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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第十八章 欺瞞の吸血鬼


「『風嵐』」

 私の剣から放たれた五度目の『風嵐』によって、二三体のワイバーンが落下してくる。そして近くにいた冒険者が手馴れた様子で素早くそれらに止めを刺し、着実に奴らの戦力を削いでいく。
 そんな事を繰り返していたお陰か、随分とラハーン上空が見晴らし良くなってきた。市民たちの避難を無事に完了させた王国の兵士たちも戻ってきたため、益々こちらの優位が大きくなる。

 しかしまだ、エーベイスに主立った動きはない。

「……こちらから仕掛けてみるか」

 奴が何を企んでいるのかは知らない。もしやするとこちらが攻撃を仕掛けてくるのを待っているのかもしれない。実は罠なのかもしれない。
 だが、その可能性にばかり囚われていては、ワイバーンは際限なく湧き続けるだろう。大本であるエーベイスを倒さない限り、ワイバーンは王都から離れようとしないはずだ。

「ふぅ……『風嵐』」

 これで六度目となる『風嵐』を、今度はエーベイスが乗るワイバーン目掛けて放つ。上昇する風が大きくなり、やがて上空で猛威を振るう嵐となった時、エーベイスの乗るワイバーンは微かに揺れた。そう、ほんの微かに揺れただけなのである。

「……風には風の守りか……」

 奴が何をしたのかが解り、虫を噛み潰したかのような苦いものが口に広がる。

 奴は『風嵐』と同じ天象魔法系統の『包風』を使ったに違いない。自身を覆うような風の流れを創り出し、外部から伝わる風を遮断し影響を受けなくなる魔法だ。
 外部からの風と言うところが上手くできており、ワイバーンが羽搏きで起こした風、つまり内部からの風は遮断しない為に影響なく飛ぶことができるのだ。厄介な。

「どうするのだ?」

 襲い掛かってきたワイバーンを、慣れたのかあっさりと返り討ちにしたアルサートが問いかけてくる。
 エーベイスが攻撃を仕掛けてこない限り、打つ手はない――そう言いたげなアルサートに、私はニヤリと笑みを向けた。

「任せろ、伊達に修羅場は潜っていない」

 剣を鞘に納めた私は、ゆっくりと右手をエーベイスへと翳す。その右手の先に、魔法陣が展開され、次いでその周囲で何かが爆ぜるような乾いた音が鳴り響く。

「『劫火連弾』」

 私の手から放たれた無数の大きな火の塊は、素早いワイバーンでさえ回避不可能な速度で次々にエーベイスへと殺到する。
 風ではなく火の魔法だ。当然、エーベイスが纏う『包風』など意味をなさい。
 ワイバーン自体にはあまり効果はないが、ヴァンパイアであるエーベイスならば話は別だ。火炎系統に弱いヴァンパイアに、その系統の上位魔法である『劫火連弾』は相当応えるはずである。

「ちっ!」

 やはり直撃は避けたいのか、エーベイスは乗っていたワイバーンから飛び降り遥か下の地面へと、軽い音を立てて着地した。

「やってくれるな、小僧」

 憎々し気な声で呟いたエーベイスにふと違和感を覚えるも、すぐにその理由に思い至った。

 前回相対した時は明け方――まだ日の出る前だった。だが今回はまだ日が出ている。相手がヴァンパイアならば、受ける印象が違って当然だろう。
 なんせヴァンパイアは日が出ているか出ていないかで、その強さが全く異なるのだから。

「邪魔はさせん、死ねっ!」

 身構えたこちらを完全に殺すつもりで突っ込んでくるエーベイス。力が落ちているはずだがやはり早い。

一足飛びでこちらまで迫り振るってきたエーベイスの腕を躱し、一瞬の合間を縫って、奴の顔を鷲掴みにする。

「ぬっ?」
「ふんっ!」

 そして引き倒し、地面に勢いよく叩きつけた。

「がっ! このっ!」

 王都の固められた地面が少々陥没するぐらいの力で叩きつけてやったと言うのに、エーベイスはすぐさま反撃するように右足を繰り出してくる。
 そのすさまじい威力の蹴りを軽く躱し、私はいったん距離を取った。

「貴様っ!」
「先日は失礼したな。今日はとことんお付き合いしよう――『炎腕』」

 右手と左手に炎を纏い相対すれば、目の前のヴァンパイアははっとしたように目を見開いた。

「貴様……そうか、貴様が……」
「うん?」
「ふんっ! 少々やるようだが、その程度で勝った気になられては困るな」

 言うや否やエーベイスは両手に魔力を纏い硬化させ、こちらに再び迫ってくる。今度は先ほどよりも遅く、こちらの出方を窺うような攻撃の仕掛け方だ。勿論、乗ってやるぎりもないが、前回は乗らなかったのだ。
 今回は乗ってやるとしよう。

「ふっ!」

 こちらからも近づき炎を纏った腕を振るえば、エーベイスは身を仰け反らしてそれを躱し、いっぱいに伸ばした右足で私の影を踏む。

「『魔が潜みし闇を封じ、その主を共に束縛せよ――影縫』
「なにっ?」

 エーベイスの短い詠唱によって行われたのは、こちらの移動を封じる魔法だ。暗黒魔法の中で中位に入る魔法『影縫』である。
 発動条件は相手の影を踏むこと。相手の影を踏んでいる限り影の主はその場を動くことができず、魔法を使う事もできない。

 しかし、体が動かせないわけではない。あくまでも影のある範囲から体を移動できないと言うだけで、手足を動かすことは可能なのだ。
 それにこちらの影を踏み続けなければならない以上、『影縫』の使用者もその場を移動できず、また魔法を使うこともできない。

「何のつもりだ?」
「なーに。自分の力に自信がありそうなのでな、貴様と殴り合いをしてみるのもいいかと思っただけだ」
「……後悔するなよ?」

 魔法が封じられたためにこちらの纏っていた炎は消えたが、相手の両腕も硬化が解かれた。今なら純粋に力比べができるだろう。

「ラーマっ!」

 動けないこちらを案ずるようにアルサートが声を掛けてくるが、その加勢を目だけで制する。

――この状況は、むしろ願ったりなのである。

「死ねっ!」

 意識を割いた途端、顔に向けて振るわれた右の拳を首だけ捻って避ける。そしてお返しにエーベイスの鳩尾へと左の拳を突き入れた。

「ぐへっ!」
「どうしたっ! 挑んできた割にっ! 大したことがっ! ないなっ!」
「がはっ」

 二発、三発、四発、そして五発までエーベイスの身体に両手の拳を次々打ち込むが、奴は唾液や胃液を吐きながらも必死でこちらの影を踏み続ける。
 ヴァンパイアの特性上、直ぐに骨折や傷は完治するだろう。だが、痛みは一瞬とはいえ確実にあるはずだ。よくもまぁ、耐えられるものだ。

「このっ!」

 破れかぶれと言った有様で掴みかかってきたエーベイスに、私も真っ向から掴み返す。純粋な力比べとなった。

「きぃさぁまぁ……な……何故っだぁっ――」

 私よりも背が高いエーベイスが上から潰すように掌を押し付けてくるが、私も組み合った掌でそれを全力で押し上げる。
 そしてじりじりと押し返される自分の両の掌に、美貌のヴァンパイアはその顔を驚愕に変えた。

「ば、かな……ヴァンパイアのこの私が……」
「貴様は自分の力を過信しすぎだ」

 ヴァンパイアがオーガの力を越えるのは、あくまでも瞬発的にである。その一瞬を防いでしまえば、太陽が出ていようといまいと力比べでオーガである私が負けるはずもない。

「ふんっ!」

 力勝負で完全に勝った私は、指を組んだ掌だけを掴んで持ち上げエーベイスを放り投げた。これによって『影縫』は解除され、私の移動も自由となる。

「ぐあっ!」

 背中から地面に叩きつけられたエーベイスは潰れたような声を上げて悶え、苦しそうに立ち上がった。

「こ、ここまでやるとはな……本調子ならいざ知らず、陽の下では私の手には余るか……」

 ちらりと辺りに目をやるエーベイス。その姿から逃げ出そうとしていることが分かり首を傾げてしまう。
 ここまで大規模な仕掛けをしておいて、『レーブ』の元へ行くこともなく退くなんて在り得ない。ヴァンパイアで力を持つ者と言えど、これだけの数のワイバーンを従えるのは容易ではなかったはずだ。それでもワイバーンを王都へ襲撃させたのは、『レーブ』を間違いなく手に入れるためだったはず。

 なら何故、これほど簡単に退くことを選ぶ?

「貴様の狙いは『レーブ』ではないのか?」
「ほう、あれが『レーブ』であると気付いたのか? そう、狙いは『レーブ』だとも」

 私の言葉にエーベイスは頷き、右掌を上空に翳してゆるりと回した。
 その途端、今まで上空を旋回するのみだったワイバーン共が、一体残らず降下してくる。それも、私一人目掛けてだ。

「貴様っ!」

 急いで剣を抜き放ち、初めに襲い掛かってきたワイバーンの爪を躱して跳び上がり、そのまま首を刎ね飛ばす。
 二体目、三体目と次々に殺到してくるワイバーンを返り討ちにしながらエーベイスを睨むも、奴は不敵な笑みを浮かべてからこちらに背を向けた。

「待てっ!」
「狙いは『レーブ』だが、それは私の狙いではない」

 制止を掛けると奴はすんなり立ち止まり、背を向けたまま顔だけをこちらに向ける。その泰然とした姿は逃げ出す者のそれとは思えない。むしろ、まるで勝ち誇るかのように口の端を吊り上げている。

「それなりに時間は稼いだ。これなら我が友への面目も保たれよう」
「なに――」

 その瞬間、奴の顔が縦に裂け、下から全く別人の顔が現れる。
 エーベイスの銀色の髪とは似ても似つかない茶髪。瞳や肌の色も美貌と呼べる端正な顔つきも変わらないが、その造形は全く異なっている。じっくりと見る必要もないほど明らかに違う。それはどこからどう見ても別人であった。

「貴様、エーベイスではないのかっ?」
「我が名はレルボドロ。エーベイスの古い友人だ」

 ヴァンパイアが他者へ姿を似せるのが得意であることは知っていた。だが、よもや同族に化けるなど思いもしなかった。そもそもエーベイス以外に人間の街にヴァンパイアが訪れるなんて――。

 いや、問題はそこではない。

 このヴァンパイアがエーベイスではなかったと言うことは、エーベイスはどこにいる? 奴は、どこに向かった?

「ら、ラーマっ!」

 私と同じ考えに至ったのか、アルサートが切迫したような大声で呼びかけてくる。それに頷きを返し、私も振るう剣の速度を上げる。

「退けっ! 貴様らぁっ!」

 他の冒険者たちが私の助太刀をするためワイバーンへ斬り掛かるが、奴らはそれに見向きもしない。何故か私のみを敵と定めるように、次から次へと向かってくるのだ。

「この中で一番厄介なのは貴様だと判断した。ここまで従えるのは苦労したが、我が配下のワイバーンを全部つぎ込むとしよう。残り五十四体――さて、どれほど持つか」

 エーベイスを偽装していたヴァンパイアが左手を翳した途端、見晴らしが良くなっていた王都上空に再び無数の影ができる。
 数十にも及ぶワイバーンの群れだ。それらは旋回もせず、上空で留まることもなく、間を空けずこちらへと滑空してくる。狙いはどいつもこいつも私のようだ。

「ちっ! ワイバーンにモテても嬉しくないぞ」

 密集しながら迫り来るワイパーンにそんな抗議をし、私は周囲にいる冒険者たちに声を掛けた。

「全員目を瞑れっ!」
「なっ?」
「えっ?」

 文句も疑問も受け付けない。この場面で手っ取り早くワイバーンを仕留めるのはこれしかない。

「『眩雷』」

 私の右手から起こった一瞬の光が、鋭い刺激となってワイパーン共の目を襲う。殺傷能力は全くない雷電系統の魔法だが、相手の目を眩ませる場合においては有効だ。
 特に今回の場合、有効に過ぎると言えるだろう。

『ぎゃぁぁぁっ!」
『るぎぃぃぃ」

 小さな私を目掛けて殺到していたワイバーンは、当然一纏まりとなってこちらに向かっていた。お互いの距離と距離が極端に狭く、そんな繊細な飛行技術が求められる状況で目が数秒とは言え使えなくなったらどうなるか?

 答えは簡単だ。平衡感覚や距離感を無くし、近くにいたワイバーン同士で接触。衝撃に弱いワイバーンはそれだけで周囲の仲間を巻き込み墜落してくる。

「す、すげぇ」
「こんなにあっさり……」

 無論、通常のワイバーン討伐ではそれほど有効な手ではない。相手が一体、あるいは少数の場合、目を眩ませたところで空に逃げられるのがおちだからである。
 ただ、今回のように密集して飛んでいれば空に逃げる前に互いにぶつかり、その衝撃で勝手に落ちてくるのだ。
 一対多がほとんどであった勇者だった頃に開発した戦い方だが、まさかオーガになっても使うことになるとは思わなかった。

「感心していないでさっさと止めを刺せ。落としたら終わりだなんてことはないんだぞっ!」

 一瞬でほとんど壊滅したワイバーンに度肝を抜かれていた冒険者たちに、指揮をしていた上位冒険者が一喝する。その声で慌てて地面でもがくワイバーンを仕留める冒険者たち。
 それを確認してから先ほどまでレルボドロと名乗ったヴァンパイアがいた場所を見るも、今は誰もいない。

「……逃げられたか」

 その潔い逃げっぷりを忌々しく思うもそれどころではない事を思い出しアルサートへ視線を移すと、これまでで初めて見るような真剣な顔で頷き、走り出した。

「おい?」

 アルサートの唐突な行動に訝しむような声が上がるが、私もアルサートに倣って走り始める。

「すまないが、後の処理は頼んだ。私たちは他にすべきことがある」
「え、あ……ああ」

 近くにいたデルとか言う冒険者にそう言伝てから快足を飛ばす。前を行く偉丈夫がどこへ行くのかなど、確認し合うまでもなく解っていた。
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