盲目の彼?PDFで表示縦書き表示RDF


序盤は大暴れしてます(笑)
盲目の彼?
作:春野夜風


 突然ですが、彼は目が見えません。彼というのは私の学校の先輩。向日葵むかひあおい。ヒマワリではない。自分で言うのも少し悲しくなりますが、友達以上恋人未満、幼なじみな関係です。かという私は秋桜百合あきざくらゆりっていいます。私はコスモスでもなければ、百合な趣味もないのでその辺はよろしく。

「なぁコスモスよ。夏休みだというのに何故オマエは毎日の如く僕ん家にいるのだ?」

 おっす! オラ向日葵! 立ち位置は一応この話の主人公ってことらしいからよろしく! ちなみに目が見えない設定だぜ! 何かテンションがおかしいぜ!

「誰がコスモスか!」

「じゃあレズビ「死ね!」

 相変わらず良いパンチだ。

「君の攻撃などお見通しさ。当たらなければ意味はないのだよレズビ「なんで当たらないのよ!」

 今度は蹴りできたか。しかし、スカートをはいているのにハイキックとは如何なもんか。

「2度も同じことを言わせるなレズビ「しつこい!」

 今思ったのだが、カクゲーみたいな動きになってるぞ。百合のローキックを跳んで回避。すかさず着地。

「何が不満なのだ? では、仕方ない。君に選択肢をやろう。君に用意された選択肢は2つ。僕にコスモスと呼ばれるかウルト○マンと呼ばれるかだ」

 ふと思ったのだが、コスモスって何代前だろうか。

「どっちもイヤよ! てか、アンタ目が見えてないのに何で当たらないのよ! 実は嘘なんでしょ! 盲目設定を軽くぶっとばしてんじゃないわよ!」

 やれやれ、困ったお姫様だ。

「ではレズビ「まだ言うか!」

 おぉ! 回し蹴りか。まぁ当たりませんが。と思ったら回し蹴りの遠心力を利用した裏拳への連撃派生か。お見事。まぁ当たりませんが。

「まったく…これしきのことで暴力に訴えるとは…はしたない」

「誰のせいよ!」

 こんな攻撃なんて目を瞑っても避けるのは容易い。まぁ、どちらにせよ見えませんが。

「それにそんなに足技ばかり使って…サービスのつもりか? ウルト○マンからサービス担当の桃レンジャーにでもなりたいのか? ちょっとしたアピールか? しかし僕は目が見えない。残念ながら君のパンツはサービスたりえない。そして今気付いたが、サービス担当は敵の女幹部だと思う」

「こんのセクハラ魔神が!!!!」

“ヒュン!”

 ついに音速を超えた蹴りを修得したか。まぁ意味はありませんが。

「まぁいい。とりあえず落ち着け。君は何をしにきたのだ? まさか殴り合いで青春しにきたわけではないだろ?」

 コスモスの蹴りを左手で捕獲。僕の右手で百合の右腕を捕獲。そして軸足払い。バランスを崩したところで腕を引っ張る。重要なのは軸足払いをする直前に蹴りを繰り出した足を解放しておくこと。そうすると、あら不思議。コスモスが僕の胸に飛び込んできたではないか。

「これなら抵抗出来ないだろ。さぁ、用件を聞こうか」

 どっちかというと抵抗してたのは僕か。まぁどーでもいーねー。

「べ、別に、暇だから来てるだけよ」

「まさかトゥンデレとは…たまにはやるじゃないか。まぁ、今は置いておくとしよう」

 百合は葵の胸に顔を埋め、顔を赤くしていた。端から見たらイチャこいてるようにしか見えない。これで付き合っていないというのだから世の中不思議だ。

「わざわざ僕のところに来なくても他にも友達いるだろうに。それに、本当のことを言うことをオススメする」

 目が見えなくなった代わりに彼が手にいれた能力。一つは聴力。目が見えた頃より明らかに良く聴こえるようになった。もう一つは人の心を読み解く能力。心の声が聴こえるなどといった超能力じみたものではない。人の心の動きを敏感に察知できるようになったというものだ。一種の洞察力。

「邪魔なら帰るわよ」

 解放された百合は葵が発した言葉に腹を立て、カバンを持って部屋を出た。

「まぁ待て。まだ話は終わっていない」

 出たつもりだったが、葵に腕を捕まれる。

「何よ!」

「何処か遊びに行きたいならどうして僕のところに来たんだ? 僕と外に行くのは容易じゃないってわかってるはずだ」

 百合の攻撃を容易く避けていた葵だが、外に出るとなると話は別。再度言うが、彼は盲目だ。

「そう言われると思ったから言えなかったのよ…」

 彼女の表情に影がさす。

「あのなぁ、僕は気にしないけど、そういう軽率な行動は結構な確率で僕のような人を傷つける。気をつけた方がいいぞ」

「ご…ごめんなさい…」

「僕は気にしないって言っただろ? それに、コスモスが良いなら僕も何処かに行きたいし」

「誰がコスモスよ!」

「そうだ。君はそうやって元気な方がいい。さぁ、笑え。笑顔は皆が幸せになれる。そうあるために存在している筈だ」

「アンタは相変わらずお人好しね…どうして私にそんなに優しいのよ…」

 せっかく影が消えた彼女の表情に再び影が。それは二人の過去に起因するもの。だが、今はまだ話す時ではない。

「僕が優しい? 君は面白いことを言うねぇ。僕が本当に優しい人物なら君との縁は切っているよ」

 彼は笑っていた。それが何なのか彼女にはわからなかった。

「どういうこと?」

「君は素敵な人だ」

「い、いきなり何を言ってるのよっ!」

 百合はまたもや顔が真っ赤だ。純情まっしぐらですか?

「頭が良くて優しくて、スタイルも良くて、顔も可愛い部類に間違いなく入るだろう。さらに、謙虚で人当たりが良いところなどを見ると性格も良いと見受けられる」

 分析結果を述べる学者のように淡々と言う。

「そんなことな「君なら『そんなことはない。買い被り過ぎだ。自分はそんな立派な人間じゃない』と答えるだろう。しかし、それは自信が持てず、自分を否定しているにすぎない。自分を一番良く知っているのは自分であり、他人だ。自分のことを全て把握している人間なといやしない。もう一度言うが、君は素敵な人だ。少なくとも僕はそう思う」

「それが…何だって言うのよ…」

「君から自信を奪ったのは……僕だ。今になっても思う、あの時もっと上手くやれていれば…。と。そして…僕のことなど忘れさせてやれば楽にしてやれるのに。と」

 それでも彼は彼女を側に置いた。自分の我が侭で彼女を傷つけ続けている。

「結構、何が言いたいのよ…」

「目が見えなくなって色んなことが分かるようになった。僕は自分勝手でも一人じゃない。…僕は幸せ者だってことだよ。でも、僕が君の心に鎖を掛けているのも事実。楽しいと感じてくれていることを祈るだけさ」

 ・・・

 束の間の沈黙。

「いつまでもシリアスなのは君には似合わないな。さぁ、僕を何処かに連れていってくれるんだろ? なら今日は双方楽しもうじゃないか」

 彼女に手を差し出す。外に出るならそうした方がいいから。

「どうして私がアンタをどっかに連れて行くと思うのよ」

「君はそういう人さ。僕はそう思うよ」

「まったく…あんたには敵わないわ」

 彼女は彼の手を取り、家を出る。

 ───

「ねぇヒマワリ」

 今は夏休みなだけあって、結構な人の量だ。繋ぐ手の力も一層強くなる。

「ん? 何かな?」

 彼は彼女が強く手を繋ごうともそのままだ。

「目が見えない人って杖とか持ってるイメージがあるんだけど、なくても何とかなるもんなの?」

 彼女が言うように彼は杖を持っていなかった。普通ならあり得ない。

「杖があったら人は自然と避けてくれるし、障害物があったらわかるし、逆に持って無いと確実に事故るね」

「じゃあ持ってないとダメじゃない!」

 急いで家に引き返そうとする百合。

「無くても大丈夫だよ。僕は君のことを信頼してるからね。僕が杖を持たないのは君と出かける時だけだよ」

 こっぱずかしいセリフを平気で言えるコイツは策略家なのか天然なのか…。

「ま、ますます緊張してきた…」

「そうか。君が恐がるという可能性を考えていなかった。これは失礼した」

 何処からか杖を出す。ちなみに、何処から出したというツッコミは無粋というものだ。

「その杖どっから出したのよ…」

 それでもツッコむ彼女はマジョリティー。

「杖って役に立つんだけど、結構邪魔なんだよねぇ」

「無視かい!」

「痛い! 暴力は良くないよ。杖くらいいつでも持ってるさ」

 頭を叩かれる葵。

「…何でいつもみたいに避けないの?」

 そう。いつもの葵なら彼女の攻撃などいとも簡単に避けて反撃を繰り出す。

「君はそんなとこだけ鋭いね…。家の中と雑踏の中だと状況が全然違う。下手なことをすれば事故にあう。正直に言うと、この手が離れてしまうのが怖いんだ」

 さっきまで一方的に握られていただけの手に力が入っている。

「絶対離さないから安心して」

 家の中ではあんなに自由に動きまわっていた彼が外ではこんなに弱くなっている。状況というものはこれほどまでに人間を変えてしまうものなのだ。

「情けない話だが、外に出るのは慣れてないんだ」

「私がしっかりエスコートするから」

「それはそれで情けない話だ…」

 男のプライドもなにもあったもんじゃない。

「ねぇ、今更なんだけど…楽しい?」

 彼は外は怖いと言った。なら、外に連れ出しても何も楽しくないのではないかという不安が生まれる。

「そうだねぇ…。僕は基本的に君がいれば何処でも楽しいよ」

「え!? そ、それってもしかして…」

「君ほど楽しい人は今まで見たことないしね」

 百合ちゃん撃沈のようです。

「まぁそうだよねぇ…。いっつもおちょくられて楽しんでるもんねぇ…」

「君こそ僕と一緒にいて楽しい?」

 彼と一緒にいても出来ることは物凄く少ない。視力を必要とされるものはほとんどできないのだ。

「楽しくないならわざわざ夏休み中入り浸ったりしないわよ」

「そうか。なら良かった。これからも一緒にいてくれると嬉しい」

「なっ!? それはもしかすると…」

「君ほどイジリがいのある人はいないからね」

 百合ちゃん残念!

「アンタねぇ…乙女心を踏みにじって楽しい!?」

「え!? いきなりどうしたんだよ!」

 彼は天然のようです。

「私の反応見て遊んでるの!? それは性質悪いわよ!?」

 彼女はフンと鼻を鳴らせて行ってしまった。

「どうして怒ってたんだろうか…。やっぱり僕といたら古傷が痛むのだろうか…。やはり嫌々だったのだろうか…」

 タイミングが悪すぎたとしか言い様がない。今のタイミングで彼女が怒りだしたのはとても良くない。希望を掴んだ彼を絶望に叩き落としたも同義だった。

「どうやって帰ろう…」

 知らぬ場所。知っているのかもしれないが、わからない。携帯はあるが、彼が連絡出来るのは病院・両親・百合の4択。両親は仕事。病院にかけるようなことではない。百合にはもう頼れない。立ちすくむしかなかった。

 ───

「ハァ…勢い余って置いて来ちゃったけど…」

 今更戻るのも気恥ずかしい。

「杖があればまぁ帰れるだろう。せっかく来たし適当にぶらついて帰ろ…」

 彼女は大きなミスをしてしまった。今はまだそれには気づかない。

 ───

 何時間経っただろうか。今何時だろうか。近くを通った人に道を尋ねてみた。しかし、3つ目の曲がり角とか言われてもよくわからなかった。下手に動きまわらない方が良いだろうと判断してずっと同じ場所にいる。近くに座れそうな場所を見つけたのが唯一の救いだ。

「かなり涼しくなってきたから夜だろうか」

 何処だかわからないが、ずっと同じ場所に座っているのはさぞかし怪しい人に見えるだろう。

「困った…警察のお世話になるしかないのかな…」

 そんなことを考えているとき、ポケットの携帯に着信が。

 ───

「やっぱり謝らなきゃ。勝手に帰ってきちゃったし、ヒマワリも帰るのに苦労しただろうし…」

 数回の着信音。

『はい。もしもし?』

「…私だけど…」

 やっぱり気まずい…。

『今日は何か怒らせちゃったみたいでゴメン』

 私が一方的に怒ってただけなのに…。

「私こそ…勢い余って逃げちゃってごめんなさい…」

『それはいいんだ。僕のせいみたいだし。それより、今何時?』

 嫌な予感がした。

「…え? 今…何処にいるの? 家にいるよね?」

『君とわかれたところだけど?』

 …あんなところにずっといた? 今までずっと…? 何時間経ってると思ってるの?

「…どうして帰らなかったの?」

『情けないことに帰り方がわからないんだ。警察とか呼ぶようなことでもないし』

「い、今から迎えに──」

 受話器の向こうから誰かの叫び声が聞こえてきた。電話はそこで途切れた…。

 ・・・

「…え? 嘘でしょ…?」

 心臓の鼓動が速くなる。緊張が走る。嫌な汗が止まらない。

「でも…あそこは…」

 彼らが分かれた場所。そこは車の通りが激しく、事故が多発している場所だった。

「急がないと…」

 ───

「これは…そんなのって…」

 急いで駆け付けた先。そこには真っ赤な血だまりが。

「また…また私のせいで…」

 今度は彼女がそこから動けなくなった。彼の姿はなく、警察が事情を聞いてい
た。そこに座っていた誰かが飲酒運転車に突っ込まれたらしい。

「そんな…」

 彼の目が見えなくなった理由。それは、彼と彼女がまだ幼かった頃、不用意に車の前に飛び出した彼女を救うため、車道に飛び込んだことにある。車と接触することは回避出来たが、彼は頭を打った。当時は何もなかった。しかし、ある日を境に彼の視力がどんどん低下しだした。そして遂には光を失った。
 彼は、彼女の命の代償としては安いものだ。と言いきった。
 彼が何と言おうとも彼が視力を失ったのは彼女のせいだ。大人どうしの醜い争いもあった。彼女は自分の犯してしまった過ちに潰されそうになったこともあった。彼はその全てから彼女を守った。彼にはそう出来るだけの能力があった。彼はやろうと思えば何でも出来た。
 彼が彼女を縛っていたのではなかった。彼女が彼を縛っていたのだ。彼に守られていなければ彼女は生きていられなかった。彼は彼女を守っているうちに他を失っていた。

 ───

「ここは何処だ…」

 彼が目覚めたのは病院のベッド。身体中に痛みが走る。

「病院か…」

 身体は包帯でグルグル巻きだった。

「これは…誰だ…」

 長い黒髪。細い腕。おそらく女性だろう。その人が椅子に座り、ベッドに伏せになって眠っている。

「…いや、ちょっと待て」

 彼は一度目を擦る。

「やっぱり……目が見える…」

 事故が原因で視力を失って、事故で視力を取り戻すとは…皮肉なもんだ。

「それより彼女は誰だ?」

 母ではない。悪いがこんなに瑞々しい肌じゃない。とすると…

 ・・・

 コスモスか!?

「オイ、起きろ」

 顔を見ると随分と青白い顔をしていた。

「コイツは…何て状態で病院来てんだ…」

 いや、逆に病院だから体調悪くて当然なのか?

「とりあえずナースコールだな…」

 ───

「さて、落ち着いたか?」

「はい…落ち着きました…」

 あれから看護師に自分の様態を確認したところ、3日ほどずっと寝たままだったらしい。それはそれと、百合を自分のベッドに寝かせ、点滴をうち、目が覚めて葵の顔を見た瞬間こっちが引くくらい泣きだした。で、目が見えるようになったことを説明するとまた泣きだしてと大変だった。

「そ、それよりどうして急に視力が回復したの?」

「僕にもわからないんだけど、先生は事故で頭を打ったせいじゃないかって言ってた。やっぱり百合には感謝しないとな」

「そんな! 私のせいで右足骨折したし…全治2ヶ月だし…。って今、百合って言った!? 言いました!?」

 …そんなに何を驚く?

「いつも呼んでたっしょ?」

「いつもコスモスとか君とかばっかりだったよ!」

 そうだっけかなぁ?

「まぁいい。気にするな」

「何か釈然としない…」

「寝不足なんだろ? まだ寝てるといい」

「ん。そうさせてもらう」

 さてさて、目が見えるようになったことだし、これからどうしようかな。






おしまい


何やらユニークアクセスが500を超えていました。
嬉しい限りです。

評価・感想いただけると感謝感激です。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう