4・発熱
「……さん…灰原さん…」
なに?放って置いて。
「灰原さん!!」
「…なに?」
哀は不機嫌そうに顔を上げた。途端、中年の女性教師の顔が目の前に現れ、今が授業中であることを思い出す。 しまった、寝てしまったらしい。
「…すみません」
「灰原、具合悪いのか?顔色良くないぞ」
普段、あまり目立ちたくないと思っている哀は学校で寝てしまうことはない。だからこそこの教師も不可解に思ったのだろう。
「いぇ…大丈夫です。」
「顔が赤いぞ。一応保健室行ってきなさい。保健委員!」
反論の余地も与えられず、あれよあれよという間に哀は教室を連れ出されてしまった。
保健委員の女の子は養護担任に事情を説明してから、哀をちらりと見て帰っていく。
「はい、熱はかってね灰原さん」
体温計を手渡されて、哀はただ流されるがままに熱を計った。が、
「……39度…」
「帰りなさい」
熱は哀自身が想像していたものよりかなり高い。しかも自覚したせいか体が重くなってきてしまう。
「……寝てれば大丈夫です。。。」 「えっと生徒連絡網のファイルはっと……」
哀のあがらいは虚しくも流された。
先生が電話番号を探している間に、
「ちょと戻ってきます」といって私は抜け出した。
今日は家に工藤君はいないはずだから、教室に戻っていてもまずいことはないだろう。
教室に入った瞬間だけ一気に視線が集まったが、先生に
「大丈夫か」と聞かれて はい と答えただけで、哀が席につくころにはまたいつもの風景に戻っていた。
私の席からは、教室が全部見渡せる。窓際の一番すみっこ。
アメリカにいたときは、もっと雰囲気が暗かった。自分自身が幼かったせいもあるだろうが、陰湿ないじめもあって、楽しくはなかった。
でも今は違う。
親友ができて、周りを見回せる余裕も生まれて、小さな学生生活だって、それなりに楽しくなってきた。
きっと、工藤君がいたから
哀はもう授業を聞いていなかった。熱が上がったのか、下がったのか、なにも感じなかった。ただ、思いに耽る。
初めて会ったあの日から、見る世界の色がかわった。色鮮やかに、輝きだして、自分の存在が見え始めた。
組織を壊滅させてからも、見た目が変わっていっても、それでもずっとそばにいてくれた人。
私は、救われたんだ。
扉の開く音。聞き慣れた足音。ハスキーヴォイス。
「灰原!」
振り向くとそこにいたのは─── |