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第二話 「邪神軍参謀登場。わが子房を得たり」

 昼下がりの午後、俺の前に一人の美青年が現れた。


「お初にお目にかかります。邪神軍参謀ドリュアス・ボ・マルフェランドと申します。偉大で崇高なるティレア様に拝謁でき、光栄至極にございまする」


 そう言って、青髪の美青年エルフが頭を垂れてくる。


「あぁ、あなたが前にティムが言っていた軍師ね。どんな人か色々予想してたけど本当にエルフとはね」

「ティレア様、私は見た目はエルフですが、れっきとした魔族ですので」

「あぁ、そういうこと」


 これは驚いた。まさかエルフ族の中にも中二病患者がいるとはね。あぁ、だからハブられて集落から追い出されたのか、それとも自ら逃げ出したのか。エルフって排他的なイメージで人間とは仲良くしなさそうなイメージがある。それなのにこんな人間のお遊びに参加してくれるなんて……。


 よっぽど集落が居づらくなったのね。きっと、仲間内で浮いてしまって居づらくなったのだろう。これは優しく接してやらねばならない。


「まぁ、事情は人それぞれ。これから宜しくね」

「はっ。ティレア様のために生き、ティレア様のために死にます」

「ん? あなたはティムの親衛隊よね?」

「私はカミーラ様により生まれし者ですが、その存在意義はあくまでティレア様、あなた様に忠誠を尽くすためでございます」


 ほっほぉう。今度はそういう設定できましたか。俺のためにねぇ~。

 まぁ、悪い気はしないけど……。


 俺はそのイケメン面をじっと見つめる。


 するとどうだ! イケメンはさわやかに微笑み返すではないか!


 けっ。なんだ、そのさわやかな顔は! まったくイケメンはこれだからな。まさか俺を攻略できるとでも思ったのか?


 いっとくが俺は男からなんて問題外だ。まったくリア充爆発――いやいや、いかんいかん前世の思考に引きずられてどうする。ドリュアス君は、エルフの集落から追い出されたかわいそうな子。それにティム達とも親しくしてくれる仲間だ。仲良くしないとね。


「え~まぁ本当宜しく。ところでドリュアス君は知将だってティムから聞いていたんだけど、本当?」

「御意。邪神軍参謀として森羅万象、知識は詰め込んでおります」


 ドリュアス君がイケメンボイスでさわやかにのたまう。


 本当かよ?


 所詮は中二病患者だぞ。今までの傾向からすると、お馬鹿な可能性大だが……。


 まぁ、エルフが物知りというのは鉄板だ。少し試してみるか。


「自信満々じゃない。それじゃあ、クイズ出すから答えてみて」

「はっ。ご随意に」

「まずは第一問、デデンデン♪ 赤くて美味しい果物ボミグラニッデ。これが最も美味しく熟れるのはいつの時期?」


 ふっ、これは料理人でないと分からない問題だ。素人には、まず答えられない。百識のドリュアスを名乗るなら答えてみなさい。


「プリメバレラの一の月です。あるいはサウス方面に降れば、インヴェルノの三の月でもいいかもしれません」

「せ、正解」


 おいおい、完璧な答えだ。下手な料理人だったら知らないこともあるんだぞ。これはひょっとして掘り出し物を引いたかも……。


「じゃあ第二問、デデンデン♪ 真夏に咲くバクレット。これは食用にもなるんだけど、それはどこの部分?」

「第二葉の部分です。しかし、空気を遮断した上でジョヨウ液と一緒に摂氏九十度以上で熱すれば、葉の大部分の毒が抜けるので全ての葉が食用となるでしょう。まぁ、我ら魔族に毒は関係ありませんが……」

「せ、正解。というかそんな方法で解毒できるんだ。知らなかった」

「はい、他にもオニクスの葉と一緒に煎じる方法がありますが、これは味がざらつく恐れがありますので、お勧めはできません」


 で、できる。


 一流の料理人でもここまで完璧に回答できるかどうか……。


 むむ、負けてられない。こうなったらさらに難しい問題を出してやる。


「それじゃあ第三問……」


 それから俺は、考えつく限りの料理にかんしてのクイズを出していく。それをドリュアス君はピタリピタリと当ててくるのだ。しかも、たまに料理人の盲点をついた回答をしてくるからもう脱帽だね。


 はは、何、この物知り博士。こうなってくるとドリュアス君って料理人じゃないかと思えてしまう。う~ん、別なジャンルの質問もしたいが、俺は料理以外はからっきしだし。


「ふふ、お姉様、ドリュアスはどうですか? 我が最高傑作です。お姉様のお眼鏡に叶えば良いのですが」


 おぉ、ちょうどいいところにティムが来てくれた。ティムに魔法について質問させてみよう。


「ティム、ドリュアス君さすがだよ。まさに知将と言ってもいい」

「お姉様に喜んでいただき、我は嬉しゅうございます」

「さっきからドリュアス君すごいんだよ。料理の質問してたんだけど、すべて満点なんだ。ドリュアス君って料理人なんじゃない?」

「お姉様、ドリュアスは料理だけでなく、全ての森羅万象を網羅している完全無欠の軍師ですよ」

「そ、そっか。それじゃあティムもドリュアス君に何か質問してみて。魔法について難しい問題頼むわね」

「ドリュアスは眷属生成の際にわが知識の全てをたたきこんでおります。我の問いに全て完璧に答えるでしょう」

「ふぅん、ティムがそこまで言うなら実際に聞いてみてよ」

「分かりました、お姉様」


 ティムがドリュアス君に向き直る。


「ドリュアス、闇魔法第一の鍵を用いてアヴェロスの構築の方法を述べよ。ただし、ディプレッション、アンシュイチョンの使用は除く」

「はっ。まずはファヴターの闇を発動。しかる後にシュテルバビネの波動を捧げます。その際にジャオファイの熱を――」


 あぁ、さっきから二人が何言っているかさっぱり分からんぞ。ただ何となく難しいことを言っているのは分かる。ティムはやっぱり魔法の才能があるんだね。まるで、魔法学の教授みたいな弁舌を披露している。ドリュアス君もそのティムの問いにすらすらと答えていく。


 さすがはエルフ。森の番人なだけの知識を披露してくれた。うん、これはドリュアス君、料理人と言うより物知り博士だ。雑学王子と言っても良い。


「二人共、議論が白熱してきたようだけど、ストップ!」

「「はっ」」

「ティム、ドリュアス君の回答、合っているんだよね?」

「はい、百点、いや百二十点のできです。わが問いの半歩先まで見据えた回答でした。我は大満足です」

「そっか。ドリュアス君やるわね。認めるわ、これから我が子房として宜しく」

「ティレア様、その『シボウ』とは?」

「あぁ、前世ではすごい軍師を子房っていうのよ」

「そうでしたか。ティレア様にそのように思われ光栄至極にぞんします。このドリュアス、ティレア様の覇業を粉骨砕身してお支えしていく所存でございます」

「そ、そう、頑張ってね」


 あぁ、その言動。俺の睨んだ通り、ドリュアス君は中二病だ。せっかくそんなに頭が良いのに……。


 なんて残念な仕様になってしまったのか! ドリュアス君の中二病が早く完治する事を祈るばかりだ。


 それから、ドリュアス君と他の邪神軍の顔合わせをしたり、秘密基地の案内をしたりしていたら夕暮れになっていた。


 ふむ、もうこんな時間だ。お腹がすいたなぁ。なんか料理を作るか。よし、これからドリュアス君の歓迎会としゃれこもう。


「だいぶお腹がすいたね。なんか料理を作ってくるから」

「そ、そんなティレア様自らそのような真似を、今、部下に命じます」


 オルがそう言って止めてくる。おい、料理人の俺以外に誰が料理を作れるっていうんだよ。あんた達はただの中二病でしょうが!


「オル、大丈夫なの? 私以外に料理が作れるの? なんか不安なんだけど……」

「も、もちろんでございます。お任せください」


 オルが部屋を飛び出していく。本当に大丈夫か? オル達にまともな料理が作れるとはとても思えない。


 でもな~あんなに張り切っているのに水を差すのも悪いか。オル達の気持ちになって考えれば、新しい友達ができたんだ。自分達で何かしたいと思っても不思議ではない。


 しょうがない。ここはオル達の顔を立ててやるか。

 

 俺は、オル達が晩御飯を作ってくるのを待つことにした。


 そして、しばらくすると……。


「お待たせしました」


 オル達がご馳走を持ってきた。


 うん、いい匂い。なかなかやるじゃないか!


 ちゃんと前菜、スープ、メインと基本を抑えてある。


 さてさて本日の肉料理は何かな?


 ほぉ~ビーコックの姿焼きだよ。いい材料を使っている。俺の目にかかれば、おおよその品質が分かるってもんだ。


 うん、うん、どの料理も一級品だ……。


 うん、うん、うっ!? ち、ちょっと待て。一級品すぎないか!


 肉、魚料理、スープどの具材も超高級品を使ってやがる。


 オル、お前、どれだけの金を使ったんだ――っておいおい、嘘だろ! これバロットだぞ。十年、いや百年に一頭とれるかどうか分からない代物をこんなに惜しげもなく使いやがって……。


 出てきた料理は全て食べるにはもったいない食材ばかり。だが、もうすでに調理済みなのだ。食べるしかない。俺は愕然としながらもその高級食材を口に入れる。


「!?」


 衝撃が走った。咀嚼すればするほどスパイスと食材の芳ばしい香りが口内にミックスされて広がっていく。


 こ、これは……普通の調味料ではだせない。十年、いや百年かけても到達できない濃厚でいて洗練された代物。


 な、なんてことだ。こ、こいつら馬鹿なんじゃないか。


 俺は食べかけていた料理を止め、すぐに箸を置く。


「なんだ! この料理は!」

「テ、ティレア様……?」

「だから素人に食事を作らせるのは嫌なのよ! こんなものを食べさせるなんて」

「あ、あの何かご不満でも……」

「ええい、女将、じゃなくてこの料理を作った人を呼んで来なさい!」

「は、はっ」


 オルが慌てて、板前を呼んでくる。


「お、お呼びにより参上仕りました。料理を担当したジグマと申します」

「あ、あなたさぁ、この料理のダシに宝玉の塩(ジェムソルト)使ったでしょ?」

「あ、あの宝玉の塩(ジェムソルト)というのですか? 私はオルティッシオ様が買い付けた塩を使っただけなのですが……」

「ほ、ほっほぉう。な、なるほどね。知らないというのは恐ろしい。あのね、宝玉の塩(ジェムソルト)というのは千年かけて作られた天然の塩。それをあなた……この味付けからすると、ひと袋ぐらい使ったわね?」

「はい、使いましたが……それがいけなかったのでしょうか?」

「いけなかったのでしょうかって……あなたねぇ~」

「な、なにか問題でも……?」


 だめだ。ジグマの要領のえない回答、こいつ分かっていない。今回の料理だけで普通の家庭の年収分が軽くふっとんだんだぞ!


 それに料理全体でいえるのだが、どうも調理が拙い。素材はピカイチなのに調理が追いついていないのだ。


「あとさ『炒』『燻』『焼』『蒸』のサイクルがデタラメなんだけど、あなた料理の経験は?」

「いえ、ありません。私は武人ですので」


 な、なんだと……。


 こんな料理人が羨む超高級食材を素人に惜しげもなく使わせたのか……。


 オル、あなたの金銭感覚はひどすぎるぞ。さすがは大貴族様のおせがれ。


「オル、あなた、何を考えているの?」

「と、言いますと……」

「あのね、私を差し置いて料理を作るって言ったから、それなりに料理ができる人だと思ったのよ。まぁ、百歩譲って素人でもいいけどさ、あの食材の使い方は冒涜だ、許せるものじゃない」

「ティレア様がお怒りになるのも当然だ。何故あのようなケチくさい食材を使ったのだ!」

「お姉様にお出しになる料理に粗末な残飯を提供したのだ。オルティッシオ、分かっておろうな?」

「も、申し訳ございません。今、手に入る最上級のものを用意したつもりですが」

「それが怠慢だと言うのだ! 魔都では犬も食わない残飯ではないか!」


 オルとティム達が、ヤンヤヤンヤと勘違いな言い争いを始める。はは、もうこいつら救いようがない。


「だぁああ! いい加減にしなさい。もういい。やっぱり料理は私がするから」

「しかし……ティレア様がそのような真似を――」

「しかしもかかしもない。これは命令、料理は私がする。やっぱりあなた達、素人には任せられない」


 俺の剣幕に一同が黙る。


 うん、もう君達に任せていたらとんでもないことになる。そういえば、俺のお店「ベルム 王都支店」の材料の買出しもオルに任せていたんだった。


 こ、これはまずい。オルの奴、どんなとんでも食材を買ってきたのか。ふふ、なんかいきなりお店がつぶれそうなんですけど……。

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