第三十五話 「借金のかたにってどこの時代劇なの?」
ふ~、なんでこうお肉の値段が高いかねぇ~。
一人愚痴をこぼしながら家路を急ぐ。市場でオークの肉を買ったのだが、先月と比べて二割も割高になっていた。魔獣は冒険者が狩った後、市場に流れるのでどうしても中間業者のマージンが含まれてくる。ただその分を差し引いたとしても、このところの値上げはひどい。
冒険者め。さぼっているんじゃないか?
冒険者達が魔獣を狩らず品薄になれば値段が上がるのは自明の理だ。
あ~自分で狩りできるだけの力があればこんなに悩まなくてもいいのに。そんなことを考えながら歩いているとお店に到着した。
ん!? 何やらお店が騒がしいぞ。何事だ?
店に戻ると、見知らぬ男達と父さんが激しく口論をしていた。父さんは怒りで顔を真っ赤にしている。母さんは泣いていた。母さんのセミロングの髪は乱れ、酷い有様だ。ただごとではない。
はっ!? ティムはどこ?
とっさに店内を見渡す。ティムは変態と一緒に、両親達から少し離れたところでじっとその様子を見ていた。
ほっ。どうやら無事のようね。
それにしてもこいつら誰だ!
見るからに悪人面の男達が父さんと言い争っているのだ。
「いいか? よくわかっていないようだからもう一度教えてやるぞ。お前は今、一千万ゴールドの借金があるんだ」
えっ!? ダディ、まじですか! 家って借金があったの? 初耳だよ。
「で、でたらめ言ってんじゃねぇえ! 俺はそんなもん借りた覚えはないぞ!」
父さんがそいつの胸倉を掴む勢いで反論する。そうだよね。実直な父さんが借金をするなんて考えられない。
「だから、言っているじゃねぇか。この町のビセフという野郎が、お前の店を担保にうちから金を借りたって」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「ほらこの証文を見てみろ。ちゃんと記載してあるだろう。それとも何か? 契約を反故にしようってのか? それは王家に対する反乱でもあるんだぞ!」
「なっ!? て、てめぇ。くそ。ビセフさんがそんな……で、でも、一千万ゴールドも借りているわけがない」
「うちの利息はトイチ。十日で一割だ。借りた分以外は利息に決まってんだろ!」
「そ、そんな……」
「とりあえずこの店は俺が頂く。へっ。掃除も行き届いていやがる。なかなか住みやすい家じゃねえか? 気に入ったぜ」
そう鼻息荒く捲し立てていた男が俺の存在に気付き下卑た笑みを浮かべてくる。
うぇ~いやらしい目つきで見るんじゃねぇ! 鳥肌が立つだろうが!
俺は不愉快気にその男を睨み返す。その男は五十代前半だろうか頭は禿げ上がっており、中年独特の嫌な臭いを漂わせている。ただ、その体つきは筋骨隆々で、元々は冒険者の類だったのかもしれない。
「ほぉ~これは美人な娘がまだいるじゃねぇか? そこにいる小娘はちょいと小粒だが、こいつは熟れ時だ。金の代わりにこいつで手を打ってもいいんだぜ?」
男の口元がだらしなく緩んでいる。ニヤニヤといやらしい笑みを見せ俺に近づいてくるのだ。
こ、これはヤバイ予感がする……。
「貴様ぁああ、娘に手を出すんじゃない!」
「おっと、暴力で方をつけようってか? いいぜ。俺も嫌いじゃないからよ」
父さんは激昂してそいつを殴ろうとするが、逆にその手をねじりあげられてしまった。ミシミシと父さんの腕が悲鳴を上げる。
「ぐわぁあ!」
「父さん!」
「へっへ。この腕、へし折ってやるぜ」
「止めろ! お、お前達、さっき町の警備を呼んだぞ」
俺は咄嗟にはったりをかます。奴ら暴力に慣れているみたいだが、警備隊に手を出すほど愚かじゃないはずだ。
後は、俺のはったりが通じるのを祈る。
「警備ねぇ~。まぁ、嘘だと思うが、お嬢ちゃんの言葉を信じて今日のところは引き上げてやろう」
男はそう言って掴んでいた父さんの手を放し、乱暴に突き放す。父さんは突き飛ばされテーブルに激突した。
「ぐはっ。て、てめぇえ!」
「お前、一週間が期限だぞ! 期限までに金ができなかったら、この店と娘を頂いていく」
男達は捨て台詞を吐くと、ニヤニヤしながら店から出ていった。
「父さん、母さん」
項垂れている両親のもとへ駆け寄る。父さんは男達に暴力を受けてあちこち痣ができていた。母さんは涙で眼を腫らしており、暴力こそ受けていないが、その精神的ショックは計りしれないことだろう。
「ティレア、ごめんなさい。そういうことだからこの店売りに出すかもしれない」
「えぇえ!? どうしてさ? あんなの言い掛かりだよ。そんなのおかしいよ」
「あの人達、王都の金貸しみたいなんだけど……手口が恐ろしく巧妙なの。私も証文を見たけど完全にうち名義の借金になっているのよ」
「そんな……それでビセフさんはこの件はなんて言っているの?」
「それが憔悴して家に引き籠っているみたいで……」
はっ? あのヘタレ、なんてことやっちゃってくれてるの? 完全にお前のとばっちりを受けているよね? 本当、憔悴して引き籠るぐらいなら金なんて借りるんじゃねぇえよ! だいたい大金遣ってまで何が欲しかったんだよ――ってあれ? もしかして俺のせい?
そういえばこの前、ゴスロリ服を持ってきてくれた時、やばいとこから金を借りるはめになったって言ってたっけ……。
えっ!? で、でも、でも、俺は強制していないぞ。勝手に自滅したのはヘタレだ。やばいところから金を借りるヘタレが悪いのさ。
とにかく店の借金はどうしよう?
まったくこんな時代劇みたいなことが我が身に降りかかろうとは……。
このまま打開策を見つけなければ絶対にまた奴らが来る。今度は借金の期限も過ぎているから実力行使も辞さないだろう。
そうなれば俺は借金のかたに……。
ひぃい――っ! 考えるだけで身震いがしてくる。
「ね、ねぇ。このままだと私、借金のかたに売られちゃうの?」
「そんなことさせるか! 父さんに任せておけ!」
父さん、気持ちは嬉しいよ。でも無理だ。父さんは根っからの料理バカだから、海千山千の金貸しに敵うわけがない。
よし、ここは俺の出番だ。ダディ、任せてよ。町の小娘だと思って甘く見るな!
これでもゲーム『逆ティン裁判』をやり込み、漫画『ミナミの皇帝』を読みまくった俺に死角は無い。契約書の隙を見つけて逆に営業妨害で訴えてやる!
バカめ。その決定異議アリだ! あっはははは!
「父さん、ここは私に任せて。私がなんとかしてみせるから」
「馬鹿野郎、何を言っているんだ!」
「ティレア、馬鹿な真似は絶対にしちゃだめ! 相手はただの金貸しじゃないの! 噂じゃ盗賊団と繋がりがあるそうよ」
「そ、そうなの?」
両親は神妙な顔つきでコクリと頷く。
奴らは窃盗から果ては殺人まで犯罪の噂が絶えないごろつき集団だそうだ。噂によるとあの親分格の男の名はジャコウと言って、B級の冒険者でありながら裏では相当の悪事に手を染めているらしい。実際顔つきを思い出すと、確かに山賊の親分みたいだった。
両親から予想外の情報を告げられ青ざめていると、父さん達は「町の皆に相談に行く」と言って出かけていった。
店に俺とティムと変態が残される。とにかくティムが無事なのは何よりだ。俺はティムに駆け寄り声をかける。
「ティム、大丈夫だった?」
「お姉様、ご安心ください。作戦は継続中です。しかし、我は今日ほど怒りを覚えたことはありませぬ。特に、奴らがお姉様を侮辱した時はもう少しで店ごと吹き飛ばすところでした」
「そ、そう。よく我慢したわね。えらいぞ」
中二病のせいで強気な態度だが、内心は怖かったに違いない。俺は慰めんとばかりにティムの頭をなでなでしてやる。傍らにいる変態に声をかけるのも忘れない。
「ニールもよく耐えてくれたわね」
本当、こいつは誰かれ構わず向かっていく狂犬だったから心配だったよ。
「はっ。私もカミーラ様と同じ思いで堪えておりました。それにティレア様が大切にされているお店をあのようなクズの血で汚すわけにはいきませんからな」
「お、おう……」
もうね……つっこみようがないよ。
こういう時、中二病患者って恐ろしい。どんな悪党と対峙しようが、どこまでも強気で攻められるのだもの。
「お姉様、奴らは店外に出ていきました。チャンスです。闇夜に紛れて始末すれば情報は漏れませぬ」
「ティレア様、私にお任せください。奴らの無礼千万な態度、許せるものではありませぬ。奴らには人間が感じられる痛みという痛みを味わわせ、いっそ殺してくれと言わせるぐらいの責苦を与えてご覧にいれます!」
変態はそんな過激な発言をするや外へ出ていこうとする。
やばい。この言動、ブラフではない。中二病特有の暴走を感じた。
「ち、ちょっと待ちなさい! 行かなくていい。あなたの気持ちだけで十分よ」
「はっ」
変態は何やら煮え切らない様子だ。いくら変態だからって無駄に命を散らせたくはない。こいつは止めとかないと、本当にヤクザまがいのところに向かっていくからね。本当に中二病って恐ろしいものだ。
さて変態のフォローはここまでにして本題に移る。
これからどうしようか?
契約の不備をつくにしても誰か一緒に来て欲しい。
ヘタレは引き籠り中だからだめだ。まぁ無理やり引っ張ってきたとしてもドキュン、不良程度で気絶するヘタレである。本場もんのワルのところに連れていったところで、気絶するのがオチだ。
では、変態を連れていくか?
いや、それも却下だ。変態も虚弱すぎる。きっとワンパンどころか奴らの殺気を受けただけでショック死するだろう。
じゃあ、ティムを……。
いやいやいや、考えただけでも恐ろしい。あんな闇金ウソジマ君だらけのところに、ティムなんて連れていけるはずがない。絶対にだめだ!
はぁ~色々考えてみたが、つまるところ連れていく人に迷惑をかけちゃうね。しょうがない。一人で行くしかないか……。
「とりあえずこの件は私に任せなさい。奴らには私一人で対処するから。ティムとニールはお店で待機しておいて」
「ティレア様が行かれるのですか? あの程度のゴミ、ティレア様の手を煩わせるまでもないと思うのですが……」
「ニールゼン、お姉様も何かお考えがあるのだろう」
「そうよ。考えた末のこと。しっかり留守番するのも仕事のうちだからね」
「はっ。ご心配にはおよびませぬ」
「お姉様、留守は我らにお任せください」
ティム達に留守を託し、俺はウソジマ君達がいるとされる根城に単身乗り込むことにした。
う~怖い。
がくがく震える足を奮い立たせ奴らの根城へと急ぐ。
だが、根城へ急ぐ中、ふと思う。
待てよ?
よくよく考えればこの世界、法律なんてないに等しい。絶対的な力をもった者が正義なのだ。書類の不備をついたとしても奴らが逆切れしたらそれでお終いだ。
それなら力を見せる?
それもダメだ。この前ドキュン共を倒したといっても、しょせんドキュン共は素人、ただの不良であった。だから作戦によっては奴らをお仕置きできたのだ。だが、今回は本場もんのワルである。俺がいくら小手先の作戦を練ろうが、奴らに一蹴されるだろう。
はは、これはもうどんなに考えても詰みだろ。
父さん達も町の皆と相談すると言っていたが、これはどうしようもない。駆けていた足を止め、その場にうずくまる。
しょうがない。もう店をたたんで夜逃げするしかないか。あ~慣れ親しんだこの町ともお別れだ。俺はがくりと膝をついたままぽろぽろと涙を流す。
「お前、こんな所で何をしている?」
「へっ?」
「お~、お前はティレアと言ったな。この前は情報助かったぞ。王都に不審人物がいたのは間違いなかった」
聞いたことがある声に振り返ってみると、そこには見目麗しいエルフがいた。黒刀を装備し颯爽と佇んでいる。
「あ、あ、あ……」
「久しぶりだな。忘れたか? 私だ、レミリアだ」
「レ、レミえもーん。道具出してぇ――っ!」
なりふり構わずレミリアさんに抱きつく。あぁ、こんな絶望の中でレミリアさんに出会えるなんて……まさに救世主である。
「お、おい。だから抱きつくなと言っただろ! 放さぬか! むっ!? お前、あいかわらず力があるな」
「ふぇえええん、助けてください。困っているんです!」
「えぇい、わかった。わかった。話を聞いてやるから離れろ!」
俺はレミリアさんから離れると、これまでの事情を一心不乱に話す。
悪人によって幸せな暮らしをしていた一家に不幸が訪れようとしている。その相手は時代劇に出てくる悪代官そのものの悪っぷりだとレミリアさんに説明した。
「要するに悪い金貸しに目をつけられているから助けて欲しいと」
「はい」
「悪いが、私はそんなに暇じゃない。ここに来たのは魔王軍の調査のためだ。やはりこの辺りは怪しいのだ」
それこそそんな魔王軍なんて夢物語に付き合っている暇はないんだ。こうしている間にも一家離散の危機が迫っているんだから。
「お願いです。レミリアさんしか頼りになる人はいないんです」
「この町にも警備がいるだろ? そいつに頼め!」
「それがですね。そいつは本当にどうしようもない奴なんですよ。町の不良にやられるぐらいですから」
「はっ? そんな者が警備に?」
レミリアさんがあきれている。うん、俺も同じ気持ちだ。どうしてあんなヘタレが警備長になっているのか……。
「信じられないかもしれませんが、事実です」
「……確かここの警備長はCランクの元冒険者だと聞いていたんだが……」
「そうなんですけど、肩書きだけです。運で取ったんでしょう」
「いや、ランクは運だけで取れるほど甘くはない。Cランクであれば猶更だ」
「じゃあCランクっていうのは偽物なんでしょう。きっと偽造したんですよ」
「ありえぬ。ランクの偽造など最も愚かな行為だ。ギルドに目をつけられるだけでは済まされない。王都から逮捕状が出るほどの重犯罪だぞ!」
「そうなんですか。どっちにしろ、この町の警備長は家に引き籠っていて使えないんです。もうなんでもいいから助けてください」
俺は必死に頭を下げる。もうレミリアさんしかいない。俺の家族を守れる救世主はあなただけなんですよ。
「悪いがこの世界の危機が迫っている。大事の前の小事に関わっている暇はない」
レミリアさんはそう言って断ってくる。苦々しい顔をしているのは、俺の境遇に少しは同情してくれているのだろう。ここはもっと押すしかない。
「あぁ、見捨てるんですね。確かレミリアさん勇者の末裔と聞いていたのに……」
「むむむ!」
「何がむむむですか! 民を見捨ててそれで勇者を名乗れるんですかねぇ」
「し、しかしだな……」
「あぁ、かわいそうなティム、夜逃げして見知らぬ町できっと一家野垂れ死にするんだろうなぁ~」
うるうると目を潤ませ、レミリアさんに訴えかける。レミリアさん、民が困っているんです。勇者としての矜持はないんですか!
「ふぅ、仕方がない。そいつらのところに案内しろ。その代わり魔王軍の情報が入ったら逐一知らせてもらうぞ」
「わかりました。本当にありがとうございます!」
助かった。なんとかレミリアさんの協力を得られた。これで安心だね。俺はレミリアさんを連れて、ウソジマ君達が滞在しているとされる根城に向かう。
そして……根城に到着。
周囲には深い堀があり有刺鉄線が巻きつけられていた。鉄線の先には血の痕もついている。うぅ、見るからに危険な山賊のアジトのような所だ。もう異世界版組事務所だよ。今更ながらにレミリアさんと一緒で良かった。とてもじゃないが一人でこんなところに来られそうになかった。
この異様な根城を見てもレミリアさんは、少しも動揺していない。さすがに頼りになる。ふふ、レミリアさんがバックにいればもう何も怖くないね。あとは俺の弁舌、口八丁で借金を帳消しにしてやる。
「とりあえずその証文のせいで多額の借金を背負うことになったんです。でも、無理やりにでっちあげたんで、きっとどこかに矛盾があるはずです」
「そうか」
よし、なんとかその矛盾を見つけ出して糾弾してやる。レミリアさんがバックにいるんだ。逆切れして暴力に訴えられはしないだろう。
「あ、レミリアさん、ここみたいです。とりあえず、私が入って――」
「この悪党どもぉお――っ!」
ヤクザのかちこみですかぁあ――っ!
レミリアさんはドアを開けて入るなり、そこにいるウソジマ君達をぼっこぼっこにのしていく。
あぁ、あぁ、奴ら訳もわからずにどんどんボコられていくよ。反論の余地なく倒されていくウソジマ君達。俺の言葉を鵜呑みにして、俺が悪女だったらどうしていたんだろう。こいつらがただの善良な市民だったら……。
レミリアさん、それでも勇者の末裔――いや、ある意味正しいのか。勝手知ったる我が家のごとく他人の家の壺を割りアイテムをかっさらっていく。そして正義の名のもと、どんな弱小モンスターであろうと断罪の剣を振るう。
レミリアさん、あなた勇者そのものだよ。
ウソジマ君達も襲撃に気づき防戦するが、レミリアさんの敵ではない。さすがはS級の冒険者かつ勇者の末裔である。もう一方的なワンサイドゲームだ。
レミリアさんはうちの借金の証文を探しているらしく、ウソジマ君達をぼっこぼこにのしながら「これか? この紙か?」って尋ねてくる。
もうね、契約の不備をつこうとしていた俺が馬鹿みたいだ。やっていることはヤクザそのものだよ。
いかん、いかん、何を考えているんだ。やり方はどうであれレミリアさんは俺達家族を助けてくれているんだ。感謝しなければいけない。
そうこうしているうちに一枚の証文をレミリアさんが見せてくる。
「これか?」
「あ~レミリアさん、それです」
レミリアさんがとうとうお店の借金の証文を見つけてくれた。そしてレミリアさんはそれをびりびりと破いていく。
「あっ! てめぇ、ふざけた真似をしやがって!」
「大声を出すな!」
レミリアさんはウソジマ君達のリーダであるジャコウの腕をねじる。ぎりぎりと腕をねじられ苦痛の表情のジャコウ、ときおり苦悶の声を上げる。
ざまぁ、みやがれ! 父さんに暴力をふるった罰だ。こういう奴は少しでも人の痛みを感じて欲しい。
さらにレミリアさんは力を込めジャコウの腕を折るかのごとくねじり上げる。
「痛でぇ! あいででででっつ、テメッ! ごらぁ! 放しやがれぇ!」
「だまれ。悪党、死ね!」
レミリアさんがジャコウの腕をねじりつつ、剣を抜く。そしてその切れ味良さそうな黒刀の剣先をジャコウの喉に突き刺――
「うぁああ! ストップ! ストップ! レミリアさん、殺しちゃまずいですよ」
「なぜ止める? こいつは悪党なんだろ?」
「いや、そうなんですけど、いくらなんでも殺すなんて……」
「ティレア、ここで殺しておかないとこいつはまた弱者を食い物にするぞ」
まさに仰る通りです。だが、前世平和な日本で生活をしてきた俺には刺激が強すぎる。俺は借金さえ無くなればそれでいいのだ。
「いいんです。もうこいつらは警備に任せましょう」
「そうか」
レミリアさんは剣を鞘におさめる。
ふ~なんとか収まったかな?
ジャコウ達は警備に連れていかれお縄。うちの店も借金は無くなって元通りだ。
本当にレミリアさんには大感謝だね。お返しにぜひ魔王軍の情報を教えたい。
でも、魔王軍の情報……? 無い情報をどうやって知らせよう?
邪神軍の情報ではやっぱりだめだろうね。