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夜の服着た天使

作者:仕神けいた
ニンゲンは、だれも僕の存在に気づかない。

朝も、昼も、夜さえも忙しく生きている。
理性に固められ、自らの鎖で拘束し、死ぬまで自由を許されない。
自分で生きているんじゃない、自分で自分を生かしてる。

けれどもそんなニンゲンも、ほんの一瞬だけ見せる。
最後の力を振り絞りニンゲンの儚い命の輝きを。

僕はニンゲンは好きじゃない。
最後の輝きだけは、好き。
だってそれは、幸福。
だけどそれは、悲哀。
そしてそれは、恐怖。

その輝きはどれも、最後の最後に見せる、生きている証。

僕はその輝きが好きで、うらやましい。
だって僕はヒトじゃない。
そして、だからこそ奪うんだ。

とてもきれいな揺らめきを、集めて飾ってずっと見る。
ずっと今までそうだった。
そしてずっとこれからも。



「あなたはだあれ?」
 ある日、どこかの遊び場で、小さな子供が僕を見た。
僕の姿が見えるのか?
「あなたのカッコ、不思議だね。まるで夜のおほしさまみたいな髪の色」
お前もなんだか不思議だな。今まで僕を見たニンゲンは一匹もいなかった。
「わあ、あなたの笑顔ってとっても優しいのね」
 くるくるくると回って踊る。
 僕にその意味はわからない。
「あなたはとっても不思議ね。そう、きっとあなたは夜の服着た天使さまね」
テンシ? それも不思議な響きだな。
「ユウをおむかえにきてくれたの?」
ユウ……それがお前の名か。
 ユウはじっとこちらを見続けた。
お前は迎えを待っているのか?
「ユウね、もうすぐパパとママがおむかえにくるの。でもね、ユウはあなたにつれてってほしいな」
僕にはなんだかわからない。迎えはそんなに嫌なのか?
 ユウの瞳は泣きそうで、けれどもキラキラしていて綺麗だった。
「あはは、ユウはあなたが見えるのに、あなたの声は聞こえないの。ごめんね、ユウ一人でしゃべっててつまんないね」
いや、僕にはお前の声が聞こえる。つまらなくはない。
「やっぱり、あなたの笑顔はとてもきれいね。お名前が聞ければいいのにね」
 ユウはそっと僕の手に触れた。

どうしてだ……?

「こんなにちゃんと手をつなげるのにね。声だけ聞こえないのさみしいね」
どうしてだ、どうしてニンゲンに触れられる?

「ユウちゃーん、お迎えきましたよー」

「あ、ママ。パパ」
 ユウは遊び場の入り口を見る。
あれがお前の生みの親?
「お迎え、きちゃった」
 ユウの顔は寂しげになる。
「また会えるといいね」
……そうだな、僕もまたお前に会ってみたい。
「あのね、私ユウっていうの。また会えたらお名前教えてね」
『ああ、名前か。今度考えておく』
 ユウは、にこうっと笑う。
「へんなのー。お名前は生んでくれたパパとママがつけてくれるんだよ。じゃあ、またね!」
 ユウは小さな手を一生懸命振りながら去っていった。

――へんなの。お名前はパパとママが――

……僕の声が聞こえたのか?
 ユウの去った方を見る。
お前はいったい何なんだ?
 気づけば僕は、ユウの後を追いかけていた。そう遠くは離れていなかった。
 花壇の並ぶ歩道を、女の親に手を引かれながら歩くユウ。
 追いかけながら、僕はすぐに悟った。

 あれが生みの親であるはずない。
 見えるはずの血の繋がりが、あの三人には見えていない。
 もう少しで追いつく。

――ユウをおむかえにきてくれたの?

僕は、お前にとって何に見えた?

――でもね、ユウはあなたにつれてってほしいな

どうして僕に求める?

 三人が止まった。そして、なぜか僕も。

『ユウぅぅぅううう!!』

 どうして叫んだのかわからない。
 そしてその瞬間、僕は初めて時というものを感じた。



 歩道と車道を隔てる細長い花壇。ユウはそのへりを器用に歩いてた。
 女がトンと軽く、ユウを押す。
 よろけたユウは、押されたままに横へ転び、車の通る道に出た。
 目の前を巨大な車が走っていった……鈍い音と一緒に、小さなユウを空に高く舞い上げて。



――夜の服着た天使さまね



ああ、そうか。お前の言うとおり、僕は天使かもしれない。

 ユウはもう、こちらを見てはいなかった。
 僕の立ってる足元で、ただ、じっと空を見ているだけだった。

お前のために、名前を考えなくてはいけなかったのに。

 ユウの周りにニンゲンがどんどん集まってくる。
 どれもが僕を見ていなかった。
 なにもがユウの輝きを見ていなかった。

不思議だな……命の尽きたあとで輝くなんて。お前の輝きだけは今までのどれより綺麗だ。見えないやつらは哀れだな。

――あなたにつれてってほしいな

 ユウが夜の服と言ってくれた。
 僕はその裾で、そっとユウの輝きを包み込む。

勝手に騒ぐニンゲンに、これは絶対渡さない。

 誰も見えない輝きを、僕は奪って立ち去った。



 やがて夜が近づいて、僕の集めた輝きが、一つ二つと見えてくる。
 空に近い丘の上、僕は空を見上げてた。


……そうか、お前は一度、空を舞っていたな。

 昼間のことを思い出す。

既に舞い終えた空なら退屈か。それに一番綺麗なお前を、あれらと一緒にしてしまうのももったいない。

 僕はじっとユウを見る。

僕とずっと一緒にいるか?

 ユウはキラキラと輝いた。

僕もなんだかうれしいよ。

そうだ、名前を考えたんだ。
ユウにだけは教えるよ。

僕の名前は――

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