ファースト・・・
学校のチャイムが鳴る。
チャイムには2種類あって、始まりのベルと終わりのベルがある。
もちろん自分は終わりのチャイムが好きなのだが、特に1日の終わりを告げるあの音が好きだ。
今の季節は陽が短くなり、恐ろしく紅い夕焼けが校舎を照らす。
「こんなとこに居たんだ。」
セーラー服を着た髪の長い少女が教室のドアに姿を現す。
「また一人でトリップしてる。」
くすくすと笑いながら自分の前にゆっくり近寄って、机を挟んで正面に立つ。
「そんなんじゃ・・」
むっ、とした表情をして言い訳をしようと思ったが図星だったので、そのまま横を向く。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙が落ちた。
いつもなら少女からいろいろまくしたてるのだが。
不思議に思い、ちらりと少女の方に視線をやる。
少女は窓の外をぼんやりと眺めて、「血の色みたいだね。」 と呟く。
その声が妙に大人びていたので、ドキリ と心臓がなる。
窓の外を眺めていた視線が自分の方を見据える。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
心拍数が上がり、体が熱くなったのを感じる。
夕焼けの朱に映る彼女の顔は恐ろしくきれいだった。
瞳を逸らせずにそのまま硬直していると、「きれいだね。」 と少女はとびきりの微笑を浮かべ、 ゆっくりと顔を近づけ彼女の唇を自分のそれに重ねた・・・・。
驚いたことに、その瞬間自分の心臓は落ち着きを取り戻したのだった。
「だからさー。」
ホームルームが終わったとっはいえ、教室にはまばらに生徒達が談笑している。
小沢は桃子の席の前の机に寄りかかり先ほどの件を話していた。
「余計なお世話。紹介してやるなんて。まるで私が男に飢えてるみたいじゃない。」
桃子は小沢をジロリ、と睨む。
「そういうんじゃなくってさ。おまえも男と付き合ったらちょっとは女らしくなるんじゃないかって。」
「そんなことあんたに心配してもらわなくって結構!それより自分の事をなんとかしたら?」
切り返され、「うっ。」と言葉につまる。
隣には当の真奈美がいるのだ。
頬を赤くして、「だから無理だって言ったんだよ。」 とぶつぶつ独り言を言いながら教室を出て行った。
「まったく、何考えてんだか。」
「そうだよねー、桃子ちゃんにはちゃんとした想い人がいるんだもんね。」
真奈美が意味深な笑顔を浮かべている。
親友がこんなにもこの手の話題が好きだなんて思わなかった。
今まで恋ばなのような類の話は桃子には無縁だったから知る由もなかったのだが。
「だから、なんで私があの先生の事を好きだなんて思う訳?」
桃子は うんざり といった風に首を廻す。
「だって桃子ちゃん、昨日の帰り際先生の事を切なそうに見つめてたじゃない。私、桃子ちゃんが男の人あんな瞳でみつめるのなんて見たことない。」
真奈美は真剣な顔をして熱弁している。
「どんな瞳よそれって。」
桃子は自分が少女漫画のヒロインのような目をしている所を想像して背筋が寒くなった。
「あ、タイムリー。武田先生だ。」
「まさか。」
と言いつつ、真奈美が指さした方(窓の外の校庭の花壇)を見た。
そこには、花壇に這いつくばり何かを凝視している風の武田先生がいる。
(また、何やってんだろ)思わず噴き出してしまう。
じりじりと花壇の中に入っている所に、桃子の担任の園田が慌てた様子でやってきた。
少し花壇を踏んでしまったのだろう。ガミガミと何か言われて、武田先生はしゅん、となっている。
桃子が笑顔でそれを眺めていると、「そんな瞳」 と言って、真奈美は桃子を見ている。
友人にひとり笑いを見られて、珍しく頬を赤くする。
「これは別に恋をしてるからじゃなくて、あの先生が面白いから。」
「ふーん。」
真奈美は納得してない様子で横目で桃子を眺めた。
それを気にする風もなく、桃子はまた窓の外に視線を移した。
外では長身の背中を小さくして、まだ園田からのお説教を受けている武田先生がいた。
窓からはもう秋だというのに、まだ温かい風が教室にながれこんできた。
|