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第三話 「邪神軍軍議」

 アルクダス王国の西通りに一軒の料理屋がある。料理屋の名は「ベルム王都支店」。この店の店内奥には地下に通じる階段がある。その階段を降りると、この王都をすっぽり包むのではないかというぐらいの空間が広がっている。無数にある部屋、煌びやかな調度品の数々……。


 そこには王都の宮殿とは比べ物にならない地下帝国があるのだ。


 その地下帝国のある一室に邪神軍幹部が集結していた。邪神軍総督、総司令、第一から第四までの師団長、およびその部隊長、魔力はかるく万を超え、一人一人がこの世界の常識をはるかに超えた強さを持っている。そうそうたるメンバーだ。

 その中でもひときわ異彩を放った強さを持つ邪神軍総督カミーラが鎮座し、幹部らを睥睨する。その傍らには総司令ニールゼン、参謀ドリュアスが控えていた。


 第二回、邪神軍作戦会議……。


 古の時代より、軍議はカミーラの一声で始まるのが通例である。


「皆の者、軍議を始める。まずは席につけ」


 カミーラの言により、周囲に控えていた幹部達が席につく。


「ドリュアスはじめよ」

「はっ。第一の議題は情報収集についてです。魔法学園はカミーラ様、冒険者ギルドはミュッヘン、その他広域はベルナンデスが担当しております。おのおの方に簡単に現状の報告をしてもらいます。それではカミーラ様、お願いできますか?」 

「わ、我か。お姉様のご希望で火槌の月から学園に潜伏しておる。だが、これといった有益な情報はない。ただただ有象無象がいるだけだ。お姉様には悪いが、ここは撤退すべきだと考える」

「そうですな。カミーラ様御自ら情報収集する必要性はないと私も思います」

「わ、私も同じ考えです。学園についてはカミーラ様が出向くまでもなく代わりに私が情報収集しますので」


 カミーラの報告にニールゼンとエディムが同意する。他幹部達もうなずぎ賛同する者が多い。だが、参謀ドリュアスはその様子に眉をしかめる。


「ですが、この任務はティレア様たってのものです。カミーラ様には申し訳ありませんが、引き続きお願いします」

「た、確かにそうだが、わ、我はもう……」

「カミーラ様! どうか我慢をお願いします。ティレア様のご意志を曲げるわけにはいきません。邪神軍参謀として強く進言致します」

「うぅうぅ。我はいつまで原人どもの遠吠えを聞かねばならぬのか……」

「親であるカミーラ様にご不便をかけて心苦しいですが、私情をはさめません。我らはあくまでティレア様のご意志を第一として行動すべきなのです!」

「むむ! ドリュアスの申すとおりだ。我が誤りであった。引き続き任務に勤しむことにしよう」


 カミーラの答えにドリュアスは満足そうに微笑む。


「次にミュッヘン、冒険者ギルドの現状を報告しろ」

「はっ。大手のギルドに登録してやすが、ろくな人材がいやせん。Aランク、Bランクといった上位冒険者が束になってかかってきたところで軍団員一人で対処できやす。うちの下っ端軍団員のはるか下レベルですぜ。ましてCランク以下など論外もいいとこ。あのような役立たずどもは、せいぜいガルガンのえさにしてやるのが関の山ですな」

「そうか。そのような脆弱な輩の巣では情報収集する価値も無い。ミュッヘンの潜伏も切り上げても良いかもしれんな」

「ただ、あっしの今の冒険者ランクはDランクで情報の制限がかかっているのは事実です。もしかしたらギルドの秘密兵器のような人材がいるやもしれません」

「そうか。ではミュッヘン、引き続きギルドでの任務を遂行するのだ」

「はっ。早急にSランクまで到達したいと思いやす」


 ミュッヘンの報告を聴き終わると、ドリュアスはベルナンデスに向き直る。


「ではベルナンデス、全体の状況を報告しろ」

「はっ。まずは周辺国について報告致します。ここアルクダス王国周辺には数十の国がありますが、気にかけるほどのものではありません。どれも小国といったところで、うちの一師団ほど送り込めば十分に壊滅しておつりがでます。しいて注意するとすれば、ここより北西に位置し、商業が盛んな国マナフィント連邦国ですね」

「ふむ、どの程度の軍事力なのだ?」

「だいたいここアルクダス王国と同程度の軍事力といったところでしょうか。ただ、マナフィント連邦国で注意すべきは国ではなく森の魔女です」

「森の魔女だと?」

「はい、なんでもその国には決して入ってはいけない禁断の森があって、そこに魔女が住んでいるそうです。国側もたびたび討伐軍を出してはいますが、誰も帰ってきた者がいないとか。今では国側も森の管理を諦めて放置している状況です」

「ほぉ~森の魔女か。少しは制圧しがいがあるようだ。我が討伐にいきたい」

「カミーラ様は学園潜伏の任務がありますので、ご遠慮願います」

「うっ。だ、だが、森の魔女、聞くになかなかの強敵のようだ。我以外に相手ができるか? 我なら学園潜伏しながら片手間で対処できるぞ」

「カミーラ様、マナフィント連邦国については後ほど侵攻計画を立案しますので、どうか先走った行動を取らぬようにお願いします」


 ドリュアスがキツイ目つきでカミーラを睨む。


「わ、わかった。ドリュアスそう睨むな。我慢すれば良いのだろう」

「ご理解していただき恐縮です。では、次の議題に移ります。わが邪神軍の拠点であるアルクダス王国、ここを完全に支配する必要があります。ティレア様のご意志で邪神軍はあまり表立って動けません。よってエディムに命じてこの国の主要人物を眷属化させ、裏から支配することにしました。エディム、各主要機関の眷属化の状況を報告しろ」

「は、はい。現在、軍事機関の長を優先的に67%まで眷属化させております。国軍千人隊長以上の人物は、ほぼ私の指示に従います」

「七割弱か……エディム、少しゆったりしすぎではないか?」


 ドリュアスの鋭い視線がエディムを襲う。


「も、申し訳ありません。治安部隊については隊長であるレミリアを管理下におけず、他機関と比べて眷属化が進んでいないのです。あ、あのレミリアを眷属化させていいのであれば、もう少し成果が上がるのですが……」

「それはだめだ。レミリアはティレア様が何かしらの思惑があって泳がせているご様子。ティレア様の作戦を邪魔するわけにはいかぬ」

「承知しました。ただレミリアの監視が厳しいこの状況では、これ以上の成果が如何ともしがたく……」

「ふむ……エディム、国王の眷属化はどうなっている?」

「はい、それは問題ありません。眷属化してますので私の意のままに操れます。王の眷属化は、王家近衛隊長を眷属化させていたので簡単でした」

「ならば国王から圧力をかけさせ、治安部隊とレミリアを一旦引き離すのだ。その間に治安部隊の幹部達を眷属化すればいい」

「はっ。すぐに取りかかります」


 エディムに指示したドリュアスがオルティッシオに向き直る。


「次の議題に移ります。邪神軍の軍拡です。現在、第二師団が王都周辺の集落を攻め落とし兵と金を補充しています。オルティッシオ、成果を報告しろ」

「はっ。我が隊はここひと月あまりで獣人の集落三十あまりを陥落させました」

「抵抗はどのくらいだったか? 有望そうな人材は?」

「はっ。そこそこ優秀な者は捕虜としております。また、どの集落も抵抗はかなりありました。というのも獣人には血気盛んな若者が多く反抗心をむき出しにして襲いかかってくるのです。そのため、こちらの武を見せつける必要がありました。ただ、我らの武を見せつけると、借りてきた猫のようにおとなしくなりましたよ」

 

 オルティッシオは上機嫌に自分の武を語る。


「ふん、たかが獣人ごときを陥落させたからと何をいい気になっておるのだ」

「そ、そんないい気になどなっておりません」

「それにオルティッシオ、邪神軍の宝物庫の入れ替えはどうなっている?」

「い、いえ、まだ実施できておりません。で、ですが私は遠征に行っていたので、そんな時間が……」

「言い訳はいい。オルティッシオ、貴様には忠誠心があるのか!」

「も、申し訳ありません」

「あと、お前はいつまでこんなあばら屋にお姉様を住まわせておく気だ?」

「一応、拠点の調度品はグレードを徐々に上げていっておりますが……」

「それが遅いというのだ! お姉様がお住まいになる拠点だぞ! いつまで三流品のガラクタを置いておくのだ!」

「ひっ。も、申し訳ございません」

「謝罪は聞き飽きたぞ、オルティッシオ!」

「成果を上げろ、オルティッシオ!」

「ひ、ひっく、誠に申し訳ございません」


 皆から厳しい追求を受け、オルティッシオが項垂れていると、作戦会議室の扉が開けられる。


「わぁ! 今日もたくさんいるね。晩ご飯できたから早くあがっていらっしゃい」

「これはお姉様。皆、作戦会議は終わりだ。お姉様が勿体無くも我らの食事を作ってくださった」

「ティレア様、もったいなきお言葉でございます。すぐにまいりまする」

「ティレア様、ありがたく頂戴致しまする」

「うんうん、冷めないうちに食べてねって――オル!? またあなた泣いてんの?」

「ひ、ひっく。こ、これはティレア様、お見苦しいところを」

「あ~もうみんなオルを虐めるのはやめなさいって言っているでしょうが! 同じ仲間でしょ!」


 ティレアの剣幕に一同が萎縮する。


「あぁ、テ、ティレア様。わ、私如きになんて暖かいお言葉を……」

「はぁ~もうよしよし、元気を出しなさい」

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