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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第六章 レパール


 レパールに着いた私たちはまだ日が暮れ切っていないこともあり、アルサートの用事を済ませることにした。
 つまり、冒険者組合での聖剣『クラウ』についての聞き込みである。

「確認致しました。冒険者組合所属、三等級冒険者のアルサート様ですね? どのようなご用件ですか?」

 提示された冒険許可証を確認し、組合の情報取引所の受付嬢はそれをアルサートに返却した。
 しかし、アルサートが三等級冒険者であることには驚いた。全部で八等級ある中の、上から三番目である。これはかなりの実力者と言えよう。

「情報を買いたいんだ。聖剣『クラウ』に関することで、集まっている情報を売ってほしい」
「はい、少々お待ちください」

 私の表情が変わったことに気付きもしなかったアルサートは、少し媚びたような目で彼を見上げる受付嬢に語り掛けた。頼まれた受付嬢はアルサートの男振りに緩んだ笑みを見せながら、それを隠すように俯きがちに書類を手繰る。
 受付嬢の気持ちも分からなくはない。
 私の目から見てもアルサートは見事な偉丈夫であり、奇麗な短めの金髪とそれなりに整った顔立ちをしている。それに加えて騎士さながらの銀鎧を纏った三等級冒険者ともなれば、婦人方が目の色を変えるのは当然と言えた。

「……腹立たしい奴だな」

 つい小声でそんな声が出たのは、きっと前世の私が言わせたのだろう。思えば本当に他者から好意を寄せられた経験に乏しい。別に万人に惚れられたり、多くの女性に囲まれたりしたかったわけではないが、勇者だったのだからもう少しこう……何とかならなかったのだろうか。

「あら……聖剣『クラウ』は……」

 少し自分勝手な私怨でアルサートに険しい目を向けていた私は、受付嬢の戸惑うような声でそちらを見る。
 やはり所在は未だ判然としていないのだろう。
 まぁ、当然だ。おそらく『クラウ』はまだフィルスタム領の中心部に――。

「ちょうど聖剣『クラウ』と思わしき剣が、冒険者たちによってこの国の王都ラハーンに運び込まれているようです。ええ、五日ほど前に」
「なに?」
「なんだと?」

 私とアルサートが同時に上げた声にたじろいだ受付嬢へ、仕切り台を挟んで思わず詰め寄る。

「ど、どうされました?」
「失礼だが、それは間違いのない情報なのか?」

 困惑しきりな受付嬢にアルサートが問いかければ、彼女は自信をもって頷きを返した。

「もちろんです。ただ、あくまでも『クラウ』と思わしき剣ですので、それがかの聖剣であるかは未だ確認はとれておりません。現在は王城の一般広間にて自由に観覧できるようですし、気になるのであればご覧になるのもよろしいかと」
「ああ、そうさせてもらおう。だが……一体どこにその剣はあったんだ?」
「こちらに記載されている内容ですと、その剣が見つかったのはフィルスタム領のウィレアの森だとか。二等級冒険者のパーティーがウィレアの森に生息する薬草を探していたところ、異質な力を発する剣を発見。手に直接触れようとすると熱すぎて持てない為、布で幾重にも巻いて帰還したとあります」

 聖剣『クラウ』は勇者以外に扱うことはできない。勇者以外は鞘から抜けず、抜身の『クラウ』を勇者以外が触れると、触れた者を傷つけるからである。その話は広く知れ渡っているため、発見した冒険者パーティーがそれを聖剣だと思っても無理はないだろう。

 見つかった場所と言いその剣の性質と言い、たしかにそれは聖剣『クラウ』である可能性は高い。

「だが、何故エネスカル王国の王都に? 『クラウ』の可能性が高いのならヴェネラ王国に運ぶもんじゃないのか?」

 受付嬢を見上げて――この受付嬢は私より背が高い――問いかければ、彼女は書類を見てから頷いた。

「その冒険者パーティーは、エネスカル王国と専属契約を結んでいるんです。そのため、彼らには一度王国の指示を仰がなければいけない義務があったのです」
「……成程」

 専属冒険者は、流れ者の冒険者と違い一つの国に縛られる。つまり、その国の組合で紹介された依頼しか受けられず、また依頼指名された場合拒否することができない。その代り、組合に支払わなければいけない年間費の免除や、何もせずとも一定の割合で給与が支給される。
 ほとんど傭兵に近いが、専属冒険者は国からお墨付きをもらった凄腕の冒険者とも言える。名声や安定を目指す者には専属冒険者の身分は魅力的なのだ。なんせ国に多大なる貢献をした者には、領地を与えられることもあるのだから。

「大体知りたいことは分かった。それで、情報料はいくらだ?」
「この情報は緊急性がなく、また人命に関わるものではございません。冒険に広く応用が利く類のものでもありませんので、末梢情報としてご提供させていただきます」
「おお、ありがたい。他人にとってはどうでもいい話かもしれんが、俺には必要な情報だった。レパールの末梢情報の相場は?」
「現在ですと赤銅貨1枚になります」

 赤銅貨1枚。随分と安いが、これだけで情報を買うことができるのであれば、私も冒険者組合に登録してみてもいいのかもしれない。
 腰元に下げていた小さな巾着から赤銅貨を取り出し支払うアルサートを見やり、ふとそんなことを考える。しかし、そんな私にアルサートはからかうような視線を向けてきた。

「おい、いつもはこんなものじゃないぞ? 組合のある場所や支部によって変わるが、大抵は青銀貨一枚が基本だ。末梢情報であっても、黒銅貨一枚するときもある」
「……その話が本当ならばお前は運がいいな」

 私が人間だった頃は青銀貨1枚で安宿に泊まれた。黒銅貨一枚で硬いパンが一つ買えた。それを思えば、今回のように黒銅貨の半分の価値しかない赤銅貨で『クラウ』の情報を得られたアルサートはついていると言える。
 今の相場がどうなっているか分からないため一概には言えないが、大して変わりはないだろう。

「だが、情報は冒険者にとって命だからな。生死や高難度の依頼に関わる情報であれば、赤銀貨を払っても惜しくはない」

 そこで情報取引所の窓口であったことを思い出したのか、アルサートは取り繕うように応えた。だが何故、赤銀貨なのか。どうせ世辞を言うのであれば、せめて青金貨ぐらいは言って欲しいものである。
 妙なところでケチ臭さを発揮したアルサートを呆れたように見てやれば、彼は受付嬢に代金を支払い礼を言ってから窓口を離れた。

「どうする気だ?」
「無論、俺は王都に行く。取りあえず、依頼受注窓口で王都行きの護衛依頼がないか見るとするさ」
「そうか……」
「お前さんはどうする?」

 依頼受注窓口は、日が落ちつつあるというのに行列ができていた。その行列の後ろに並んだアルサートは、何となくついてきた私へ視線を向ける。

「私は……」
「そう言えば聞いていなかったな。お前さんの目的地はどこなんだ? レパールではないんだろう?」
「……まぁ、お前の事情をあれだけ聞いたんだ。今さら言わないというのも虫がいいか」
「そうとも。是非、聞かせてくれ」

 言い淀んむ私を鼓舞するように、軽い調子で聞いてくるアルサート。そんな彼になら、目的地ぐらいは教えてもいいだろう。

「私はもともとフィルスタム領へ行くつもりだったのだ。前にも言ったが住んでいる里の事情でな」
「……そうか。うーむ……」
「どうした?」

 私の答えを聞くなり腕を組み、悩むように唸るアルサート。そして困ったように自分の頬を小さく掻いた。

「いや、いかんな。『クラウ』が見つかるのは喜ばしいはずなのだが、今回ばかりは悩ましい。仮に王都の剣が『クラウ』でなければ、お前さんと長い旅ができるからな」
「……馬鹿かお前」

 そんなことを馬鹿正直に面と言われても、何と返せばいいのかわからない。そのため口から思わず罵声が出てしまったが、アルサートは気にした様子もなく深く頷いている。

「いや、仮に『クラウ』であってもどの道俺から教会に返すのは難しいだろうしな。取りあえず、本物かどうか確かめた後、お前さんとフィルスタム領へ行くというのはどうだろう?」
「……いや、どうって言われても……」

 それは非常に困る提案であった。

 私としては二月もかかる長い旅路だ。当然、会話のできる連れがいるというのはありがたい。特にアルサートには、僅か数日で何年も旅してきたような居心地の良さがある。彼との旅は退屈しないだろう。

 しかし、その後はどうする?

 私の目的はフィルスタム領へ行くだけではない。その場で行われる魔王候補生の集まりとやらに出なければいけないのだ。一緒についてきたアルサートをそんな場に連れて行ったら、忽ち殺されてしまうだろう。
 仮に私が守り切ったとしても、私の正体が露見することは避けられない。そうなれば、「化け物」と非難されアルサートから攻撃される可能性さえある。そんな事態は何としても避けたい。
 たとえここで別れることになったとしても、私はアルサートに剣を向けたくも向けられたくもなかった。

「……『クラウ』が本物であれば、何もフィルスタム領へ行く必要はないだろう。何度も言うがあそこは一等級冒険者でさえ、命を落としかねない危険な場所だ」
「だが、お前さんはその危険な場所に行くという」
「それが私の任務だからな。それに、私は一等級冒険者よりも強い」

 肩を竦めてアルサートを見上げながら言い諭せば、奴は目を丸くしてから何とも言えないような顔で顎を摩った。

「そう、か。しかしな、ラーマよ。俺だって、それなりに剣はやるぞ。無論、一等級冒険者には敵わんかもしれんが、お前さんの足手纏いにはならんつもりだ」
「そういう問題ではない。無駄に自分の身を危険に晒す必要はないと言うんだ」
「しかし……」
「くどいっ! それに……」
「何だ?」

 行列が消え、いつの間にか自分が一番前に並んでいることに気付いていない様子のアルサートに仕切り台を指さす。

「あ……」
「順番来てるぞ」


 その後、受付嬢に苦笑されながらも依頼を紹介してもらった私たちは、日が暮れ切る前に宿を取ることに成功した。
 当然ながら、男たちに女どもが一夜の夢を魅せるような艶のある宿ではなく、普通の旅の宿である。

「ふぅ。しばらくぶりの宿だな。彼此一週間ぶりになるか」

 宿の二人部屋で腰を落ち着けると、アルサートがほっと息を吐くように呟いた。私は山から旅立ってまだ数日であるため、そこまでの疲労はない。しかし旅から旅への冒険者ともなれば、肉体的な疲れは勿論、その心労も推して知るべしだろう。

「……もう少し、レパールで羽を伸ばせるほうがよかったんじゃないか?」

 だからこそ組合で、三日後に王都へ出発する商人の護衛依頼を請け負ったアルサートに疑問を呈した。たしかにお誂え向きの依頼ではあるが、聖剣の所在はほとんど確定しているのだ。そんなに急ぐ必要もないだろう。

「いや、三日もあれば十分さ。それに、フィルスタム領ともなれば長旅になるのだろう? 出発は早いに越したことはあるまい」
「……本当に着いてくる気か?」
「無論、ラーマが一人旅を望むのなら身を引くが……お前さんとて一人旅より二人旅が望ましいはずだぞ?」

 私の渋い顔を刺激しないように、アルサートはやんわりとした口調で図星を突いてくる。一人旅を長くした者なら理解できることだが、全く以ってその通りだから困る。だからと言ってアルサートの言葉に、すんなりと甘えるわけにはいかない。

「取りあえず、王都のラハーンまでは一緒に行こう。それから先の事はそこで考えるとしよう」

 それが今の私に言える精いっぱいだった。アルサートは納得いかないとばかりに肩を竦め、しかし私の表情を見て諦めたのか視線を逸らした。
 口元に「頑固な奴だ」と言わんばかりの苦笑まで浮かべている。それはこっちの台詞なのだが。

「……っと、もう暗くなってきたな。どうする? どこか食べに行くか?」

 視線を逸らした先にある窓、その外の暗さが気になったのかアルサートが提案してきた。そう言えば、村を出てから携帯食料の他、ろくなものを食べていない。当然、私は両手を小さく上げて賛同の意を示した。

「そう言えば、レパールには馴染みの酒場がある。あそこの酒と飯は美味かったな」

 人間だった頃、レパールには何度か訪れたことがあった。その際は必ず立ち寄っていた、幼い孫娘を抱く老爺の営んでいた酒場。あそこの主人は寡黙ではあったが出す料理は美味く、酒も口当たりが良く、おまけに常連たちも気風がいいと来ている。
気に入らない人間の方が少ないに違いない。

「何だ? レパールは初めてではないのか?」

 アルサートの意外そうな問いかけに曖昧に笑って答えた。前世では何度か訪れたとはいえ、ハーフオーガになってからは初めてだ。どうにも答えようがない。

「しかし、俺はこの辺りには詳しくない。お前さんがいい所があるというのなら是非とも紹介してもらいたいな」
「ああ。その酒場はこの宿の近くだしな。美味い魚料理でも食いに行こう」

 久しぶりの人間らしい食事だ。逸る気持ちを抑え、私たちは宿を出た。

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