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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第二十章 覚悟


「レオン殿……」

 床に倒れ伏したレオンの亡骸に屈みこみ、アルサートがその宙を睨むような瞳を閉じさせた。
 私は愛剣と全く同じ形状となった『レーブ』を腰元の鞘にしまい、レオンの亡骸へと黙祷を捧げる。

「俺は卿の事を良く知らない。だが、ここまでメリアを導いてくれたことを、ヴァンパイアを前に魔剣を守り抜いてくれたことを感謝する――かたじけない」
「アスクラータ家の子息か。それも教会騎士団副団長まで至った騎士だ……ヴェネラは少し荒れるかもな」
「……やもしれん」

 大国ヴェネラでも有数の力を持つアスクラータ侯爵家。その倅が他国で、それもヴァンパイアなどと言う、本来であれば人前に姿を現さない魔族に殺された。これで不穏な憶測を招かないはずがない。

 権力争いに絡む暗殺か、あるいはそれこそエネスカル王国の謀り事か――そう邪推する者もいるだろう。
 戦争が起きる――さすがにそれは言い過ぎだろうか?

「レオン様っ!」
「司祭様、お待ちくださいっ!」

 重苦しい雰囲気が私たち二人を包む中、広間の扉が開かれメリアとそれを追いかける護衛の教会騎士が現れる。
 三人は室内の荒らされた様子に目を見張り、次いで私たちに気付くと駆け寄ってきた。

「殿下っ! レオン様は――」
「副団長っ!」
「そんな……」

 そしてアルサートの足元に横たわったレオンの亡骸を認め、メリアは蒼白となった顔で座り込んだ。

「れ、レオン様っ? そんな、まさか……」

 口元を覆い、肩を戦慄かせるメリアは信じられないと言った面持ちでレオンの頭からつま先までを何度も何度も視線で辿る。そしてその現実が間違いようのないものだと悟ると顔を隠して嗚咽漏らした。

「……レオン殿は最期まで『レーブ』をヴァンパイアの手から守ろうとしていた。立派な方だった」
「……は、いっ」

 しゃくり上げるような声で気丈にもアルサートの言葉に答えたメリア。そんなメリアの肩を抱こうとして、しかし踏ん切りがつかないようにアルサートの手が宙を漂う。

 何と焦れったいことか。それでもラハーンの受付嬢相手に軽く応じていた男か、貴様は。
 こんな場面で簡単に女性の肩を抱ける軽薄な男と言うのも嫌ではあるが、傷付いている女性を本心から慰めたくて抱く分には良いと思う。
 無論、少しでも好意を抱いている間柄に限るが。

 結局、手を引っ込めてしまったアルサートを蹴飛ばしたい気持ちに駆られながら、私は目の端にちらつく前髪を掻き揚げた。そう言えば、消えてしまった頭巾をどうしようか。

「殿下、もう大丈夫です。それより『レーブ』は?」
「……」

 目を赤く充血させ、未だ瞳は潤み切ったままだ。しかしそれでも、ライアーの司祭であるメリアは魔剣の行方を尋ねた。その気持ちの強さは、流石にエルズランで司祭を任されるだけはあると言えた。

「『レーブ』は――」
「折れた」

 そんなメリアに腰に携えた『レーブ』を見せようとして、アルサートのそんな言葉に制止させられる。

「えっ?」
「何ですって?」

 私が上げた驚きの声は、同時にメリアの上げた声に掻き消され誰にも聞こえなかったようだ。
 だが、何故アルサートはそんな嘘を。

「俺たちの前でヴァンパイアであるエーベイスは、魔剣を長剣へと変化させた。そして激しい戦闘となったが辛くも奴を打倒した。が、その際『レーブ』は砕け折れたのだ」
「そんなっ! し、信じられません……」

 メリアの疑念ももっともだ。何故ならそんなものは出鱈目なのだから。信じられてはむしろ困る。

「あれを見ろ」
「……あれはっ!」

 アルサートが指し示した先には二つに断たれたエーベイスの死体。未だ灰にならず残っているその亡骸の傍らには、砕け折れた長剣の残骸が散らばっている――無論、私の愛剣のものだ。

「ま、まさか本当に……いえ、ヴァンパイを倒しているのが何よりも証拠。『レーブ』は本当に砕けてしまったのですね?」
「そうだ」

 恐る恐る剣に近寄ったメリアは、重々しく頷き一応納得したようだ。いや、納得されては困るのだって。

「おい、アル……」
「ラーマよ、よく聞くのだ」

 いい加減抗議しようと声を掛けると、逆に傍に寄られて耳元に小声で話しかけられた。

「馬鹿正直にお前さんが『レーブ』に選ばれたなどと言ってみろ。周囲が黙ってはいないぞ? 皆お前さんが次代の魔王だと信じるに決まっている」
「……それは極端に過ぎるぞ」

 とは言え、アルサートが言う事ももっともなのである。
『レーブ』が魔王専用の剣である事を知っている者の中には、必ず私に疑念を抱く者も現れよう。その上、私がハーフオーガであることが知れればどうなるか。
 私にその気がなくとも、周囲は私を魔王と見做し無暗に戦いを仕掛けてくるやもしれない。

「……正直に言おう。俺も本心では怖いのだ。ラーマよ、お前さんは一体何なのだ? その外見に反した膂力とヴァンパイアでさえ驚く魔法の技術。さらに一端の剣術をその齢で会得している……解るだろう? お前さんは明らかに人間の範疇には収まらん」
「……ああ」

 当然だ。何せ今の私は人間ではないのだから。

「頼む、ラーマ。頼むからそう言う事にしておいてくれ。どれだけ常識から外れていようとも、お前さんは俺の友だ。どうか俺の友を、何も知らない他者に『魔王』だなんて呼ばせないでくれ」
「……わかった」

 そんな必死な顔で懇願されれば、『友』なんて言葉を持ち出されれば私の出せる答えなど一つだ。
 それに、こちらとて無用な騒ぎは避けたい。よく考えれば断る理由がないのだ。

「……お二人して、何のご相談ですか?」

 ひそひそと話すこちらに首を傾げ、メリアが不思議そうに声を掛けてきた。その顔はアルサートに向けられながらも、何故か視線はこちらに向いている。
 それも、何やら含むところがありそうな――ああ、そう言う事か。

「頭巾、やはり必要か」

 今の私は一応女に見えるはずだ。まぁ顔が少々あれだとしても、女の身体であることは間違いない。胸も小さいが間違いない。

 そんな私に何とも言えない視線をメリアが送っていると言うことは、つまり、あれだ。嫉妬とか言うやつではなかろうか。
 私とアルサートが顔を突き合わせているのを見て、少しばかり面白くないのかもしれない。だがそれを顔に出さないようにしているため、何とも形容しがたい視線だけを私に向けているのだろう。

 なんと可愛らしい司祭であろうか。

「アルよ、ぶっ殺していいか?」
「えっ!」

 美しい少女が私に視線を向けている。それは素晴らしい事実だが、悲しいかな、彼女は私を見ながらにして私を見ていない。
 彼女の心は私の隣に立つ偉丈夫を見ているのだ。それを思えばアルサートに殺意が湧くのも当然と言うものだ。

「別に大した話をしていたわけではない。今後の予定について打ち合わせていただけだ」
「……そう、なのですか?」

 私の低い呟きにアルサートが顔を引き攣らせながら、しかし聞こえなかった様子のメリアにそんな誤魔化しを口にする。
 あまり信じてなさそうではあるが、食い下がるのも不自然と思ったのだろう。メリアは小さく頷いた。

「それより、折れた『レーブ』には何の力も残っていないようだ。これならば、手に触れても問題なかろう」

 そんなもっともらしい事を言って、壊れた『レーブ』――もとい、私の愛剣を回収しようとメリアの脇を抜けたアルサート。

「お手伝い致します」

 それに並ぼうと踵を返したメリアは、私に背を向け、そして唐突にアルサートへぶつかった。いや――違う。
 彼女は小柄な体を目一杯使って、大柄なアルサートを突き飛ばしたのだ。

 迫り来るエーベイスの凶刃から庇うために。

「あぁっ」
「メリアっ!」

 折れた長剣の切っ先部分を口に含み、腕の力だけで体を飛ばしたエーベイスは、断たれた上半身でアルサートを刺し殺そうとした。

 それに気づいたメリアが彼を突き飛ばし、代わりに刺されてしまったのだ。

「し、死ねぇぇっ」
「貴様ぁっ!」

 死にぞこないのエーベイスをアルサートが思いっきり殴りつけた。咄嗟の行動だったのだろうが、その一撃によりエーベイスの上半身が吹き飛ばされる。それも執念深く、切っ先を口に咥えたまま――つまり、傷口に栓をしていた刀身が抜かれてしまったのだ。
――血飛沫が上がる。

「メリアぁぁっ!」
「ええい、くっそっ!」

 慌てて駆け寄り治癒魔法を使うも、相当に傷は深い。それも刺さったところが心臓に近く厄介だ。大きな血管を傷つけてしまったのか血が一向に止まらない。
 これでは恐らく、治癒魔法では延命にしかならないだろう。

「……我が無、念……おもい、し――」

 そんな言葉を残してエーベイスの身体は灰となって消えたが、今はそんなものを気にしてはいられない。
 注げる限りの魔力を注いでメリアの治癒に当てるのだが、死の気配は消えそうになかった。

 ヴァンパイアであるエーベイスが、死んで直ぐに灰にならないのを訝しむべきであった。例外として時間が経ってから灰化する場合もあるが、念には念を入れて燃やしておくべきであった。だが、今さら何を思っても手遅れだ。

「め、メリア……」
「司祭様っ!」
「そんな、メリア様まで……」

 倒れ伏し、私の治癒魔法を浴びるメリアにアルサートと教会騎士が屈みこんだ。アルサートに至っては、臆面もなく目を潤ませ彼女の右手を握りしめている。そんなアルサートに、メリアは虚ろな視線をゆっくりと向けた。

「で、殿下……」
「いいっ! 今は喋るなっ!」

 無駄な体力を使うことを戒めるアルサートの言葉に、だがメリアは小さな微笑を浮かべて拒否を示した。
 彼女は悟ってしまったのだろう。今さらそんな体力は些細な問題で、自分の生死に影響しないことを。どの道、自分が助からないことを。

「ずっと夢を……夢を見ていました。こうして殿下の声を聞き、殿下に手を握っていただく夢……そして、殿下が……殿下が私を一番に想って下さる夢です」
「……メリア」
「五年前、貴方様が王子であることを知った時……私は、私はその夢を捨てました。ライアーに仕える神官として、叶うはずないその夢を捨て……ライアーだけに身を捧げようと、誓ったのです」

 メリアの口から血の滴が零れる。それと同時に彼女の目が潤み、滲んだ瞳にアルサートの姿を浮かび上がらせた。

「ですが、三年前……貴方様が国を、捨てた時。私はまた夢を見てしまいました。あの約束を果たすため、それだけのために、貴方が国を捨てたんじゃ……そう思い上がってしまった……心の底から喜んでしまった」
「それは……」
「貴方も私を、憎からず思っている……そんな、そんな迷妄を振り払うため、再会した貴方に――私、貴方に非道い事を……どうか、許して――」
「……ああっ。許す、許すともっ」

 擦れた声で返事をしたアルサートに、メリアは死に逝く者とは思えない笑みを作りながら瞳から一筋の涙を頬へと流した。

「――いま、夢が叶った……この時、この瞬間だけは貴方に一番に想って、もらえた……」
「馬鹿なっ! 俺は何時だってっ! 何時だってお前を……」

 声が詰まって言葉にならないアルサートから視線を外し、メリアはゆっくりと瞼を下ろした。

「……ねぇ、アル。貴方とまた、ウォクサーの山を――」
「――っ! メリアっ!」

 彼女を、死が連れ去ろうとしていた。その事実に取り乱すアルサートの姿を見て、私は一人、腹を括る。

「アルっ」
「……なんだっ?」

 私の呼びかけに、メリアから視線を外さず涙声で応えるアルサート。そのアルサートに、短く尋ねる。

「お前を信じていいか?」
「――なに?」

 私の唐突な言葉を理解しがたいと言わんばかりに、アルサートはメリアからこちらへ視線を移した。見っとも無い泣き顔を晒す彼に、さらに告げた。

「彼女を救えるっ」
「――頼むっ! メリアを助けてくれ」

 恥も外聞もなく即座に私に縋りついてくる偉丈夫を押し退けながら、私は覚悟を決めて両の掌をメリアに向ける。出来れば二度と御免だったが、今回ばかりは仕方あるまい。

「私はこのあと気絶する。私が起きるまで、何があっても私を守れるか?」
「え?」
「守れるかっ?」
「あ、ああっ!」

 その叫ぶような了承を以て、私は前世含めて二度目となる『他者への』恢復魔法を行使した。
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