永久の命を目指すもの
プロローグ
俺は、もう我慢できなかった。
これ以上の猶予は無い。
軍の一個小隊が行方不明宣言を出され、そのニュースで新聞も何もかもが一色に染まってたとき。
俺は決意した。
第1章 臨床実験に参加する彼女
生命関連研究所、私立の研究所の研究員をしている俺は、不老不死の研究をしていた。
不老不死といっても、ファンタジーであるようなものではない。
魔法などを使わずに、そのことが可能かどうか、それを調べるために研究をひたすら続けている。
このときの妻は、俺の助手として、行方不明の宣言が出されてから手伝いに来ていた。
それぐらいの仲だと、俺はずっと考えていた。
論文を整えているとき、研究室に彼女が入ってきた。
「あの、ちょっといいですか」
「ええ、どうぞ」
彼女のことは、ちょっとしたうわさでしか聞いたことがなかった。
実際に出会ってみて、俺は一目で恋に落ちた。
こんなことは、理屈じゃ分からない。
だが、俺は表面上冷静を装って対応する。
「なんの用ですか」
「不老不死の実験の人がいるということを聞いたんです。臨床実験という形だとも」
「それで…」
その言葉で、何を言いたいかは大体理解したが、確認のために聞いておく。
「私も、その臨床実験に参加してもいいのでしょうか」
予想通りだ。
彼女は、兄が地球捜索部隊に選抜され、その後帰ってこなかったことで、精神的に傷を負っているはずだが、いずれ帰ってくるというその事が、彼女をその方向へ導いているのだろう。
「…最初に確認しておきます。この実験は超長期的に及びます。恐らく、1000年間はその効果を確認するために生き続けなければなりません。その覚悟がありますか」
彼女の目は、真剣に答えていることを示唆するはっきりした目だ。
「それが無いと思いますか」
俺は両手を挙げて言った。
「分かりました。では、この書類にサインをお願いします」
俺は臨床試験用の書類にサインを求めた。
彼女は最初からゆっくりと目を通している。
俺が使っている不老不死のやり方は、ガン化をさせるものだ。
がん細胞は、無制限に増えていく。
そのことを利用し、制限をかけながら緩やかに増やしていくことが出来れば、死滅する数と同じことになり、生命は危機にさらされないと考えたのだ。
他の人も、ウイルスを利用したり、そもそも不老不死が不可能ではないのかという研究をしている人もいる。
さて、勝利の女神は誰に微笑むのか……
第2章 実験
それから半年が過ぎ、基本的な検診もすべて終わりを迎え、いよいよ実験が始まる時が来た。
「最後に確認させてもらいます。この実験は、あなたが最初なので、死ぬ危険性もあります。それでも行いますか?」
俺は、ゆっくりとはっきり聞こえるように聞いた。
彼女はうなづいた。
「お願いします」
ベッドに横たわる彼女の眼には、後悔の念はない。
あるのは、未来への希望だけだ。
「わかりました」
同時に他の人たちの被験者に対しても同様なことを聞いている声が聞こえる。
俺は、そんな声を聞きながら最後に詳細な説明をしつつ、注射の準備をする。
齢40になった彼女を、目標で肉体年齢を20代前半へと戻し、さらにそれを永久に維持できるようにする。
そのために、DNAレベルでの肉体改造を行う。
治験の許可が出るまで、ラットでの実験を繰り返し行った。
サルに対しても実験を行った。
彼らの亡骸は、俺の家に植わっている菩提樹のもとで眠っている。
「では、打ちますね」
実験段階では、成功した。
あとは彼女が無事に生きてくれるのを願うばかりだ。
注射を打ってから、肉体自体のDNA変異が起きるまで1日はかかる。
それまでは、安定しているはずだ。
横の被験者たちも、静まり返っている。
「これから、ちょっと移動してもらいます」
俺は彼女の手をとり、歩かせようとした。
「えっと…」
彼女はちょっと困った顔をしている。
「立ち上がれないんですけど…」
「え…」
そんなに早く出てくるはずはない。
とりあえず、車いすを持ってきて、それで連れて行くことにした。
個室へ連れてきて、ベッドに横たわらせてから、カルテをそばで書き始める。
このカルテは、報告書に添付しておく必要があるから、かなり細かく書くことが要求されている。
「あの…」
「どうしましたか」
彼女は俺のほうを見て何か言おうとしている。
「なんか、足にいますか。見ていただけませんか?」
「どんな感じなんですか」
俺は布団をめくって足を見てみるが、当然何もない。
「もぞもぞと何かうごめいているような感じなんです…」
布団をやさしく敷きなおしてから、俺は聞いた。
「大丈夫ですよ。ずっとそばにいておきましょうか」
「…お願いします」
俺は、個室の空いたスペースに簡易ベッドを持ち込んで、論文を読みながら横になっていた。
「…あの」
「どうしましたか」
論文が掲載されている分厚い本を枕の上に置いて、彼女のほうをむき直ってベッドに腰掛けた。
「枕元で、座っていただけますか…」
何を言っているかわからないが、とりあえず椅子を持ってきて置く。
「どうしたんです?」
にっこりと笑って診察する。医師の基本だと口を酸っぱくして言われたこと。
「…私、生きていけますよね」
一筋のしずくが、ほほを伝い落ちるのが見える。
「ええ、大丈夫ですよ」
そんな確証はどこにもない。
だが、嘘でも彼女を安心させておきたい。
患者や被験者に対してではなく、一人の女性として接してあげたい。
そのような感覚がわきあがってくるのがわかった。
「…私、これまで誰とも結婚しなかったんです」
「どうしたんですか」
何かつづけて言おうとしたのを遮って聞いてみる。
突然話し始めた彼女は、徐々にしんどそうな様態になっていくはずだ。
「誰とも結婚したくない、そう思ったことは一度もないんですよ。不思議なことに。ただ、結婚したい相手は次々と別の人と結ばれる…」
彼女は、俺の手を握った。
うっすらと熱がこもっていた。
「でも、不思議なんですけど、本当に不思議なんですけど、あなたとは結婚をしてみたいと思うんです…」
「確かに私も独身ですけど…でも、どうしてですか」
俺は彼女に聞いたが、首を横に振った。
「わからないんですよ。私の本能が、早く結婚をしろと言っているのか、それとも、また別の理由があるのか…」
意を決したように、続ける。
「私と、結婚していただけませんか。もちろん、実験が安定期に入ってからで十分です」
「……わかりました。男としてお返事しましょう。そのご提案、謹んでお受けいたします」
儀礼的な口調で言ったが、彼女は微笑んだだけだった。
ただ、ひとことだけいった。
「ありがとう……」
それから、ゆっくりと眠りに落ちた。
実験、初日はこうして過ぎて行った。
二日目以降、事態は予断を許さない。
ラットなどの実験でも、この1週間を乗り切った者たちは、全員生きのびている。
逆に言うと、この1週間が勝負なのだ。
がん化を促す遺伝子は、通常の細胞の中にもいる。
その遺伝子を活性化させることがカギとなる。
うまくいっているかの境目の第1段階が、1週間後ということだ。
午前8時に彼女が起きてから、朝食を食べ、着替えさせてから2時間ほど連続して検査がある。
この時点で、11時になる。
昼食までの1時間は何もない時間となり、好きなようにすることができた。
ただ、飲食は禁止されている。
俺は、検査が終わった段階で自動販売機コーナーのところで缶ビールを飲んでいた。
言っておくが、決してアル中ではない。
ちゃんと節度は守っている。
「…ちょっと、いいですか」
顔がうっすらと変わり始めた彼女を見つけると、近くのベンチに座らせた。
「どうしたんです?」
「病室のベッドで眠れなくて、暇だったから遊びに来たんです」
飲食禁止というのはかなりつらい。
だが、実験のためと割り切って考えることも必要だ。
「それで、私に何かしてほしいのですか」
「…これといって、何も。ただ、そばにいてほしいんです。告白すること自体が初めてだったので、緊張してしまっていて…」
彼女はポスッと俺に頭をもたげてきた。
「どうして」
「嫌われたらどうしよう…そんなことばかり頭をよぎってます」
「女性の告白を切る男、特にきれいな美人だと思う女性からの告白を断るような男を、私は知らないですね」
急に体温が上がるのがわかる。
一瞬の沈黙。
それからどちらともなく笑いだす。
何が面白いのかは分からない。ただ、笑いたかった。
それから、俺が缶ビールを飲みながらいろいろと彼女と話をした。
「戻りましょう。そろそろ30分です」
腕時計を見ると、11時30分を示しそうになっている。
「わかりました」
二人とも立ち上がる。
だが、彼女は2、3歩歩いたところで足がもつれたようになってこけそうになった。
すぐに俺は手を差し出して受け止めた。
「あれ…ちゃんと立てたはずなのに…」
おどおどしている彼女を見ているのもいいが、とりあえず病室へ連れて行くのが先のようだ。
「とりあえず、12時から昼食、1時からはまた検査が入ってるから。何かあったら言って。相談にも乗るから」
「ありがとうございます」
彼女はベッドに横になりながら礼を言った。
介護ロボットができて、かなり医者の苦労は軽減されたといっても、まだロボットじゃ対応できない範囲もある。
AIというものの研究もおこなわれてはいるが、人工知能、人間そっくりの人格を持った新たな種族を作り出すには至っていない。
「では、それまでちょっと研究室にでもこもってます」
そう言ってベッドのわきのイスから立ち上がろうとすると、彼女が止める。
「そばに、居てくれますか」
その眼には、何かが宿っている気配がした。
「…わかりました。では、検査の時までここにいておきましょう」
彼女は、とても喜んだようだ。
2日目になり、点滴投与を始めた。
昨日までの検査の結果は、予定通りの状況になっている。
今日からは、がん化した細胞の増殖を、一定に抑えることを目標とする。
この実験で、数カ月かかったものだ。
人間用の濃度は実験で使ったものの数倍になるため、相当の用心が必要となる。
俺も、ずっと付きっきりでみまもっている。
3日目から5日目まで病状に変化なし。
順調に推移している。
7日目までが勝負と決めているので、残り2日が山場である。
6日目、検査中にそれはわかった。
第3章 これはよくない兆候だ。だが、必ず助かる
検査中につき彼女のところから離れていた。
暇だからということで、休憩室で缶ジュースを飲んでいた。
すでに、他の病室からの情報は途絶え、残っているのは俺と彼女だけになっているようだ。
亡くなったというわけではないようだが、ただ、情報が無い。
それだけの話だ。
そんなことを考えていると、看護婦がパタパタと走ってきた。
「あ、こんなところにいらっしゃったんですね。急いできてください」
俺は何のことかわからないままに、ジュースを一気に飲み干すと、看護婦に連れられてその現場へ急いだ。
「先生、ようやく来なはった」
検査技師がカルテを見せる。
「これは……」
「今までなかった影が見えてます。詳細検査をしたほうがいいと思います」
見たことが無いのは、こっちも同じだ。
これまで医者として診断してきたX線写真で写った影の中で最大だろう。
「いつ見つけた」
「30分ほど前です」
「今すぐ手術の準備……いや、そうじゃない、抗がん剤投与。点滴の濃度を倍にしろ。それと、好きなものを与えてやれ」
俺はそう言って、彼女のところへ戻ろうとした。
だが、検査技師はそれを制止した。
「今、放射線が飛び交っています。その中に飛び込んでいくつもりですか」
「……検査中か」
さすがに俺も入ることはできない。
俺は、検査台に横たわっている彼女を、見ているしかできなかった。
翌日、予定では最終日になるはずの日。
だが、症状が治まる気配はなく、徐々に息が荒くなっている。
俺は見てられなくなり、部屋の外にいた。
「…どうしたらいいんだよ」
医者として、最後の判断を下さなければならない立場。
ガン細胞を利用しての永続的な生命というのは不可能なのか…
半ばあきらめていた。
壁にもたれ、白衣のポケットに手を入れながらボケーと天井を見ていると、同僚がいぶかしんだ表情をしてすぐ横に立ったていた。
「どうしたんだ」
同僚は、煙草を勧めてきた。
「院内禁煙。タバコが吸いたいんだったら、喫煙室にでも行ってきな。それに俺はタバコは吸わん」
「冷たいなー。それで、彼女の容態は?」
いきなり本題に入った。
「ガンができたよ」
「そりゃ、ガン化の遺伝子の活発化を促すように仕向けたんだから、ガンができるのは当たり前だと思うが」
俺は順を追って説明した。
結局、同僚は煙草に火をつけず、くわえているだけで満足することにしたらしい。
「…なるほど。予想以上に広がったっていうことか」
「そういうことだ」
くわえた煙草をピコピコ動かし、ちょっと考えてから同僚は俺に言った。
「答えは1択だろが」
「選択肢は」
「彼女を助けるか、助けないか。このX線みたが、かなり悪化してるじゃないか。実験は失敗かもしれないが、彼女は助けたいんだろ」
考えていた通りのことを、ずばり言われる。
さらに、同僚は続ける。
「とにかく、お前がいいと思ったことをすべきさ。全力を尽くした結果なら、後悔はしないだろ」
同僚の言葉に後押しされ、俺はうなづく。
「わかった。心がすっきりしたよ」
「そりゃ、こっちは精神科だからな」
それだけ言うと、同僚もその場を離れた。
俺はそれを見送ってから、病室に戻った。
「…どうしたんですか」
「予想以上に進行が早いんです。でも大丈夫。何とかなります。持つべきなのは気持ちです」
彼女は、唐突に言われた言葉一つ一つをしっかりと考えてから、笑顔で言った。
「お任せします」
俺はそれを聞いてから、近くにいた看護婦に言った。
「すいません、これから言う薬を用意していただけませんか」
「ええ、わかりました」
看護婦は言ってからすぐに薬を用意してくれた。
「これで全部ですね。ありがとうございます」
「いえいえ、これも仕事なので」
点滴の準備を手伝ってくれている看護婦に一言、礼を言ってから俺も準備に入る。
「今回の点滴は、あなたの体に起こっているガンを一時的に活動を停止させるものです」
「これまでがんを促進させるようにしたのに、ですか」
「そうです。とりあえず、通常のスピードに落ちつけさせます」
俺は、効くことをどこかにいる神に祈りつつ、点滴を始めた。
第4章 1週間が経ち
それから、3時間ほどで効果は出始めた。
それと同時に不思議な現象が現れた。
「若返ってる…」
肌年齢をはかっている時、そんなことに気付いた。
「えー、そんなわけないですよ」
心なしか、精神も若返っている。
まあ、精神は微妙な問題だからはっきりと断言はできない。
でも肌年齢のほうや肉体年齢、腸年齢などは明らかに若返っているのがわかる。
これまでなかった兆候だ。
もしかして、何かが効いたのか。
問題は、その何かが何か分からないということだ。
「いや、本当に若返ってますよ」
俺は今宵も彼女の病室にいた。
今夜が最後の入院日になる予定になっている。
どうなるかは、明日の午前中の検査にかかっている。
夜、彼女の寝顔を見ながらカルテをまとめているとふと思う。
彼女は無事に退院するだろう。
その時、俺は結婚することになる。
それは幸せのことなのだろうか。
結婚する者には2種類いる。後悔するものと躊躇しているもの。
俺はどちらなのだろうか。
彼女がどう感じているか、俺には分からない。
ただわかっているのは、寝て起きたら朝だったということだ。
「おはようございます。今日は早く起きちゃいました」
窓の向こうを見ていた彼女は、俺が起きたのに気付くとはにかんでこちらを見た。
「おはようですますです…」
「口調がおかしいですよ」
彼女を知っている人なら、混乱するだろう。
なにせ、そこにいたのは若々しい女性だからだ。
「え…」
俺は手鏡を見せた。
「どうだ、これで分かっただろ?」
「私、若返ってるのね」
彼女は冷静に聞いた。
「ああ、そうだ」
ズバッと言い返す。
ベッドから立ち上がると、触診だけは済ませた。
「…若いな」
ほほをサワサワしていると、一気に恥ずかしくなったのか、近くにあったお盆で俺をたたこうとした。
ちなみに、俺は変態ではない、れっきとした紳士さんなんだよ。突っ込みは受け付けないからあしからず。
「おっと、そうはいかんよ」
すぐにその手を押さえた。
「とりあえず、どういう感じなんだ」
「なんだか、フワフワした感じ」
新しい細胞が、体の中で増殖をしている。
それと同時に死滅しつつある。
理想的な状況になっているようだ。
「…細胞増殖が平衡状態に入ったらしい」
俺はそうカルテに付け加えて、外へ出た。
午前中の検査を見てみたが、結果は思ったとおりだった。
「すべての体機能に、改善が見られます。最終的な判断としては、実験は成功ということでしょう」
検査技師は俺に結果を見せながら言った。
「いや、判断をするのは俺じゃないんだ」
「どういうことですか。今回の実験の最高責任者あであるあなたが判断を下さないのであれば、どなたが判断を行うのですか」
「1000年後の医者さ。検査、ご苦労だった」
そう言って、よくわかっていない検査技師をほったらかしにして俺は歩いていった。
後で知ったことなのだが、他の被験者のうち、半数が亡くなったらしい。
残り半数のうち、どこまで生き残ることができるかは分からない。
その担当医が死んでから、後世の人たちが判断するだろうからな。
退院の日、8名が花束を手渡された。
残り8人の遺族は、研究謝礼金の名目で生涯稼げないような多額のお金を受け取った。
どこから出たかは、大体予想がつく。
だが、気にすることはない。
とりあえず、俺ではないからだ。
そのまま病院を出ていく7人に対し、1人だけその場に残っていた。
「…先生、いいですか」
もちろん、彼女だ。
精神面も若返りつつある彼女の研究は、これからが本番である。
他の人たちは、不老かもしれないが不死かは分からない。
「どうした」
看護婦や他の患者の人たちもいなくなった玄関先、俺は彼女と向き合っていた。
「結婚してくれるという約束、覚えてますよね」
「ああ、もちろんだとも」
俺は彼女を強く抱きしめた。
エピローグ
数十年後。
俺は老い、彼女は若々しくあった。
延命治療を受けることも勧められたが、俺はすべてを断った。
今回の不老不死の実験の功績をたたえられ、国家2級勲章であるローレン・ジャン勲章を受勲した。
別に俺はほしくはなかったが、子供に俺が生きていた証としてずっと持っていてほしかったから、受け取った。
「あれから、45年かー」
彼女は新しく買った家の縁側で、お茶を飲みながら外を眺めていた。
そのすぐ横で、俺は横になっていた。
「…精神的には落ち着いてきたが、体は若いまま…」
どこか遠くのほうから声が響いてくる。
「…さーん、おとーさーん。どこー?」
初めての子供、初めての子育て。
大変だが、これからが勝負だ。
延命治療を断ることは、短期間で死ぬことにつながる。
彼女の研究は、俺の後継者に任せることが正式に決まっている。
1000年後、どのような判断が下るかは、いまだにわからない。
他の人たちは、通常の寿命で亡くなったらしい。
つまり、彼女のみが不老不死に成功したことになる。
俺が勝った、相手が負けたということをつべこべ言うつもりはない。
言えるのは、俺の寿命はもうすぐ尽きることだ。
不老不死、それは、人類が求める最高の宝玉。
彼女がその最初に人になることを願いつつ、俺は意識がゆっくりと消えていくのを感じた。