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第十三話 「我は敵将を討ち取ったのである」

「ニールゼン、戦況はどうなっておる?」

「はっ。我が隊は二百弱、対するキラー隊は三百強。兵数の差はあれどミュッヘンのゲリラ戦が功を奏し拮抗を保っておりました。そして、とうとうキラーの奴が釣れたようです」

「ふ、さぞかしキラーの奴は激昂しておろう」


 ここ数日、ミュッヘン率いる一隊がキラー隊を襲撃していた。ゲリラ戦による消耗作戦にキラーは痺れを切らしたようだ。単細胞のキラーらしい動きである。


「キラーは怒りにまかせ前線を突破。大挙して本陣に向かっております」

「よし、キラーは我が殺る! ニールゼン、お前はミュッヘンの残存兵力をまとめキラー亡き後の敵兵を追撃殲滅しろ!」

「御意」


 我とニールゼンは足早に戦地に向かう。魔人の身体能力に身体強化魔法を使用して走り抜けている。その速さは尋常ではない。


 ザザッ

 ザザッ


 平原に足音だけが残り、二人の姿が瞬く間に消えていく。


「ところでニールゼン、魔力のコントロールには慣れたか?」


 足早に駆けながらニールゼンに尋ねる。


「はっ。いまだ抑えきれず体内奥深くで魔力が暴れまわっておりまする」

「そうか。一朝一夕では会得できぬ。我もやっと魔力を最大の十分の一以下に抑えられた」

「さすがはカミーラ様です」

「この程度、お姉様と比べるとまだまだだ」

「いえいえ。カミーラ様の巨大な魔力を十分の一に抑えるだけでも素晴らしい成果であります」

「ふっ。ニールゼン、お前も頑張るのだ」

「御意。それにしてもティレア様の修行法には感服致しました」

「我もお姉様がただただお店で働いているとは思わなかったが、こんな修行法があったとは――」


 ニールゼンがお姉様の配下に加わった日、我とニールゼンは、お姉様からお店の仕事をするようにご指示を受けた。


 なぜ、そのようなご命令を?


 お姉様のお力ならすぐにでも世界を手に入れられるのに。どうしてそのような遠回りをされるのか。もしや、覇道を歩まれないおつもりか?


 ……そして、我は思い出した。


 以前、お姉様は我を導くとおっしゃられたではないか!


 そうお姉様は、覇道を歩む前に我やニールゼンを鍛えてやるという思し召しだ。


 なんともったいないことである!


 だが、お店の仕事がなんの修行になるのか?


 我は悩んだ。お姉様に真意をお尋ねしようかとも思ったが、そんなこともわからないのかと落胆されたくもなかった。だから、我は必死に考えた。

 そして、あることに気づいた。お姉様から魔力を感じない? あれだけの魔力を内包されているお姉様から魔力のほとばしりを感じないのだ。


 どうして?


 だが、よくよく魔力をサーチしてみると、お姉様の体内奥深くに巨大な魔力が存在するのを発見した。お姉様は魔力を抑え込んだ状態でお店のお仕事をされているのである。


 魔力は力の源。これなくして戦闘するなど考えられない。お姉様はその魔力を体内に抑え込むように使い、外に力を出さないようにしているのだ。あれではほとんど力が出せないだろう。


 なぜ、そのようなことを?


 その真意はお姉様がニールゼンに蹴りを食らわした時にはっきりとわかった。


 敵の斥候を掃討した帰りのニールゼンに、お姉様は一言二言話した後いきなりニールゼンを蹴られたのだ。


 その一瞬魔力が桁違いに上がったのである。


 我は目から鱗が落ちた気分であった。そう、魔力とはただ上げればいいというわけではない。巨大な魔力を持っていてもそれをコントロールできなければ十分に力を出せないのだ。


 ふふ、さすがはお姉様。我ら魔人は魔力の増強ばかりに目が行き、魔力のコントロールを二の次にしていた。お姉様は何も言わずとも我らにそれを気付かせてくださったのである。


 それから我とニールゼンは普段から魔力を抑え、それが当たり前の状態になるように心がけた。


 お店の仕事をしながら魔力をコントロールするのは非常に難しい。高度な技量を求められる。魔力のコントロールに集中しているとミスをしてしまうのだ。ニールゼンなど何度大鍋をひっくり返したことか……。


 魔力を調節しながら力を出す。お店の仕事がこれほど修行の場になるとは思いもしなかった。


 我とニールゼンは毎日必死に修行したが、なかなかお姉様みたいにうまく行かなかった。お姉様は魔力調節を呼吸するかのごとく自然と行っておられるのだ。それも魔力を人間並みに落としてである。


 人間並みの魔力……。


 それで我も最初はお姉様を人間と間違えてしまった。あれだけの魔力を人間並みの魔力まで内側に抑え込み、お店の業務をこなすのだ。よほどの熟練が必要になってくる。


 お姉様はすごい。我も見習わなければ! お姉様の巨大な魔力ならともかく、我程度の魔力を調節できなくてどうするか! 


 岩を砕き獲物を切り裂く獰猛な魔獣ですら力を調節し、自身の生まれてくる赤子をあやす。蒙昧な魔獣ができて我ら魔人ができないわけがない。


 

 ここ数日の修行を反芻しながらしばらく駆けていると、轟音が聞こえてきた。


「近いか?」

「はっ。そろそろキラー隊と接触します」

「そうか腕が鳴――むっ!?」


 その時、突然の爆音とともに地面に大穴が空いた。それは常人には底が見えないほど深い直径三メートルの大穴である。その爆発の威力が窺いしれた。


「ちっ、外したか!」

「キラーか。不意打ちとは相変わらず(こす)い奴だ」


 魔鳥人キラー……。


 六魔将の一角。串刺しキラーと恐れられ、先の大戦では自身が持つ大槍で多くの人間を串刺しにし、その屍を晒した。その大きな翼とらんらんと輝く獰猛な目つきが特徴である。


「へっ、へっ、カミーラよ。まさか魔王軍を裏切るとはな。これで堂々と貴様を殺せるわけだ」

「ふん。貴様に我を殺せると思うてか?」

「変わらねぇな。その自信過剰ともいえる不遜な態度、実に殺しがいがあるぜ」

「貴様も単細胞ぶりが変わらぬな。だが単細胞とはいえ元同志、我自ら引導を渡してやるから感謝するが良い」

「くっ、減らず口を! お前らぁあ――っ! 俺がカミーラを()っている間、他の雑魚共を逃がすな。カミーラの仲間は残らず串刺しにしてやる!」


 命を受けたキラーの部下数百人が我の部隊を円形に包囲してくる。


 ふん、雑魚共がいくら集まろうが物の数ではないわ!


「ニールゼン、手筈通りいくぞ。我はあのたわけを始末してくる」

「御意」


 我はニールゼンに命令し、キラーと対峙する。キラーが手にした大槍を握りしめる。単なる大槍ではない。敵を逃さず命中する、稲妻のような速さで標的をまとめて貫くと称えられた神具ゲイ・ボルグだ。先の大戦で多くの血を吸ったその神槍はより切れ味を増している。


「カミーラ、貴様でも俺の必殺の一撃からは逃れられぬ!」


 キラーは渾身の力を振り絞り、槍を振りかぶる。さすが腐っても六魔将、その大槍に込める魔力は普通の魔人をはるかに凌駕していた。


「馬鹿の一つ覚えの投擲か!」

「ほざけぇ! 奥義、超魔空隙斬(スカイマーク)!」


 キラーから稲妻のような速さで槍が放たれた。人間では視認不可能の速さ、中級魔人の反応速度をはるかに超えているのだ。上級魔人ですら視認はできても避けるのは困難であろう。


 だが、我は「閃光のカミーラ」、そこらの魔人と一緒にしてもらっては困る。


「ふん」


 飛来する槍を上体を捻ってかわす。


「バカめ。避けられると思ったか? 俺の槍はどんなに避けようとも軌道を変え必ず刺さる」


 その槍の軌道が急激に変わると、カミーラの心臓目がけて突き刺さる。


 ――ガキン!


 だが、心臓に届く前にその槍は静止した。


「なっ!? どういうことだ?」

「愚かな。我が魔法障壁を絶えず纏っているのを忘れたか」

「だ、だからといって俺の必殺の一撃を止めるなんて……」

「そうよの、昔の我では無理だったかもしれん。だが、魔力調節を覚えた今の我ならこのくらい造作もない」

「ま、魔力の調節だと?」

「そうだ。魔力を調節し障壁の一部を増幅、一点集中させたのだ。貴様がバカのように心臓を狙ってくるのはわかっておったからな」


 そう、心臓に来るのはわかっていた。先の大戦でも、奴はバカの一点張りで敵の心臓を狙い続けていたのだ。刺す場所がわかっていれば、どんなに速い攻撃でも躱すのは容易いし、攻撃に合わせて障壁を一点集中させることも可能である。


 我は障壁にぶつかり静止している槍を掴むと、そのまま力任せに遠くへ投げ捨てた。槍は放物線を描いて森の奥へと消えていった。


「これで槍を使うしか能がない貴様は負けだ」

「馬鹿にするんじゃねぇえ! 死ねぇええ!」


 キラーは憤怒の叫びをあげ、魔力を増幅し魔弾を放ってくる。奴の手から無数の魔弾が生成され放たれていく。


「ほぅ、我と魔法勝負する気か? 面白い!」


 我も奴に負けじと魔弾を放つ。魔将軍同士の魔弾の撃ち合いである。すさまじい轟音が響くとともに傍にあった木、岩、地面が次々と抉られていく。

 また、その爆風を浴びて負傷する兵達も出てきた。数十、数百の魔弾の嵐が双方に飛び交っていく。


 そして……。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……な、なぜお前は――そ、そんなに余裕がある……?」


 魔弾の撃ち合いによりキラーは息も絶え絶えだ。顔は真青で全身から滝の汗を流している。絶え間なく放った魔弾のせいで魔力が枯渇しているのは間違いない。


「馬鹿みたいに最初から魔力を全力で使うからそうなる。大切なのは魔力調節だ。とどめを刺してやるぞ、キラー」


 我は奥義を放つため、呪文を唱えていく。そして魔法陣が展開された。


「ま、待ってくれ!」

「待たん。魔弾よ幾許(ここら)の星となれ。超魔星魔弾(スターフライヤ)!」

「ひ、ひぇええ!」


 キラーは魔弾を避けるべく、翼を羽ばたかせ上空に逃げる。余力もないはずであったが最後の足掻きであろう、必死に羽を上下に動かしていた。


「たわけ。我の魔弾は追尾する。死ぬが良い!」


 無数の魔弾が上空のキラーを追尾し、ぶつかっていく。一つの魔弾で下位の魔人が消し飛ぶほどの威力である。それが数百、数千の魔弾となって降り注ぐのだ。


「うぎゃああ!」


 断末魔の叫びとともに、上空に花火のような爆発音が響きわたった。


「ふん、貴様には過ぎた技だったな」

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