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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第十六章 大国の王子


 私の旅の連れである金髪の偉丈夫。名をアルサートと名乗ったその男は、出会った当初から単なる冒険者ではないことぐらい解っていた。
 魔力の込められた鎧に、見るからに業物と知れる大剣。さらに人間にしては類い稀な恵まれた身体つきと若いなりに滲み出るような貫禄。その事から騎士、あるいは貴族の身分に嫌気がさした放浪の冒険者だろうと当たりを付けていた。

 だが、実際はそれどころではなかったようだ。

「……殿下? おい。あの娘、お前の事を殿下と言わなかったか?」
「……ああ。言ったな」

 驚いて言われた本人に尋ねると、当のアルサートは呆然とした様子で、青を基調とした神官服姿の娘を見ながら生返事を返してきた。どうやら余程、その娘との邂逅は信じられないものらしい。

 だが、こちらこそ信じられない。

 殿下と言えば単なる貴族に使っていい敬称ではない。そのように呼称されるのは王や女王以外の王族――取り分け王の直系にのみに使用が許される。つまり、神官服の娘が大袈裟に言っていなければ、こいつは王子と言うことになる。
 数日間共に旅をし、アルサートの人となりはある程度解ったつもりだ。だからこそ、信じられるはずがない。

「何故、メリアがここに……」

 困惑して開いた口が塞がらない私に気付いた様子もなく、アルサートは神官服を身に纏う、メリアと名を呼んだ娘に声を掛けた。

「お言葉ですがそれはこちらの台詞です。殿下が出奔なされてから三年、国王陛下や王妃様がどれだけお心を痛めていたか……殿下にはお分かりですか?」

 一早く驚きから立ち直ったように見えるメリアと言う名の娘は、花も恥じらうような美しい顔立ちを険しいものと変え、こちらへずんずん近づいてくる。

「め、メリア殿? お待ちください、一体どういうことなのですか?」

 その後を一緒に入ってきた若い男が慌てたように追いかけた。アルサートの銀鎧とは比べようもないが、一目で上質なものだと分かる鈍色の鉄製鎧を纏っている。神官の娘と行動を共にしている事から、おそらく護衛の教会騎士なのだろう。

「……そう言えば、レオン様はこの方と面識がございませんでしたね? この方は三年前より行方不明となっていた我がヴェネラ王国第三王子――アルサート・エデウス・ディオ・ヴェネラ殿下その人です」
「あ、アルサート殿下? ええっ! 何故、こんなところに……」
「第三王子っ! しかもあのヴェネラ王国の第三王子だとっ?」

 レオンと呼ばれた教会騎士は、メリアの説明に驚きを露に大口を開けて間抜け顔を晒す。しかしそれはこちらとて同じことだ。

 第三王子と言えば、十分に王位を継ぐ可能性がある立場だ。間違っても他国の王都に、護衛の一人も付けずにいていい人間ではない。
 それもヴェネラ王国と言えば、大陸一の大国である。その国の王子に何かあれば、大きな戦争が起こってもおかしくはない。第三王子が捕らえられ人質なんてことになれば、ヴェネラ王国にとっても大きな打撃となるだろう。

 何が、「少々いいところの息子」だ。いいところ過ぎるだろうが、馬鹿。

「直ぐにヴェネラへお戻りください。陛下も皆様も、殿下の御帰還をお待ちしているのです」
「……それはできん」

 傍に迫り、強い眼差しで見上げたメリアにアルサートは目を逸らしながら短く言った。当然、メリアは納得できないとばかりにさらに詰め寄る。

「何故ですか? 本来であれば久離もやむなしである貴方様を陛下がどのよう想いで――」
「それでも……俺にはやらねばならんことがある」
「やらねばならないことっ! 国を捨ててまで殿下がしなければいけないこととは何です?」
「それは言えんっ」
「殿下っ!」

 言い切ったアルサートに、メリアは糾弾するかのような響きを持って呼びかけた。その必死な様子と第三王子相手に物怖じしたところがないのを見れば、彼らが元々親しい間柄なのだと知れる。

「青の神官服――そうか、ライアーの……」

 信仰する神によって神官の纏う衣装……取り分けその色が異なる。地母神マグマーテルを信仰する神官は『白』、商人や旅人の神であるメルクを信仰する者ならば金色に近い『黄』を基調としており、『青』の神官服ならばライアーの神官となる。

 この娘がライアーの神官で、尚且つアルサートと見知った間柄なのであればまず間違いない。この娘こそ、アルサートの想い人なのだ。

「その割には、あまり雰囲気はよろしくないな」

 長い間離れていたのであれば感動の再会となりそうなものだが、この二人にそんな気配は微塵もない。
 アルサートはひたすらに気まずそうにメリアから視線を逸らし、一方のメリアはアルサートを追求するように険しい顔で見上げている。

 これは一体どういうわけか。

 とにかくこのままでは話が一向に進まない。状況は分からないが、取りあえず助け舟を出してやることにした。

「コホン。おい、アル。そろそろ紹介してくれ、この方々はお前の何なんだ?」

 私の咳払いと問い掛けに、張り詰めていた表情を幾分か和らげ、アルサートはこちらの方を苦笑しながら向けた。

「ああ、そうだな。紹介しておこう……このライアーの神官服を纏った娘は俺の幼馴染だ。名をメリアと言う」
「……初めまして。ヴェネラ王国のエルズランにてライアー教会の司祭をしています、メリアです」

 アルサートが私に紹介したことを受け、メリアも険しい顔を収めこちらへと視線を下ろす。

 しかし驚いた。
 大陸一ライアーの信仰が盛んであるとされるヴェネラ王国。それもエルズランと言う都市は、ライアー信仰の総本山であり、そこの教会で司祭を任せられるのは並大抵の事ではない。
 況や目の前の娘はアルサートと同じ十七か十八程度。その若さで司祭とは到底信じられない話だが、彼女の神官服に着けられた星形の胸飾りがその身分を証明していた。

「……司祭になったのだな」

 アルサートもメリアが司祭になったことを知らなかったようで、改めて彼女の胸元を見て目を見張り、そして優し気に微笑んだ。

「貴女の頑張りが神に届いたのだろうな。おめでとう、メリア」
「――っ! わ、たしが、どんな想いでっ……」

 祝福の言葉を受けたメリアは息を呑み、そして何かを堪えるかのように俯いて拳を震わせるぐらいに握りしめた。
 その様子は平静こそが是と言わんばかりの司祭にあるまじきものだが、そうさせるだけの何かが彼女にはあったのだろう。彼女のこれまでにあったのだろう。

 だが、さすがは若くして司祭になった娘だけはある。

 直ぐに視線を上に向けると、アルサートに向かって小さなお辞儀を返した。

「ありがとうございます、殿下。願わくば、叙任式に殿下のご出席を賜りたかったものですが」
「そ、それは……」

 そしてじろりと半目をアルサートに向け、彼が視線を逸らしたところでメリアは背後に控えていた騎士を見た。

「ご紹介します。こちらはレオン・エルオ・アスクラータ卿。お若いですが、ライアー教会騎士団副団長をされている実力者です。今回は私の護衛のため、外で待たれている二名の教会騎士の方とラハーンまでご同行頂きました」
「れ、レオンですアルサート殿下。よもやこのような場所でお会いできるとは……恐悦至極に存じます」

 アルサートに紹介され、若き教会騎士は恐縮するように頭を深々と下げた。そんな彼に苦笑を浮かべ、頭一つ分は大きなアルサートが落ち着けるように肩を叩く。

「頭を上げてくれ、レオン殿。アスクラータと言えば、広大なエルズラン領を治める侯爵家。王族と言えどたかが第三王子風情に畏まるものじゃない」
「め、滅相もございませんっ! こうしてお目にかかるのは初めてでございますが、アルサート殿下が若くして戦場で挙げられてきた功績には目を見張るものがあります。同じ騎士として、どうして畏まらずにいられましょうか」
「今の俺は騎士ではない。ただの旅の冒険者だ」
「いいえっ」

 諭すようなアルサートの言葉に、異議を唱えたのはメリアである。彼女は再び眉根を寄せてアルサートに言い募る。

「貴方様は今もこれからもヴェネラ王国の第三王子です。どうかそのような事はおっしゃらないでください」
「くどいぞ、メリア」
「ご自覚頂けるまで何度だって言いますっ。貴方様は――」
「コホっ」

 捲し立てようとする彼女を遮るように、私は乾いた咳を放り込んだ。
 別段、アルサートとメリアの話し合いを邪魔するつもりもないが、今はそれよりも重要なことがあるだろう。
 話を進めるため、全員の視線をこちらに集めた。

「えー、私の名はラーマだ。分け合ってアル……まぁ、アルサート王子と行動を共にさせていただいている。こいつが王子様だなんて知らなかったがな」
「き、貴様っ! 殿下に向かってなんて口の利き方をっ!」

 何気なく言った私の台詞に、噛みついてくるレオンと言う名の教会騎士。そう言えば、臣下の者を前にしてこの言葉遣いはさすがに駄目だろうか。
 とは言え、今さら遜った話し方をアルサートにするのは難しいのだが。

「構うな、レオン殿。旅の間はずっとこうだったのだ。今さら変えろとは言えんし、俺の方とて急に変えられても困る」
「で、殿下がそうおっしゃるのであれば……」

 アルサートがとりなしてくれたおかげでどうやらこのままの言葉遣いで済みそうだ。その事に少しほっとしながら、こちらを窺っているメリアへと視線を移す。

「メリア司祭。ヴェネラのライアー教会司祭である貴女が何故ここに? この男を責め立てる前に、貴女にはすべきことがあるのでは?」
「え? あ、そうですね。突然の出会いに、私の責務を忘れるところでした」

 私の言葉に少し恥じ入るように目を伏せ、それからメリアはレオンの方に身体ごと注意を向ける。

「レオン様。鞘を」
「はい」

 メリアの言葉に答え、レオンは腰元に差していた刀身のない鞘を彼女に恭しく渡す。その見覚えのある大きめの鞘は、正しく聖剣『クラウ』のそれである。
 受け取ったメリアは、私とアルサートの間に挟まれるようにして置かれた硝子箱を――硝子箱の中の剣を見る。

「私はラハーンに運び込まれたこの剣が、聖剣『クラウ』であるかどうかを鑑定しに参りました。『救世の勇者』様の腰元に残っていたこの鞘にピタリと納まれば、この剣は聖剣『クラウ』に相違ありません。けれどこれは……」

 鞘と剣を見比べ、メリアは困惑するように顔を顰め、首を傾げる。
 大剣を納めるに相応しい大きめの鞘。しかし、太さは良くても長さが少々合わない。いや、太さにしても全体的な寸法の釣合が取れていない。これではこの鞘に硝子箱の剣は納まらないだろう。

 当然だ。何故ならその剣は『クラウ』ではないのだから。合う道理がないのだ。

「メリア。恐らくこの剣は――『レーブ』だ」
「れ……『レーブ』? あの魔剣『レーブ』ですか?」

 アルサートの言葉を受け、驚いたような顔つきでメリアは硝子箱の剣を見つめて一歩距離を取った。

「メリア殿。『レーブ』とはなんですか?」

 一方、ライアー教会の騎士にしては知らなかったのか、レオンが困惑顔でメリアを見下ろした。だが、無理もないのかもしれない。

『レーブ』を所持していた魔王が死に十六年。その間は所在が不明になっており、十六年前ではレオンも赤子同然だったに違いない。

 聖剣である『クラウ』などとは違い、魔王の使う魔剣『レーブ』の登場する話はそう多くはない。魔王に主眼を置く、伝承や叙事詩などほとんどないからだ。登場したとしても一節のみで語られることが多く、知っている者の方が少ないのだろう。

「『レーブ』は魔王となった者が使う剣とされ、あらゆる武器に姿を変える魔剣と言われています。そのような物が何故――」
「メリアよ、今はその事を考えている場合ではないのだ。この剣をおそらくヴァンパイアが狙っている」

 思案気なメリアの考えを遮るように言ったアルサートに、彼女は一層顔つきを険しくして頷いた。

「冒険者組合の方に聞きました。ヴァンパイアが『クラウ』を狙う理由がわかりませんでしたが、この剣が『レーブ』であるとするならば納得がいきます。『クラウ』ではなく『クリカラ』でもない……けれど触れる者を選別すると言うのならば『レーブ』しか在り得ませんね」
「そう言う事だ」

 メリアが持ってきた鞘のおかげで、この剣が『クラウ』ではないことが証明された。尚且つ、聖女の持つ『クリカラ』とは外見的特徴が異なるため、消去法でこの剣は『レーブ』以外に在り得ないのだ。
『クラウ』『クリカラ』『レーブ』以外に、持ち主を選ぶ剣は発見されていないため、それが自然な発想である。

「いずれにせよ、この剣をヴァンパイアに渡すわけには参りません。力持つ魔族に『レーブ』が渡れば、再び大陸中を災禍が襲うことになるでしょう」
「ああ。まずは組合にこの事を報告しなくてはな」

 この剣を『レーブ』であると証明できる目途が立ち、さっそく組合に向かおうとしたアルサート。
 しかし、今まさに向かっていた扉が外側から勢いよく開かれ、私とアルサートは一瞬にして身構える。
 だが、扉から顔を出したのは鎧姿の二人の騎士だった。おそらくはメリアの言っていた外で待機していた教会騎士なのだろう。しかし解せないのは、その二人がやけに引き攣った顔を浮かべて背後を気にしていることだ。

「どうした、お前たち」

 突然現れた騎士たちに、レオンが怪訝気な顔で確認を取る。すると一人の教会騎士が擦れる声で報告した。

「た、大変です。ラハーン上空に無数のワイバーンが出現っ! 冒険者や兵たちが対応に当たっていますがとても数が足りないとのことっ! 副団長、私たちにも行かせてくださいっ!」
「なにっ!」

 突拍子もない騎士たちの言葉に固まるレオン。だが、報告した二人の騎士たちはいずれも真剣な表情をしており、嘘偽りを語ったわけではないのだろう。
 ならば、私たちのすべきことは一つだ。

「行くか?」
「ああ」

 アルサートと顔を見合わせたのは一瞬。直ぐに視線を逸らし、騎士たちが飛び込んできた扉を抜け駆け出した。

「で、殿下っ!」

 すぐさまレオンの声が追いかけてきたが、アルサートは止まることなく背後を振り返って叫んだ。

「お前たちは残れっ! これが陽動である可能性があるっ! 奴らの狙いはあくまでも『レーブ』なのだからなっ!」

 無数のワイバーンを陽動に使うなど正気の沙汰ではないが、例えそのような真似をしてでも魔王に至らんとする者には必要な剣なのである。油断はできない。

 果たしてあの騎士たちに『レーブ』を守り切れるかどうか定かではないが、さりとて王都を見放すわけにはいかないのだ。
 私たちに求められているのは、一刻でも早くワイバーンを蹴散らし、この一般広間に戻ってくること――決して魔族の思い通りにさせないことだ。

「魔族の思い通りにさせないか……」

 走りながら考えたことに自嘲が浮かび、口の中だけで言葉にしてみる。

 こうして人間と行動しているとどうしても忘れそうになってしまいそうだ。自分がハーフオーガであるという事実に――。
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