第三十三話 「お茶会をしよう(後編)」
変態が地べたでううぅと呻いている。ティムも茫然としているね。
はっ!? いかん!
周囲の空気が若干下がっている。自分で「叩け!」と言っておいて、これはあんまりだった。よく考えれば中二病の変態に空気を読むなんてできるはずがない。
「あ~ニール、悪かったわ。なかなかやるわね。今のは痛かったよ。本当驚いちゃった」
「お、う、テ、ティレア様に……お、お褒めにあずかり光栄にございま、す。こ、これもティレア様の……ご、ご教授のおかげ……」
変態は苦悶の表情を浮かべながら、そう賛辞を贈ってくる。
いや~ごめん、本当に悪かったよ。そんなに無理して答えなくてもいいからゆっくり休んでて。
「そ、それにしてもさすがはお姉様です。オリハルコンを砕く一撃をもらい、その程度のダメージなのですから。我の奥義を受けてもびくともしないはずです」
ティムが場の空気を察してか話題を振ってきてくれた。なんかティムにまで気を遣わせちゃったね。
「はは、そんなこともあったね。でも、ティムの魔法はまだまだこれからよ。いくらでも魔法の力は伸びるから」
「そうでしょうか。我はもう魔法を極めたつもりでしたが……」
「ティム、それは傲慢ね。あなたはまだ魔法を覚えたばかりの初心者なのよ」
「わ、我が初心者! 初めてそのようなことを言われました」
ティムが心外とばかりな表情を見せる。ティムめ、魔法が使えるからと天狗になっているね。これでは、ティムが井の中の蛙になってしまう。
「ティム、まったく自分が魔法の第一人者にでもなったつもりなの! そんな考えをしていたら成長は止まっちゃうよ」
「そうですね。知らずに我は自分の限界を決めていたようです」
「まぁ、仕方がないか。魔法を覚えたとき周りに教える人がいなかったものね」
「おっしゃるとおりです。我の魔法の才に及ぶ者など周りにおりませんでした。お姉様のお言葉がなければ我は現状で満足していたところです」
「うん、気づいてくれたのなら問題ない。あの時のことはあまり落ち込まないで。なかなかの威力だったよ。ただ、私がエアーガンの乱射に慣れていただけだから」
「お姉様『えあーがん』とはなんなのでしょうか?」
「そうね~どう説明しようかBB弾――じゃなくて弾みたいな物を発射する装置と言ったらわかるかな?」
「ボーガンのような兵器のことでしょうか?」
う~ん厳密にいうと違うんだよな。ピストルをモチーフとした……いやいや、この時代には銃の概念は無いよね。まぁ、でもボーガンも遠距離武器としては同じカテゴリーである。似ているといえば似ていると思う。
「うん、大まかに言えばそんな感じかな」
「超魔星魔弾に匹敵する威力――『えあーがん』とは神具に近いものとお見受けしました」
「はっは、そんな大げさなものじゃないよ。子供が持っているものだしね」
「なっ!? 『にほん』では子供がそのような兵器を持ち歩いているのですか!」
「う、うん、そうだよ。そんなに大げさに驚かなくても……」
「お、お姉様がいた『にほん』とは本当に恐ろしいところなのですね」
「ん? まぁ、この世界より科学が発達していたことは確かね。それでね一時期、エアーガンを持った子供の集団に狙われたことがあってさ」
「子供とはいえ、我の奥義に匹敵する兵器を持った集団です。その脅威は容易に想像できます」
「ティムもわかってくれた? もう、うっとうしいことこの上なかったよ」
ったく思い出しただけでも腹が立つ! 誰が言い出したのか、近所のガキ共の間でオタク狩りがブームとなり俺がターゲットにされた。俺が外に出るたびに執拗に襲ってくるんだよ。コンビニ行くにもどれだけ大変だったか!
「それでお姉様は、どのように対処されたのですか?」
「さすがに数が多くて逃げ回っていたんだけど、隙を見てさ、そのうちの一人をガチコンやっちゃったんだ。そしたらそいつの親が出てきてさらに事態は収拾がつかなくなっちゃったんだよ」
「なるほど、お姉様を襲うほどの子供の親なればそれは強敵だったでしょう」
「強敵も強敵、モンスターペアレントだったよ」
「モンスターペアレント!? なんと強そうな……魔物との合成獣みたいなものでしょうか?」
「そうね~理解不能な生き物という意味では合ってるわ。あのけたたましい声、まさに合成獣そのものだったね」
あのモンペのせいでどれだけ生きにくくなったことか。大体自分の教育が間違っていたんだろうが!
はぁ~思い出すだけで憂鬱になってきた。二十歳の俺が小学生を殴ったとPTAの議題に上がるわ。ご近所さんから後ろ指さされるわ。あげくのはてに警察から事情を聞かれるわ。踏んだり蹴ったりだった。
「『どきゅん』に高性能の武器を持った集団、そしてモンスターペアレント、前世のお姉様は戦いの連続だったのですね」
「そうよ。この時のことは第一次邪神包囲網と呼んでいるわ。この後、国家からも敵視されていくんだけど、続きはまた今度にしましょう」
「はい。お姉様の戦記を聞くのは楽しみです。我はお姉様を誇りに思います」