人生がリセット出来たら、どんなに良いだろう。
誰もが、考えるだろう。
そんな事を一生で、一体何度考えるだろう?
人生なんて、後悔だらけなのだから。
「建!ゲーム片付けなっ!」
「優が片付けといて〜!」
『建』とは、私の弟だ。『優』は私の名前。
建はそう言って、家を出て行った。
(自分が出した物くらい自分で片付けろよな…。)
そう思いながら、建の出したゲームを片付ける。
(しかも、点けっぱなしかよ…。)
呆れながら電源を切ろうとする。
その時、目に留まった『リセット』と書かれたボタン。
人生がリセット出来たら良いのに…。
そう思って、私はリセットを押した。
電源を切ると私はある異変に気が付いた。
部屋が、いつもと違う。
そして、あの子が居た…。
「優ちゃん!」
「有希ちゃん…。」
どうして、どうして、有希ちゃんが居るの?
有希ちゃんは…私が、殺したのに…。
―10年前―
私が7歳の時だった。
私と有希ちゃんは、友達だった。
とても晴れた日だった。
私と有希ちゃんは外で遊んでいた。
「有希ちゃん、ボール投げるよぉ!」
「うん!!」
私はボールを投げた。
有希ちゃんはそのボールを取ろうとした。
でも、ボールは有希ちゃんの意思とは裏腹に、茂みに転がっていった。
「ごめん!!私取って来るから、優ちゃん待ってて!」
そう言って有希ちゃんはボールを取りに茂みへ入っていった。
私は待ってた。
ずっと待ってた。
けれど、有希ちゃんは帰って来なかった。
心配になった私は、有希ちゃんを探しに茂みへ入って行った。
暫く歩くと、有希ちゃんが履いてた赤い靴が落ちていた。
そして、有希ちゃんの死体を見つけた。
有希ちゃんの死は、事故として片付けられた。
あの日、私がボールを取りに行っていれば…
あの日、私がボールを投げなければ…
私が、有希ちゃんと関わらなければ…
有希ちゃんは死ななかった…。
私が…有希ちゃんを殺したんだ…。
「何で…何で居るの…?」
有希ちゃんは、あの日と変わらず、あどけない顔をしていた。
ふと、自分を見る。
すると、私もあの日と同じ姿に変わっていた。
(何で…?)
「優ちゃん、どうしたの?」
「有希ちゃん…死んだんじゃ…。」
「何言ってるの?死んでないよ!それより外、行こう?」
ボールを差し出して、有希ちゃんは笑いながら言った。
あの日と同じだった。
有希ちゃんが死んだ日と。
何もかもが、全く同じだった。
このまま外に行ったら、有希ちゃんは死んでしまう…。
だから、私は言った。
「私、外行きたくない。」
過去を変える為に。
有希ちゃんを死なせない為に。
「えぇ〜何で?」
「…今日、ちょっと気分が悪いから。」
とっさに嘘を吐いた。
「大丈夫?」
「うん大丈夫。今日は家で遊ぼう。」
「うん!」
とても、とても懐かしかった。
ずっとこの時間が、続けば良いと思った。
「優ちゃん、私そろそろ帰るね。」
窓の外は日も沈みかけ、辺りが翳り出している。
「うん。バイバイ!」
「また明日学校でね!!」
そう言って有希ちゃんは帰っていった。
突然、睡魔が私を襲った。
意識が朦朧とし、目を閉じた。
暫くして、目が覚めた。
窓の外が、微かに明るんでいる。
(朝…?)
周りを見渡すと、そこは私の部屋だった。
鏡を見ると、いつもの私。
(さっきのは…夢?)
手元にある携帯を手にする。
AM7:20 5/13(月)
そっか、夢だったんだ…。
落胆した。
有希ちゃんは、死んだままなんだね…。
(学校…行かなきゃ…。)
のそのそと仕度をする。
一回から、母の呼ぶ声がする。
「優!早くしなさい。有希ちゃんが来てるわよ!!」
(え…母さん、今何て…!?)
階段を下り、急いで外に出る。
玄関には、少し大きくなったものの、まだあどけなさを残した有希ちゃんが立っていた。
「有希ちゃん!!」
私は有希ちゃんに抱きついた。
「ちょっと、優!どうしたの?寝ぼけてるの?」
有希ちゃんが生きていた。
それがとても嬉しかった。
泣きそうになった。
私達は他愛も無い話をしながら学校へ行った。
教室の光景はいつもと変わらなかった。
ただ、有希ちゃんの存在が増えただけ。
ふと疑問に思った。
そういえば、有希ちゃんは死んだはずだった。
私は昨日過去に居た。
有希ちゃんを引き止める事で、未来が変わった。
私が過去に居たきっかけは…?
記憶を辿る。
…リセットボタン…?
もしかして…あのボタンを押したから…?
チャイムが鳴り、授業が始まる。
今日は、この間の小テストが返って来た。
100点満点中…58点…。
クラスの平均以下だった。
(ちゃんと勉強すれば良かった…)
…リセットを…押せば良い。
もしかしたら…また過去にいけるかも。
急いで家に帰った。
ゲームを引き出して、リセットボタンを押す。
気が付くと、部屋に居た。
携帯に目をやる。
PM5:30 5/6(月)
一週間前、つまりテストがあると知らされた当日に居た。
勉強した。
ふと考えた。
『一日経つと…また、現実に戻るんじゃないか?』と。
PM 11:50
突然の睡魔が私を襲う事は無かった。
しかし、ずっと起きており、眠い事には変わりない。
布団に入り、眠った。
朝、起きる。
携帯を開くと AM 7:20 5/7(火)
現実に戻る事は無かった。
何時もの様に学校に行く。
勉強した成果があったのか、テストの出来は良かったと思う。
そして、また突然の睡魔が私を襲った。
気が付くと教室に居た。
黒板には『5/13』の日付。
私の手には、100点のテスト。
辺りは既に暗く、私は急いで帰った。
これで、解かった事がある。
それは、後悔がないと過去に戻れない事。
後悔が無くなれば、現実に戻る事だった。
つまり、やり直したい事がいつでもやり直せる。
その日を境に私は変わった。
やりたくない事を、何もやらなくなった。
一学期も終わり、終業式当日となった。
通知表が帰って来る。
成績はとても酷く、目も当てられぬ物だった。
ほとんど、1と2。
良くても精々3だった。
原因は、課題の未提出。
テストの赤点。
忘れ物。
授業をサボる、など、数え切れない位あった。
私は家に帰ると、急いでゲームを引き出した。
そしてリセットボタンを押した。
私は期末テストの初日に居た。
一度解いて、解説も聞いた問題。
簡単だった。
2日目も、3日目も、テストは楽勝だった。
そして、睡魔に襲われ、気が付くと、終業式の日の学校。
つまり現実に戻っていた。
同じ一日をもう一度繰り返す。
でも一つだけ違う所、それは成績がうんと良いものに変わっている事だった。
そして、夏休みになった。
私は課題もせずに、毎日友達と遊んだ。
そのおかげで、夏休みが半分終わる頃には、お小遣いも底を尽きていた。
そして、ある日、友達の薫に買い物に誘われた。
行きたいが、金がない。
そういったら、薫はこう言った。
『私だって、今月ピンチだし。万引きするんだよ!』と…。
面白そうだ。
そう思い、私は薫と駅前のデパートへ行き、その中の本屋へ入って行った。
「周りに監視カメラがないか、よく調べるんだよ。」
薫は小声で言った。
そして、私達は欲しい本や漫画を手に、カメラが無く、人の少ない所へ行き、自分の鞄へ本を隠した。
そして、何も無かった様に、歩いて本屋を出た。
バレないか、と、とても不安だった。
万引きはバレなかった。
誰にも見られていなかった。
私は、万引きをした時のスリルが忘れられなかった。
そして、私は万引きを繰り返す様になった。
夏休み中、毎日のように、薫と万引きをした。
偶には一人で、偶には薫の友達数人と供に、万引きを繰り返した。
ある人が見ていた事を知らずに…。
夏休みが終わる頃には、万引きを止められなくなっていた。
明日から学校が始まる。
けれど課題が全然終わっていない。
唯一やっていた物と行っても読書感想文位だ。
私は、またゲームを引き出し、リセットを押した。
私は、夏休みの初日に居た。
私は急いで課題をした。
一日に一つの課題を片付ける事をメドに、課題をこなして行く。
そして、二週間後には、課題は全て終わった。
睡魔に襲われ、眠りを経て、現実に帰って来た。
机の上にあった課題は、全て終わっていた。
学校が始まった。
一学期中、私は殆んど有希ちゃんと一緒に毎日を過ごしていた。
でも、最近はずっと、薫達と行動している。
ある日、私は放課後、有希ちゃんに会った。
「優ちゃん…。」
「何?」
私は急いでいた為、少しいらだちながら答えた。
「あのね…私、見ちゃったんだ。優ちゃんが万引きしてるところ…。」
驚いた。
誰も見ていないと思っていた。
有希ちゃんが見ていたなんて、知るよしもなかった。
有希ちゃんが私の肩を掴んで言った。
「ねぇ、薫ちゃん達と行動するの、止めなよ。優ちゃんがダメになっちゃう!」
「…るさい…。」
「え…?」
「うるさいって言ってんの!あんたに関係あんのかよ!!」
そういって私は有希ちゃんを突き飛ばし、走った。
「優ちゃん…。」
有希ちゃんは悲しそうな顔をし、その場で泣き崩れた。
私はすぐに家に帰らなかった。
イライラする。
私はイラつきを解消しようと、万引きをする為に近くの雑貨屋に入った。
一番近くにあった、小さな石の付いた指輪を手に握り締め、急いで店を出た。
「君、商品の会計を済ましてないよね?」
後ろから声がした。
逃げようとしたけど、手を掴まれ、逃げられなかった。
その後、警察を呼ばれ、母さんが迎えに来た。
帰る途中、何も話さなかった。
家に帰ると、父さんに頬を打たれた。
「お前は何をしたかわかっているのか!?お前は我が家の恥だ!!」と。
『反省しろ』と部屋に入れられ、外側から鍵を掛けられた。
罪悪感など、何も無かった。
只々、イライラが募るばかりだった。
朝になると、戸は開くようになっていた。
誰とも顔を合わせたくなかった。
だから、ギリギリの時間に家を出た。
学校に行く途中、有希ちゃんを見た。
何か言いたげだったけど、無視した。
学校に着き、昇降口で靴を履き替える。
でも、上靴が無かった。
仕方が無いから、職員室でスリッパを借りた。
教室に向かう途中、すれ違う生徒から、一々忍び笑いが聞こえる。
遠くの生徒は、指を指し、ヒソヒソと話をしている。
教室の前に立った。
ざわざわと騒がしい教室。
私は扉を開いた。
突然、教室がシンと静かになった。
不思議に思いながら、自分の席に行く。
私の机上には、『泥棒』『死ね』『最低』などの罵詈雑言が飛び交っていた。
皆、私を見てクスクスと笑っている。
一人の子が後ろから、私に言った。
「万引きなんて最低だね、死ねば?」と。
クラスに忍び笑いが満ちた。
とても、とても耐えがたかった。
私は荷物を置くとトイレに入った。
万引きしてた事…ばれたんだ。
数人の足音と、話声が聞こえた。
話声の中に、薫の声があった。
突然、頭上から水が降って来た。
何が起きたか解からなかった。
理解できた頃には、始業のチャイムが鳴っていた。
私は屋上へ行った。
あの水は、薫達がやったんだ…。
声を押し殺し、泣いた。
友達だと思っていたのに…。
泣きつかれて眠っていたのか、起きた頃には日は沈んでいた。
私は、教室に入り、鞄を取って、家へ帰った。
家には、まだ、誰も帰ってなかった。
私は、ゲームを引き出した。
もし、あの時、万引きしていなかったら、薫達とは友達で居れたかな…?
リセットを押した。
私の前には有希ちゃんが居た。
「ねぇ、薫ちゃん達と行動するの、止めなよ。優ちゃんがダメになっちゃう!」
昨日と一緒だった。
『うん。』と言おうとした。
しかし、それとは裏腹に、口にした言葉は、あの日と同じだった。
「…るさい…。」
「え?」
「うるさいって言ってんの!あんたに何が解かるんだよ!!」と…。
そして、気が付くと私は、有希ちゃんを突き飛ばしていた。
必然的に、有希ちゃんは車道に倒れこんだ。
車が有希ちゃんを目掛け、走ってくる。
車は、急には止まれない。
人も、急には反応することは出来ない。
有希ちゃんは、車に轢かれた。
「有希ちゃんっ!!!!」
有希ちゃんに駆け寄った。
有希ちゃんは、まだ意識があった。
「有希ちゃん!!」
「…優ちゃん…、私…優ちゃんに…言いた…い事が…あ…るん…だ…。」
「何…?」
「私を…生かせ…て…くれ…て…あり…がとう…。未来を…変えてくれ…て…ありが…とう…。」
有希ちゃんは、私が過去に行って未来を変えた事を知っていた。
「有希ちゃん…。」
「優ちゃ…ん。楽し…かった…よ…。バイバイ…。」
その言葉を最期に、有希ちゃんは死んだ。
私が殺してしまったんだ。
幼かったあの日より、とても残酷な方法で…。
私は走って家に帰った。
急いでゲームを出し、リセットを押す。
しかし、何も起こらない。
「何で!?何でなの!!?」
何度も、何度も、リセットを押す。
でも、何も起こらなかった。
泣いた。
そして、悔いた。
有希ちゃんを突き飛ばした事を。
あの日、有希ちゃんの言葉に、素直に耳を傾けなかった事を。
万引きをした事を。
『やり直せるから』と、軽はずみにした全ての悪行を。
有希ちゃん…。
私が有希ちゃんを殺したという過去から、現実に帰る事は無かった。
有希ちゃんが死んだ次の日。
その日は、私はあからさまに分かるいじめに逢った日。
でも、変わった。
私はいじめに逢う事は無かった。
確かに、願いは叶った。
最悪の形で。
薫とは、十年たった今でも仲は良い。
今でも時々、やり直せるんじゃないかと、リセットを押す事がある。
でもやっぱり何も、変わらない。
ある日、私の元に手紙が届いた。
手紙を開く。
手紙は、ありえない人物からだった。
有希ちゃんからだった。
手紙の下に書いた日付は十年前の物だった。
―優ちゃんへ―――――――――――――――――――――――――
優ちゃんがこの手紙を読んでるのは、私が死んだって事だね。
私ね、知ってたんだ。
十年前、私が本当は死ぬこと。
けど、優ちゃんがその未来を変えてくれた事。
何で知ってるかは…教えてあげない!
私だけの秘密だから。
優ちゃん、ありがとう。
私は、優ちゃんに正しい道を生きて欲しい。
だから、言います。
万引きは止めようね。
そして、薫ちゃんも正しい道を歩ませてあげてください。
無神経で、おせっかいかもしれないケド、
これが、私の精一杯の恩返し(?)です。
優ちゃんは、ちゃんと生きてね。
私が死んでも、真っ直ぐに生きてね。
優ちゃんはいつまでも親友だよ!
大好き!!
最期に、もう一度…
私を生かしてくれて、ありがとう。
H.16 9月16日
―――――――――――――――――――――――――――――――
小さな文字でそう綴られてあった。
私は、静かに涙を流した。
「ありがとうって言うのは…私の方だよ…。」
有希ちゃんは、いつでも私の事を考えてくれてたんだね。
私、有希ちゃんに何もしてあげられなかったよ…。
有希ちゃん、私は今、正しい道を歩んでいるかな?
真っ直ぐに生きているかな?
有希ちゃん、大好きだよ。
私は、ちゃんと前を向いて生きて行くから…。
ありがとう、有希ちゃん。
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