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第十二話 「ジェシカと最終ゲーム決着」

 ティレアさんから詳しく話を聞くと、どうやら「ツバメ返し」は「まーじゃん」のいかさま技のことらしい。戦闘の技ではなかった。


 ティレアさん、いかさましてまで勝ちたいってゲームに引きずられすぎだよ。


 だけど、ティレアさんが話してくれたそのいかさま技は、成功すればゲームを支配できそうな感じである。


 ツバメ返し――あらかじめ自分の前に積まれている「はいやま」の中に「あがり」となる「はい」をまとめておき、隙を見て「はいやま」と「てはい」を全て入れ替えてしまう技だ。


 成功すれば「やくまん」を連続であがれるし、逆転可能である。理論を聞くとハイリスクではあるが、リターンも大きい。ティレアさんならやってやれないことはないと思う。


 それにしてもティレアさん、こんないかさま技まで知ってるなんて……知恵はなくても、その知識だけは本物ですね。


「ティレアさん、やれそうですか?」

「えぇ、やってやる! それでね、ジェシカちゃんに頼みがあるんだけど……」

「はい、なんでしょうか?」

「私がツバメ返しをやる間、魔族達の注意をひいてほしいの」

「確かにこの技は派手ですし、注意をひかないとばれる恐れはありますね」

「そうだよね、だからお願いできる?」

「わかりました。でもどうやりましょうか?」

「そうね~。例えば女の色気で注意をひけそうじゃない?」

「え!? そ、そんな色気なんて私には無理です。それに相手は魔族なんですよ」

「いやいや魔族とはいえ男には違いない。十分に通じると思うよ」

「そ、そんな、むちゃくちゃな……」

「大丈夫だって。これも魔族を倒すためなんだからね」

「で、でも……や、やっぱり私には無理です!」

「ジェシカちゃんならできる!」

「うぅ、そんなに言うんならティレアさんがやったらどうなんですか!」

「私は無理よ。ツバメ返しに集中したいし、何より私じゃ奴らの注意を引けない」

「そうなんですか?」

「うん、そう、奴ら知の隊とか言ってエリート面しているからきっとロリね。エリートなんて皆、ロリに決まっているんだから」

「ろ、ろ……りって?」

「あぁ、ロリコンっていってね。ジェシカちゃんみたいな慎ましやかな胸をしている小さな女の子にしか興味がない奴らを言うんだよ」


 な、なんだろう、この人。け、喧嘩を売っているの?


「むぅ、ティレアさん、これでも去年より成長しているんですよぉっ!」

「いやいや、まだまだジェシカちゃんは立派なロリだよ。そのロリフェイスにロリ声、ロリスタイル。その筋の人達にとってはたまらないよ」

「……」

「そういうことだから私じゃ無理なんだ。ほら私って胸もでかいし、スタイルはいいし、奴らのストライクゾーンを外れているんだよね。それに比べてジェシカちゃんなら絶対に奴らの気を引けると思うんだ」


 ど、どうしよう?


 今本気でティレアさんに殺意が湧いているんだけど……。


 ……

 …………

 ………………


 いや、だ、だめよ、だめ。怒りを抑えないと。ティレアさんに悪気はない。天然を地でいく人なんだから。きっと何も考えずにその時のフィーリングで話をしているのだろう。


 それに、今、こうしている間にも市民達の被害は次々と増えている。こんなところで時間をつぶしている暇はない。早くこんな茶番を終わらせないと!


 私は不承不承ながらティレアさんの作戦に賛同し、魔族達が待つテーブルにつく。ゲーム再開だ。緊張でおぼつかない手で「はい」を積み上げる中、ティレアさんは作戦通り「つみこみ」といういかさま技をしている。


 横目にティレアさんを見ると……。


 おぉ、すごい俊敏な動きだ。あれよあれよと「はい」を積み立てていく。


 数分後……。


 ティレアさんがこちらを見てきた。準備万端らしい。


 し、しょうがない。羞恥心は捨てるのよ、ジェシカ! 全ては魔族を倒すため、人々を救うため。


 すうっと深呼吸をし、きっと魔族達を見つめる。


 そして……。


「か、体がほてっちゃう~♪」


 これ見よがしに胸元をぱたぱたさせながら、体をくねくねさせ魔族の注意をひいてみた。


「そうだな、小娘。この『まーじゃん』というゲーム、なかなかに戦略がいがあって興をそそる。心が熱くなってくるわ!」

「ホルス様のおっしゃる通りです。一人卓にバカ(ティレア)がいるせいでぶちこわしですが、それを抜きにしてもおもしろげなゲームでございますな」

「……」

「どうした小娘? お前もそう思うゆえの言なんだろう?」

「は、はい」


 あぁ……なにか大事なものが壊れた気がする。私はそっと開いていた胸元のボタンを止め、襟元を正す。


 うぅ、ティレアさん、ここまでやったんですよ! 成功しているんでしょうね! 

 涙目になりながらティレアさんを見る。ティレアさんは口元がにやけている。いわゆるドヤ顔だ。どうやら成功したらしい。


 す、すごい。あの一瞬でやったの? 魔族の目をかいくぐるなんて、どれだけの超スピードだったんだろう。ティレアさんの早業に驚愕していると、


「サイコロは四だ」

「それでは私めのところですな」

「「あっ!?」」


 私とティレアさんの声が共鳴する。


 そ、そうだ。このいかさま、サイコロの目が重要なのだ。副将ギルガントの山から「はい」をとっていくので、「ツバメ返し」は意味を成さない。


 私は小声でティレアさんに声をかける。


「ティレアさん、サイコロの目もなんとかできないんですか?」

「そ、それは……さすがに、む、無理」


 ティレアさんはふるふると首を横に振った。


 結局「ツバメ返し」は機能しないまま普通にゲームは続き……。


「それだ『ろぉん』!」

「ぎ、ぎゃぼん!」


 「はんちゃん」が終了した。ティレアさんは二回目の「はこわれ」が決定。「しゃあば」に入る前にティレアさんと再度の作戦会議に入る。


「ティレアさん、もうゲームは無理です。戦闘に切り替えましょう!」

「……ま、まだよ、まだまだ。ジェシカちゃん、私はまだ負けてないもの。これからよ、これから逆転劇が始まるんだから!」


 ティレアさんの目は血走っている。典型的な博打の負けパターンにはまっちゃってるよ。


「ティレアさん、残念ですけど諦めましょう! 相手が一枚も二枚も上手です。引き際を考えないと!」


 本当は一枚どころか十枚と言ってもまだ足りないぐらいだ。ただ、さすがにティレアさんがかわいそうになってきた。もうこの「はんちゃん」、ティレアさんはふるぼっこの状態だったから、さすがに控え目に説得する。


「ち、違うのよぉ! ジェシカちゃん、こ、これはね……えぇと~そうそう、まだかんを取り戻せてないだけ。そうそれだけなんだから!」

「ティレアさん……」


 う~ん、意地になってるよ。ティレアさんけっこう頑固なところがあるし。しょうがない、このままゲームを続けても無駄だと思うけど、ティレアさんの好きにさせてあげよう。


「はぁ~、わかりました」

「ジェシカちゃん、今度こそ魔族に目にもの見せてやるんだから!」

「あ、ティレアさん、一つアドバイスです。独り言をやめてください」

「独り言?」

「やっぱり自覚なしですね」

「それはどういう……」

「ティレアさんって『てんぱい』間近になるとテンションが上がってくるみたいで、異様な叫び声をあげてましたよ」

「えぇっ! そうなの?」

「はい。あと『てはい』がうまくいかない度に『うらめったぁあ――ッ!』と言うのも止めてください」

「そ、そんなことまで……」

「そうです。あと、極めつけは『はく』が『てはい』にきた時です。『ふ、ぬるりときたわ』と毎回言うのはもうなんて言ったらいいか……」

「はは……ついつい」

「そういう次第で敵にティレアさんの情報は筒抜けでした」

「そ、そう」

「他にも色々気になる点はありますが、一度に言ってもわからないと思いますので、せめて独り言はやめてください!」

「は、はい」


 一応、ティレアさんには注意すべきところはしたけど。これでどこまでいけるか……あぁ不安である。


 だが、健闘空しくゲームは終局した。


 終わってみればホルスの圧勝。二位はギルガント、三位は私。途中、ホルス達と戦うのは無謀と判断し、ターゲットをティレアさんに変更した。直撃をなんとか避けながらティレアさんから点棒をかすめとり、プラスにすることができた。私はティレアさんと違って魔力吸収されるとすぐに死んでしまうから、ここは心を鬼にしたのである。


 ごめんなさい、ティレアさん。べ、別に「ろり」と言われたはらいせじゃないですよ。


 そして、ダントツのビリはティレアさん、予測どおりというかマイナス十二万点を超えていた。途中、ホルス達でなく私からも狙われたからね。「はこわれ」を四回、そして、一度も上がれてない「やきとり」である。


「☆∋★◆……ぎゃぽぉん」


 ティレアさんがテーブルにつっぷしている。あぁ、口から魂が出ているよ。さすがにショックなようである。


「しかし、ホルス様、終わってみればこやつはただの大バカでしたな」

「あぁ、属性予測攻守(エレメントプレディクト)を制したのも戦略でなくただただ強運だっただけのようだ」

「本当にこんな大バカに部下が殺されたかと思うと! こやつは魔力吸収だけでは生ぬるい。もっと残虐な極刑にしましょう、ホルス様」

「確かにギルガントの言うことは一理ある。だが、ルールはルール。それを破ることは知の隊の誇りにかかわる。それに、こやつは『まーじゃん』という興のそそるゲームを紹介したのだ。その功に免じて極刑だけは避けてやろうではないか」

「さすがはホルス様、その矜持は知の隊の誇りでございます」

「うむ、それではこの大バカ者に敗者としての義務をはたしてもらおう」

「そうですな。この大バカ者、いや、奇声をあげる、めちゃくちゃな戦略をたてる、こやつは痴れ者ですな」

「そうだな。こやつは痴れ者だ。それではギルガントよ。この痴れ者に魔力吸収器をあてるのだ!」

「はっ!」


 ギルガントがホルスの命を受け、ティレアさんの頭を掴む。


「ほら痴れ者! 面をあげろ! 魔力吸収はそれほど苦痛ではない。楽に殺してやるからホルス様に感謝するのだぞ!」

「……」

「おい、聞こえているのか! 痴れ者!」

「さ、さっきから聞いてればおんどりゃ――っ!」


 ティレアさんは、いきなり顔をあげるとポケットからクカノミを取り出し、ホルス達にそれをぶつけていく。


「な、何を――ぐ、ぐはっ!」

「こ、こやつ、歯向かう――ぐぇっ!」

「はぁ、はぁ、ったくお前らよく聞けぇ! 麻雀は運のゲームなんですぅ! べ、別に頭の良さなんか関係ないんだからなぁあ! そ、それに痴れ者とか言いやがって。私はなぁ『セーラさんのお子さんはお利口さんですねぇ』ってご近所でも評判だったんだぞ。わかるかぁああ!」


 ティレアさんが雄たけびを放つ。さすがに頭にきてたんですね。


 でも、逆切れって……。


 まぁ、私はもともとゲームはせずに戦闘したかったからいいんですけど。

 

 あぁあぁ、ティレアさんホルス達もう死んでいるのに、胸倉掴んでゆさゆさと揺らしている。周りが見えていないみたいだ。ティレアさんの咆哮(ほうこう)は続いてる。もういい加減に止めないとね。


「はぁ、はぁ。よ、よし、お前ら、次はポーカーで勝負だ。次は絶対に――」

「ティレアさん」

「あぁ、ジェシカちゃん、ちょっと待ってて。次こそ――」

「ティレアさん! こいつらもう死んでますよ」

「え!?」


 私がそう言うと、ティレアさんはホルス達の死体をまじまじと見つめている。ティレアさんが無意識に投げたクカノミが、ホルス達の顔面に命中しているのに気づいたみたいだ。ティレアさんのあの強烈な投擲を間近で受けたのだ。ホルス達もたまったもんじゃなかっただろう。


「さ、作戦どおり……い、いや~実はジェシカちゃん、これは作戦だったんだよ」

「そうですか……」

「そ、そう、ゲームに熱中していると思わせて油断したところをえぃってね!」

「そうですか……」

「ジ、ジェシカちゃん、そんな遠い目しないで」

「とりあえず、ティレアさん、ここを出ましょう」

「そ、そうだね、早くティムが待っている避難場所まで行かないと。確かここから東だったよね?」

「いえ、違います。実はそこは変更になって……私についてきてください」

「そうなんだ。了解。ジェシカちゃん、よろしくね」

「はい」


 ごめんなさい、ティレアさん、実は避難場所は変更になってません。やっぱり確信した。ティレアさんじゃないと魔族には勝てない。とりあえず、魔族四将の一人を倒したんだ。ティレアさんには残りの幹部も倒してもらいたい。


 魔力をサーチする。東西南北サーチを開始し、でかい魔力のところにティレアさんを誘導するつもりだ。ティレアさんには悪いけど、もう少し付き合ってほしい。


 そして、私は発見してしまった。


 何? なんで? こ、こんな魔力が存在するの? 

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