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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第十五章 邂逅


 エネスカル王国王都にあるラハーン城は、切り立った崖の上に造られた長い歴史を持つ山城である。
 近頃はめっきりとその陰を顰めているが、かつては周辺国と幾度となく戦争を繰り返し、王都へと攻め込まれることも度々あったと聞く。
 その中にあってラハーン城は一度も陥落したことなく、二重、三重にも主郭を囲っている堅牢な城壁と周辺の郭に施された敵除けの細工が彼の城を『難攻不落』と他国に知らしめていた。

 さてそこで、私たちの目的である聖剣『クラウ』と思しき剣が展示されている場所であるが、なんでも一般広間と言い、催しがある度に解放されているらしい。
 一般広間は三の郭の片隅に置かれ、以前は礼拝堂として使われていたらしいが、現在では礼拝堂が城より離れた所に移ったため、この様な使い方をされているとのことだった。

「……これほど近くでラハーン城を見るのは初めてだな……見事なものだ」

 近づいたからこそ、聳え立つ門のおかげで主郭に建てられた宮殿を見ることは叶わないが、その荘厳さには圧倒されるばかりだ。私よりもずっと背が高いアルサートにも宮殿は見えないのだろう。
 頭上を見上げ、嘆息したように呟いた。

 アルサートと違い、私は以前この城に訪れたことがある。無論、今の身体ではなく勇者だった時代にだが、この城でもてなしを受けたことがあるのだ。そのため宮殿の内部さえ知っているが、今、それを言っても仕方ない事だろう。

「長居は無用だ。さっさと聖剣を確認して、今後の事を話し合おう」

 少しだけこの城を訪れた際に嫌な思いをしたことがあった。

 この城で歓待を受け宿泊した際、第二王女に夜這いを掛けられたのである。
 今思えば惜しいことをした気もするが、当時は魔王を倒すこと以外考えられなかった。そのため気配を感じて身を隠し、王女が諦めて去るまで待ってやり過ごしたのだが、あの時の不快感と言ったらない。
 おそらく王女は私に一切好意などなかった。ただ、勇者であった私とこの国の繋がりを深くしたいがために、父である王に言われ望まぬ夜這いを掛けたのだ。
 それを察してしまい、暫くはエネスカル王国に良くない感情を抱き続けたのは青二才だった証左だろう。今ではそう言ったこともままあることを経験として学んだ。

 ただ、それを積極的に是とすることはまた別の話である。

 そんな思いがふと脳裏に過って硬い声でアルサートを促すと、偉丈夫は困惑したようにこちらを見下ろし、しかし黙って従ってくれた。

「ところでラーマよ。聖剣を確認すると簡単に言うが、見れば聖剣と分かるのか?」
「……なに?」

 一般広間へと向かっている途中でそんな事を聞かれ、私は思わず背後を振り返る。見れば能天気な顔でこちらを見ている男が一人。

「……お前には分からないのか?」
「無論だ。何せ俺は実物を見たことがないんだぞ」

 だからどうしてそこで胸を張るんだ? 威張れることではないだろうに。

「そもそもお前は聖剣を見つけるために旅をしていたんだろうが。なのに実物も解らずどうやって見つけるつもりだったんだ?」
「……それは、あれだ。聖剣の聖なる力と言うのを感じ取ってだなぁ……」
「もう一発殴っておいた方がいいか?」

 拳を握って見上げたこちらに対し、アルサートは驚くほど俊敏に距離を取った。どうやら先ほどの一件で懲りたようだ。

 やれやれ、魔力さえ感じ取れない男が一体何の力を感じ取るというのか。とは言え、アルサートの言いたいこともなんとなくは解るのだ。

 聖剣とされ、特別な力を持つ剣であれば一般人であっても見ただけでそれと解るはずだ。
 神の力を具現化したような神々しさに溢れ、実際にその力を宿している場合もある。よほど気配に疎い者でなければ、見れば聖剣であることは一目で知れるだろう。

 ただし、その聖剣が『クラウ』であるかどうかをどのようにして知るつもりだったのか。

「お前、『クラウ』以外にも聖剣はあるんだぞ? どうやって見分けるつもりなんだ?」
「決まっている。『騎士王聖女』のフェルリーフ様が所持していなければ、それ即ち『クラウ』以外にあるまい」
「……なんて大雑把な奴……しかし、一理あるな」

 単純明快なアルサートの答えに、呆れながらも納得させられてしまった。この世に三振りしかない聖剣。そのうち二つは、当代一の騎士とされ尚且つ地母神マグマーテルによって聖女に選ばれた『騎士王聖女』フェルリーフが所持している。
 それ以外に聖剣と呼ばれるものは『クラウ』のみ。
 つまりアルサートの言うように、彼の女傑が携えていない聖剣があれば、それは『クラウ』に相違ない。

「おそらく、フィルスタム領から『クラウ』と思しき剣を運んできた冒険者たちも、剣に宿る力を察したのだろう。異質な力を感じたと言っていたみたいだしな」

 私がレパールの冒険者組合で聞いた話を思い出し言えば、アルサートは同意するように頷いた。

「ああ。と言うことは、ますます彼の聖剣で間違いなさそうだな。人の手を拒絶する聖剣など『クラウ』か、聖女に贈られる『クリカラ』以外にはあるまい」

 あえて表情を隠すかのような無表情の偉丈夫を見やり、私も頭巾に隠れている口元をきつく結ぶ。
 アルサートの聖剣探しの旅が終わろうとしている事実に、私たちは暫し無言で歩を進めた。
 そうして歩いていけば、ようやく目的地に辿り着く。

元は礼拝堂として使われていただけあって、長い年月を経て風化した建物には未だに威厳が残っていた。いや、それだけの時を過ごしてきただけあって、むしろ荘厳さと呼べるものが増しているのやもしれない。

 中に入れば広い空間があり、本来であれば祭壇に向け並べられているはずの椅子は撤去され、随分と見通しがいい。

 展示から日が経ち、物珍しさに訪れる者も減ったのか、今この瞬間は私とアルサート以外に誰もいない。何人も剣に触れられないため安心しきっているのか、見張りの兵すらいなかった。
 いくら何でも不用心に過ぎる気もするが、勇者でなくなった私が心配するのも余計なお世話だろう。

 そんな風に納得してから改めて、ここに来た理由である展示品を探す。いや、探す必要もないほど簡単に見つけることができた。

 祭壇が置かれていたであろう場所には石でできた台があり、その上に固定された透明な硝子の箱がある。
 おそらくは安易に人が触れて怪我することのないようにだろうが、その硝子の箱に――『それ』はあった。

「……これが、聖剣……」

 礼拝堂改め、今は一般広間と呼ばれる建物の奥に行き、アルサートは呻くようにしてその剣を見下ろした。

 見れば分かる。

 長年使用されてきた筈のその剣は、けれども無骨な柄に一切の穢れなく。
 一般的な大剣よりも一回り以上大きい刀身は、鈍い銀の光を誇るようで。
 その剣より滲み出る、大気を焦がすかのような圧倒的なまでの威圧感。

 それが、単なる剣であろうはずもなかった。

 アルサートがその剣を聖剣と断じ、感嘆の声を漏らすのも道理である。

「――馬鹿なっ……」

 だと言うのに、見覚えのあるその剣を前にし、私の口から勝手に漏れ出たのはそんな自失の言葉。在り得ない。こんなことはあっていいはずがない。

「うん? どうしたのだ、ラーマよ?」

 おそらく蒼白の顔つきになっているであろうこちらを、アルサートが案じるような声がする。
 しかし、それに応える余裕はない。目の前の事実が信じられず、ただただその硝子箱に納めれた剣に視線を向けることしかできない。

「これは、違う……」
「なんだって?」

 だから口から出た否定の言葉もアルサートに対するものではなかったが、気になったのか何とも間の抜けた声で聞き返してきた。
 その声にいくらか自分を取り戻した私は、剣に注意を向けたままアルサートに視線を移す。

「これは『クラウ』じゃない」
「えっ?」
「これは……この剣は『レーブ』だ」

 私の視線と言葉を受け、アルサートは一瞬だけ眉を顰め考える顔つきとなった。だが直ぐに瞠目して硝子箱に納められた剣に視線を移す。

「れ、『レーブ』だと? 何故、そんなものがこんなところにっ!」
「……私が知るものかっ」

 そう返しはしたものの、朧気ながらこんなものがここにある理由は想像がつく。

 あの魔王との一騎打ちの折、私の剣は遥か遠くに右腕ごと吹き飛ばされた。しかしそれと同時に、私は奴のほぼ半身ごと奴の剣も吹き飛ばしたのだ。

 魔王と至る者しか触れることを許さず、持ち主の望みによって変幻自在にその姿を変えると伝えられる聖剣の対となる邪悪なる秘宝。

――万化の魔剣『レーブ』。

 この魔剣がここにある理由など、冒険者たちが『レーブ』を『クラウ』と勘違いしてしまった他にあるまい。だが、その存在を見たことがない彼らを責めることはできない。

 一見すれば魔剣である『レーブ』は聖剣さながらに、一種の独特な神々しさを醸し出しているのだから。

「……これが魔剣? 俺にはとてもそうは見えんぞ」

 やはりアルサートにも魔剣とは見えないのだろう。驚きの表情を残しつつも、訝しむような声音でこちらを見てくる。
 私とて、実物を見たことがなければそれとは気付かなかったやもしれない。

 しかし、しかしだ。

 私はこの剣を見たことがある。いや、見ただけではなく、実際にこの魔剣と自分の得物を打ち合わせたことがあるのだ。どうして気付かないでいられようか。
 それにこの剣から発せられる異質な魔力は忘れられはしない。『レーブ』以外にこんな重く、深く、それでいて神秘的な魔力は存在しないだろう。

 だが、ありのままその事を伝えたのでは私の正体が露見してしまう。ここは実物を見たことがないと装いつつ、どうにかもっともらしい理由付けをしなくてはいけない。

「……よく考えろ、アル。この剣を狙っている存在がいるだろう?」
「うん? ……あのエーベイスと名乗ったヴァンパイアか?」
「そうだ。私は何故、魔族である奴が聖剣である『クラウ』を欲しがるのか疑問だった。なんせ『クラウ』に触れようものなら、無事では済まないことぐらい奴だって解っているだろうからな」
「俺もそれが引っかかっていたのだ。しかし、この剣が『クラウ』ではなく、魔剣『レーブ』であるとすれば……」
「ああ。奴らが狙うのも頷ける」

 もっともらしい理由を探して口に出せば、それは意外にも自分の疑問を氷解させる助けとなった。そう言えばエーベイスと名乗ったあのヴァンパイア、自分の事を『魔王に至る存在』だとか言っていた。
 そんな奴ならば、神官に成り代わってでも『レーブ』を手に入れようとするのはある意味当然である。

「どこかで魔剣の所在を知った奴は、神官と成り代わり『レーブ』を『クラウ』と偽って持ち帰る気だったんだ」
「あの恐ろしいヴァンパイアが魔剣を手にすれば、ますます手が付けられないぞ? それこそあのエーベイスと名乗ったヴァンパイア、魔王にでも至るのではないか?」

 さすがのアルサートも怖れを抱いたように重々しく言った。たしかに奴が『レーブ』を所持すれば飛躍的に脅威は増すだろう。
 冒険者であれば最上位指定の化け物だ。陽の下では力が半減すると言っても、当然だが二等級以上ではなければまともに戦えない。
 そんな奴が『レーブ』に選ばれでもしたら、倒せる者は正義の神ライアーに選ばれた勇者か、あるいは――。

「とにかく、この事を直ぐにディエゴ殿に伝えた方がいいいのではないか?」
「え? ああ……それはやめておけ」

 駆け出そうとしたアルサートの声で一旦考えるのをやめ、走り去ろうとする偉丈夫の腰元を指で摘まんで止める。

「何故だ?」
「お前はどうやってこの剣が『クラウ』ではなく『レーブ』であることを証明するつもりなんだ?」
「無論、ヴァンパイアが狙っているのだからこれは『レーブ』に決まっている……わけでもないのか」

 憤然とこちらに言い返そうとしたアルサートの言葉は、途中で尻すぼみになって小さくなった。
 奴にも私が言いたいことが分かったのだろう。

 私たちが言っているのはあくまでも推測であって、奴が実際に『レーブ』を狙っているかは分からない。当然、この剣が『レーブ』であることを確信している私は、奴の狙いもこの剣であると断じられるが、知らない者は納得しないだろう。

 この剣が『クラウ』でない証明を――この剣が『レーブ』であることの証拠を欲しがるはずだ。
 それを用意しない限りは伝えたところで意味はない。

「……しかし、ならば何故、ラーマはこの剣を『レーブ』と断じられるのだ? どうして解った?」
「え……」

 しまった。
 一度は誤魔化したはずの疑念を再び呼び戻してしまった。

 純粋に不思議そうに見つめてくるアルサートに、それらしい理由を出せず固まる私。そんな一瞬だけ停滞した時を搔き乱したのは、広間の扉が開く音であった。

「おや、人払いはすんでいなかったみたいですね」
「ええ。ですがお二人だけのようですし、鑑定には問題はないかと――」

 そして若い男の声と不自然に途切れた若い女の声――その女の声に反応し、アルサートが素早い動きで入り口を見た。

 出会って数日。色んなこの男の顔を見てきたが、その顔は紛れもなく初めて見る顔であった。

 驚きも怖れも悲しみも喜びも――そのどれもが当てはまらない、しかしその全てを混ぜ合わせたようなその顔で、呻くような擦れ声を発した。

「……メリア」

 アルサートの声に応えるように、たった今扉から入ってきた若い女――神官服に身を包んだ少女は、絶句するように目を見開いてから、祈るように両の掌を組んだ。そして口の中だけで何事かを呟くと、アルサートに深々と頭を下げ言ったものだ。

「お久しぶりです――殿下」
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