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天本博士の怪奇な生活
作:坂田火魯志



第十話


                   第十話   ほれ薬
 天本博士の研究室に今日は珍しく来客であった。
「あんた早く帰った方がいいよ」
 見れば小さな可愛らしい男の子である。ライゾウが彼に言った。
「猫が喋ってる」
「そんなこと些細なことだから。それよりもここにいたらあんた何に改造されるかわかったもんじゃないよ」
「この前なんか魚に手足くっ付けてたしね」
「そうそう」
 タロの言葉に頷く。
「化け物にされたくなかったら帰りな」
「実は僕博士にお願いがあるんです」
 その子は勇気を出してこう言った。
「あの博士に!?」
「自殺したいの、君」
 ライゾウもタロもその言葉を真に受けるわけにはいかなかった。
「あの博士にお願いって」
「碌なことにならないよ」
「実は僕」
 彼は話しはじめた。何でもクラスに好きな子がいるらしいのだ。それで彼女が自分を好きになってくれるような薬が欲しいというのである。
「成程、ほれ薬か」
 ライゾウはそれを聞いて腕を組んで頷いていた。実に猫らしくない動作である。
「あの博士ってそんなの作れたっけ」
「何か訳のわからない劇薬とか変なのに変身する薬なら得意だったよな」
「どう考えてもそんな薬無理だよな」
「何が出来るのか」
「けれど天本博士って天才なんですよね」
 少年はすがるような目で二匹に問う。
「だからここに来たんですけど」
「けどお金あるの?」
「千円なら」
「千円か」
「ちょっとなあ」
「うむ、その心受け取った」
「ゲッ」
「噂をすれば」
 二匹の後ろに電光と共に博士が姿を現わした。相変わらず非常識な登場であった。
「そこな少年」
「はい」
 少年は突然現われた博士に顔を向けた。突然だったのであからさまに驚いている。
「金のことは心配するな」
「本当ですか!?」
「うむ、この前アメリカの農務省に良い農薬を売ってな。金は今は充分にある。気にするな」
「有り難うございます」
「それってあの農薬だよな」
 ライゾウが話を聞きながらタロに囁く。
「ああ、あの枯葉剤の三百倍の威力の」
「絶対農務省ってのは嘘でペンタゴンに行くよな」
「うちの防衛庁に断られたからって。全く」
 そんな二匹の囁きは博士にすがりたい少年の耳に入ることはなかった。かくして博士は少年の願いを受け入れてほれ薬を作ることになったのであった。


第十話   完


                   2006・8・22







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