第十八話 「ティムに友達が出来ちゃった」
ミューから本陣の場所を聞き、移動の準備は整った。
「あっしがお供しましょうか?」と言ってくれたが、ティムの護衛を優先するように伝えた。本当はミューに護衛してもらったほうが心強いんだけどね。でも、だからこそティムのそばを離れてほしくない。
俺が移動を開始しようとすると、ティム達が戻ってきた。あれだけじゃれていたエディムがおとなしくなっているところを見ると、親睦を深め合ったようだ。
「ティム、エディムとの話は終わった?」
「はい、ようやく身の程をわきまえたようです」
むむ、ティムめ。何やら上から目線な言い方だ。
エディムは、怒ったんじゃないか?
ちらりとエディムを見る。だが、予想に反してエディムは恍惚とした顔でティムを眺めていた。うむ、問題ないようだ。敵意の欠片もない。むしろ陶酔しきっていると言っても良い。
会って間もないのに、これほどの好意を得られるなんて……。
ティムやるわね。いったい何を話したのだろう? 熱い言葉でも語ったのかな。
だが、それにしてはティムのエディムに対する態度が冷たい。エディムとは対照的にティムのエディムを見る目は、冷ややかで侮蔑したような感じなのである。まだティムは緊張が残っているみたいだね。
「ティム、ちゃんとエディムと話をしたの? なんか不満そうだけど……」
「いえ、お姉様から頂いた品です。不満などありませぬ。我は、それにふさわしいようにじっくりと教育してたところなのです」
あいかわらずの中二的セリフ。こんなことを言われたら普通の人はね、引いちゃうんだよ。しょうがない。せっかくできたティムの友達だ。友情を壊さないように俺がフォローしてあげよう。
「エディム、あのね、ティムはこんな口調だけど誤解しないでね。本当は優しくて頼りになるんだから」
「異なことを……私は真祖様に身も心も捧げる覚悟なんです。あなたは真祖様の姉かもしれませんが、かりそめでしょう? 真祖様に対し無礼です! だいたいティムって真祖様にはカミ――」
「このおろかものがぁあ――っ! まだ教育が足らなかったのか? いつ我がお姉様に対して不遜な態度を取れと言ったか!」
「えっ? えっ? で、でも真祖様は、この世で一番の存在です。それなのにこんな人間如きに……」
「エディム、その不遜な言葉、お姉様からの賜りものでなければ百回は死んでたところだぞ。これ以上の狼藉は――」
「あーストップ、ストップ! 私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、ティム言いすぎよ。やめなさい」
ティムが、エディムに今にも襲い掛かろうとしていたので慌てて仲裁に入る。
ふぅ、とりあえず喧嘩になるのは防いだ。この緊急時にティムもエディムものんきなことである。平時であれば、じっくり話し合いをさせたいが、今は喧嘩をしている場合じゃない。
ティムは俺に叱られたと感じてか、シュンとしている。エディムもティムと喧嘩になりそうだったからか落ち込んでいる。
う~ん、どういうことだ?
ティムとエディムの関係がいまいちよくわからない。さきほどの諍いは俺がバカにされたと思ったので、ティムは怒ったのだろう。それは十分にわかる。ティムは姉思いだからね。
わからないのはエディムだ。あんなにティムに小バカにされたのに怒らない。それどころか、むしろ喜んでいる節さえあるのだ。それにティムに負けないくらいの中二的セリフを吐いている。
何故だ? どうなってる?
俺は彼女達の関係性を必死に考える。
ポクポクポク……チーン! わかった!
多分、エディムは、ティムの影響を受けて中二病を発病したのだ。これは間違いない。あいかわらずティムの影響力ってすごいよね。親衛隊だけでも五百人いるし、カミーラの演技が堂に入っているのも拍車をかけているのだろう。
エディムも中学生くらいだし、染まるのも無理はない。後エディムがティムを尊敬している理由だけど、だいたい想像がついた。
多分、自分が吸血鬼であるにもかかわらず、普通に接してくれているティムに感動、感激してしまったのだ。だから下僕扱いされても満足しているにちがいない。
それに、エディムはえむの素質があるみたいだし、ああいう口調をされたほうがご褒美なのだろう。さらに言えば、俺につっかかってきたのは親友であるティムを取られるんじゃないかってジェラシーしちゃったんだね。
まったく可愛い娘だ。家族と友達はまた別なものなのに……。
そうとわかれば邪魔者は消えるとしますか。二人でゆっくり話し合って友情を育んでほしい。俺は本陣に――ってか早く行かないとレペスさんが大変だった。
「ティム、喧嘩はしないでエディムと仲良くね」
「はい、二度とお姉様に対し不遜な態度を取らぬようきっちり教育しておきます」
ん!? ティム、本当にわかってくれたのか?
う~ん、中二的セリフを翻訳……。
「大好きなお姉ちゃんの悪口を言わないでって、エディムにお願いしておくね」ってところかな。ティムも可愛いところあるなぁ。
「よろしい。それじゃあ、お姉ちゃん本陣まで行ってくるから。よく考えれば道草している暇なかったんだよ」
「わかりました。それでお姉様、お供は必要ないですか? よろしければ、我が露払いをいたしますが……」
「一人で大丈夫よ。ティムはエディムと一緒に待機してて。ミュー、ティム達の護衛をお願いするね」
「はっ。あっしにお任せください」
よし、ミューに頼んでおけば安心だ。後は、本陣にレペスさんの状態を伝えるだけ……あ、救援がくるまでの間、レペスさんを診てもらっておかないとね。急変したら大変だし。
「ミュー、ティム、言うの忘れてたけど、小屋に大怪我している男性がいるのよ。彼をお願いね」
「小屋に男……こんなところに……」
「うん? どうしたの? 何か問題でも――」
「いえ、さすがはお姉様。仕事が早いです」
仕事が早い? 怪我の手当とか緊急時の対応を言っているのかな? それほど適切なことをしたわけじゃないんだけど……。
「褒められるほどのことはしてないよ。それじゃあ、ひとっぱしり行ってきます」
俺はジェシカちゃんをおんぶしたまま、ダッシュで移動する。
そして、しばらく駆け抜けていると、
「うぉ、きさまらぁああ――っ!」
何か遠くで叫び声が聞こえた気がする。小屋があった方角からだ。
もしかしてレペスさんが気がついたのかな?
ミューの顔を見てびっくりしたとか?
ありうる話だ。苦労人なだけあってミューってけっこう怖い顔しているからね。それにいきなり起きて見知らぬ人達がいたら、それだけで何事かってびっくりするのが普通だ。レペスさんには、害がない奴らだって伝えておけば良かった。