もぅすぐクリスマス。
街は宝石をまとったように
キラキラとイルミネーションが輝き、
どこからかジングルベルの
メロディーが聞こえてくる。
ざわめく人混み。
行き交うカップルたちの
楽しそうな笑い声がこだまする。
きっと、クリスマスの予定でも
話しているのだろか。
彼女のいない僕にとっては...
そぉ思いながら、
ひとりのアパートへと先を急ぐ。
交差点の赤信号が青に変わり
歩き始めたそのとき
「あっ、雪だ...」
そぉ呟き空を見上げた瞬間、
前を歩いていた
女性にぶつかった。
「すいません」
僕は謝り目の前の光景に驚いた。
そこには、
見覚えのあるスカイブルーのマフラー
まさか・・・
振り向いた知らない顔に、
僕は俯きもぅ1度謝った。
やっぱりそんな訳ないか
淡い期待は、
女性の香水の香りを
かすかに残したまま去っていった。
君のことなんて忘れてたはずなのに
―なんで今さら。
消えていたはずの想いの炎は
いまだに消えず、
僕の心でくすぶっていた。
そう、ずっとずっと
僕の心のなかで。
―あれは何年前だろう―
僕には当時付き合って
半年になる彼女がいた。
肩より少し長いくらいのストレート。
長いまつげの先にある瞳が印象的で、
口もとにできるえくぼと
くしゃくしゃになる笑顔が
とても大好きだった。
彼女と2人暮らしを始めて、
1番最初に君と買ったものを
僕は忘れない。
「みてみて!!
これ、かわいぃ〜。」
そう言い君が両手に持っていたのは、
2つでセットの
白と黒のマグカップ。
「ねぇねぇ、
2人暮らし記念に
お揃いで買おうよ。」
「うん、いいよ。」
「やったぁ!!
じゃあ、今の幸せがずっと続くよう、
毎年今日の記念日には
このマグカップとケーキで
お祝いしようね。」
まるで子供のように
無邪気にはしゃぐ君をみて、
僕は誓った。
絶対君を幸せにすると。
君と過ごす毎日。
朝目覚めると
君の寝顔が横にある。
そしてあのお揃いのマグカップで
一緒にコーヒーを飲み、
いってらっしゃいのキス。
どれだけ仕事で疲れていても
あったかい手づくりの料理と
お帰りなさいのひとこと、
そして何よりも君の笑顔があれば
がんばることができた。
僕にとって
かけがえのない存在。
そんな幸せが、
ずっとずっと
続くと願っていた。
―だが僕は、
君に甘えていたのだろうか。
同棲し始めて、
1年経ったころだった。
僕たちの歯車が
狂い始めたのは...。
「ごめん。
今日やっぱ無理だ。」
「えっ、どうして!?
今日なんの日か覚えてるよね?」
今日は同棲して
ちょうど1年記念の日。
もちろん覚えていたし、
プレゼントも用意していた。
「知ってるよ。
でも、急に仕事が入ったからいかないと。」
「だって、あのとき約束したじゃん。
それに絶対休みとるって。」
「仕事なんだから、しょーがねぇだろ!!
いい加減分かれよ。」
「でも...楽しみにしてたのに...。」
「あーめんどくせぇ!!
もぅ別れよぅぜ。」
そう言い残し
立ち上がろうとした瞬間、
―ガシャン
テーブルの上に置いてあった
お揃いのマグカップのひとつが、
僕の腕に当たった。
床にはふたつに割れたマグカップ。
涙ぐむ君の姿。
正直イライラしていた僕は、
優しい言葉をかける
余裕などなかった。
そのまま何も言わず、
部屋をでて仕事へと向かった。
仕事が終わったあと、
同僚男女4人で
居酒屋に飲みに行こうと誘われた。
あの時すぐに君のもとへ帰っていれば、
もしかしたら
仲直りできたかもしれない。
しかし、君との約束など
もうどうでもよくなっていた。
記憶をなくすまで酒を飲んで飲んで...ひたすら飲んだ。
そして僕は
過ちを犯してしまった。
気がつくと朝になり目覚めると
誰かの温もりを感じ、
君とは違う寝顔に驚いた。
そう彼女は、
昨日一緒に飲んでいた
女の子のひとりだった。
慌ててベッドから飛び起きた。
驚く僕に彼女は言う。
「いちおう言っておくけど、
何もやってないわよ。
だってずっと彼女の名前呼んで、
そのまま寝ちゃったんだもの。」
僕は急いで
はだけていたワイシャツのボタンをとめ、
上着も着ずに
真っ先に君の待つアパートへと向かった。
自分勝手だけど君と仲直りしたい
僕の精一杯の気持ちで謝りたい
許してくれるかは分からないが
でもきっと君なら・・・
記念日に君に渡そうと1週間前に買った
スカイブルーのマフラーを手に。
アパートに帰り部屋に入ると、
君は眠らずに待っていた。
マスカラが落ちて
黒くなった目の下、
赤く腫れたまぶた、
テーブルの上にはケーキ。「遅かったんだね。」
「...昨日はごめん。これ記念日のプレゼント。」
君は静かに受け取り、
僕のかけちがえてた
ワイシャツのボタンを直しながら言った。
「浮気だけは、絶対しないと思ってたのに...」
君は気づいてしてまったのだ。
胸元に自分の残した覚えのない
キスマークがあることに。
「ごめん。でも、違うんだ。」
必死に言い訳を考えるが、
目の前の君を見て
僕は何も言えなかった。
「もぅいいよ。あたしは平気だから。」
唇を薄く開いて君はそう言い残し、
この部屋に帰ってくることはなかった。
外にはその冬初めての
雪がちらついていた。
あれから二度目の冬かぁ...
空から舞い降りてくる
数え切れないほどの
白い天使たち。
しかし、どれも
アスファルトの上にたどり着くと、
跡形もなく消えていく。
この雪の数ほど人がいる街中で、
君を見つけることはできない...。
どうして
追いかけなかったのだろう。
あの日に戻れるのなら、
僕はきっと...
そうきっと...
ポケットから携帯を取り出し、
記憶の片隅にある
君の番号をゆっくりと押した。
そして受話器ボタンに、
そっと親指をそえる。
ひとひらの雪が
液晶画面の上に落ち、
その姿はじわじわと滴へと変わる。
やっぱり今さら...
親指は
終話ボタンを押し、
いつもの待ち受けに戻っていた。
そしていつもどおり
ひとりきりのアパートへと足を運ぶ。
もう一度めぐり会えたら...
そう願いながら。
アパートに着き、
僕は足をとめた。
そこにいたのは―
肩くらいの髪は少しのびて、
ゆるいウェーブがかかっている。
しかし首には、
僕のプレゼントした
あのスカイブルーのマフラーがまかれていた。
まぎれもなく君の姿だった。
「着ちゃった。」
「どうして?!」
戸惑う僕。
「ずっと忘れられなくて。」
「会いたかった...」
思わず君を抱きしめた。
「今日のあたしのラッキーアイテムは、
スカイブルーのマフラーなんだ。
運命の人に
会えるでしょうって。
ほんとに会えちゃったね。」
そう言った
彼女の口もとのえくぼと
くしゃくしゃにした笑顔は、
あのときと同じ
僕の大好きな君だった。
「愛してる」
もう一度めぐり会えたら
その手を離さない
もう迷わないさ。 |