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第三十二話 「それぞれの思い」

 ニコル・ジェシカは回想する。


 魔族による王都襲撃により、総人口の約半分が失われたともいわれている。のちに「王都騒乱」といわれたこの戦いは王都に様々な爪痕を残し、終結した。


 王家、ギルド、市民、多数の死傷者を出した。特にひどかったのは治安部隊である。副隊長以下、ほぼ全滅したのだ。隊長であるレミリア様は構成員のほとんどを失い、躍起になって再編に挑んでいる。


 市民も壊された家屋を必死に直し、少しでも早く日常を取り戻そうとしている。そう、生き残った者は皆、悲しみにくれる暇もなく復興に勤しんでいるのだ。


 侵略してきた魔族は、マルフェランドといって秘密機関、魔滅五芒星(デガラビア)の宿敵とわかった。また、ところどころで発生した巨大な魔力の存在、魔族の突然の撤退等、不可解な点が数多く残ったが、魔滅五芒星(デガラビア)構成員の全滅により、その全貌は明らかになっていない。


 ただ言えるのは魔族が撤退し、王都に平和が戻ったという事実だ。市民の多くは我々人間側が必死に抵抗したので魔族の襲撃を撃退したと思っている。


 だが、真相は違う。


 生き残った実力のある者なら皆、疑問に思っている。何故か魔族が勝手に自滅し、撤退したのだと。実力者達は、魔族の力を否が応でも実感したのだ。人間では魔族に勝てない。実力者達はマルフェランドの幹部達が全員、謎の死を遂げているので魔族同士の仲間割れによるものと推測している。あれだけの戦闘力を見せられ、我々人間側が倒したと考えるほどの楽観者はいない。


 ただ、私はさらに真相を知っている。


 ある一人の少女の活躍によって、この国は救われたのだ。だが、その事実をまだ周囲に話せてない。話すべきか話せばどうなるのか。私自身にまだ判断がつかないからだ。この件はおいおい考えていこう。


 その少女、国を救ってくれた救世主であるティレアさん。最強の戦闘力を持ちながら自覚していないのは理由があるのかな?


 正体を知りたい気持ちもあるが、何故かそれを追求するのも怖い感じがする。


 そのティレアさんは、どうやらこのまま王都に住むらしい。妹のティムちゃんが心配でなんとかこっちで就職するらしいが、大丈夫だろうか?


 ティレアさんのあの天然ボケぶりだと不安でしょうがない。まぁ、私に何かできることがあれば手伝ってあげよう。


 結局、ティムちゃんとは会えずじまいだったが、ティレアさんと同じようにでたらめな存在なのだろうか?


 どんな子かなぁ。会ってみたい。まぁ、ティムちゃんは学園が再開した時に会えるのでその時の楽しみとしよう。


 それと私の親友について……。


 エディムは、吸血鬼(バンパイア)となりながらも学園に復帰できるようだ。国側にも正体がばれていないらしい。私も密告する気はさらさらない。王家に知られたら死刑は確実だからだ。


 ただ、それでいいのか? エディムはもう私の知っているエディムではないのじゃないか……?


 ティレアさん曰く「エディムは人間の心を取り戻しているから大丈夫」と。


 本当だろうか?


 実際、吸血鬼のままであれば多くの人達がまた犠牲になってしまう。いや、もう考えるのはよそう。親友の生存は純粋に嬉しい。もうリリスちゃんみたいなことはごめんだ。また親友を失うのは辛すぎる。


 リリスちゃん、今でも胸が締め付けられる。


 どうして……?


 まるで幾年、いや永遠とも思われるぐらい一緒に過ごしてきた親友に感じる。リリスちゃんが最後に言っていた「アリア」って誰なんだろう?


 捜そう。リリスちゃんの遺言だ。きっと何か意味があるはずだ。


 ジェシカは扉を開け、外へと飛び出す。


 さぁ、まずは学園に復帰しなくっちゃ。


 魔族の襲来がこれで終わるとは限らない。第二、第三の魔族の侵略からこの国を守るためにも、復旧が最優先なのだ。


 今回の魔族による王都襲撃については色々、謎が多いのは確かである。だが、まずは生き残ったことに感謝し、一歩ずつ前に進んでいくほかない。




 ■ ◇ ■ ◇




 カミーラ・ボ・マルフェランドは悩んでいる。


 先日、我はお姉様に(ニンゲン)を頂いた。


 ジェシカとエディムと言ったか……。


 力は脆弱で(いくさ)では役に立たぬが、見栄えは悪くない。おもちゃとしては十分に楽しめる。いずれ二人まとめて我がかわいがってやろう。


 そんな楽しいおもちゃを二つも賜ったのだ。お姉様へのお礼は何がよいか? 


 カミーラは考える。


 国を一つ進呈しようか? いやいや、世界はもともとお姉様のものだ。進呈するというのもおかしな話だ。


 ん!? そうなると世界にあるもの全てお姉様のものだから、進呈するものがないぞ。これは困った。


 どうすれば良いか……?


 カミーラは悩む。偉大で崇高なるお姉様にどうすれば喜んでいただけるか。そしてしばらく熟考していると……。


 そうだ!


 以前、お姉様が「プレゼントは手作りが一番だ」とおっしゃっていた。


 ふむ、やはり(ニンゲン)には(ケンゾク)。我が最強の眷属を作り、お姉様に進呈しよう。我の手作りだ。お姉様もきっと喜んでくださるにちがいない。我が精魂こめて作る。中途半端はせぬ。全魔力を使うてやる。よもやオルティッシオのようなおろかな眷属はたくさんだからな。


 カミーラは最強の眷属をイメージする。


 まずは忠誠心……。


 これは最大マックスが当然。謀反などおこそうものなら八つ裂きにしてやる。お姉様を第一に考え、親である我より優先するようにしよう。


 あと、基本仕様はどうするか……。


 豪傑型か知将型か。それとなくお姉様に聞いてみるか。


「お姉様」

「な~に、ティム」

「唐突ですが、お姉様が好むタイプを教えていただけませんか?」

「おぉ! 何を言うかと思えばティム、いきなりな質問ね」

「はい、ぜひお姉様のお心が知りたく」

「う~ん、なんか照れるなぁ。言わなきゃだめ?」

「はい、できればお心を知りたいのですが……」

「そうねぇ~。ずばりエルフかな」

「エルフですか……」


 確かにエルフは魔族には及ばぬものの、身体能力が高く長寿だ。なにより見目麗しい者が多い。それがお姉様の好み。


「なるほど、お姉様は見目麗しいエルフをご所望なのですね?」

「ぐはっ! 身もふたもない言い方だけど……そうかも」

「わかりました。お姉様」


 よし、基本仕様はエルフだ。魔エルフといったところか。


「それでは次の質問です。我がこれから挙げる中で好みの型をお選び下さい」

「な、なに? その質問引っ張るわね。まぁ、いいや、言ってみて」

「はい、型は将軍型、豪傑型、知将型、万能型です」

「な、なんか歴史シミュレーションみたいね」

「お姉様、『れきししみゅれーしょん』とはどういう意味ですか?」

「なんか説明が面倒だし気にしないで。それよりその型を詳しく教えて」

「はい。知将型は軍団を補佐し、戦略を練ります。いわゆる参謀ですね。豪傑型は敵陣に斬り込み、血路を開きます。将軍型は武勇もさることながら、部隊も指揮します。万能型は智勇共にそつがないですが、器用貧乏に陥る恐れがあります。豪傑型、将軍型はニールゼンを含め、近衛隊の面々がそれに該当しますね」

「それはだんぜん知将型でしょ。もうお馬鹿――じゃなかった武人タイプはおなかいっぱいよ」

「そうですか。それでは知将型にしておきます」

「ね、ねぇティム、さっきから何を言って――もしかして邪神軍に誰か新人を入団させるの?」

「ふふ、お姉様、楽しみにしててください」

「な、なんか不安だけど……了解。そっか知将なら今度は、頭のいい人を入団させるのね」

「はい、とびっきりの知将を用意します」

「はは、とびっきりってその人、知力九十以上はあるのかな? まぁ百は無いだろうけど」

「お姉様、知力百は相対的にどのくらいのレベルをおっしゃってるのですか?」

「あぁ、知力百は完全無欠の軍師を言うんだよ」

「完全無欠ですか!」

「うん、まぁそんな人はいないだろうけど」


 お姉様が完全無欠の軍師をご所望されておられる。これは是が非でもご期待に応えねばなるまい。


「お姉様、完全無欠の軍師とは、間違った采配を一度もしないのですね?」

「そういうこと。例えば敵側の武将を調略する時に『必ずや配下になるでしょう』と助言したら絶対にその通りにならなきゃだめよ」

「もしや、お姉様前世、軍師のせいでご苦労を……」

「うん、前世、今のティム達と同じようなゲームをしていたときに――」

「さすがはお姉様。世界征服もお姉様にとってはただのゲームなのですね」

「ま、まぁ、正確にいうとオンラインゲームなんだけど……とにかく軍師が『あの者もわが君の誘いを待ち望んでいるでしょう』なんて進言しておきながら、使者を出したら拒絶するんだよ! しかも贈り物の名馬だけはちゃっかりパクっていくんだから。始末が悪い」

「無礼千万! お姉様のお誘いを踏みにじり、かつそのような愚行を犯すとは!」

「でしょ! でしょ! なんどセーブあんどロードしたか。それもこれもへっぽこ軍師のせいさ」

「取るに足らぬ軍師は、百害あって一利なし。いないほうがよいのですね?」

「その通り。まったくその軍師がふかすことふかすこと。やることなすこと反対の進言ばかりだから。まぁ、知力が八十台の武将を軍師にしたのが、まずかったんだけどね」

「お姉様のお気持ちはわかりました。お任せ下さい。知力百の知将を作ってごらんにいれます」

「そ、そう。がんばって勧誘して」

「ふふ、お姉様、完全無欠の軍師です。もう名馬を取られるだけのようなことはありません。というか偉大なお姉様の勧誘を断った時点でその者は殺します」

「はは、それじゃ三顧の礼ができないね」




 ■ ◇ ■ ◇




 ティレアは悩んでいる。


 ティムの入学が決まった時から、考えていた。俺は王都に住もうと考えている。ティムの自立を促すとはいえ、ティムはまだ十四歳、家族と離れて暮らすのはさびしいに決まっている。というか俺がさびしい。だから王都で就職し、仕事をしながらティムを見守ろうと思ったんだけど……。


 現実は厳しいね、トホホ。


 俺は料理の腕を頼りに王都の飲食店に片っ端から頼み込んでみた。だけど芳しい返事はもらえなかった。やはりどこの馬の骨ともわからぬ者を雇おうとはしない。中には俺の身体が目当てみたいな不届きなお店もあった。速攻逃げてきたけどね。


 はぁ~就職活動は厳しいよ。


 前世だけでなく今生でもこんな思いをするとは……。


 そんなこんなで就職活動に失敗した俺は、お店に雇われないのであれば自分でお店を持てばいいんじゃないかと考えた。


 だが、いかんせん先立つものがない。お店の運転資金ってウン百万ゴールドもするんだよ。とてもじゃないが、用意できない。両親に負担を掛けたくないし、かといってまたヘタレ(ビセフ)にも頼めない。


 ヘタレ(ビセフ)にはティムの学費から学園への入学手続きなどもう既にけっこうな額を支払ってもらっている。


 これ以上はさすがにね……俺も悪女じゃないし、ヘタレ(ビセフ)が破産して首をつるところなんて見たくもない。


 あぁ、自分のお店が欲しい。

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