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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇
作:坂田火魯志



第二十七章


「塔だったわね」
「はい、文句なしの最悪です」
「ヒントにも何にもなりはしないわね、正直」
「ですが必ずヒントは何処かにある筈ですが」
「それを探し出せということね」
「ではまたカードを引いてみますか?」
「それで何かわかるのならね」
 沙耶香は答えた。
「引いてみて」
「わかりました。では」
 沙耶香の言葉を受ける形でまたカードを引いた。そこに出て来たのは女教皇の逆であった。
「これは」
「カードから何か感じるかしら」
「女性ですね」
 速水は答えた。
「それも知的な」
「知的」
「はい、それに隠れているということでしょうか」
 彼は言った。
「そうしたものを感じます」
「女教皇本来のものとは少し違うみたいね」
「違いはしませんがこれは」
 速水は引き続いて述べた。
「これは?」
「濁った感情も見えます」
「女性特有の」
「そうですね。そうした意味で確かに女性的です」
 女教皇は女帝と並ぶ女性的なものを象徴するカードである。女帝が母性を象徴しているのに対して女教皇は女性的な知恵等を表わすのである。それが逆になったならばヒステリーや過剰な潔癖等女性が陥り易い精神的なものを表わすようになるのである。
「ただ。これだけではどうにも」
「そうね。掴めないわ」
 沙耶香にもそれがわかりかねていた。
「最初のケルト十字だけれど」
「はい」
 そこにも話が及んできた。
「ある程度わかってきたわね」
「そうですね。まず一枚目は」
「この事件が正直かなり運命的なものであること」
「はい」
「そして二枚目だけれど」
「教皇の数字ですね」
「そう、それは五」
「五色の薔薇を使ったものでした」
「見事に当てはまっているわね」
「そして三枚目も」
「あれは言うまでもなかったわ」
 星の正である。二人は満足いく解決を目指していたのだから。それは既に大きく破綻してしまっているが。
「月の正も」
「そうね、見事にね」
 これもまた。二人は今事件が解決出来ず不安定な状況に陥っている。
「六枚目と七枚目も」
「当たっています」
「その塔の逆ね。最悪ね」
「はい」
 既に四人。残る一人は誰なのかといった有り様であった。リーチがかかっているのだ。
「しかもそれに対して私達は袋小路」
「その通りです。私の占いは当たります」
「そちらの方の腕もまた上げたわね」
「有り難うございます」
 これは占い師にとっては褒め言葉であった。
「こちらでも名前を知られているのですよ」
「私はそちらではあまり聞かないけれど」
「いえいえ、雑誌でも連載を持っていますし」
 速水は笑いながら述べた。
「これで中々売れっ子なのですよ」
「その売れっ子が示してくれているのだから安心していいのね」
「是非共」
 速水は右目と口でにこやかに笑ってそう返した。
「そして八枚目ですが」
 そのうえで話を戻してくる。
「それは言わなくてもわかるわ」
「魔性ですか」
「そう、相手はね。ただここで気になるのは」
「まだわかっていない残り三枚のカードの結果」
「五番目と九番目、そして最後の十番目で」
「ええ。ただまず十番目は置きますか」
「そうね。それは最後の結果だから」
「それでは」
「五番目と九番目ね」
「実は私にもわかりかねているのです」
 速水は今さっきの言葉を早速自分で否定してしまうような言葉を口に出した。
「恋人の逆」
「それね」
「実っていないのなら私達も同じですが」
「これが占われたのは事件が起こる前だから」
「必然的にこれは犯人の側に向けられたものになります」
「今まで実っていなかった」
「犯人には長い間望んでいた欲求があるようですね」
「だとすると一体」
 だがそこまでは到底わからない。二人はそもそも犯人の尻尾すら掴んではいないのだから。それでわかるという方が無理な話なのである。







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