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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第一章 魔王候補生



『おい、ラーマ。村長が貴様をお呼びだ』


 ドスを利かせたような低い声音に名を呼ばれ、私は首だけ捻って顔を向けた。

『村長が? なんだ、厄介事か?』

 十と六年の間にすっかり慣れてしまった言語で問いかければ、相手は醜悪な顔をさらに険しいものへと変え、私を見下ろし吐き捨てる。

『知らん。だが『混ざり者』の貴様を村長が呼ぶ理由など、それ以外にあるものか』
『まぁ、そうだろうとも。知らせてくれてありがとよ、ゲボス』
『ふん』

 礼を告げたところで知らせてきた相手、ゲボスの私への態度は変わることがない。ゲボスだけではない。
 この村にいる多くの者が私に対しては皆こうなのだ。生まれてきてからもうずっとである、さすがに何とも思わなくなってしまった。



 ここは、エネスカル王国の人里を遠く離れた山奥にある――オーガと呼ばれる魔物の集落。
 オーガが治め、その元に集ったオークやコボルトなど格下の魔物と、人里から攫ってきた人間の奴隷しかいない。

 何故そんな場所にいるのかは私にも分からない。

 魔王を倒し、人間として死んだはずの私は、気付けばオーガの娘として生まれ変わっていたのだ。それも、ただのオーガではない。
『混ざり者』あるいは『人間もどき』と呼ばれる、人とほとんど変わらない容姿を持って生まれてきてしまったのである。

 一般的なオーガは人間の三倍近くある背丈と横幅、更に全身を覆う頑強な筋肉と緑色に近い皮膚を持つ。そして特徴的なのが頭上に最低一本、最大で三本まで生えた短い角だ。その条件に見合った姿をしていれば、間違いなくオーガと言えよう。

 しかし、私のように『混ざり者』と呼ばれる存在は違う。

 オーガが人間に子どもを産ませた場合であってもほとんど一般的なオーガの姿で生まれてくる。だが稀にあるのだ。人間にほど近い姿で生まれてくることが。
 その場合、多くが未熟児であり数時間、長くて数日で死ぬ。仮に数年間生きていることが出来ても、オーガの集落の厳しい生存競争に負けて真っ先に死ぬ。それが、『混ざり者』あるいは『人間もどき』と呼ばれるハーフオーガである。

 本来、『混ざり者』が十六年も生きることなどありえない。だというのに何故、私が今日まで生き抜くことができたのか。

 ひとえに私の前世が魔王を倒した勇者であり、その記憶が残っていたからに他ならない。

 幼いころから魔法を使うことができ、尚且つ人間としての経験から、オーガたちの間で立ち回ることができた。

 十を過ぎるまで死にかけたことは何度もあるが、思い出したくもない危ない綱渡りの連続の末、結果としてこの年まで無事に生き延びた。
 当然、幼いころから生き抜くために死に物狂いで鍛錬してきたのである。今では他のオーガたちと同じかそれ以上の膂力を有し、集落でも指折りの実力者として知られるようにはなった。

「まぁ、それでも未だに偏見は消えないがな」

『何か言ったか?』

 私が人間の言葉で呟くと、オーガの言葉しかわからないゲボスは怪訝そうな顔で睨みつけてくる。そんな彼に首を振り、私はゲボスの横をすり抜けた。

『行ってくる。最近、人間の冒険者がやたらこの山に登ってくるらしい。警備連中と一緒に警戒してくれ』
『ふん。言われるまでもない』

 気に食わないと言わんばかりに唾を吐き捨てるゲボス。事実、気に入らないのだろう。

 本来ならば、奴隷としてしか見ることのない人間の姿である私に対等に扱われているのだ。いや、それどころかゲボスは警備兵の一員で私は警備隊長。立場としても私の方が上なのだ。それは、大層気に食わないことだろう。

 ただオーガは実力主義だ。
 ゲボスより私が実力で勝っている以上、面と向かって異議を唱える者は誰もおらず、また『混ざり者』で年若い私であっても然るべき役職が与えられる。その点に関しては、オーガは人間よりも分かりやすい。

『さて、面倒事でなければいいが』

 集落で一番立派な建物である村長の屋敷が近づいてきたのを見据え、私は本音を吐露した。
 オーガの集落で一番の権力者は村長である。
 実力主義のオーガの集落だ。当然、村長は実力者でなければ就くことは許されない。そもそも村長になる方法が、村長位に就いているオーガを正当な果し合いで殺すことなのだ。
 よって、集落の村長が半月もせず変わることも珍しくないのは余談である。

 現在の村長はオーガにしては年嵩があるが未だに気力は充分。肉体的にも最盛期を過ぎつつあるとはいえ五年以上村長をしている。つまり、それだけ実力があるのだ。
 そして、二年以上同じオーガが村長をしていれば、集落の者は彼がそのまま村長をしていても良いのではないかと考えるようなり、結果として村長に果し合いを挑む者が少なくなる。
 そのことも、現在の村長が長く続いている理由になるだろう。

『村長、警備隊長ラーマ・ルロンダが参りましたっ!』

 私が屋敷にある門の前に来ると、警備をしていたオーガが屋敷の外から大声を上げる。
 図体の大きなオーガの大声だ。これだけで、常人なら鼓膜が破れるかもしれない。

『――通せ』

 屋敷の扉が開き、別のオーガが現れ警備に告げると、さっそく門が開かれた。

『失礼する』

 門を潜り、開けて貰った扉から室内へ入るがやはり広い。と言うより大きい。

 通常のオーガにしてみても大きな屋敷なのだ。オーガよりはるかに背の低い人間と同じ背丈しかない私にしてみれば、小人にでもなった気分だ。そのため、いつまで経ってもこの屋敷に訪れるのは慣れそうにない。


『いよぉ、ルロンダ。呼びつけて悪かったな』

 案内された奥の座敷には、オーガの中でも取分け立派な肉体を誇る大柄なオーガ、村長であるジュスタ・エレンド・ルローが胡坐をかいて座っていた。

『いえ、構いません。して、何かありましたか?』

 軽く挨拶をしてから、私も彼に倣って胡坐を掻いて座る。仕来りに煩いオーガであれば、ここで正しい礼儀作法の一つでもしなければならないが幸いジュスタは寛容だ。敬っていることが分かれば特に煩くは言わない。

『あぁ。単刀直入に言うぜ、ルロンダ。お前さん――魔王になる気はないかい?』

『――はい?』

 彼らしいと言えばそれまでだが、あまりに唐突なその問いかけに驚くことも出来ず、素で問い返してしまった。恐らく私は随分と間抜けな顔をしていたことだろう。

『くっくっく。まぁ、行き成り言われたらそうなるよなぁ? まぁ、順を追って説明するぜ』
『お願いします。突然魔王だなんて言われても……真意を図りかねます』

 魔王と言う言葉は嫌と言うほど知っている。言葉だけではない。その存在も力も、実際に戦い討ち果たしたのだ。
 嫌と言うほど――分かっている。

 分からないのはその存在と私との接点だ。同じ魔物に分類されること以外ないと思われるのだが。ジュスタはどうして、魔王になる気はないかと私に聞いたのだろうか。


『まぁ、あれだ。魔王になるって言ってもすぐなれるわけでもねぇし、本当になれるかどうかも分かんねぇ。ただ、その好機があるってだけだ……どうだい?』

『好機……興味があまりないですね……』

 未だ話は見えないが、そもそも魔王になる気など毛頭ない。
 今でこそハーフオーガだが、かつて人間だった私が彼らを好きだったことは揺るぎない事実だ。魔王として彼らと敵対する気はさらさらなかった。

『まぁ、聞け。おい聞けよ。さすが変わり者だなぁ。普通のオーガなら、魔王になれるって聞いただけで血を滾らせるっていうのによぉ……いいか? 先代の魔王が死んで――彼此十五年は過ぎたぜ? もうそろそろ十六年目だろう?』
『いえ、既に十六年は経っていますが』

 なんせ、私がハーフオーガとして生まれた前日に先代魔王は死んだのだ。忘れられるはずがない。
 魔王が死去したことにより生じた混乱のおかげで、ハーフオーガであった私もどさくさに紛れて生き残ることができたのであるし。

『そうかい。まぁ、いい。そんでだ、そろそろ人間どもに削られた戦力も戻ってきたわけだし、ここらで新しい魔王を立てないかって話になってんだわ』
『……そう言えば、今は誰も玉座にいないのですね』

 魔王が討たれて十六年が過ぎたのに、何故今まで新たな魔王が現れなかったのか。考えてみれば当然だ。
 戦力が回復していなければ、新しい魔王になったところですぐまた人間に討たれてしまう。魔王はそれ即ち人間の敵と言う認識なのだ。魔王の存在が露見すれば人間はすぐさま兵を派遣するだろう。そして、もちろん勇者も。


『詳しいことは俺にもよく分かんねぇーが、ゴブリン、オーク、トロール、ヴァンパイア……いろんな種族から魔王候補生を集めて次期魔王を決めるんだと。事後承諾で悪いが、俺はお前さんを推薦させてもらったぜ』
『な……』

 当然、この集落にいるオーガの全権は村長であるジュスタにある。故に彼が私に許可なく決めたとしても何ら不思議はない。
 しかし、何故私なのだろうか。

 確かに、実力はこの集落で一番だと自負している。
 オーガに負けない膂力と、勇者の時代に培った剣術に魔法。そしてあらゆる攻撃手段と経験。種族として人間より強い力を得たため、魔王と相討った前世よりも今の方が圧倒的に私は強い。

 とは言え出る杭は打たれるを恐れる私は、あくまで集落の中の実力者で通してきたのだ。そのため、私よりも強いことになっているオーガも少なくない。


『解せない……そんな顔してんなぁ』
『ええ。事実解せませんので』

 私の首肯に村長は堪えるように笑い、自分の膝を強く叩いた。
 オーガなだけあって、その膝を叩く音は空気を弾くように震わせた。

『くっくっく。お前さんが力を隠していることぐらい、他の奴らを騙せても俺には分からぁよ』
『……買い被りです』
『ふん。まぁ、仮にお前さんに隠れた実力がなかったとしてもそれでいい。俺は、俺はだ。お前さんにはこの集落は小さすぎると思うのさ』

 小さい?
 いや、恐らくこの集落にいるオーガの中で、私が一番この集落の大きさを実感していると思うのだが。

『違う。そうじゃねぇ。図体の大きさの話じゃねぇ。聞けよ? 俺は今、器の大きさの話をしてんだ』
『はぁ……』
『お前さんはこの村にいれば、いずれ村長になるだろう。おそらく偉大な村長になる。俺としては、直ぐにでもお前さんに譲ってやってもいい』 

 ジュスタのとんでもない発言に、私は思わず目を丸くする。
 前々から目をかけてくれているとは思っていたが、まさかここまで考えていてくれていたとは。
 ジュスタは誰にでもこのようなことを言うオーガではない。つまり真実、彼は私のことを評価してくれていたのだ。

『だが、お前さんにはこの集落の村長なんて役不足だ。ああ、役不足も甚だしい。うんなぁ小さな役職で収まる玉かぁ? お前さんが』
『いえ、そもそも村長になる気も――』
『常々そう思っていたところに、今回の魔王候補生の話だ。俺は即座に飛びついたぜ。そんで、気付いたらお前さんを推薦していた。事後承諾になったのはこのせいだな、うん。お前さんのような存在がこの集落に生まれたのは、きっとこのためなんだろうなぁ』

 人の話も聞かずしみじみと頷き腕を組むジュスタに、私は呆れて何も言えなかった。
 どこの世界に、人間姿のハーフオーガを集落代表として魔王候補生が集まる場所に送り出すオーガの村長がいるんだ。恐らくこの集落の村長だけだ、そんな奇特な変わり者は。

『っで、色々語ったが……この推薦、受けてくれるな?』
『……村長の命令とあらば』

 変わり者とは言え、ジュスタはこの集落の長である。
 彼の命令とあれば、集落で暮らすものとして拒否することは出来ない。

『よっしゃあっ! 話はまとまった。お前さんなら話さなければ人に化けて旅ができるだろうからな。こっちで地図や路銀、旅に必要な物の準備はさせとく。お前さんはお前さんに必要なものを準備してくれ。今夜宴をして、明日の朝発ってもらう。いいか?』
『……村長の命令とあらば』

 急ではあるが、仕方がない。それに、魔王候補生という事は、魔王になると決まったわけではないのだろう。
 純粋に集落の外を見て廻ることを目的として旅立つのもいいだろう。


『ラーマ・ルロンダ……か。ルロンダの称号は、お前さんにはちと足りないか? 別のを与えてもいいが』 

 通常、姓と言うものを持たないオーガの中で、私の姓になっている『ルロンダ』はオーガにのみ伝わる称号の一つだ。意味は『栄光ある雌竜』とされる。主に、オーガの雌であるオーガスの中でも屈強な者に与えられる称号であるが、私は警備隊長になった際ジュスタにもらった。

『いえ、構いません。このルロンダと言う響き、気に入っていますので』

 これ以上、名誉ある称号を貰うのは重荷でしかない。それに事実、『栄光ある雌竜』という意味のルロンダは気に入っていた。

『そうかい。それじゃあそれでいいぜ。まぁなんにせよ、次この村を訪れる際は魔王か? 楽しみにしてるぜ』 


『――過度の期待はご遠慮願いたいですけど』


 容易く言ってのけたジュスタに内心呆れ、本心からの苦言を思わず呈す。
 魔王になる実力があるとかそう言う以前に、そもそも心情としては魔王なんて御免こうむりたいところなのだ、私としては。

 有難い話だが、正直なところ大きな祭りに参加した多くの魔物の一人として、今回の魔王を選ぶ儀式を無事に終えたいところである。

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