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第二話 「ジェシカと吸血鬼(バンパイア)」

「はぁ、終わんないよぉ」

 

 昨日からレポートを仕上げているのだが、遅々として進まない。その主な原因は魔法基礎学Ⅱのレポートだ。このレポートは実験結果の資料を閲覧しないと考察が書けない。できる人だと公式と知識を組み合わせてうまい具合に書くのだろうけど、私はそこまで優秀じゃないから先人達が残してくれたデータが必要なのだ。

 

 これは図書室にこもらないとまずい。寮に帰って資料なしでやってたら絶対に間に合わないよ。でも、問題が一つある。図書室は終業時間までしか空いておらず、夜中は閉まっているのだ。


 よし、こんな時こそ人脈を頼りにしよう。裏技だが、図書委員に頼めばこっそりと鍵を渡してくれるのだ。この方法で何人かの知り合いが図書室を夜中貸切り、追試をパスしたことがある。本当は規則違反だけど背に腹は代えられない。そう判断するやすぐに教室から図書室に移動する。


 図書室はレポートや試験勉強をしている学生で溢れていた。私は知り合いの図書委員を探し声をかける。今日の鍵担当の図書委員は同じクラスの人だから、クラスのよしみでなんとかなると思いたい。そんな淡い期待を持って拝み倒してみた。


 数秒ほどの沈黙……。


 やっぱりだめかな?


 がっくりと肩を落とす。


 だが、彼女はやれやれといった表情でこっそり鍵を渡してくれた。やった。意外にすんなり成功したよ。ただ、近いうちにリンドの喫茶で彼女にお茶をおごるはめになってしまった。さすがに無報酬じゃない。そこまで甘くはないよね。


 終業時間後、先ほど借りた鍵を使い、こっそりと図書室に入る。


 あぁ、罪悪感が心を締め付ける。私は規則破りに耐性がないのだ。でも、事ここに至ってはしょうがない。うん、せめてレポートは仕上げないと。今日は徹夜だ。気合を入れ机に向かう。


 ……

 …………

 ………………


 集中すること、数刻が過ぎた。


 予定より早くレポートが終わりそうだ。やはり図書室で資料を見ながらやるのは効率がいい。かりかりと参考書を横目に考察を書きあげていく。


 それからさらに時間が過ぎ、肩や腰に軽く疲労を覚えた。


 うーんと背中を伸ばす。


 黙々と集中していたおかげでどうにかレポートは完成した。


 はは、やった。徹夜まではいかなかったよ。


 晴れ晴れとした気分で椅子から立ち上がり外を見る。もう外は真っ暗だ。雨は降っていないが、暗雲に包まれていて月も出ていない。


 うぅ、今帰るのはちょっと怖いなぁ。


 それに寮の扉も完全に閉まっている。しょうがない。今日はここで夜を明かそう。どちらにしろ徹夜するつもりだったのだ。眠れる分ラッキーと思う。

 私は椅子に座り、机につっぷす姿勢を取った。レポートで頭を使って疲れていたせいか、慣れない姿勢であっても次第に睡魔に襲われていく……。

 

 ゴトリ。

 

 ふいの物音に目を覚ました。私は眠たげな瞼をこすりながら立ち上がる。


 誰?


 こんな夜中に生徒が残っているはずがない。当直をしているゲイル先生の見回りだろうか?


 それにしては人の足音が聞こえない。周囲は静まり返っている。気のせいか。一応、耳をすましてみる。


 すると、何か獣のうめき声が聞こえた。遠吠えのような呻くような……その声はだんだん大きくなっていく。


 そして、ふと部屋の入口に目をやると担任のゲイル先生が立っていたのだ。前触れなく現れた先生に背筋が凍る。

 

「ゲイルせんせ……い?」

「ぐぅぐるうがああぁあ!」

「せ、先生どうしたんですか?」

 

 部屋に現れたゲイル先生の様子が尋常じゃなかった。目は赤く血走っており、口元からはだらだらとよだれが垂れている。

 

「がぁあああ!」

 

 咆哮(ほうこう)が部屋中に響き、ゲイル先生は雄叫びをあげながら突進して来た。

 

「嫌あぁ!」

 

 とっさに傍にあった椅子をゲイル先生にぶつける。ゲイル先生は投げつけられた椅子をものともせず、片手で強烈に弾きとばす。椅子は壁にぶつかってバラバラに砕け散った。

 

「……う、嘘」

 

 信じられなかった。強化魔法もかけずに人間が獣人並みの力を見せたのである。尋常ではない。ゲイル先生の身にいったい何が起こったのか……。

 

「がぁあああ!」

 

 ゲイル先生はなおも机や椅子を蹴散らしながら迫ってくる。


 こ、怖い……逃げないと。


 護身用に携えているメイスを手繰り寄せ、逃げようと試みるが、出口はゲイル先生の方向である。ゲイル先生を倒さないと脱出は難しそうだ。

 

「ご、ごめんなさい、先生」

 

 私はメイスを力任せに突進してきたゲイル先生の頭に振り下ろした。ジーンと雷のような痺れとともに、手首から肩にかけて重く硬い衝撃が駆け抜けた。


 い、痛い!


 思わず顔をしかめる。手がジンジンとして強烈な一撃だったと実感した。だが、ゲイル先生はものともしていない。


 なんで頭から血が出ているのに耐えられるの!?


 いくら私の力が弱くてもメイスの一撃だ。魔法使いのメイスは特殊な合金と魔法付与が備わっている。多少なりともダメージを与えてもいいはずなのに……。

 現にゲイル先生の頭から血が噴出している。なのに、ゲイル先生は平然と動きまわっているのだ。

 

「ぐがぁあああ!」

 

 ゲイル先生は驚愕している私に向かって力任せに腕を振り下ろす。

 

「きゃああ!」

 

 とっさに後ろに倒れ込む。紙一重で避けたが、直撃すれば確実に骨ごと砕かれただろう。


 はぁ、はぁ、はぁ。こ、怖い……。


 胸がバクバクする。


 なんで、なんで私がこんな目にあわないといけないの?

 私が規則を破ったから? 


 神様、ひどいよぉ。私はここで死ぬの? い、嫌だ。嫌だよぉ!

 

「な、なんなのよぉおお!」

 

 理解不能な出来事にパニックになって魔法弾を連射する。数発の魔法弾がゲイル先生に命中するが、服を焦がすだけでダメージがない。ゲイル先生はギロリと血走った目で凝視してきた。

 

「うぁあああ!」

 

 恐怖からさらに魔法弾を連射する。すると魔法弾は上段にあった本棚の金具に命中し、本棚がゲイル先生の頭上に落ちてきた。本と本棚だけでもかなりの重量、それに魔法弾で変形した棚の破片が勢いよくゲイル先生に降り注いだのだ。

 ゲイル先生の身体はその破片が突き刺さり、そのまま本に埋もれていった。刺さった破片のいたるところから出血している。普通に考えて重体だ。死んでいてもおかしくはない。

 

「ひぃい。ごめんなさいっ!」

 

 襲われたとはいえ、長年、尊敬していた先生を手にかけたのである。自己嫌悪で眩暈がしそうになった。


 せ、先生、どうしてこんなことをしたの?


 駆け寄りゲイル先生の顔を覗き込む。

 

 すると、突然ゲイル先生の目がかっと開き、むくりと起き上がった。

 

「ひぃ。な、なんで?」

 

 ゲイル先生は本で埋もれているところを無理やり起き上がった。その際に、破片がささった部位を無理に動かしたせいで片腕は取れ、片足はほとんどもげている状態だ。動くだけで激痛がはしるだろうに、また私に向かって襲い掛かってくる。どう見ても人間ではない。

 

「ば、化け物!」

 

 はぁ、はぁ、はぁ。


 迫りくるゲイル先生を避けながら図書室を出ると、学園二階の廊下に移動した。ゲイル先生が片足を負傷しているおかげで徐々に引き離すことができたのである。


 は、早く誰かに知らせないと!


 出口である正門に向かってひた走る。

 

 ん? 誰かいる!


 廊下の先に人影が見えた。走る速度を落とし、目を凝らす。

 

「アルキューネ先生?」

「おや? ニコルじゃないか。そんなに慌ててどうしたんだい?」

「アルキューネ先生、実はゲイル先生が――」

 

 ま、待って。どうしてこんな夜中にアルキューネ先生がいるの? アルキューネ先生が当直という話は聞いていない。それに薄ら笑いを浮かべて不気味である。

 極めつけはいつも感じていたアルキューネ先生の瞳だ。瞳の奥に隠れている凶暴な感情がはっきりとわかった。ぞっとする目つきである。とっさに踵を返す。

 

「くっくっく、かんのするどい子だとは思っていたが、正解だよ」

 

 アルキューネ先生は高らかに笑い全身を変化させていく。肌は青白く、口から牙をだし、瞳からは白目が消えた。

 

「ひ、ひぃ。に、人間じゃない?」

「ご名答。ニコル、私は魔族だ。数千年前から続いている由緒ある血統でね。人間ごときクズが支配するこの世を呪い、国の滅亡を常々願ってきたものさ」

 

 魔族? う、嘘でしょ?


 滅亡したといわれる魔族が本当に……?


 だが、その圧倒的なオーラと存在感にそれが本物だと実感する。


 に、逃げないと!

 

 慌てて来た道を戻る。後ろからひたひたと猛烈な気配が近づいてくる。

 

「逃げろ。逃げろ。くっくっ、恐怖と絶望に歪む少女の顔は実に美しい!」

 

 心臓が飛び出しそうなくらい苦しい。でも、後ろから恐ろしい者が近づいてくるので足を止められない。


 はぁ、はぁ。もう、だ、だめ……。


 息が上がり、咄嗟に近くの教室に避難する。呼吸を整えながら、辺りを見渡すと……。


 誰かいる!? 教室の中に茶髪の女性が立っていた。


 ま、魔族? 


 慌てて教室から出ようとするが、

 

「ジェシカ」

「もしかして、エディム?」

 

 気が動転していたせいで一瞬わからなかった。教室にいたのは親友のエディムだった。制服姿である。


 寮に帰らなかったのかな?


 こんな夜中に何をやっているのか、色々疑問が湧いてくる。だが、悠長にしていられない。魔族が襲ってきているのだ。

 

「エディム、話をしている時間はないわ。今、危険が迫っているの!」

「ジェシカ、あのね」

「話は後だよ。早く逃げないと!」

 

 そこまで言ったところで、エディムの様子がおかしいことに気づいた。ぼんやりとこちらを見ているが、その視点は定まらず、うつろな表情なのだ。

 

「逃げる? どうして? こんなに素晴らしいものになれるのに!」

「エディム?」

「あはは、なんで今まで気づかなかったのかな。ジェシカ、あなたって可愛い顔しているわね。それに綺麗な髪、それに白く輝くうなじ……」

 

 そう言ってエディムは私の髪をかきあげ、うなじにキスをしてくる。

 

「ま、まさか魔族に何かされたの?」

「そうよ。アルキューネ様のしもべになったの。あぁ、吸血鬼って最高! 人間なんておろかな種族から脱却できたのよ」

「エディム何言っているの! 正気になってよぉ!」

「ふふ、ジェシカも仲間に入れてあげるね。あぁ、ジェシカの可愛い顔、首、血、すすりたい。吸わせてよぉ――っ!」

「嫌ぁああ!」

 

 絶叫して教室から飛び出す。教室の外にはアルキューネが待ち構えていた。アルキューネの顔はニヤつき猫がネズミを甚振(いたぶ)るかのような加虐心に満ちている。人間を遊びの道具とでも思っているのだろう。


 アルキューネ、許さない。エディムの様子は普通じゃなかった。いったい、アルキューネに何をされたのか……。

 

「……エディムに何したの?」

「くっく、そういえばエディムはお前の友達だったな」

「そうよ。昔からの大切な友達。いったいエディムに何を……」

「ただ血を吸っただけさ。我ら吸血鬼に血を吸われると魔族のしもべになるのだ」

「そ、そんな……それじゃあ、ゲイル先生がおかしくなっていたのも」

「ああ、私がやった。美しい女は生きた人形として生かしてやる。ただし、男はいらぬ。だから脳を壊し、ただの獣としてやったわ」

「ひ、ひどい」

「くっく、そういえばエディムはお前を心配してたぞ。夜遅くまで頑張りすぎている、体調をくずしていないかと私に相談してきたからな」

「そんな」

「だから言ってやったのさ。心配なら友達の課題が終わるまで待ってなさいと」

「……あなたに助言されてエディムは寮に帰らなかった」

「真に受けて一人で学園にいたから恰好の獲物だったぞ! くっはははは!」

「外道!」

 

 メイスを使いすばやく魔法陣を敷く。私の最強呪文である最小火炎呪文(キロファイヤ)。人に向けて放つのは初めてだ。思わず手が震える。


 ううん、あれは人じゃない魔族だ。それも私の大事な友達に手をかけた外道だ!

 

最小火炎呪文(キロファイヤ)!」

 

 魔法陣から構築された火炎がアルキューネを直撃した。火炎がぶつかりアルキューネの衣服が燃える。


 直撃した! やったの?


 だが、希望も虚しく奴は平然と近づいてきた。アルキューネはけろりとした表情である。魔族に対して絶対的に威力が足りないようだ。


 くっ、威力が足りないなら数で補う!

 

「うぁああ!」

 

 雄叫びをあげながら次々と魔法弾を放つ。アルキューネは避けようともしないので全て命中したが、毛ほどにもダメージを与えていない。

 

「くっくっくっ。こそばい。こそばい。こそばすぎるぞ! 人間とはなんと情けないものだ。それで終わりか?」

 

 遊んでいる。いつでも殺せるのに奴は私を弄んでいるのだ。間近に感じる圧倒的な不安と恐怖。怖い、でも悔しい。


 はぁ、はぁ、どうしよう?


 私ではアルキューネを倒すのは無理だ。なんとか外に出て助けを呼ばないといけない。私は外に向かって逃げ出す。だが、睡眠不足に魔法の連続使用がたたったのか、一階の西門出口付近で倒れ込んでしまった。

 

「どうした? 鬼ごっこはおしまいか? それではそろそろおしまいにしよう」

 

 アルキューネの手が私に伸びてくる。


 怖い。がたがたと足が震え、歯がカチカチと鳴る。

 

「安心しろ。美しい女は生きた人形として生かしておく。光栄に思うのだ。これから魔族の繁栄が始まる。人形とはいえその末席に座れるのだぞ」

「だ、誰が魔族に従うか! お前の下僕になるくらいなら死んだほうがましよ!」

 

 恐怖を必死に押し殺し、アルキューネに罵声を浴びせる。

 

「ふん、やはり人間とは愚かな生き物よ。選択権を与えてやる。私に媚びて人形となるか、ここで八つ裂きにされながら死んでいくか、二つに一つだ」

 

 アルキューネは冷徹な言葉で返答を迫る。奴は親友の敵。媚びて人形になんか絶対になりたくない。でも、奴のことだ、返答を拒んだら魔族のプライドを傷つけたと、私は死より恐ろしい目にあうかもしれない。


 こ、怖い。恐ろしい。だ、誰か助けてよぉ。


 我慢しきれず、目からぽろぽろと涙が溢れてしまう。魔族との圧倒的な力量差、疲労困憊(こんぱい)な体では戦うことも逃げることすらできない。うぅ、もうおしまいだ。私が絶望に打ちひしがれていると、

 

「あの~夜分すいません。明かりがついてたから、誰か起きていると思いまして」

 

 誰? 若い女の人の声がした。

 

「くっくっ。誰だか知らんが、バカな女がこんな時にここを訪ねてきたぞ!」

「だめ、来ちゃ――」

 

 その人に逃げるように声を出そうとするが、アルキューネに口を塞がれ、そのまま首を絞められる。

 

「し――っ、今すぐ殺しても良いんだぞ!」

「ん、うっ、むぐ」

「おとなしくしていろ!」

 

 アルキューネに吹っ飛ばされ、背中を壁にぶつけて倒れこんだ。

 

「けふっ、こふっ、かはっ!」

 

 私を壁にぶつけると、アルキューネは魔族から人間の姿に変身し、西門のドアに近づいていった。

 

「どなたですか?」

「怪しいものではありません。ティレアといいます。来週、ここに転校するティムの姉です」

 

 な、なんて間が悪いの! よりにもよってこんな日にティムちゃんのお姉さんがここを訪れるなんて!

 

「あぁ、ティレアさんですか。この前お会いしましたね。ここで教師をしているアルキューネです」

「その節はどうも」

「それで夜分にどういったご用件ですか?」

「お恥ずかしい話ですが、ちょっと道に迷ってしまって……」

「それはお困りでしょう。さぁ、入ってください」

 

 アルキューネはにやりと笑みを浮かべてドアを開ける。

 

「き、きちゃ……だ……め」

 

 だ、だめ。吹き飛ばされた衝撃で呼吸ができず、声が出ない。ティレアさんはアルキューネに言われるまま中に入ってきた。

 

「失礼します」

「道に迷われたそうで」

「そうなんです。うちのへんた――じゃなくて従業員がバカやらかして。こっちに来ている知り合いと連絡がつかないみたいなんですよ」

「そうですか。お知り合いというのは?」

「オルティッシオという名です。知ってますか?」

「いいえ、残念ながら知りません。さすがに王都は広いですから」

「そうですよね。うちの従業員全員で探させているんですが、進展はさっぱりです。う~ん、これからどうしよう?」

「それでティムさんはこちらに来ていないのですか?」

「妹は正門で待たせてます。妹は中二――じゃなくてちょっと言葉づかいが悪いところがあるので、まず私が話をしにきたんです」

「くっく。ティムさんも来ているんですね。それは好都合です」

「ん? あぁ、そうですね。挨拶とかまだしてなかったですよね」

「えぇ、この前はお姉さんしか会えなかったので、ティムさんに会えるのを楽しみにしていたんですよ」

「そう言ってもらってティムも喜ぶと思います。それにしても、さすが王都の魔法学園ですね。こんな夜中なのに授業をやってるとは思いもしませんでした。うんうん、さすがさすが」

 

 ティレアさんはしきりに感心していた。話を聞いているとティムちゃんも王都に来ているみたいだ。早く二人に危険を伝えないといけない。


 私は無理やり身体を起こす。

 

「あれぇ!? そこにいるのは生徒さんですか?」

「そうです。くっくっ、あなたの妹のクラスメイトになるニコル・ジェシカです」

「えぇ、そうなんですか! ジェシカちゃん、ティムをよろしくね」

 

 ティレアさんはにこやかに話しかけてくる。


 き、来ちゃ……だ、だめ。私は涙交じりに訴えた。

 

「あれ、泣いているの? もしかして……」

 

 危険が伝わったの? それなら早く逃げて!

 

「生徒を叱っている最中でしたか。こんな時におじゃましてすいません」

「ふふふ、そうなんです。くっくっく、まさにお仕置きをしているところでした」

 

 アルキューネはさも愉快気にその口をゆがませている。

 

「ジェシカちゃん、先生を恨んじゃだめだよ。先生はあなたを思って叱ってくれているのだから」

 

 な、なんて勘違い……。

 金髪碧眼のすごい美人ですてきなお姉さんと思ってたのに……。


 なんか残念な人だ。


 それより早く危険を伝えないと、大分呼吸も落ち着いてきた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……げて」

「うん、ジェシカちゃん、なーに?」

「逃げてえええ!」

「へっ?」

「あはは、バカな女だ!」

 

 アルキューネは人間の変身を解き魔族の姿に戻ると、そのままティレアさんに襲い掛かっていった。

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