第三十四話 「匠の技が光ってるね。二度言っちゃった」
さぁ、今日も張り切って料理を作りますか!
今日は異世界版「肉じゃが」を作る予定である。材料はオークの肉にじゃがばたいも数個、味醂、塩、お砂糖等の調味料だ。
まずは、オークのバラ肉を数センチ刻みに切り刻んでいく。そして、鍋に油を入れ、刻んだ肉と一口サイズに切ったじゃがばたいもを入れる。その後調味料を加え、中火でコトコト、中の肉色が変われば完成だ。
ふん♪ ふん♪ そろそろかな?
鍋の蓋を開け中を確認していると、ティムと変態の声が聞こえてきた。
「ティレア様!」
「お姉様!」
「二人ともな~に? 新種のドラゴンでも見つけたの?」
「いえ、そのような報告はございません」
「じゃあ何?」
「はっ。近衛隊の再編も完了し邪神軍のこれからの戦略をお訊きしたいのですが」
「我とニールゼンを含め、近衛隊総員がお姉様の下知を待ち望んでおります」
ティムと変態が藪から棒にそう言ってくる。以前から「近衛隊の再編中です」とか「視察に来て欲しい」とか言ってたし、どうやらティム達は魔王軍ごっこに俺を誘いたいらしい。この前のお茶会で俺が中二病の話をしたからきっと仲間だと思ったのだろう。確かに前世、俺は中二病だったけど元だからね。今は治っているんだから。
ただ、あまり趣味に否定的だと反発するだけだ。俺がそうだったからわかる。とりあえず一緒に遊びながらそれとなく注意していくしかないだろうね。
よし、そうと決まれば俺も邪神軍総帥として久しぶりに遊んでみるか!
さてさて、まずは何をしよう。変態は戦略を訊きたいと言っているが、俺はこの魔王軍ごっこの右も左もわからない状況だ。う~ん、とりあえず何か役職でも与えてみようかな。
「それじゃあティム、あなたを邪神軍総督に命ずる。あなたがまず好きなように方針を決めてみなさい」
「はっ。大任を仰せつかり我は嬉しゅうございます。お姉様のご期待に添えるよう身命を賭して取り組みます」
ティムが興奮して目を輝かせている。
命を懸けるって……まぁ、そんな風に言われたら中二病患者がエキサイトするのも当然だった。総督は言い過ぎだったかもしれない。でも、まぁ、あんなに喜んでいるのだ。良しとしよう。
「ニールは前みたいに近衛隊長ね」
「ははっ。私も身命を賭して務めさせて頂きます」
変態も目をキラキラ輝かせている。うん、予想通りだ。
「あと、どうせなら邪神軍も魔王軍みたいに六魔将を作ってみる? ティムの親衛隊の中で将軍になってくれそうな人いるかな?」
「お姉様。我でなくお姉様の近衛隊でございます」
「あぁ、そう。それで一緒に遊んでくれる人材は誰がいたっけ? え~とベルは知っているんだけど……」
「ベルナンデスは諜報員として優秀ですが、将軍の器ではございません」
俺の問いに変態がそう解説してくる。
ふぅん、そうなんだ……。
でも、変態ばかり隊長していたら、仲間内で不満が溜まっちゃうぞ。そういうのは順番でやらせてあげなきゃ。
そう言えば今まで職位はどうやって決めていたんだろう?
ジャンケン? それともティムの指名?
まぁ、ジャンケンでもアミダでもどっちでもいいや。郷に入っては郷に従え。ティム達のルールに従おう。
「そう。それじゃあティムが総督と将軍を兼任してやって。そのうちどっかから人材を引っ張ってくるから」
「ははっ。お任せください。お姉様の敵は全て打ち砕いてみせます!」
ティム達よっぽど楽しいみたいね。
特に、ティムは総督と言われてはしゃぎまくりだ。変態と「王都の戦力はどうだ?」とか「魔王軍への備えは?」とか話をして盛り上がっている。さらには「村ごと根絶やしだ!」なんてぶっそうな言葉まで聞こえてくる始末だ。
ティム、ちょっとヒートアップしすぎよ。そのうち「王都にはいつ攻め込みにいきましょうか?」とか言い出しそうで困る。
ただね、悪いけど俺は料理の修行があるから、いつもティム達と遊んではいられないんだよ。そうなるとお姉ちゃんとしては他に遊んでくれる人を探さないとね。
う~ん、誰か他に遊んでくれそうな人……。
父さん、母さんはお店があるし無理は言えない。
やっぱりヘタレかな。
まぁ、ヘタレも仕事はあるが警護なんてできる能力はない。町の警護ができない以上遊んでいるようなものだ。せめて住民とのふれあいを大切にしてもらいたい。俺がそう思っていると、
「ティレアちゃん」
おっ! 噂をすればなんとやらヘタレが訪ねてきた。
「ビセフさん、こんにちは! 今日はどうしたんですか?」
「またプレゼントだよ。ティレアちゃん」
プレゼント!?
ヘタレは両脇に箱を抱え、その箱はご丁寧にリボンが巻かれてある。よくある贈り物って感じだ。
おいおい、完全に貢君になっちゃってるよ。この前のメイド服の時に過剰に喜んだのが原因か?
もういいよ。無理して破産でもされたら寝覚めが悪い。
「ビセフさん、無理しなくていいですよ。お礼は十分です」
「うん、でもね。今回も特注の服なんだよ。絶対に気に入ると思うから」
特注って……こいつ本当に大丈夫か?
レア防具の修理にオーダーメイドの服三着目だぞ。相当、散財していると思うのだが……。
「ビセフさん、本当に十分ですから」
「もう返品はできないし、何より俺がティレアちゃんにもらって欲しいんだ。だから、ね?」
ふむ。返品できないのであれば、勿体ないか。
「わかりました。ビセフさん、ありがとうございます。ではちょうだいします」
俺はヘタレから箱を受け取る。
箱の中身は……。
黒を基調としたレース。フリルに飾られた洋服。そう通称「ゴスロリ服」というやつだった。
おぉ、なんということでしょう! 匠の技が光ってるね。
ふっ。前回に続き二度も言ったよ。言わされたよ。素晴らしいできばえだ。
ヘタレめ。やりおる。俺がメイド服を頼むときに色々言っていた案をちゃんと覚えていたんだな。細かい仕様まできっちりと再現してあった。
「喜んでくれて嬉しいよ。俺も散財したかいがあったよ」
「散財って……どのくらいしたんですか?」
「そうだね~ざっと三百万ゴールドぐらいかな」
「さ、三百万!? ビ、ビセフさん、そんなに遣って大丈夫なんですか?」
「まぁ、なんとかなるよ。少しヤバいとこから金を借りてるけど、期日までに返せば問題ないし」
い、いや~。それってまずいだろ。闇金ってやつだよね。
うぅ、ヘタレが勝手に貢いできたとはいえ、俺のために借金までさせてしまったとわかると心が痛い。
俺の中で罪悪感が膨れ上がっている時、変態がヘタレとの話の輪に入ってきた。
「ゴミではないか! そうかティレア様に貢物を持ってきたのか。ゴミとはいえ殊勝な心がけである。ティレア様にかわり褒めてやる」
「また貴様か! 頭のおかしい可哀想な奴だから許してやろうと思ったが、お前とは一度決着をつける必要があるな」
「ゴミの癖にでかい口を叩きおる。その決着とやらは今でも構わんぞ。怖気――」
「ニールゼン、やめないか! お姉様の教えを忘れたか! 言ったはずだぞ。お姉様の作戦を妨げることは許さんと」
「も、申し訳ございません」
ティムの鋭い言葉に変態は地べたに土下座する。地に頭を擦りつけ謝罪を繰り返す変態特有の技、もはやお家芸だ。
「はは、何それ? まったく大の大人が面白い遊びをしているよ」
まったくその通りです。「主従ごっこ」っていうんですよ。大の大人が子供に土下座する光景シュールだよね。俺はもうこの光景には慣れたけど……。
「それにしてもティムちゃんって以前と雰囲気変わったよね?」
「あぁ気にしないでください。ティムは今、反抗期なんですよ」
「そうなの? ふ~んティムちゃん、お姉さんをあまり困らせちゃだめだよ」
「き、貴様に言われるまでもないわぁあ――っ! 我がお姉様を困らせるだと? おのれぇ、人間如きになんという屈辱――」
「どうどうティム、落ち着きなさい。お姉ちゃんとの約束をもう忘れたの?」
「も、申し訳ございません。わ、我はまたお姉様を失望させてしまいました」
「よしよし、いいのよ。ティムは良い子、失望なんてしないわ」
よしよしとティムの頭を撫でてやる。
「ビセフさん、すみません。ティムは今こんな感じで今日のところは……」
「わ、わかったよ。ティムちゃん、ごめんね。それじゃあこれは置いていくから」
ヘタレはそう言ってそそくさと出ていった。借金までしたヘタレが少し心配だが、奴も大人だ。大丈夫と言っていたんだ、大丈夫だろう。とにかく、せっかくのプレゼントだ。有効に活用しないとね。それじゃあ、ゴスロリ服のお披露目といきましょうかね。抱きしめているティムに語りかける。
「ティム、早速なんだけどこれ着てみてくれない?」
「わかりました」
ティムがヘタレが置いていったゴスロリ服を手に取る。まじましとゴスロリ服を見つめるティム。やはり珍しいから興味津々なのだろう。
「おぉ、懐かしい服です!」
「え!? ティム着たことあったっけ?」
俺の記憶するかぎりこんな服、うちになかったはずだが……。
「我が幼少時代によく着ていた服に似ております」
「へ? へ? へ?」
「さすがに千年を超えたあたりからは着なくなりましたが……今の我の体格からするとこれは確かにぴったりですね」
あぁ、なるほど魔族カミーラだったらの話をしているのね。うん、確かにこの服、魔族や吸血鬼がよく着ていそうなイメージだ。ティム、想像力豊かじゃない。
「そっか。それじゃあ久しぶりに着てみようか」
「はい、それがお姉様のお望みとあれば……」
ティムがゴスロリ服を手に取りお着替えをする。
待つこと数分……。
ティムがゴスロリ服を着て俺の前に現れた。
「ふぉぁあああ。似合っているよ。似合いすぎだよ」
予想通り。いや、予想以上の破壊力だ!
やはりティムにはゴスロリ服が似合う。
「そうですか。お姉様がそう仰るのであればこの服は我の家宝とします」
「えぇ、えぇ、ぜひそうして。ついでに髪型も少し変えようか?」
俺はティムの髪型をツインテールにする。
するとどうだ! ゴスロリの格好にティムの銀髪ツインテールが映える映える! どこかのお姫様みたいだ。ツインテール属性を刺激するよ。
うおぉおぉ、俺グッジョーブゥ! すっばらしぃ――っ!
「えへへ、かわいすぎだよ。ティム」
「お、お姉様。また目が怖いことになってます」