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第六話 「邪神様って誰のこと?」

 じいさんは気絶しているようだな。


 ちょん、ちょん、足でじいさんを軽くつついてみる。


 …………。


 うん、返事は無い。ただの屍のようだ。


 さて、邪魔ものはいなくなったし本題に入るとしよう。俺はティムに向き直る。


「ティム、何か言うことは?」

「人間、いや、その力人間であるわけがない。貴様は一体何者だ?」

「ふ〜全然わかっていないようね」


 やっぱり、まだ反省はしていないようだ。俺はティムが己の過ちを悔い、謝罪をするのなら許してやろうと思っていた。だが、ティムはイベントのキャラ、カミーラのふりをしてごまかす。


 まぁ、謝りたくない気持ちもわからないではない。放っとかれて寂しい思いをしたのにという気持ちが強いのだろう。でも、中二病をふりかざし現実から逃げることはティム自身の人生が不幸になるだけである。俺の前世は、それで痛い思いをしているのだ。


 しょうがない。ティムの為だ。俺は愛のムチをふるうべくティムに近寄った。


「次は我を仕留める気か! だが、我も閃光のカミーラと言われし者、臆するわけにはいかぬ」


 ティムは何やら呪文らしきものを唱え始めた。そして、ティムの体が魔法陣に包まれていく。


「ティム? 何をやって――」

「ふ、我の最大奥義よ。魔弾よ幾許(ここら)の星となれ! 超魔星魔弾(スターフライヤ)!」

「なっ!? 魔法!」


 うそ! ティムが魔法を使っている。ティムの手から魔法弾みたいなものが生成されているのだ。それも無数に生成していっている。


 すごい。いつのまにティムはこんな真似ができるようになったのだ?


 確かにこの世界では魔法を使うことができる。だが、すべての者が使えるわけではない。魔法の素養がある選ばれた人間だけが使えるのだ。


 ティム、あなた……。


 魔法の才能もあるのね!


 今日は驚くことばかりだ。ティムは足の速さもさることながら、女優の能力そして魔法まで使えるのだ。


 王都には魔法の学園がある。そこに入学し頑張れば将来は王宮に就職できるかもしれない。ティムあなたにはこんなに才能があるのに……。


 ティム、お願いだから自分を大切に――っておいおい、なんかティムが生成した魔法弾が俺に向かってきていないか?


 これってやばいんじゃ――


「肉片となるがよい!」

「あ、痛、いて、いててて! ち、ちょ、ティム、痛いって――」 


 予想通り、ティムの手から放たれた魔法弾が俺にぶつかった。息つく暇もなく魔法弾がティムの手から連射されては俺に当たっていく。


 うぅ、一つ一つが皮膚に当たる度にひりひりとしてきた。


 なんというか今のティムは……そう子供がモデルガンでBB弾を乱射しているイメージだ。


 ……なるほど、ティムの中二病が予想より進行していた理由はこれだったのだ。魔法が使えるのは一種のステータスだ。自分が特別な存在だと思い込みやすい。俺の住んでいる町ベルガで魔法が使える人は、町の警備長をしている元冒険者のビセフさんくらいしかいないからね。


 それに多分、ティムは人知れず魔法の練習をしていたに違いない。そして、この放出系の魔法が使えるようになった。恐らく初期魔法なのだろうけど、誰からも教わらず一人で覚えたのである。


 すごいことだ! 誰かに褒めて欲しかったのだろう。特に姉である俺に見て欲しかったんだろうね。


 でも、俺は料理に夢中でティムに構ってやれなかった。そして、一人寂しく魔法を使っているところをあのじいさん(ニールゼン)が見て「何この子、魔法使えるの! しかもかわいい! きっと私が求める主、カミーラ様に違いない。カミーラたんペロペロ」とか思われたんだ。


 それからは言うまでもない。言葉巧みに持ち上げて、ティムに中二病を発病させたってところだろう。


 くそ、あの変態(ニールゼン)め! もうじいさんでもない。ただの変態だ。また腹が立ってきた。もう一発けりを入れとこうか!


 いや、その前にやるべきことがある。ティムのしつけだ。


 今ティムは、子供がモデルガンを買ってもらった状況と似ている。普通、親は子供にモデルガンを買ってやったら人に向かって撃ったらいけないと教える。ルールを教えるのは当然だ。姉である俺が教えなければならない。


 魔法は人に向かって撃っちゃだめだってことをね!


「もう、ティムやめなさい!」


 弾幕の中を走り抜けるとティムを無理やり羽交い絞めにする。そして、そのままティムのおしりを持ち上げた。そう、お約束のおしりぺんぺんの体勢である。


「なっ!? わ、我に何をする気だ? は、放せ! う、動けぬ!?」

「ティム、悪い子にはおしおきよ」 


 俺はブンブンと手を振り回し、ティムのおしりを叩く素振りを見せる。


「ふ、我にそうそう物理攻撃は通じぬぞ。我の体には魔法障――ぐはっ!」 


 有無を言わさずティムのお尻を叩いた。ティムが苦悶の声を上げる。思わずおしおきを止めそうになるが、ここで甘やかしては元も子もない。


「ティム、反省しなさい」

「はぁ、はぁ、ば、ばかな! 我の魔法障壁を軽々と――し、しかもそのような巨大な魔力を注ぎおって」


 ティム、まだそんなふざけたことを言うの? おしおきが足りないみたいね。


 さらにおしりを叩く。


 だが、ティムは「我」とか「魔将軍の誇りだ」とか言って反省しない。


 仕方が無い。さらに叩く。


 ティムが反省の無い言葉を言うたびにおしりを叩いた。バシィと音が響くたびにティムのうめき声が聞こえる。ティムのおしりも赤くなってきた。


 うぅ、やはり辛い。愛する妹が苦しんでいる姿は見たくない。でも、しつけは重要だ。俺はティムが傷つかないように、でも反省はするように絶妙な力加減で叩き続けていく――


「ぐはっ、がはっ! はぁ、はぁ、し、死ぬ」

「もう一発行く?」

「う、うっうっ――わ、我が悪かった。もうやめてくれぇ!」


 とうとうティムは泣き崩れてしまった。まだ若干、中二病が残っているみたいだが、反省はしてくれたみたいね。泣いているティムを見ていると心が痛んでくる。


 ティム、ごめんね。


 必要だったとはいえ、愛する妹を叩いたのだ。俺自身も辛い。うん、叱るのはここまでにしよう。ティムも反省してくれたし安心させないとね。


「ティム」


 俺はできるだけ優しく声をかける。


「う、うぅ……こ、殺せ! こ、このような屈辱を受けて生き恥はさらさぬ!」


 ティムは必死の形相で俺を睨んできた。


 ティム、屈辱って?


 ――そうか! きっとティムは恥ずかしいのだろう。中二病をこじらせたあげく、姉に手をあげたことを気にしているに違いない。俺も前世で親に注意されて暴れた時は死にたいと思った。自分の行動を恥だとずっと気にしていたのである。ティムも今そんな気持ちなのだろう。


 ――よし、ここはティムに俺の前世を話そう。俺は前世の記憶は誰にも言うつもりはなかった。頭のおかしい奴だと思われるのは嫌だったしね。だが、言わなければならない。前世、俺も中二病をこじらせ家族に手をあげたことを話せばティムも共感しわかってくれるはずだ。


 ティムは俺と比べれば全然恥では無いんだよ。


 そして、俺がティムをいかに大切にしているか伝えて安心させてあげよう。


「ティム、聞きなさい」

「な、何を……」


 俺は真剣な眼差しでティムを見つめる。


 そして、俺は自分が転生者であること、前世日本という国で生まれたこと、前世では中二病を患っていたこと、とは言っても中二病という言葉はわからないだろうから、俺が邪神ダークマターとして実に痛い行動を取っていたことを告白したのだ。そして、最後はトラックに轢かれあっけなくこの世を去ったことも……。


 ……言っててへこむ。いわゆる自分の黒歴史だもんな。


 ティムは俺の真意をわかってくれたかな?


「そ、そのようなことが――わ、我はなんてことを!」


 うん、ショックなようだが信じてはくれているようだ。


「ティム、今のあなたは弱いかもしれない。でもきっと強くなる、なれる! 運命が選んであなたの姉として転生したんだもの。ずっとあなたを見守ってあげるわ」

「わ、我は――」

「これからも宜しくね」


 俺は仲直りとばかりにティムを抱きしめる。

 そして、俺に抱きしめられていたティムは顔を上げると、


「はい。邪神様の仰せのままに――」


 ティムは陶酔した顔を見せそう言ったのだ。


 ほ、ほわい?


 どうやら俺の悩み事は続くらしい。

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