2・想いの鎖
『俺が好きだって言え』
彼の口が紡いだその言葉。それを理解できない程、私は馬鹿じゃない。
それでも、理解なんてしたくなかった。これほどまでに自分の理解力の高さを呪ったことはない。
私にとって、どれほど残酷かしらないその言葉は、自分で言うのは愚か、彼の口から聞くだけでもつらい。しかし、それを言えと彼は言った。所詮彼は、私の羞恥心をあおるだけの小さな遊びのつもりでいるのだろうが。
―私の気持ちも知らないで―
それでも、これを表に出すわけにはいかない。感情を表にださないように組織で教え込まれてきた私には、このくらい容易いのだけれど。
「好きよ。」
何の感情も込めず、表情も変えず。さらりと言い放ったつもりだが、心なしか声がふるえた。
しかしそれに気づかないでか、この男は言う。
「おいおい、もうちょっと感情込めようぜ!どうせ冗談なんだからさ」
彼のその言葉は、冷たい棘となって私を刺した。
《冗談》?そんなこと、言わせない。
私の中で何かが弾けた。
「好きよ」
途端、頬に涙が伝わった。彼の呆けたかのような表情を見て、さらにそれが増す。
「私、工藤君が好きだわ」
鎖が切れた。想いがあふれ出した。もう、とまらない。
「…おぃ、灰原お前「ずっと」
彼の言葉を遮って。
「ずっと好きだった。……駄目だと思っていても」
「灰原、もうそれ以上…!」
ベッドに彼を押し倒す。そのまるで驚いたような顔を見て、私の鎖はあとかたもなくもなく消えた。
「貴方も私を好きでしょう?」
―もういい―
工藤君の驚きに固まったような顔を一瞬ちらと見て、私は自分の唇を相手のそれに重ねながら思った。
静かに流れる涙はそのままに、彼の上から身を退かす。
「お休みなさい」
何も言わず、黙ってゆっくりと体を起こした彼に背を向け、ベッドから降りて部屋を出る。
バタンと閉めたドアの向こうから、音は聞こえて来なかった。
明日は、まるで何も無かったかのように振る舞おう。朝ご飯を作って、歩美ちゃんと学校に行って、帰ったら地下室に籠もって、夕飯を作って。いつもと同じ日常を。
彼がなにか言ったとしても、自分は何も知らないかのようにしなければ。日常を壊してはいけない。私が望んで、彼が与えてくれたこの暖かな毎日を、この手で破壊してはならない。
私も彼も一応は大人だから。このくらいなら出来るはずだから。もう二度と、この思いを表にださないように。
―それでも…―
駄目だ、また涙があふれてくる。
自室に戻った私は、崩れ落ちるようにベッドに倒れた。
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