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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第十七章 襲来


 一般広間から抜け出した私たちは、城から幾らか離れた王都の中心部へと止まることなく走り続けた。
 頭上を見れば何体もの翼竜が王都の上空を旋回し、度々思い出したかのように急降下して人々を襲っている。

「あれが、ワイバーンか……」

 隣を駆けるアルサートが、息を呑むように頭上を見上げ呟いた。その様子から、彼がワイバーンを見るのが初めてであることを悟る。

「ワイバーンを見るのは初めてか? 戦い方を知らないと、魔法が使えないなら厄介な相手だぞ」
「戦い方なら聞いたことはある。だが、実戦で使うのは初めてだからな。上手く行くかは解らん。それに……純粋な竜種に劣るとはいえ、ワイバーンの鱗は魔力耐性がある。どの道、魔法使いであっても厄介なはずだ」

 アルサートの言うように、ワイバーンは亜竜種と呼ばれる種族で純粋な竜種ではない。そのためヴァンパイアよりも強いと言うようなことはないが、竜種と同じく鋭い爪と尖った牙を持ち、尚且つ空を飛ぶ厄介な相手だ。
 加えて面倒なことに、ワイバーンの体を覆う鱗は魔力に対してある程度の耐性を持つため、生半可な魔法では仕留めることができない。

「まぁ、そうだな」

 そのためそのもっともな言い分に頷きを返しておくが、結局は技量と戦い方次第だ。ワイバーンの鱗は竜種程魔力を弾かない。一定以上の魔力を込め一点を集中して狙え奴らにも魔法による攻撃は効果的だ。
 それに、何も馬鹿正直に鱗に覆われた箇所を攻撃してやる必要もないのだ。

「とにかく、ワイバーンが集中的に襲っている場所に行くぞ。どの道奴らが攻撃してこなければ、魔法の使えない俺に空を飛ぶワイバーンを攻撃する術はない」
「そうだな。せめて弓と矢でもあれば話は違うのだろうが……」

 実際にはただの弓矢であればあったとしても意味はない。ワイバーンの魔力を弾く鱗は、強度もそれなりに備えているのだ。名手ならば目などを狙え相手に傷を与えられるが、ワイバーンを倒すうえでやはり弓矢は効果的な武器とは言えないだろう。ただまぁ、それでも牽制ぐらいにはなるだろうし、上空にいるのであれば剣よりは余程無難な武器だ。

「おい、あれっ!」

 走っていると冒険者らしき男が剣を振り回し、上空から狙ってくるワイバーンから必死で身を守っている姿が目に入った。
 今は出鱈目に剣を振っているためワイバーンも手を出しあぐねているが、男が疲れて動きが鈍くなった途端、急降下。
 その鋭い爪の餌食にするつもりなのだろう。

「く、来るなよっ! おらおらおらっ!」

 喚く男の頭上を悠々と旋回するワイバーン。そのワイバーン目掛け、私は魔力を込めた剣を振り抜いた。

『ぎゅあぁぁっ?』

 私の剣から放たれた魔力は刃となり、空を飛んでいたワイバーンの翼に当たり風穴を空ける。当然、あの巨体を浮かせていた翼に大穴が空いて無事でいられるはずもなく、無様な悲鳴を上げて為す術もなく落下した。

「えっ?」
「無事かっ?」

 男のすぐ傍に轟音を立てて落下したワイバーン。その様を見て理解が追い付かないのか呆然と男は剣を構える。
 駆け寄れば特に怪我をしている様子は見えないが、私たちの方へ視線を移しあんぐりと口を開けた。

「た、助けてくれたのか?」
「ああ。それよりもワイバーンと戦う術を知らないのなら避難しろ。相手は三等級以上推奨だぞ?」
「そ、そういうわけにもいかない。組合からの緊急指令なんだ。三等級以上が所属するパーティーはワイバーン討伐に参加しなくちゃならない。俺の仲間が三等級以上なんだが、さっきはぐれちまった」
「……そいつは厄介な」

 ワイバーンは戦い方を知っていて、尚且つそれを実行する技量があればそれほど手強い相手ではない。逆に言うと、戦い方を知らず、また知っていてもその戦い方ができなければ難敵と言っていい。
 低級の冒険者では、戦い方を教えても実行などとてもできないだろう。

「仕方ない、私たちの傍を離れるな。せめて自分のパーティーがどの方向にいるかぐらい解らないか?」
「おそらく冒険者組合に向かっているはずだ。緊急指令が出されてから、まずはそこを目指すことになっていた」
「ならばそこに向かうべきだな」

 私が落下させたワイバーンに止めを刺してきたアルサートが短く言った。そして解せないと言った顔つきで私を見てくる。

「なんだ?」
「いや……ワイバーンは魔力を弾くはず。何故、お前さんの攻撃は奴に届いたのかと思ってな」
「ああ、簡単な事だ。奴が魔力を弾けるのは鱗だけ。ならば翼膜を狙えばいい」
「翼膜? 簡単だと言ってくれたが、それは誰にでもできることなのか?」
「上空を飛ぶワイバーンの翼膜を過たず撃ち抜ける魔法の使い手ならな」

 意外とアルサートも鋭い。
 私にとっては何度も経験し、既に慣れ切ってしまったことではあるが、実は魔法でワイバーンを撃ち落とすにもそれなりの技量が必要となる。

 一つの方法としてやはり、ワイバーンの身体を守る鱗の耐性を破る威力で魔力をぶつけること。放出する魔力の幅を狭めて一点に集中して攻撃しなければいけない為、凄腕の魔法使いでなければ実行できない。それにその攻撃方法では魔力を大量に消費するため、魔力量の多い者しか使えない戦法だ。

 そして先ほど私がワイバーンを落とした、魔力を弾く鱗のない翼膜を攻撃するやり方。
 この方法は魔力をそれほど消費しないが、当然ワイバーンとて自身の弱点である翼膜を庇おうとするため、相手に気取られず、尚且つ反応が追い付かない速度の魔力を放つことが必要となる。つまり、先ほどのように魔力のみを飛ばすか、無詠唱魔法で不意を突かなければならないのだ。
 無論、アルサートに言ったように、翼膜に当てることができる技量が必要不可欠でもある。

 いずれの方法にせよ難しく、魔法でワイバーンを討伐するにしてもそれなりの技量が必要だと言うことだ。

「散らばるなっ! 一か所に集まって隙を見せないようにしろっ! 弓矢を持っている奴は闇雲に打つなよ? ワイバーンが下降してきた時に十分引き付けて、目や翼に矢を放てっ!」

 冒険者組合の建物付近には冒険者たちが集まり、上位と解る立派な装備の冒険者が指揮を執っていた。
 おそらく彼らも状況を確認しようと組合に集まっていたところ、集団に気付いてワイバーン共が襲い掛かってきたのだろう。

 ワイバーンは人や生き物の群れに集る習性がある。

「おいっ! みんな無事か?」

 私が助けた冒険者がパーティーの仲間を見つけたらしく、嬉しそうに一人の冒険者へと声を掛けた。

「デル、お前どこに行ってたんだっ! いや、生きてて良かった。俺たちは皆無事だ……今のところはな」

 話しかけられた冒険者は苦々しい顔を空に向け、油断なく上空を旋回するワイバーンを睨みつける。
 上空を飛ぶワイパーンの数はおよそ三十。そしてなおもその数が増えているようにも感じられる。その光景は空を飛ぶことのできない人間には本能的な恐怖を起こさせるには十分すぎる物だ。

「……あ、ひゃ」」

 デルと呼ばれた私が助けた冒険者も、空を見上げ緊張のあまり間の抜けた息を漏らす。

「これは不味いな……市民たちの避難はどうなっているのだろうか?」

 アルサートが指揮をしていた上位の冒険者に問いかければ、彼はちらりとアルサートを見やり、それから直ぐに油断なくワイバーンたちを見上げる。

「王国の兵士と三等級以下のソロ冒険者たちに外出していた市民たちの避難誘導をさせている。家にいる者はそのまま外出を禁じた。奴らも建物に籠っている人間よりは、外で戦っている我々を優先的に攻撃するはずだからな」
「なら、取りあえずは安心か。しかしこのワイバーンの数は尋常じゃないな……」

 魔獣である竜種と違い、亜竜種であるワイバーンは魔物に分類される。魔物であれば上位の魔族に従って王都を襲っている可能性もある。そう、上位の魔族――ヴァンパイアのエーベイスが指示している可能性が高い。

 一般的なヴァンパイアであればこの数のワイバーンを従えるのは難しいが、エーベイスはヴァンパイアの中でも群を抜いて強かった。実際に戦った印象として、奴ならばこのような事態を引き起こせたとしても不思議ではない。
 なら手っ取り早いのは、奴をとっとと倒すこと。そうすれば、ワイバーン共も統率が崩れ逃げ出すだろう。

「おい、ラーマよ。あれを見ろっ!」

 エーベイスの姿を探していると、アルサートがこちらの肩を叩いて頭上を指差した。つられて見上げた空には集団から離れた所に一体のワイバーンが飛んでおり、その背に人影が見える。
 銀の髪に離れていても分かる整った顔立ち。見覚えがある、エーベイスだろう。

「あいつ、あんなところに……」
「だがこれで、一般広間の方は大丈夫だ。後は俺たちがエーベイス共々ワイバーンを片付ければいい」
「……ああ」

 エーベイスがここにいる以上、一般広間にヴァンパイアの手は及ばない。自身を「魔王に至る者」などと言っていたエーベイスが、他人に剣の回収を任せたりしないはずであるからだ。奴なら他者に任せて持ち逃げされる可能性を恐れるだろう。
 ただ解せないのはエーベイスならこの混乱に乗じて魔剣『レーブ』の奪取に向かうものと思っていたのだが――奴は未だ『レーブ』が王都のどこにあるのか知らないのだろうか。

「おい、来たぞっ!」

 どうやら考えている暇もないらしい。

 今まで上空を旋回していた一体のワイバーンが、思い出したように急降下してこちらに鋭い爪を翳して来る。

「ひ、ひぃっ!」

 普段、依頼で多くの魔物と戦ってきたであろう冒険者でも、空から竜を思わせる影が降ってくるのは恐ろしいらしい。
 顔を引き攣らせ悲鳴を上げながら、しかし逃げないのは立派と言えるのだろうか。

「退けっ!」

 中途半端に構えて、迫り来るワイバーンを呆然と見ていた男を突き飛ばし、アルサートがゆっくり剣を構える。
 そのアルサートにワイバーンの左足から伸びる鋭い爪が突き刺さろうとして、奴は辛うじて身を捩り躱す。
 獲物を仕留めそこなったワイバーンは落下する力を殺すために一度停滞。再び浮き上がろうと翼に力を入れ――。

「やぁっ!」

 その瞬間、爪を躱したアルサートがワイバーンが飛び上がる前に剣を振り抜きワイバーンの左足を斬り落とした。

『ぎゃぁぁぁぁっ!』

 突然の衝撃に体勢を崩したワイバーンは、上手く羽搏くことができずに地面に擦れるように落下。それをアルサートが慎重に首を刎ねて止めを刺した。

「お見事。お手本のようなワイバーンの倒し方だ」
「……ふぅ、上手くいった。だが、これは冷や汗ものだぞ」

 称賛を送る私に、アルサートは苦々しげな顔で剣を握り直す。気を引き締め直したようだ。

 ワイバーンの攻撃を十分引き付けてから直前で躱し、再び上空へと舞い上がられる前にこちらから斬り付け、地面に落とす――それがワイバーンを討伐するための剣士の戦い方だ。

 ワイバーンは魔法を補助に使って飛ぶ竜種と違い、完全に自分の翼だけで飛んでいる。そのため衝撃に弱く、飛び上がる直前に体勢を崩されたら上手く飛ぶことができない。
 だからこそ有効な手なのだが、実際にこの戦い方ができる者はあまりいない。なんせ直前まで逃げずにワイバーンを引き付ける胆力と、その近距離からの攻撃を躱す回避力。さらに躱してからワイバーンが飛び上がる僅かな時間に攻撃するための俊敏性が求められるのだ。
 生半可な腕では難しい。
 一応、討伐推奨等級は三級以上となっているが、三級だからと言って誰もができる芸当ではないだろう。

「皆、今のやり方を見ていたな? 実行可能な者は先ほどのやり方でワイバーンを倒せ。無理な者は一か所に固まって隙を見せるなよ。そして落下したワイバーンを確実に仕留めるように」

 上級冒険者の声にさっそく冒険者たちが動き始める。
 アルサートの動きを見て、自分に真似できそうだと判断した者はあえて集団から離れ散り散りになった。広々と場所を空け、ワイバーンからの攻撃に対処しやすくするためである。
 一方、自分にはとても無理だと感じた冒険者たちは集団を形成し上空のワイバーンへ剣を掲げて威嚇している。これではワイバーンとて容易に手は出せないだろう。

「……膠着状態か」

 こちらの動きを警戒しているのか、散り散りとなった冒険者にも集団の冒険者にも襲い掛からず上空に漂っているワイパーン共。未だ、エーベイスを乗せたワイバーンも傍に見えるが、いつ一般広間に向かうか知れたものではない。
 ワイバーンごときにかかずらってはいられないのだ。

「面倒だ……一気に行くぞ」

 抜いていた長剣を鞘にしまい、空に向かって居合の構えをした。隣でアルサートが訝し気な顔つきになるのが分かる。

「ラーマよ、何をする気だ?」
「うん? ああ、少し強引な真似だ……飛ばされるなよ?」
「え?」

 ワイバーンには魔法の攻撃が通りにくい。無論、剣に魔力を乗せて飛ばしたとしても、翼膜に当たらなければほとんど効かない。
 なら、ワイバーンを直接攻撃しなければいいのだ。

「『風嵐』」

 言いざま、私は上空に向けて抜刀した。鞘から抜き出された剣が起こした微々たる風は、上昇するに連れ勢力を増し――そして上空にて広範囲の嵐となった。

「うおっ!」
「なんだっ?」

 風の猛威が地上で身構えていた冒険者たちを襲い、蹈鞴を踏む者、後退る者、中には尻餅をつくような奴までいる。

 つまり、それほどの暴風だった。

 当然、空にいるワイバーンにはたまったものではないだろう。

『ぎゃぁっ?』
『るぁぁぁっ!』

 風の渦に巻き込まれ、翼で制御することなどとてもできはしない。右に左に、上に下にと散々に風に玩ばれた後、為す術もなく地上へと落下してくる。

「降ってきたワイバーンに潰されるなよっ!」 

 私の声に慌てふためく冒険者たち。次々と落ちてくるワイバーンの落下地点から必死で逃げ纏う。

「おいっ! そういうのやる時はやるって言ってくれよっ!」
「そうだそうだっ! 降ってきたワイバーンに潰されて死ぬなんざ、シャレになんねぇーよ」

 こちらに向かって非難の眼差しを向けてくる冒険者に、右手を上げて謝罪の意を示す。
 まさかこれほどまでに怒られるとは思わなかったので、少しばかり悲しい。

「……悪かった」
「いや、良くやってくれた」

 謝った私に、全体を指揮していた冒険者が取りなすようにそう言った。そうして、私を非難した冒険者たちをじろりと睨む。

「ワイバーンの攻撃を躱せずとも、ただ落下してくるだけの物体を躱すだけなら簡単だろう? そんな事もできずに貴様らはこの場にいるのか?」
「え? あ、いや……」
「そ、そりゃあ簡単だけどよぉ、驚いちまって」

 しどろもどろに弁明する冒険者達に呆れたような視線を送り、上級の冒険者は付近に落下していたワイバーンに止めを刺した。

「とにかく、緑頭巾の彼が落としてくれたワイバーンに止めを刺せ。今ので十体以上は数を減らせた。いけるぞっ!」
「お、おおっ!」

 威勢よく上がる鬨の声。先ほどまでの憔悴していた様子から一転し、活路を見出したかのようにお互いを鼓舞し合っている。
 その光景は一見順調で、この調子ならば大きな被害を出さずにワイバーンを撃退することができるだろう。

 しかし、どうにも胸騒ぎがするのだ。

 何かがおかしい。

 先ほどの『風嵐』でワイバーンの数は随分と減った。それでも二十以上いるが問題はないはずだ。

 気になるのはエーベイスだ。

 奴はこちらの攻撃にも動じることなく未だ少し離れた空をワイバーンに乗って飛んでいる。だが奴の狙いが本当に『レーブ』であるとするならば、既に在処に見当を付けていてもおかしくないが……。

 奴は何を企てているのだろうか。
+注意+
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