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第四話 「妹に叩かれちゃった」

 俺はティムをびしっと叱ったのだが、どうも周囲の空気がおかしい。さっき外に出ようとしていた面々もターンバックし、俺を囲み始めた。


 皆の視線が痛い。怒っている? 


 いや、殺気立っているといったほうが正しいだろう。


 なぜ? 


 ――そうか、しまった!


 今日の趣旨である魔王復活イベント。皆、このイベントのキャラとしてなりきっていた。参加者全員迫真の演技といってもいい。特に、あの鎧男の演説はまるで本物の魔族と言われても不思議でない迫力があった。


 そんな完成された世界に俺はリアルを持ち込んでしまった。これだけの人数だ、中二病をこじらせて参加した者もいるだろうが、むしろ普段は真面目に仕事し、唯一楽しみの趣味として参加していた者が大半かもしれない。


 それに参加者には竜人もいれば鳥人もいる。この辺に住んでいる人種ではない。このイベントの為、はるばる遠方から来たのだろう。そういう人達に対して俺の発言は明らかにマナー違反だった。


 どうしよう……。


 やっぱり世界観壊しちゃったよね。


 皆に迷惑をかけたと後悔していると、


「人間、よくぞこの場所がわかったな。二重の結界を突破してくるとは……」


 そう鎧男が話かけてきたのだ。


 おぉ、なるほど!


 俺の乱入もイベントの一つにしようということだね。


 鎧男グッジョブ!


 いや〜最初はその全身包んだ鎧を見たとき、なんて痛いやつって思ったけど、なかなかどうして……。


 その気配り、物腰、もしかして鎧男は普段、会社の社長さんなのかもしれない。このイベントでもまとめ役をしているみたいだし可能性は十分にある。


「殺せ! 人間など殺してしまえ!」

「キヒヒ……いい声で泣かせてやる!」

「ひゃははぁぁ、久しぶりに人間の肉が食える!」


 鎧男に呼応して周りが騒ぎ出す。イベントの参加者達が魔王軍部下の演技を始めたのだ。


 うんうん、周囲の皆さんも状況がわかったようだね。空気の読める人達ばかりだ。それに演技もすごい。本当に八つ裂きにされそうな雰囲気だぞ。特に、あの獣人なんてよだれだらだら大口を開けちゃってて、今にもかぶりつかれそうだ。


 俺も負けてられない。俺の立ち位置は魔王軍結界に入ってきた勇者だ。そうなると、この後の振る舞いとしてどうすれば良いか……。


 色々セリフを考えていると、ティムが俺の前にツカツカと現れた。


「どうやってこの場所を見つけたか知らんが愚かな!」

「ティム……」


 たしか魔将軍カミーラの設定だったね?


 ふふ、迫真の演技でかわいいぞ。でもね、もう遊んでいないで家に帰る時間よ。


「人間、仮とはいえ我の姉だったのだ。せめて痛みも無く殺してやろう」

「へっ? それはどういう――ってうわ?」


 ティムが俺の首筋に閃光のような速さで手刀を放ってきたのである。


 衝撃音が部屋に響く――


 だが、打ちこまれた手刀は俺の首筋でピタリと止まった。


「ば、ばかな!? 我の魔力を込めた一撃が……」


 ティムはありえないとばかりに狼狽える。


「よもや、情けをかけたのではなかろうな?」

「総督、それは我への侮辱よ。ドラゴンですら両断する力を込めたのだぞ!」

「それは本当か?」

「ま、まさか……」

「閃光のカミーラと言われた者が情けない!」


 周囲がざわつき始める中……。


 がーん! ティムに叩かれた。


 それもけっこう痛かった。首筋に青痣ができているかもしれない。


 妹から初めて暴力を振るわれ、俺はショックに打ちひしがれてしまった。

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