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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第二部 

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序章


 直撃を期待した高威力の魔法は、しかし、彼女の振るった左腕の剣で掻き消され、反対に振るわれた右腕の剣をこちらの喉元へと突き付けられてしまった。

「はぁ、はぁ――私の勝ちだな、勇者っ」
「……ああ。王よ、参った」

 まさかあんな無理な体勢から強引に左腕の剣を振られるとは思わず、潔く負けを認めた。これまで十戦ほど模擬試合をし、その全てに勝ってきたため彼女の実力を見誤ってしまったのだろう。
 どの勝ちだって、決して圧倒的なものではなかったと言うのに。いつ、足元を掬われてもおかしくはない勝負だったと言うのに。

「ふぅ、ふー……だが、これで十二戦一勝十一敗か……化け物めっ、この私に一勝しかさせんとは」

 荒く息を吐き出しながら、目の前の女丈夫はそれでも嬉しそうに笑った。いや、今ならそれが「嬉しそうな笑み」だと分かるが、傍目から見れば獣が獰猛に嗤う様であった。
 とても女人が浮かべていい笑みではない。

「……其方に化け物と呼ばれる筋合いはない。騎士たちの王に至り、地母神マグマーテルに選ばれた聖女よ。大体、お互い実力を出し切っていない模擬戦に勝ち負けなんかないだろう?」

 その凄艶とも言える上気した赤い顔の笑みから視線を逸らし、そう言い返すだけで精一杯だった。それに事実、間違いなく化け物は彼女である。

 右手の長剣は、騎士の神エルランドの聖剣『デュラム』。
 左手の刃のない切っ先が丸みを帯びた小剣は、地母神マグマーテルより貸与された聖剣『クリカラ』。
 この世に三つしか現存していない聖剣の内の二振り。それをたった一人の人間が所持し、尚且つ完全に使いこなしているのだ。

 彼女は言うなれば、神に選ばれ愛された化け物だった。

「……残念だ、勇者。貴様が私の敵であれば、本気で死合うこともできただろう。貴様が人類の救い手であったことは、私にとっての何よりの悲劇だ」

 背中に担いでいた鞘に『クリカラ』を、腰元の鞘に『デュラム』をそれぞれ納めた女傑は、そんな事を呟きながら身を正した。

 一般的な成人した男子よりも頭一つ分は大きな自分。その自分よりも、背筋を伸ばした彼女はさらに大きい。
 しかし一方で、身を固める上質の鎧を差し引いても、彼女に対して細さや脆さと言うものを感じない。つまりそれだけの背丈を持ちながら、その身長にあった屈強な体格を有しているのだ。

「物騒な事を……其方も聖女に選ばれた存在だ。我々は共に魔王を倒すべきだと思うが」
「はっ、冗談が過ぎるぞ勇者。他者と肩を並べて戦うのは弱者の権利だ。強者は常に孤高を以て其れを捻じ伏せなければならん。違うか、勇者よ?」
「いや、違うだろう……協力できるのであれば協力すべきだ」

 昂然と言い切られてげんなりしつつ、聖剣『クラウ』を鞘に納めながら窘めの言葉を口にする。
 そんなこちらに対し、女傑は面白くなさそうに肩を竦めた。

「相も変わらず甘い奴だ。だが、何度でも言うが貴様の提案は呑めん。私は必ずや一人で魔王を討ち果たして見せる。誰の手も借りはせん」
「……はぁ。だが、こちらも魔王を倒すのがライアーより与えられた使命だ。王、其方よりも先に魔王は倒させてもらうさ」
「だから、その「王」とか「其方」などと言う呼び方はやめろと言うのだ。貴様の悪い癖だぞ、勇者」

 呆れたようにこちらを見下ろした後、しかし彼女は面白そうに笑う。何故、本来であれば整っているその美貌が、笑みを見せた時にそこまで凄みを宿すのか。どうして獲物を前にした獣の如き風情を漂わせるのか。

 よく分からないそんな笑みを以て、彼女はやはり、獰猛に告げる。

「いずれにせよ、我々のどちらかが魔王を倒すことになるだろう。勇者よ、約束だ。その時は私と――」


 紡がれたのは彼女らしい一方的な約束。ただ、それは騎士王にして聖女と呼ばれる彼女が心の底から願う事なのであろう。

 言うなればきっと、それが彼女の本懐だった。

 なればこそ、叶えてもいいかという思いがあった。だからこそ――叶えてやれなかったのは私の未練だ。



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