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第九話 「ジェシカとデスゲームの始まり」

「ティレアさん、ゲームなんて本当に大丈夫なんですか?」

「ジェシカちゃん、私に任せて。戦闘は苦手だけど頭を使うのは得意だから」


 ティレアさんは自信満々に言い放っているが、不安だ。不安でしょうがない。ティレアさんがゲームで奴らを出し抜く姿を想像できない。


 眼前の魔族達を見るにその巨大な魔力だけでない。その瞳には、知性の塊を宿している。私は、魔力はともかく頭を使うことに関してはいささか自信がある。だが、この面子相手に引けをとらずに勝負できるかといったら否といって良いだろう。ゲームの内容次第ではぼろ負けの可能性も十分にある。


 ううん、弱気になってはだめ。勝てるものも勝てなくなる。とにかくゲームの内容を聞いてしっかり対策を立てよう。ティレアさんもゲームの内容が気になるみたいだ。ホルスのもとに駆け寄り、


「それで、ゲームの内容は?」


 知の将ホルスに問いただす。


「我々が用意したゲームは属性予測攻守(エレメントプレディクト)という」

「エレメ……?」

 

 ティレアさんは聞きなれない単語にポカンとした表情をしている。大丈夫かな。ティレアさん、ホルスの話にちゃんとついていけるのだろうか……不安である。


「順を追って説明する。脆弱な人間とはいえ魔法属性ぐらい知っているだろ?」

「ぞ、属性? う、うん」

「そして、属性には相性や優劣があるのも知っているな?」

「相性? 優劣?」

「なんだ? まさかそんなことも知らんのか?」

「い、いやいや知っているよ……あぁ、あれだ。そうそう相性ね。うんうん、そう属性の優劣、常識だよ」


 あぁ、ティレアさんは頷いているが、あの顔は絶対に知ったかぶりしているよ。ホルスも訝しげな顔でティレアさんを睨んでいる。


「な、何よ。う、疑っているの? 問題ない。ちゃんと理解しているんだから」

「……まぁ、いい。属性予測攻守(エレメントプレディクト)とはその属性の優劣を使ったゲームだ」

「ふ~ん。なんかピンとこない。具体的にはどんなルールなのよ?」

「この後の説明は、実際に見てもらったほうが早い。人間共よ、ついてこい」


 ホルスに連れられて私とティレアさんは廃屋の小部屋へと移動していく。話を聞くにどうやら魔法の属性を使ったゲームらしい。


 魔法の属性は火、水、木、土、風、雷、光、闇の八つの属性があり、それぞれに相性がある。火には水が強く、風には火が強くといった具合だ。

 例えば、火属性を持った剣で火の耐性を持つ魔獣に斬りつけても、本来の攻撃力より何割か減少してしまう。だから、火の耐性を持つ魔獣に対しては水属性の魔法か武器を使うのが効果的である。戦闘の際には、それらの属性を踏まえて戦うのがセオリーの一つなのだ。


「この部屋だ、入れ」


 部屋に入るなり、むせ返るような血臭が漂ってきた。ぐっ、さきほど戦場にいたとはいえ、慣れないものは慣れない。今にも吐きそうな気分を無理やり我慢する。


「くっくっ。小娘、血の臭いが嫌いか? ここは先ほどゲームが行われた場所であり、その犠牲者達の血の臭いだ。無論敗者は我々ではない」

「……」

「どうした? 言葉もないか? 今からお前達の血もブレンドされるのだぞ。ふはっはっはっは!」


 ホルスが残虐な笑みを浮かべる。


 怖い。やっぱり魔族はとても怖い。こんな怖い奴らとゲームをするなんて……。


 それも只のゲームじゃない生死のかかったゲームである。ただでさえ魔族のプレッシャーに晒されている中で冷静な判断ができるだろうか?


 無理だ。私にはとうていできっこない。


 だけど、私にはティレアさんがいる。どんな恐ろしい敵でもびくともしない。太陽みたいな存在だ。ホルスの恫喝にも毅然としている。今も震えている情けない私と比較するまでもない。


 ティレアさん、助けて!


 私は横にいるティレアさんに哀願の目を向ける。


「ひ、ち、血だ、血だよ。そこらじゅうにある……わ、わ、わ、わ、あぁ、調子に乗ってしまった……なんてこと、なんてこと、デスゲームなんて無理無理無理。誰か助けて。ミュー、マイラさん、レミリアさ――ん、はぁ、はぁ、いないよね……ジェシカちゃん、助けて」


 ティレアさんは、小声でぶつぶつと独り言を言っている。ホルス達には聞こえていないようだが、私に哀願の言葉をかけてきたのだ。私の哀願の目とティレアさんの哀願の目が互いに見つめあう。


 はは、ティレアさん、それほどの力を持っててなんで私にそんな顔を見せるのだろう? まるでか弱き町娘みたいじゃない。


「ティレアさん、なんで――」

「ジェシカちゃん、ごめん! そうだよね、怖いよね。まだ小さいのに……私のほうが大人なのに情けなかった。頼っちゃうなんて不安がらせて……大丈夫だから、もうそんな顔をさせない」


 ティレアさんはそう言ってホルスと対峙する。その顔には先ほどの怯えはない。


 ふふ、変な人。最初は素敵なお姉さんだと思っていたけど、一緒に行動していくうちにその人物像は崩れさった。頑固で子供っぽい。振り回されることもたびたびあった。だけど、今みたいな頼れる男性みたいな態度も見せてくる。


 はは、もうわけわかんない人だよ。


 でも、一つだけわかることがある。


 ティレアさんがやる気になったんだ。もう恐れることはない。


 私の中に渦巻いていた恐怖はいつの間にか消えていた。


「ホルスと言ったっけ? そんな脅しをしたって無駄よ。ゲームに勝つのは私達なんだから」

「そう、その意気だ。デスゲームだからと萎縮されたらゲームがつまらんからな」

「それで、この部屋でどんなゲームをするの?」

「この部屋には兜と剣が八組ある。兜と剣にはある属性を持たせてあり、剣の柄、兜の裏にその属性の文字が記載してある」

「ちょっと見せて?」

「良かろう。確認してみろ」


 ティレアさんが、ホルスから剣と兜を受け取り確認していく。確かに剣と兜にその属性の文字が記載されていた。


「ジェシカちゃん、奴が言うようにこの剣と兜には属性魔法が付与している?」

「はい、私もそこまで調査(トレース)魔法が得意なわけじゃないですが、確かに記載どおりの属性がついてますね」

「そう、他になんかあやしそうな痕跡とかわかる?」

「多分、大丈夫かと……すいません。私もこういう分析は得意なほうではないのでおそらくとしか……」

「いいわ、ありがと。一応、いかさまがないかチェックしたかっただけだから」


 ティレアさんは、納得したのか剣と兜をホルスへと返す。


「十分に確認したか?」

「えぇ。それで、この兜と剣を使ってどうするの?」

「例えば、この兜は火属性を持ち、火の耐性を持っている。この火属性の兜に向かって火属性の剣で攻撃しても属性効果によりほとんどダメージはない。それは我々、魔族の力で攻撃しても変わらない」


 ホルスはその言葉通り、火属性の剣を使って火の耐性を持つ兜に攻撃するが、キィーンと金属音がこだまするだけで、兜には傷一つついていなかった。


「これとは正反対に火属性の兜に向かって水属性の剣で攻撃すると、こうなる」


 ホルスが水属性の剣で火属性の兜に斬りつけると、兜どころかその下にあった鉄板まで貫通していた。


 こ、これは……。


 普通の魔法属性の相性どころではない。魔法付与が極端に相乗効果を起こしているようだ。


「こ、これって、普通の属性の強弱どころではないんじゃ――」

「その通り。学園の小娘よ。この兜と剣は、その属性を極端に強調して作った武器である。だから、脆弱な人間が使用しても今の現象は引き起こせる」

「その兜と剣を使ったゲームなんですか?」

「そうだ。兜と鎧は全属性そろえてある。互いにどの属性の武器を使うのか予想し、攻撃側が剣を使って、守備側の兜をかぶった者を叩くゲームだ」

「それじゃあ普通の戦闘と変わらない。魔族が有利に決まっている!」


 ティレアさんが、ホルスの説明を聞いて反論する。


「安心しろ、金髪の小娘。人間用と魔族用ではその属性比率を調整してある。ゲームバランスを考えないと知の勝負にならんからな」

「そう。一応、信用するけど……」

「攻撃と守備は一回毎に交代する。そして、くっくっくっ、決着は相手が兜を割られ死ぬまでだ」

「……それだと身体が丈夫な魔族のほうが有利だ」

「否定はせぬ。だが、ゲームをせずに殺してもいいんだぞ。少しでも勝機を与えた我々に感謝してほしいものだ。それに、頭を使うのは得意なんだろう? 読みあいを制すれば、同属性(ノーダメージ)にも最大優劣属性(クリティカルヒット)も続けてだすことができる」

「他の属性の組み合わせは従来の魔法学と同じと考えてもいいんですね?」

「あぁ、その通りだ」


 ホルスはさらにその属性の相性、優劣を説明していく。言葉通り、その相性、優劣は魔法学のそれに準じている。


 なるほど、火耐性のある兜に対し、火属性の剣で叩いても同属性(ノーダメージ)だ。だが、木、土、風と属性が変化するに従い、そのダメージは倍倍に増えていく。そして、水属性の剣で叩くと属性の力が最大限に加わり、最大優劣属性(クリティカルヒット)できるというわけだ。


「最初の相手はホルス様配下突撃隊長のゲス様が相手をしてやる。さぁ、はじめはどいつからだ?」


 そう言って、いかにもずる賢そうな顔をした男ゲスが前に進み出てきた。傲慢な態度ではあるが、スキがなく、なかなかしたたかな性格をしているように見えた。こいつと勝負すれば、いくらか読み合いに負けてダメージをくらうと思う。


 人間側にハンデがあっても、私では無理だ。魔族の防御力を破るためにはどれだけ最大優劣属性(クリティカルヒット)を出せば良いのか……。


 ゲームの内容によっては私が出ようと思っていたが、ここはティレアさんにお願いしよう。


「ティレアさん、出てくれますか?」

「う、うん。いいけど……」


 ティレアさんが何やら弱気だ。いくらすごい力を持っているティレアさんでも魔族の前には不安になるのかな?


「すいません。私の力ではとても魔族には(かな)いません。ティレアさんの力で――」

「いや、ジェシカちゃんが出る必要はないよ。最初の打ち合わせどおり、奴らが不正をしないか見張っててちょうだい」

「わかりました。それでは何を心配されているんですか?」

「ただ、私が言いたいのは……」

「はい、なんですか?」

「ルールが覚えきれないんだけど、えぇと木属性が何に強いんだっけ?」

「あ、あのすいません。だれか紙とペンを貸してくれませんか?」


 ま、まぁ、仕方がないよね。ティレアさんは魔法を習った試しがないんだもの。胸中は不安だが、ここはティレアさんの戦闘力に期待しよう。

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