を返すのは大変だけど」

「数千万ゴールドですって! あなた、もう一度帳簿を見直してごらんなさい」

「えっ!? どういうこと……? 確か三千万ゴールドの借金だったはず……」

「はぁ~ティレア、桁を一つ間違えているわ。現在の借金は三億ゴールドです」


 うっそ! 慌てて帳簿を見直す。


 えーと、これが繰り上がってこうなるから……。


 えーと……。


 俺が帳簿の計算に四苦八苦していると、


「ティレア、ここの計算が間違っている。それと、ここも。そして、そこの魚の代金を合計に入れていないわ。それから……」


 母さんが的確にポイントを示してくれる。さすが伊達に経理をしていない。

 

 そして、結果……。


 三億ゴールドの赤字です。再計算したから間違いない。


 な、なんでこうなった。これじゃあ、ドリュアス君がせっかく挽回策を考えてくれたのに焼け石に水だよ。


 借金が「億」って……。


 もうこれ、国から徳政令を発行してもらうか、公的資金を投入してもらわないと無理な話だよ。


「か、母さん、どうしよう?」


 俺は涙目になりながら母さんに訴える。


「ティレア、私はあなたが料理店を任せられると聞いて、てっきり料理人として雇われたと思ってたの。それがまさか経営から全てあなたが仕切ってたなんて……」


 母さんの疑問は最もだ。俺も最初は、経営はだれかオル父の部下みたいな人がしてくれるのかと思ってた。だけど、オルは全てを一任してくるんだよ。金だけ渡して一切文句を言わなかった。なんて無謀なと思ったけど、それだけ俺を信頼してくれてたのかもしれない。俺なら料理店を任せられるって……それをこんな形で裏切ってしまった。


「ど、どうしよう? 出資者のオルには数千万の赤字って報告してたんだ。あわわ、それが億だったなんて……」

「オルさんがこの店のオーナーなの?」

「うん、正確にはオル……オルティッシオの親がそうなんだけどね。オルが窓口になって資金を調達していたんだ」

「そのオルティッシオさんは毎月資金を出していたのよね? こんなに赤字で何も言わなかったの?」

「そうだよ。それに毎月どころか、月によっては毎週お金を借りていたけど、オルは何も文句をつけなかった」

「毎週って……そういえば先々月、べらぼうにお金を使っていたわね?」

「先々月……? あぁ、そうそうちょうど漁を終えた船が港に着いたばかりで、ハマチのいいところが市場に出てね。ついつい毎週――」

「このおバカ! あなたも父さんもだけど料理バカになるのも大概にしなさい。お客のニーズに合わせた買い方をしないと」

「だ、だって……本当に良い素材だったんだ。あれを見逃すなんてできないよ。オルも『はい、どうぞ』とか言って気軽にお金を渡してくれたし」


 俺の言い訳を聞いて、母さんが頭を押さえて悩んでいる。うん、冷静になってみると俺はとんでもないことをしてたんだよね。


「……もういいわ。とにかく出資者のオルティッシオさんに会わせてくれる?」

「えっ!? オルに会うの? 大丈夫かな?」


 中二病患者に免疫がない母さんが、オルの言動についていけるであろうか。


「ティレア、悩んでないで。もう私が話をするしかないでしょ。それともあなたは億の借金について話をつけることができるの?」

「で、できないかも。でも、私とオルの仲で……」

「ティレア、出資者のオルティッシオさんにそんな無礼な態度はだめよ。オルティッシオさんは王都の貴族様なんでしょ」

「うん、そうだよ。でも、私とオルの仲はそんな身分にとらわれないんだから」


 オルは大貴族のおせがれだが、それを鼻にかけない。庶民の俺とも対等に接してくれている。というか、むしろ俺を格上扱いしてくる始末だ。


「はぁ~あなたはベルガの気のいい人達しか知らないでしょう。だけど、王都の貴族様はお金についてシビアな考え方をされるわ」

「そ、そうかな? オルはその辺、無頓着な感じがするけど」


 だって、俺がオルに金を貸してと言ったら即答するんだよ。全然、嫌がらない。宝物庫も盗んでといわんばかりに開放してあるし、財に執着しているように思えないんだけど。


「ティレア、貴族様が無為にお金を消費することは考えられないのよ。何か裏がある。私がオルティッシオさんに会って真意を問い質します」

「そんな。母さん、オルに裏なんてないよ」


 あんな馬鹿正直な人間はいない。あれで裏があるなんて言われたら人間不信に陥っちゃう。


「ティレア、あなたは不思議に思わなかったの? これほど出資してもらうなんて不自然よ。それも経営に関してはズブの素人であるあなたに一任だなんて……」

「それは私の料理の腕を見込まれて――」

「確かにあなたは父さんからみっちり仕込まれただけあって、料理の腕は一流と言ってもいい。でも、だからといって経営まで一任するなんておかしすぎます。さっきから話を聞いていると、この数ヶ月、お店に関してあなたに丸投げ状態じゃない。これじゃあ、意図的に赤字にさせていると思っても不思議ではないわ。大体、いきなり店を用意してくれるなんてありえない」

「だから、それは私とオルの仲が――」

「ティレア、その仲ってどういう意味? もしかして、あなたオルティッシオさんの愛人にでもなったの?」


 がぼっ! あまりな物言いにむせてしまう。俺がオルの愛人? 冗談じゃない。


「か、母さん、いくらなんでもあんまりでしょ。私はそんなに安くないよ」

「わかっているわ。あなたがそんなことはしないって。だけどね、そうでもしないとこの現状を説明できないのよ」


 母さんが興奮している。確かに見ず知らずの人がこんな小娘に店を与えてくれるなんて何か裏がありそうだ。いくら料理の腕がピカイチな俺だからといって不自然すぎる話である。


 要するに母さんはオルを疑っているんだ。こんなにお金を出資する訳は、オルが俺を狙っているんじゃないかって……。


 だが、言えない。本当のところは、オルが以前俺を襲った慰謝料のつもりでお店を用意してくれたのだ。


 う~ん、どうしようか。このままでは母さんが納得しない。正直に話してもオルがますます信用を失くすだけだし……。


「ティレア、だからねオルティッシオさんに会わせて。その辺も含めてきっちり真意を問い質します」


 これはオルに会わせないって選択肢は選べないみたいだ。母さん、オルに会うまでテコでも動かない感じである。


 しょうがない。とりあえずオルに会わせるだけ会わせよう。後は、状況に応じて臨機応変に対処する。


 オル、母さんとトラブルだけは起こすなよ。


 俺は万感の思いで地下帝国にいるオルを呼びにいった。

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