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第四十三話 「ティレアの魔法講座だよ(後編)」

「ティム、日本の魔法はあなたが使うには危険すぎる。まずはこの世界の魔法体系を極めるのが優先よ」

「ですが、我はこの世界の魔法体系を極めております。これ以上は……」

「魔法体系を極めているねぇ~」

「本当です。我は全ての属性を使えます。特に闇魔法は他に追従を許しませぬ」


 闇魔法を極めるときたか……。


 ティムの中二言語に頭が痛くなる。だが、これで会話を誘導しやすくなった。魔法を極めていると豪語するなら、きっちりと魔法理論を説明してもらおう。


「ティム、あなたがそこまで言うなら、おさらいの意味でこの世界の魔法体系について説明してみなさい」

「わかりました。ご存じの通り、魔法には火、水、木、土、風、雷、光、闇の八つの属性があります。属性最強たるは我ら魔族が最も得意とする闇魔法。さらに、我はこれを突き詰め闇を大闇、中闇、小闇と分類しております。大闇とは――」


 な、何?


 さすが中二病ね。言っている意味がさっぱりわからん。


「ティム、ストップ。そうじゃない。もっと最初、魔法の出し方から説明してよ」

「はぁ……ですがそのような当然の内容を今更説明するのですか?」


 なんと生意気な! ティムは最近魔法を覚えたばかりじゃないか!

 自分はまだ初期魔法しかできないんだからね。魔族のふりをしすぎて忘れたか。


「ティム、その簡単なところを間違えていたらどうするの? 何事も基礎が間違っていたらうまくいかないんだから」

「なるほど……考えもしませんでした。さすがはお姉様です!」

「うんうん、わかってくれたなら話してみて」

「はい。ご存じの通り、魔法を発動させる根幹をなすもの、それは魔力制御です。およそ魔法を扱える者はこの制御が自然に扱えます。制御は人それぞれやり方がありますが、基本はイメージです。内包する魔力を淀みなく循環させるイメージを浮かべることで、術式をより速くスマートに発動させられます。魔族はこれを自然に行えますが、未熟な人間は『流』という修行で無理やり制御しているようです」


 う~ん、まだよくわからんぞ。イメージが大事ってこと?


 ――というか座学では理解するのは難しいな。


 そうだ! 百聞は一見に如かず。ティムが誰かに教えているところを実際に見ればわかるかもしれない。


「ティム、理論はわかったわ。次は実際に魔法を使ってみて」

「それでは、手近にあるあの山林を焼け野原にでもしてみせましょうか?」

「いや、そういうのはいいから。そうね~ニールにでも手ほどきしてみせなさい。私がその指導を見ているから」

「ニールゼンですか。あやつは近接戦闘を得意とし魔法は不得手です」

「そうでしょう。だから初期魔法をニールに教えてやってよ」

「ふふ、お姉様。いくらニールゼンが魔法が不得意とはいえ初期魔法程度であれば、造作もなく使えます」


 何!? 変態(ニールゼン)のくせに生意気な!


 これはますます魔法を使えないって言えないぞ。姉の威厳に関わってくるもの。


「そ、そう。ニールも魔法を使えるんだ……」

「はい。ニールゼンは肉体強化の魔法を主に使いまする」

「ふ~ん、それじゃあニール、ちょっと魔法使ってみてよ」

「はっ。それでは強化した拳で手近にある大岩を砕いてご覧に入れましょうか?」

「いや、そういうのはいいから。そのできるという初期魔法を見せて」

「御意。拙くて恐縮ですが……むん!」


 変態(ニールゼン)の手から炎が出てきた。小さい炎ではあるが、ちゃんと出ている。手品でもトリックでもない正真正銘の魔法である。


 くそ! 本当にできていやがる。変態(ニールゼン)のくせにやるではないか。


「へ、へぇ~やるじゃない。ちなみにどうやって出したの?」

「どうと仰られましても……ティレア様、初期魔法など我ら魔族にとって呼吸をするようなものです」

「じゃあ、その呼吸の仕方はどうやるの?」

「さすがはお姉様。簡単な説明が意外に難しいこともあります」

「なるほど、ティレア様の深遠なご質問に感服しました」

「感服はいいから説明してみせて」

「はっ。まずは身体の中に流れる魔力の渦を実感します。そして頭から末端の足までスムーズに魔力を移動させ、その魔力を発動させる手に――」

「ニール、ストップ! はしょりすぎ。その渦をどうやって実感するのよ?」

「そ、それは自然にと言いますか……」

「自然にどうするの?」

「も、申し訳ございません。私にはうまく説明ができません」


 変態(ニールゼン)が首をひねる。これ以上説明は無理なようだ。


 う~ん、理論を聞いても人がやっているところを見てもさっぱりわからん。だめだ、これ以上は考えても無駄か。


 よし習うより慣れろ。実際に自分でやってみるか。


 なんたって変態(ニールゼン)でさえ魔法が使えるのだ。俺にできないはずはない。変態(ニールゼン)でもできる。それが俺の自信につながった。


「あなた達、もういいわ。だいたいはわかった。それじゃあ、次は私の魔法を見せてあげる」

「「はっ」」


 ティムと変態(ニールゼン)が期待に満ちた目で見てくる。これは失敗できないぞ。俺は魔力を高めるみたいな感じで集中する。


「ぬぬ」


 気合を入れて手をかざす。


 はて? 気のせいか大地が揺れているような……。


「も、申し訳ございません。お、お姉様、魔力を抑えて頂けませんか?」

「なんで?」

「はぁ、はぁ、わ、我ですらお姉様の威圧で押しつぶされそうです。ニールゼンに至っては……気絶寸前です」


 よく見ると変態(ニールゼン)が苦悶の表情を浮かべている。脂汗も出ているし、顔色も悪い。


 もしかして俺の魔法発動ってそんなに危なかしく見えるのか?


 変態(ニールゼン)は「うぁあ! あの下手くそ、絶対に魔法失敗するぞ。バンッて音がするに決まっている。耳ふさいどこ」って感じなのだろうか……。


 確かに魔力の暴走とか制御の失敗とか初心者がやりそうだ。俺程度の魔力であればそんなに被害はでないと思うけど、ティムの顔に火傷でもできたら大変である。


 よ、よし。発動を抑えるイメージだ。


 イメージ、イメージ……。


 そうだ! ドラコエのメランみたいなイメージにしよう。あれくらいの小さな火種をイメージすれば……。


「うぉおお――メラン!」


 おぉ、出たぞ! 俺にも魔法が使えた!


 つ、ついについに俺も本当の意味でファンタジーの世界に足を踏み入れたのだ。でも、これって火というより黒い炎で魔炎って感じだね。


 ん!? ってことはこれは闇魔法か!


 はは、捨てたとはいえ、俺の心に中二病のなごりが残っていたらしい。まぁ、いいや。ティム達にお披露目しよう。


「ティム、ニール、見なさい。これが私のメランよ」

「お、お姉様……」

「な、何? まぁ、小さい炎だけど……全力を出してないというか」

「ティレア様の『メラン』なんという凝縮された魔弾であるか……」

「う、うむ。この魔弾一発だけで我の奥義である超魔星魔弾(スターフライヤー)千発分に相当する」


 スターフライヤー?


 あ~ティムの初期魔法の連弾だったね。ふ~ん、あの初期魔法より上の魔法が作れたのか。


 ふふ、良かった。姉の面目は保たれたかな。


「いやいや、それはいくらなんでも言い過ぎ。ティムの魔法もすごかったよ」

「ふふ、実力の違いは否が応でもわかります。お姉様にはいつも驚かされます」


 ティム達の信望の籠った眼差し。ぶっつけ本番だが成功して本当に良かった。


「それでティレア様、『メラン』を発動されたままで、どうされるのですか?」

「どうって……その辺にポイッてしようかと思うんだけど……」

「お、お姉様。この辺り一面が無くなってしまいますが宜しいのですか?」


 また、大げさな。


 あっ!? でも、今、俺がやろうとしている行為は、煙草のポイ捨てみたいでマナーが悪いよね。妹の前でそんな反社会的行動はできない。


 消すか……。


 あれ? どうやって消したらいいの?


 まずい。消し方がわからんぞ。


 え~と、今度は消えるイメージを思い浮かべればいいのかな?


 消える、消える……あ~もうめんどくさい。このくらいの炎なら手で覆えば消せるだろう。


 俺は魔法を発動していないもう片方の手をかぶせて無理やり炎を消す。


「あ、お姉様、お待ちを――」

「あちゃちゃちゃちゃ、あっつい!」


 な、舐めてた。かなり熱かったぞ。体感的にライターの炎ぐらいはあったね。火傷したかもしれない。


「お、お姉様、大丈夫ですか?」

「平気、平気。ティムは真似しないようにね」

「お姉様の真似なんてとてもできません。上級魔族数千発分の威力の魔弾を生み出し、それを片手で消しつぶすなど」


 はは、相変わらずな中二的セリフである。


 ふぅ、それにしてもティムの中二病は一向に治らない。家庭教師を呼んでもあの態度だし、これでは社会に出ることが非常に厳しいといっても過言ではない。


 どうしようか? どうすればティムが更生するのだろう?


 うん、やはり集団生活を学ばせるのが一番かな。


 前世でいう学校、今でいう魔法学園に通わせるのはどうだ?


 学園なら同じ年頃の友達がたくさんいる。勉強だけでない人とのかかわり方など大切なものを教えてくれると思う。前世、引きこもりの俺が言うのもなんだが、ティムには同じ過ちを繰り返させたくはない。


 よし、なんとかティムに学園に行く気を起こさせよう。


「ティム、私の技の数々を気に入っているみたいだけど、私はそれを学校で思いついたのよ。学校で技を磨いたの」

「そうなのですか」

「そう。だからね私に魔法を教わるより、ティムには王都の魔法学園に入学して学んで欲しいのよ」

「わ、我が人間如きの学園にですか……」

「ティム、あなたがそんな調子だから勧めるの! 学園生活は辛い時もあるけど、必ずティムの役に立つから」

「そ、そうですね。くだらぬ輩と付き合うのはうんざりですが、何かしらのヒントがあるやもしれません。それになんと言ってもお姉様のお言葉です。我はお姉様に従います」


 どうやらティムは学園に行く気になったようだ。これでティムにも常識が備わることだろう。


「ティム、やる気が出たね。いい傾向よ。お姉ちゃん、あなたの学園ライフを全力で後押しするから」

「ありがとうございます。お姉様のご期待に添えるように頑張ります!」


 よし、善は急げ。とりあえず、ヘタレ(ビセフ)に頼んで魔法学園の入学の許可をもらおう。奴の肩書はこういうところで活用しないとね。

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