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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第二部 

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第六章 煩悶


 クランムル山を整備された道に沿って東に進んでいけば、やがて麓へと辿り着く。

 山で別れたボロモウやルオーロ山のオーガ達の事が気に掛かるが、彼らには彼らなりの生き方がある。そして彼ら自身でその生き方を選び取ったのだ。私がとやかく言うのは筋違いだろう。

「しかし、本当に良かったのだろうか……」

 頭では解っていても、どうにも釈然としない。このまま旅を続けてしまうのは、彼らを見捨てたことになるような気がするのだ。
 何度も何度も背後を振り返り、けれども引き返す事もできずに山を下り切ってしまった。

「おい、そこの旅人」

 取り留めのない同じような自問自答を繰り返しながら麓についてしばらくの平坦な道を歩けば、横合いから何者かに声を掛けられる。

 こんな辺鄙な町のはずれで声を掛けられるとは思わなかったが、人の気配には気付いていた。
 そのためゆっくりと視線を巡らせば、私と同じような皮鎧に身を包んだ男が立っている。その風体から言って、山賊などではなくおそらくは冒険者の類だろう。

「何か?」
「いや……その山を越してきたんだろう? 何か異常はなかったか?」
「異常?」

 その男の言わんとすることがよく分からずに首を傾げれば、彼は私が来た方を睨み低く囁くような声を出した。

「ここ最近、クランムル山に魔物が出るらしい。それも俺たち冒険者で言うならば上級指定――オーガと言う魔物だ」
「どっ……そ、そうなのか」

 思わず「どうしてそれを」と叫びかけた自分をすんでのところで押し留め、何とか取り繕って平静を装う。

 幸いにも山の方に視線を向けていた冒険者は、私の妙な素振りに気付かなかったらしい。こちらを見ることもなく深々と頷いた。

「ああ。一週間ほど前、山を越えてきた旅の冒険者が見たらしくてな。先の町にある冒険者組合に情報を提供したんだ」
「なに? 旅の冒険者が……」

 そうか。
 その可能性を失念していた。

 クランムル山を登るのは、何も猟師や山賊だけではない。当然旅人だって目的地が山の向こうにあるのなら登るだろう。そしてその山路の途中、旅の冒険者がオーガの姿を認めたと……。

 厄介なことになった。

「冒険者組合はオーガの討伐依頼を?」
「そうだ。気配を殺すのに長けた奴が、偵察してオーガの集団を確認した。前々から山賊被害も報告されていたらしくてな、山賊とオーガ両方の討伐依頼が改めて組合から提示された」

 山賊が私の手によって壊滅状態になったことをまだ知らないのだろう。しかし、教えたところでどの道確認しなけらばならないのだ。ならば、無用な詮索を受けないように黙っている方がいい。

「……オーガの討伐か。だが、山のオーガは人間に危害を加える気はないのではないか? 私を含め、オーガを見かけた冒険者と言うのも平気だったのだろう?」
「まぁな。しかし、相手は上級の魔物だ。いつ人間や麓の町や村を襲うか知れたものではない。危険は排除しておくべきなのさ」
「……まぁ、そうなるか」

 いくら私が言葉を尽くしたところで、オーガ達の無害を人間に納得させる術はない。実際にオーガは人を襲うこともある。今さら「クランムル山にいるオーガだけは人を襲わないから見逃してくれ」なんて、どの口で言えというのだ。

「もしや、貴方はオーガ討伐の依頼を請け負ったのか?」
「まだ請け負ってはいないが、少し様子を探ってからわれわれのパーティーで受けるつもりだ。ゴブリンやコボルトなどを含め、内偵によれば山のオーガは五十近くはいるらしい。十分に準備しなければなるまい」

 私の言葉に腕を組んで深々と頷く冒険者。彼もオーガの手強さを知っているようだが、それでも依頼を受けるというのだ。
 おそらくそれなりに腕の立つパーティーなのだろう。

「……オーガは強いぞ。生半可な実力では無意味に怪我をするだけだ」

 彼らが実力者なのは察せられるが、それでも私には言わずにいられなかった。
 彼らの手によって山のオーガが討伐されるのも、オーガの手によって人間が殺されるのもどちらも避けたい結末である。

 だからこそ翻意を望んで掛けた言葉を、冒険者の男は侮られたと見たらしい。顔を険しくし、眉根を寄せた。

「無論、分かっているとも。だが、俺たちは二級のパーティーだぞ? オーガなんぞに負けるものかっ!」

 威勢良く言い放ったその姿が、「人間なんぞに負けるものかっ!」と憤っていたクランムル山にいるオーガ達と重なる。
 結局は、そうなってしまうのだろう。オーガにも人間にも、自分たちなりの意地と言うものがあるのだ。分かり合うことなどできようはずもない。

「だが――っ?」

 それでも言い募ろうとした私の耳に、町の方から近づいてくる蹄の音が届いた。言葉を切ってそこに視線をやれば、たしかに一頭の馬が人を乗せて駆けてくる。

「……あれは、サレムか?」

 近づいてくる馬と人の影に、冒険者は細めた目を向けながら呟いた。

「サレム?」
「ああ。俺がパーティーを組んでいる冒険者仲間の一人だ。だが、なんであいつが……」

 どうやら馬に乗った人間は冒険者の仲間らしいが、一体どういうつもりでここまで来たのか。
 よもや乗馬したまま山を探るわけではあるまいだろうに……。

「おーいっ! まて、アジっ! もう山を探る必要はないっ!」

 叫びながら馬に乗って駆けてきた男は、私たち前で馬を止めた。そして身軽にもヒラリと飛び降り下馬すると、アジと呼んだ私の傍にいる冒険者へと掌を軽く振る。

「ふぅ、間に合った。お前が山に入る前に追い着けて良かったぜ」
「山を探らなくていい? なんでだ?」

 軽く息を切らしているサレムを見やりながら、アジは怪訝気な顔をする。

「何でも何も……俺だって事情は分かんねぇよっ! だが、組合が依頼を取り下げた。討伐依頼を取り下げたんだ」
「なにっ!」
「なんだって?」

 意外な一言に、パーティーではない私も驚いて思わず声を出してしまう。そんな私にようやく注意を向けたサレムへ、ついでに話を聞こうと声を掛ける。

「すまない。組合が取り下げた依頼と言うのは、オーガ達を討伐する依頼の事か?」
「あ、ああ。正確に言うならば、オーガと山賊を討伐する依頼だな。突然の事で俺にもよく分からんが、何でも「冒険者の出る幕ではない」らしい。っとに、馬鹿にしてるぜ」

 その寝耳に水な依頼の取り下げは、よほど腹に据えかねる物があったのだろう。サレムは憤然した表情で毒づいた。一方のアジは、急な出来事に戸惑うように呆然としている。

「マジかよ……この辺には俺たち以外に二級冒険者パーティーなんてないだろう? 俺たちが受けなくていいのかよ……」
「だから、依頼そのものを取り消したんだよっ。ったく、俺たちが一体何のために依頼を早く終わらせて町に帰ってきたと思ってるんだか……とにかく一旦町へ戻るぞ。馬に乗れ」
「お、おう。悪いな、旅人のあんちゃん。俺行くわっ!」
「ああ」

 サレムの乗ってきた馬に二人で跨ると、元来た道を引き返していく。事情は分からないが、クランムル山に当面は冒険者の手が入ることはないらしい。

 少し安堵しながらも、やはり依頼が突然取り下げられたのは解せない。事の経緯を探るため、私も二人の後をって町外れの道を進んだ。




「なんだこれは……何が起きている?」

 クランムル山から東に進むこと一時ほど。
 陽が落ち切る前に辿り着いた集落はそれなりに大きく、たしかに町と言えなくもないほどの建物の数と、なによりも活気があった。
 いや、この活気は少々おかしい。町の者が皆、何かに浮かされるように熱気に満ちて至る所で立ち話をしている。
 辺りはだんだんと暗くなり始め、もうじき闇に包まれる頃合いだろう。
 通常であれば大抵の村や小さな町は、家で過ごす人間ばかりのはず。この町はいつもこうなのだろうか? いや、そんなはずはない。これはやはり、どうもおかしい。

「いやぁ、まさかな……」
「ああ、とても信じられん。しかし、これが神の思し召しって奴なのか?」

 立ち聞きなんて悪趣味のことはしたくないが、町を歩いているだけで自然とそんな声が耳に入ってくる。
 町人たちの様子を見れば余程良いことがあったようではあるが、肝心の話の内容までは聞き取れない。

「今晩は、旅人さん。宿をお探しですか?」
「え? あ、ああ」

 周囲に聞き耳を立てながら歩いていれば、一軒の宿の前で声を掛けられた。見れば妙齢の女子が接客用の笑顔でこちらに笑いかけている。

「宜しければ、この宿に泊まりませんか? と言っても、この町に宿屋はここともう一つだけ。もう一つの方は満室ですし、うちしか空いてる宿はないんですけどね」
「ほう、それならば選択肢はないな。しかし、小さな町に宿屋が二つあるだけでも珍しいのに、その片方は満室か……余程、この町には旅人が立ち寄るのだな」
「いいえ、そうでもないんですけど」

 意外な思いで問いかければ、返ってきたのはこれまた意外な否定である。

「たしかに、この町には冒険者組合の支部があるのでそれなりに立ち寄る人はいます。けど、今日みたいに満室が出るのは、本当に稀な事なんですよ。こんなことはなかなかないです」

「稀、か。それは、この町が少しばかり沸き立っているのと関係はあるのか?」

 言いたくて言いたくて仕方がないと言わんばかりの客引きに苦笑し、彼女が望んでいるように質問してやった。
 すると彼女は無意味に声を潜め、辺りを憚るように顔を寄せてくる。

「ええ。実は……『ジャルデ騎士団』がこの町に今いるんですよぉ」
「――なにっ!」

 あまりに不意打ちなその言葉に我を忘れ、私は客引きの顔の近くで大声を上げてしまった。当然、客引きは耳を押さえて顔を顰めている。

「あ、いや、すまない……しかし本当か? ジャルデ騎士団がこの町にいるというのは?」
「え、ええ。いや、驚いて欲しかったですけど、そんなに驚くとは思わなかったですよ……」

 恨みがまし気な視線を送ってくる彼女には悪いが、それどころではない。そんな些事など気にしてはいられない。

 ジャルデ騎士団。騎士の国イオローム聖国一の騎士団にして、三十名の少数精鋭からなる聖国の守護神。

 全員が聖騎士にして、全員が魔法を使うことができる。さらに言えば、実力も一騎当千と言っても過言ではない超人たちの集団だ。

 そしてその騎士たちを束ねる親玉は、名をフェルリーフ・クアチェスカ・ジャルデと言い――現騎士王にして聖女と言う規格外の化け物だ。

「何故、ジャルデ騎士団がこの町に?」
「先ほど到着されたんですけど、何でもこの町の近くで「大いなる禍」が生まれようとしているのだとか……騎士王聖女様が託宣を受けられたようです」
「託宣……ああ、地母神マグマーテルか」

 地母神マグマーテルと正義の女神ライアーは、未だに人々に語り掛ける稀有な神である。
 取り分けマグマーテルは自身が選んだ聖女にしか語り掛けることはなく、実際に託宣を受けたか知る術は聖女にしかない。

 そのため昔は「神の声を聴いた」という自称聖女が世に蔓延ったと聞くが、聖女のみが扱う事のできる聖剣『クリカラ』が周知されてからは、それもなくなった。
 聖女に選ばれた者は必ず、退魔の聖剣『クリカラ』を授けられることになるからだ。


「聖女たちはもう一つの宿屋に泊まっているんだな?」
「ええ。あ、そこに泊まろうったって無駄ですよっ。もう満室なんですものっ!」

 私の問い掛けに慌てたように付け足した客引き。逃げられるとでも思ったのだろうか? 商魂たくましい。

「そんなことはしないさ。だが、「禍」とはなんだろうか?」
「噂では、クランムル山に出た魔物の事じゃないかって、みんな話してますよ。「依頼を盗られたっ!」って、この町で最高位の冒険者たちが怒ってましたけど」
「……成程」

 得心の行く思いだった。

 何故、冒険者組合にてオーガ達の討伐依頼が取り下げられたのか――たしかに、ジャルデ騎士団が出張ってきたのであれば冒険者たちの出る幕はないと言えよう。

 しかしこれでは、冒険者たちの方がまだ良かった。冒険者たちが相手であれば、どちらも生き残る未来もあっただろう。
 しかしあの騎士王がオーガ達の討伐に乗り出せば、間違いなくあの集落は終わる。終わってしまう。

「くそ、どうすれば……」

 そもそも地母神マグマーテルが『大いなる禍』と呼んだのはオーガではないはずだ。おそらくルオーロ山に現れたというベヒーモスの事だろう。
 オーガが託宣を受けるまでの邪悪で怖ろしい存在なのであれば、今頃アラゼス山のオーガ達だって討伐されていなければならない。

 しかしだからと言って、聖女たちはきっとオーガ達を見逃さない。

 ベヒーモスの存在に気付けば、その討伐の片手間にオーガの集落を終わらせるだろう。それだけの実力がジャルデ騎士団にはあるのだ。

「……どうすれば」

 私はボロモウを、オーガ達を見殺しになんてしたくはない。だが、彼らは自らクランムル山から退かないと誓ったのだ。それを翻意させられるのか? いや、きっと無理だ。
 彼らは死ぬことになってもジャルデ騎士団に真っ向から挑むだろう。そしてその尽くが果てるまで、抗うことをやめないのだ。

 そんな結末を阻止するには、私がジャルデ騎士団に立ち向かう他ない。それはつまり騎士王聖女と――人間と敵対するということ。

「できるのか? 私に……」
「た、旅人さん?」

 ハーフオーガとして生を享けて以来、これほどの困難に直面したことはない。

 考え込む私を余所に、他人事のように陽は落ちていくのだった。


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