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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第四章 出会い


  陽射しが頭巾越しに顔へ照り付ける感覚と何者かが接近する気配で、即座に飛び起き後退る。

「うおっ?」

 剣の柄に手を置き声の上がったほうを見れば、銀色の鎧に身を包み、腰に大剣を携えた偉丈夫が一人。一見して目につくのは高い身長と綺麗な金色の短髪。
 その男はこちらを驚いたように見下ろした後、何故か安堵したように自分の胸に手を当てる。

「……生きていたのか。良かった」

 人間にしては背が高く、肩幅も広いが見たところ二十も超えていまい。恐らく十七か十八程度の歳だろうと思うが、やけに重みのある声だ。
 滲み出る人柄は親しみやすい印象を受けるため、騎士ではなく冒険者の類だと思うがそれにしても妙な貫禄がある。

「……私が死んでいると思ったのか?」

 一応警戒しつつ先ほど男が言った事を思い出して聞くと、男は慌てた様に両手を振る。

「いや……いや、まぁ少しそう思っただけだ。何せこんなところで堂々と寝るなんて普通は考えないぞ? 今は朝だが夜から寝ていたんだろう? ここは滅多に魔物は出ないとはいえ火も焚かず、おまけに見張り番も立てない。行き倒れだと思っても仕方あるまい」

「……それもそうだな」

 男の言い分は、人間の立場からしてみればもっともだった為に柄から手を外す。相手が武装しているため簡単に気を許すのは危ういが、今の私ならただの人間に後れを取ることなどほとんどあるまい。
 そもそも性分として、無暗に人を疑うのは苦手なのだ。だから良く痛い目にあったものではあるが直りそうにない。

 茂みから出て銀の甲冑に身を包んだ偉丈夫と並ぶが、やはり大きい。
 流石に集落のオーガたちと比べるのは間違いだろうが、しかし私より頭三つ分は大きく常人離れした背丈である。

「……失礼だが、子どもなのか?」

 私の思考とは真逆の事を考えていたのか、偉丈夫は首を傾げながら尋ねて来る。どうやら私の背の低さを疑問に思ったようだ。

「……既に成人はすんでいる。其方が大きすぎるのだ」

 ハーフオーガはほとんどと言っていいほど未熟児で生まれて来る。
 そのため生まれた時から小さいのだが、どうやら成人しても普通の人間よりは小柄のようだ。それを日ごろから気にしている私は、偉丈夫の言葉が少し気に障った。

「そ、そうか。それはすまん。たしかに俺は人間にしては大きいとよく言われるからな。幼馴染連中にはよく『ウォクサーベア』とからかわれたものだ」

 偉丈夫が言う『ウォクサーベア』とは、大陸一の大国、ヴェネラ王国の山々に生息する大柄な熊の事だ。
 オーガ以上の巨体を誇るため、流石に目の前の偉丈夫とは比べようもないが、偉丈夫は私が小柄であることを差し引いても図体が大きい。

 傍から見れば、完全に大人と子供である。

「……非礼のついでにあなたの名前を教えていただけないか? 俺はアルサート。気軽にアルとでも呼んでくれ。今は冒険者をしている」

「私の名はラーマだ。冒険者と言うわけではないが、旅をしている途中だ。それに丁寧な言葉はやめてくれ。虫唾が走る」

 久しく『あなた』なんて呼ばれていないため、背筋が痒くなって困る。豪放磊落なオーガたちの性分が移ってしまったらしい。

「そうか。だが、それならお前さんもだ。『其方』なんて呼び方はやめてくれ。 そんな呼び方、今時貴族連中しかしないぞ」
「……たしかに」

 偉丈夫、アルサートと名乗った男の言い分はもっともだった為、今後は控えることにしよう。つい、初対面の相手には気を遣った呼びかけをするのは前世の癖だ。オーガの集落で培ったものでは決してない。

「それより、冒険者じゃないのか? なら何故、頭巾なんて被っているんだ? 何か事情があるのか?」
「……事情があったとして、容易く教えると思うのか?」

 臆すことなく聞いてきたアルサートに呆れて問えば、彼は堂々と首を振った。

「まぁ十中八九、教えてはくれんだろう。だが万が一という事もある。その万が一で教えてもらえれば、俺としては儲けものだ」
「よくもそう、物怖じせずに言えるものだな。さすが冒険者なだけはある」

 面の皮が厚いと言えばいいのか、潔いと言えばいいのか。良くも悪くもこの青年は正直者であるらしかった。
 お互い武装しているとはいえ、私の背丈はアルサートよりずっと小柄だ。装備も片や騎士さながらの銀鎧と擦り切れた皮鎧では、戦えば誰しも彼が勝つと考えることだろう。そんな中で彼が私と対等に接そうとしていることは、嫌でも伝わって来た。

 久しぶりに見た、面白い人間である。

「だがあいにく、私はお前に頭巾の下の事情を教える気はさらさらない。それよりそろそろ旅を再開しないと、明日中にレパールに辿り着くのが難しくなりそうだ。ここらでお別れと行こう」

 アルサートともう少し話していたいという気持ちもあったが、これ以上接していれば別れが辛くなることもある。 
 そのため別れを切り出した私に、アルサートは片眉を跳ね上げた。

「なんだ。お前さんもレパールを目指すのか。俺もそこに向かっているところなんだ……どうせ一本道。一緒に行こうじゃないか」
「……まぁ、お前がいいなら」

 思わぬところで道連れが出来てしまったが、アルサートの言う通り、レパールまでここからは一本道だ。無下に断る方が不自然である。
 それに、人間だった頃も旅をしていた事は数あれども、道連れがいたことはほとんどない。独り言が多くなる一人旅より、会話のできる二人旅の方が楽しいのは間違いあるまい。

 茂みに打ち捨てられていた背嚢を背負い、剣を腰に携え直す。そうしてから歩き出すと、当然のようにアルサートは私に並んで歩きだした。

「……ラーマと言ったか? 別に俺に合わせて歩く必要はないぞ? 俺は見ての通り一歩もでかい。お前さんは自分の歩幅で歩いてくれ」
「気を遣ってくれて礼を言う。だが、それこそ私の台詞だ。お前こそ、いつも通りの速さで歩くといい」

 たしかにアルサートの歩幅は大きい。
 しかし、彼は銀の鎧を身につけているのだ。小柄とは言え、オーガ並みの体力を持つ私からしてみれば歩みを合わせるのなど造作もない。

 最初こそ、私の歩幅に合わせようとしていたアルサートだが、私の歩く速度が通常の人間より早いことに気付き、いつも通りに歩き始めたようだ。

「驚いたな。そんな調子で歩き続けるつもりか?」
「これがいつもの私の歩みだ。それより気になっていたが、何だその銀の甲冑は? 冒険者なら皮鎧の方が動きやすいだろうに」

 一般的に、銀や鉄でできた鎧は騎士が好む。なんせ騎士は見栄えと誇りから入る生き物だ。粗末であったり傷んであったりする皮鎧など論外だ。加えて騎士は、正面から人や魔物と戦うことが前提の存在である。当然、防御面で優れている鉄製鎧が主流になるのだ。

 反対に冒険者はまず皮鎧を装備する。

 冒険者も魔物や人と対峙することもあるが、騎士のように正々堂々なんて事は滅多になく、する必要もない。そのため防御面より身軽さを重視する。
第一、動くたびに音が鳴る鉄製鎧など隠密行動には向かず、長旅の多い冒険者には重すぎるが故に敬遠されがちなのである。

「うーむ。いや、俺も皮鎧の方が良いのだがな? 残念ながら金がなくて家にあったものを適当に持ち出したのだ。これを売れば買えることは買えるだろうが、まぁ家宝らしいからな。無暗に売れんのだ」
「……まぁ、お前がそれでもいいと言うのなら特にいう事はない。それにその鎧、質は良さそうだからな」

 細めた目で見れば、アルサートの装備している銀の鎧に魔力が込められているのがはっきりわかる。
 魔力付きの装備は重宝されるのだが、通常、無機物に魔力を宿すことは難しい。
 こういった鎧などであれば、専門の魔術師が装備を作る過程で幾度となく魔力を一定の強さで込め続けなければいけないのだ。一度失敗すれば込めた魔力全てが霧散するため、宿せたとしても大抵は右腕のみなど、一か所だけに付与される。

 しかしアルサートの鎧は、全体に強い魔力が帯びているようである。一体どれほどの技量の持ち主が、どれほどの手間をかけて完成させた逸品なのだろうか。
 これほどの魔力が宿った鎧だ。大国の王家や英雄の家系でもなければ、そうそう所持していないだろう。

「分かるのか? 実はこれ、正真正銘銀で造られた鎧なのだが軽いんだ。それに――」
「ああ。音がしないな」

 鉄製の鎧独特である、動くたびに鳴るあの不快な音が一切しない。
 アルサートの姿を見れば、本当に皮鎧を装備しているような気安さで歩き続けている。

「そうだ。どうやらこの鎧、御大層にも魔力が込められているらしくてな。お蔭で随分と楽させてもらっているが、如何せん冒険には邪魔だ。やはり皮鎧が欲しいぞ、俺は」
「贅沢な悩みだ。エルランドを信仰する聖騎士連中が聞けば、目くじらを立ててその鎧を剥ぎ取りにかかるぞ。その鎧、冒険者が持つには些か性能が良すぎる」
「俺もそう思う。だが、売るわけにもいかんし金もないのだ。それに、傍からみれば魔力が込められているかなんて分からんだろう?」
「……魔術師でなければ、な」

 楽観的なアルサートは知らないが、事実魔法が使える私は彼が装備する鎧の魔力がはっきり見える。
 ただまぁ、魔法を使える騎士などそうはいないため心配することもあるまい。第一、アルサートは単なる旅の道連れ。私が心配するのはお門違いと言うものだ。

「ところでアルは、レパールに何しに行くんだ? やはり、大きな街でしか受けられない高位の依頼を求めているのか?」

 魔王討伐のための冒険をしていたが、前世で職業冒険者になったことはない。しかし、その仕組みは大体わかっているつもりだ。何でも大陸中にある冒険者組合と呼ばれる場所に登録し、そこで紹介される依頼を達成することで収入を得ているとか。
 無論、街によって受けられる依頼は異なり、大きな街であればあるほど人が多い分、難易度の高い依頼があると聞く。
 見たところアルサートはなかなかの手練れ、冒険者の中でも上級になるはずだ。彼が大きな街に難しい依頼を求めて旅していると言われても納得できよう。

「いや、それはついでだな。俺の目的は探し物だ」
「探し物? お前の探している物がレパールにあると?」

 意外にも首を振ったアルサートからそんな言葉が返ってくる。レパールは確かに大きな街でありこの国で唯一、奴隷の売買さえも許可されている。
 この国にある物ならば、ほとんどレパールで手に入るに違いはない。だからこそ得心の行く思いで尋ねれば、再び隣を行く偉丈夫は首を横に振った。

「いや、それは分からん。しかし、レパールの支部ならば有力な情報が聞けるやもしれん。俺の目的はそれだ」
「……成程。そう言えば冒険者組合は情報の売買もしていたな。それで? お前は何を探してるんだ?」
「おいおい……」

 何気なく尋ねた私に、アルサートが苦笑交じりに手を振った。そして何やら面白そうな顔つきでこちらを見下ろしてくる。

「なんだ?」
「お前さん、先ほどから随分とこちらの事を詮索してくるではないか。俺には頭巾の下の素顔も見せてくれんと言うのに」
「……ああ、悪かったな」

 アルサートのその言葉に思わず自分の非礼を詫びた。
 彼の言うように、私たちはまだ知り合って間もない。そう考えてみると、些か質問を重ねすぎたようにも思う。
 ついついアルサートの親し気な雰囲気に流され、随分と踏み込んだ質問をしてしまった。豪放磊落であったオーガとの暮らしがあまりにも長く、私は人間との適切な距離感と言うものを見失いかけているのかもしれない。

「……いや、別に隠すほどの物でもないがな。ただ純粋に、お前さんの喰いつき方が面白かっただけだ。責めるつもりはない」

 少しだけ反省した私の様子を気にしたのか、慌てたようにアルサートが首と手を振る。図体は大きい癖にその仕種は妙に子供のようで、堪らず小さく噴き出してしまった。

「おい、笑うことはあるまい?」
「ああ、すまなかった……それで、お前の探し物とはなんだ? 隠すほどの物でなければ教えてくれ。もしかしたら私が知っているものかもしれない」
「うん? あ……まぁ、剣だ」
「剣?」

 少し考えるように空を見上げ、しかし結局は教えてくれることにしたようだ。私の方を見ながら何でもなさそうな顔で端的に告げた。

 だが、剣とは如何なることだろう。
 彼の腰元を見れば業物と一目でわかる大剣が既にある。この剣以上の業物など、大陸広しと言えどそうそうあるまい。
 この期に及んで一体剣など探してどうするというのか――そんな疑問が顔に出たのだろう。

 アルサートは苦笑した後、真剣な面持ちで腰元にある剣の柄を握りしめる。

「俺が探してるのは剣と言ってもただの剣ではない。聖剣だ」
「……聖剣だと?」
「ああ。俺は聖剣『クラウ』を探しているのだ」

 アルサートの口から飛び出した探し物の名前。
 それは確かに私が知っている物であった。厳密に言えば、前世の私が知っているものだ。

 当然だ。何せそれは、勇者であった頃の私が実際に使用していた剣なのだから――。


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