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第十二話 「エディムと緊急会議の真意」

 あぁ、これほどの幸運があろうか……。


 ティレア様、カミーラ様の忠実なる下僕になれたこと。邪神軍の末席に加えられたこと。吸血鬼になり魔族となって理解した、実感した。


 人間とはなぜ、これほど脆いのか……。


 最強とうたわれたレミリア率いる王都治安部隊ですら児戯に等しい存在だ。


 あはは、愉悦が漏れる。自身の魔力は既に万を超えている。人間だった時には考えられなかった数値だ。さらに今日、王都中枢機関の眷属化が終了した。王家、ギルド、魔法学園、全ての機関が私の号令一つで思うがままに操れるのだ。


 ティレア様がいずれ発動させるであろう全方位作戦が展開されれば、各機関は邪神軍の先鋒となって突き進んでいくだろう。


 次の軍議で各機関の眷属化が全て終了したと伝える。カミーラ様に褒めて頂けるであろうか? それとも「この程度の功で増長するでない」と責められ罵られ足蹴にされるのであろうか? どちらにしても幸福この上ないことだけは確かだ。


 妄想に嬉々としていると、足早にニールゼン様が傍を駆け抜けていく。あんなに慌てているニールゼン様は珍しい。


 何かあったんだろうか?


「ニールゼン様?」


 ニールゼン様の背中に声をかける。ニールゼン様は足を止め、こちらに顔をお向けになった。


「あぁエディムか。本日、緊急会議を開く。至急、出頭するように」

「緊急会議ですか」

「そうだ。ティレア様たっての案件だ。心しておくのだぞ」

「承知しました」

「うむ、すぐに行け。私は他の幹部達に伝えに行く」


 そう言ってニールゼン様はそのまま地下帝国を疾走していった。


 ティレア様が会議にご参加される!?


 今まで一度もご出席されなかったのに……。


 緊張の面持ちで会議室へと急ぐ。会議室に入ると、いつもの空気とまるで違っていた。それも当然、今日の会議はティレア様がおわすのだ。皆の緊張感が比べ物にならない。


 そして、緊張が持続する中、邪神軍の幹部達が集結した。ピリピリとした空気の中、ティレア様の「座るように」とのお声が室内に響き渡り、皆椅子に着席する。


 それにしても緊急の案件とは何事だろう?


 とうとう世界制覇に向けてティレア様御自ら出陣されるのであろうか? だとすれば、カミーラ様、ティレア様、お二人の偉大な力を間近で拝見できる! 


 あぁ、なんという僥倖!


 偉大なお二方が惰弱な人間共を蹂躙していく、その光景を想像するだけで感激で身が打ち震えそうになる。


 だが、予想と反し「店の赤字をなんとかしろ!」との案件であった。

 

 ティレア様……。


 正直、拍子抜けしてしまった。何故、ティレア様はお店の経営一つにこだわり続けるのであろう? マナフィント連邦国への出兵を中止してまで議論する内容なのだろうか? 幹部の方々はどう思っている? 私は軍議に参加している幹部の方々の顔つきを見る。


 えっ!? そこには真剣な顔つきで話に聞き入る幹部達の姿があった。議論も活発である。それに、オルティッシオ様への非難もいつも通りだ。どういう事なの? 


 そして、ドリュアス様の一言で自分の思慮の無さを恥じ入ってしまった。


 そうだった。上の料理店はティレア様自らお料理を出している。その店が赤字ではティレア様への侮辱に他ならない。この栄えある邪神軍の総帥であられる方がこのまま侮辱を受けていいわけがない。確かに最優先事項で話し合う議題である。たかが料理ではあるが、どんな些細な事案でもティレア様に負けの文字を刻んではならない。


 ニールゼン様も私と同じ気持ちのようだ。たかが料理とはいえティレア様が下風に立たれることは許せないと発言していた。幹部の方々も口には出していないが、うんうんと頷いている。


 だが、ティレア様はそんな忠誠心あふれる発言をしたニールゼン様に凄まじい速さで物をぶつけたのだ。


 お、音速を超えていたのではなかろうか……。


 ぶつけた音が後から聞こえてきたのである。たまらず、ニールゼン様は床にダウンされた。


 な、なんという破壊力!


 並の魔族であれば数十人は吹き飛ばしていたであろう。ニールゼン様だからこそまだあれだけの怪我で済んだのだ。唖然とする幹部の方々。


 そして、ティレア様のお言葉を聞き、ヒヤリと冷や汗が流れる。


 そうだった、たかが料理と侮ってはいけないのだ。今、現在、その料理でティレア様のプライドが傷つかれておいでなのだ。

 脳震盪気味のニールゼン様を見るにつけ、不用意な発言をしないように気を引き締める。


 そ、それにしても、助かった……。


 私もあともう少しでニールゼン様と同じ発言をしようとしていたのだ。私だったら、脳天を打ち抜かれていただろう。とにかく、何か打開策を考えないといけない。ティレア様の名誉がかかっているのだ。必死に脳を回転させる。


 そして……。


 そうだ! 私にできることがあるではないか! そう全ての愚かな人間共を眷属化させればよい。全ての住民を眷属化させてお店に来るように命令する。そうすれば集客もアップし、ティレア様が経営されるお店もナンバーワンになるだろう。私はそのアイデアを発言する。


 だが、ティレア様から「私の料理を舐めているの!」と強烈な叱責を受けた。


 背中に戦慄が走る――。


 あぁ、エディム、なぜ気付かなかった。私の発言はティレア様のお料理を侮辱していたも同然だ。ティレア様は私の言葉に不快感をあらわにし、睨みつけてくる。


 うぅ、この絶対的強者の凄み。なんという威圧なのか……。


 普段のお優しいティレア様を知っているにも関わらず、足ががくがくと震え、がちがちと歯が鳴りそうになる。


 と、とにかく許しを乞わねば! 私は必死に謝罪の言葉を紡ぐ。本気の謝罪が伝わったのか、ティレア様からなんとか許しをもらえた。


 ふぅ、命が縮んだよ。ティレア様は普段はお優しいから忘れるが、その強さに底がない。まさに邪神様なのだ。言動には十分に気を付けないといけない。特に、お料理に関しては細心の注意が必要だ。


 あと、気になるのは……。


 クカノミをぶつけるとはどういう意味なんだろう? そういえばティレア様は私がクカノミ料理を食べようとする時、必ずお止めに入ってこられた。「弱点だからダメ」とか「教会には行くな」とか。


 関係があるのだろうか? 


 わからない。いまだ私はティレア様のお心を測れないでいる。


 まぁ、これ以上考えるのは不遜にあたるか。臣下としては主の心を測るような真似は慎むべきであり、どのようなことがあろうとも忠誠を尽くすのが真の忠臣だからだ。

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