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チートなオーガのちぃとばかし危険な冒険 作者:サバクタニ

第一部 探求の冒険者

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第十二章 王都への道 後


「しかし、驚きだ。貴様のような存在が、騎士の従者をしているなど」
「何?」

 すっかり無傷に戻ったヴァンパイアは、緩慢な動きでこちらの攻撃を誘うかのように立ち上がる。当然、そんなものに乗ってやるほど親切ではない。

「貴様、人間ではあるまい? ただの人間に、吾輩の一撃が躱されてなるものか」
「……お前は人間を軽く見すぎだ」

 ヴァンパイアの言葉は図星であったが、近くにアルサートがいるのだ。認めるわけにもいかず曖昧に濁す。追及されれば誤魔化す自信もなかったが、幸いにもヴァンパイアは何も言わずに闘気を高め始めた。

「ふむ。中々やるようだが、吾輩はいずれ魔王に至りし唯一無二の存在……貴様ごときに手古摺っている場合ではないのだ」
「魔王だとっ?」

 奴が何気なく呟いた言葉に目を見張るも、こちらに説明する気はないらしい。
 問答無用とばかりに両腕を限界まで開き、ヴァンパイアは不敵にもがら空きとなった体を晒す。一体何の――いや、この構えには見覚えがあった。

 以前、勇者だった頃に打倒したヴァンパイアが見せた構えだ。それは、瞬間的にならオーガをも超えると言われる腕力を使った単純明快な物理攻撃。
 両手でこちらの身体を挟んで潰そうと言うのである。

 初見では辛うじて躱すことができたが、私の身代わりとなった大樹は圧し折れ倒壊した。つまり、それだけの威力を誇るのである。

「フハハハっ! 気を付けるがよい、そこな従者。我が抱擁は死を孕むぞ?」
「……やれるもんならやってみろ」

 手放していた剣を再び手に取り、正眼に構える。これならば奴も迂闊に飛び込んでこれないはずだ。そう、思ったと言うのに。

「ふん、その程度の策――愚かなりっ!」

 ヴァンパイアは両手を広げたまま構わずこちらに迫った。このまま私の持つ剣にヴァンパイアの身体が突き刺さる、かと思いきや、ヴァンパイアは右手だけを振るった。

「くっ?」
「フっ! 死ねぇっ!」

 てっきり両手でこちらの身体を挟み込んでくるものとばかり考えていたが、こちらの剣を崩すために右手を使うとは。
 これで奴の右手に叩かれた私の長剣は左手ごと弾かれ、剣先があらぬ方向に向いてしまう。
 慌てて切っ先の軌道を修正しようと左手を引き寄せるが、ヴァンパイアは既に残った腕を――片方でも十分すぎる威力を持つ左腕を振るっていた。
 剣の防御など間に合わない――。

「う、ぐっ」

 咄嗟に右腕をヴァンパイアの左手に合わせて差し入れたが、それで防ぐことなどできるはずもない。
 まるで竜に体当たりされたかのような衝撃に身体中の骨が軋む。自分の意に反して宙に投げ出されると、浮遊感を味わう間もなく地面に叩きつけられ転がった。
 何とか大事には至らなかったが、右腕は完全に折れ、関節も外れてしまっている。無論、焼けるような痛みもあるため、このままでは右腕は使えまい。少々不味い事態になったと言えよう。

「ちっ! 存外にしぶとい。今ので右腕しか壊せなかったのは残念だ。だが、最早これまでだな」

 痛みに顔を顰めながら立ち上がりヴァンパイアを睨めば、奴は既に勝った気でいるのか得意そうに胸を張る。
 まぁ、この状況を見ればそう思うのは無理もないだろう。

 私は右腕が使い物にならなくなり、おまけに吹き飛ばされた衝撃で剣を離してしまっている。片やヴァンパイアの方は無傷なのだ。どちらが有利かはひいき目に見ても明らかだろう。

「フハハハっ! 痛かろう、痛かろう? 安心せよ。吾輩が直ぐ楽にしてやろうではないかっ!」

 言うや一足飛びでこちらまで迫るヴァンパイア。余裕綽綽なのは構わないが、こいつは何かを忘れていないだろうか?

「『火球』」
「なっ?」

 目の前まで来たヴァンパイアに左手を翳し、魔法でつくった火の玉をぶつける。
 驚きと苦悶の表情を浮かべ、すぐさまそれを手で払って鎮火させたものの、こちらを警戒するように距離を取った。

「貴様っ! 魔法まで使えると言うのかっ!」
「何を驚く? よもやお前、相手が魔法を使う可能性を考慮せずに勝った気でいたのか? ふん、おめでたい奴だ」

 奴が精々驚いてくれている間に、私は痛みで歪む顔を頭巾に隠しながら損傷個所を恢復させる。
 しかしこの痛み、本当にどうにかならないものか。

「……吾輩を前にしてその不遜な物言い。フハハハ、面白い。出会いが出会いならば、吾輩の子分にしてやったものを。惜しい奴め」
「……死んでも御免だ」

 減らず口を叩きながら油断なくこちらの隙を伺う相手に、こちらも隙を見せないように左腕だけを構える。 
 既に右腕は治っているが、使えないものと思わせ不意を打つつもりであった。
 再びお互いの闘気が高まっていき、今度はこちらから攻め込もうかと考えていれば、この数日で随分身近になった気配を感じる。

「アル……」

 ヴァンパイアを睨んだまま背後から近寄ってきたアルサートに声だけ掛けると、偉丈夫は隣に並んで剣を構えた。

「ゴブリン共は全員片付けた。残るのはその銀髪だけだ」
「さすがだ。だが、この場は私に任せておけ」

 半数以上は私が片付けたとはいえ、焚火の付近しか目が効かないくせによくやるものだ。やはり冒険者としてはかなりの実力と言えよう。

 しかし、しかしだ。

 相手がヴァンパイアとなれば話は別だ。勇者だった私とて、ヴァンパイアは強敵も強敵だった。おまけに目の前の銀髪は、かつて戦って勝利してきたどのヴァンパイアよりも強く、早く、隙が無い。
 アルサートの実力ではどうしても足手纏いになってしまうし、私だって足手纏いを庇いながら勝てる保証はどこにもないのだ。

「ふん、御主人様の登場か。従者がこれだけやるのだ。さぞかし主も腕が経つのであろうな」

 私の隣に並んだアルサートを見やり、おどけながらも少し警戒するような声音でヴァンパイアが構えを深くした。

「主? 何のことだ?」

 そんなヴァンパイアとは打って変わって、アルサートの方は油断なく構えながらも首を傾げる。
 私も正直訂正してもらいたい間違いだ。一体誰が誰の主だと言うのか。そして従者だと言うのか。

「貴様らが騎士と従者の関係であることは一目瞭然だ。隠す意味はないっ」
「はぁ? 俺は冒険者で、こっちはただの道連れだぞ?」
「嘘をつくな。貴様らは神官の護衛だろうが」
「……神官?」

 言われた言葉が意外過ぎて、ヴァンパイアを意識しながらも思わずアルサートと顔を見合わせる。
 こいつは一体何の話をしているんだ?

「白を切る気か? 貴様らが、この国の王都を目指すヴェネラ王国より遣わされた神官一行だと言うことは、既に調べがついているっ! 吾輩は貴様らを殺し、成り代わるのが目的だからな」

 お見通しだと言わんばかりに言い切ったヴァンパイア。たしかに、ヴァンパイアが変身術に優れた魔族であることは有名だ。過去の国々で起こった君子の豹変は、ほとんどが奴らの仕業であったとされるほどだ。
 だからこそ、奴が神官に成り代わるつもりであったと言うのならばそうなのだろうが……しかし、私たちが護衛しているのは神官ではない。ただの商人だ。

「待て待て、そんなものは知らん。大体、国から派遣される神官の護衛を俺たちのような冒険者がするわけないだろう?」

 アルサートのもっともな言い分に頷いてから、私ははたと嫌な予感に襲われる。このヴァンパイア、もしや……。

「だから貴様らは冒険者ではないのだろう? その身に纏っている御大層な鎧を見ればわかる。どう見ても、名家の騎士とその従者だろう。その騎士が守っているとなれば、その天幕にいるのは神官に違いないっ!」
「……どうしてそうなる」

 やはり根本的な勘違いをしているようだ。ヴァンパイアは昔から、思い込んだらなかなか考えを改めない種族でもある。何と言って誤解を解いたものか。

「お二方っ! 一体何の騒ぎです?」

 そこに丁度良くと言うべきか、ヴァンパイアが指を突き付けていた天幕からガスラーが顔を出した。
 私たちの護衛対象であるガスラーは、見かけはたしかに商人らしくはないのかもしれない。しかし、だからと言って聖職者に見えるような雰囲気でもない。
 当然、ガスラーを食い入るように見た後、ヴァンパイアのただでさえ血の気の少ない顔から血が引いていく様子が分かった。
 流石に神官ではないと察せられたようだ。

「天幕の中の気配は他になし……ふむ、どうやら吾輩の人違いであったようだな」
「……」

 絞り出すように紡がれた言葉に半眼を返せば、ヴァンパイアは少し身を引いてあらぬ方向へ視線を向けた。

「まったく。冒険者の分際でそのような銀鎧など身に着けおって……紛らわしいにもほどがある。そもそも人違いならゴブリン共を殺す必要はなかったではないか。最初からそう言ってくれればいいものを」
「お前はどの口でそんなことを言っているんだ?」

 人違いであることは分かったが、今さらこのヴァンパイアを見逃すつもりはなかった。
 強敵であることには変わりないが、そんなふざけた理由でこちらに危害を加えようとしたのだ。このまま逃がしてしまっては、腹の虫が収まらない。そもそもこいつを逃がせばヴェネラ王国から派遣されると言う神官が、本当に襲われかねないのだ。
 ここで、後顧の憂いを絶っておこう。

「『炎腕』」

 左腕に螺旋する二つの炎が渦を巻く。火炎魔法系統の上位で、腕に炎を纏って戦う事ができるのだ。
 ヴァンパイアは火の耐性が薄いとされており、過去戦った者たちもこの魔法を主力に打破することができた。

「ほう? 吾輩と戦う理由はなくなったと言うのに、まだ続行する心算か? フハハハっ! 言い度胸だっ!」

 私の戦意を称賛するように高笑いを上げたヴァンパイアは、掌をこちらの方へゆっくりと翳した。

「『我が威は雷となりて敵を屠らん――雷球』」

 短い詠唱によって掌から生み出された雷の玉は、私ではなくアルサートへ目掛け勢いよく飛んでくる。
 この魔法自体は下級のものであるが、魔力お化けであるヴァンパイアの魔法となれば話は別だ。通常の物よりも大きく早い――アルサートには躱せまいっ。

「ちっ! 『火球』」

 すぐさま腕の炎を消して火の玉を創り出し、奴の射出した雷にぶつけ相殺させる。
 およそ下級の魔法同士が衝突したとは思えない余波として風を生み出し、近くの草木をざわつかせる。
 天幕から顔を出していたガスラーに至っては、吹き飛ばされるように中へ吸い込まれていく。

「くっ!」
「うおっ?」

 私とアルサートも、風に煽られ後ろに下がらないように何とか足を踏みとどまらせた。だが、その衝撃によって思わず視線が下にいってしまう。つまり、一瞬とは言えヴァンパイアから目を離してしまったのである。
 その一瞬の隙で、奴は――。

「フハハハっ! 吾輩の名はエーベイスっ。残念ながら日の出が近いっ。また会おうではないかっ!」

 素早く反転し駆け出していた。それも、魔力の衝突によって生み出された衝撃を追い風にして。

「待てっ!」
「ラーマっ! やめておけ」

 その見事な逃げっぷりに虚を突かれ、一瞬出遅れた私が駆け出そうとすれば、アルサートに肩を掴んでそれを止められた。
 驚いて振り返れば、真剣な視線をこちらに向けたアルサートに首を振られる。

「エーベイスと名乗った男。あれはおそらくヴァンパイアだ」
「……ああ」

 さすがにアルサートも見ただけであの男の正体に気付いたらしい。強張った顔でエーベイスの見えなくなった方を睨みつける。

「討伐推奨等級一級……よもやこのような場所で出会うとは思わなんだ。それも、生きてこの場を切り抜けることができるとはな」
「ちっ、何を呑気な。お前が止めなければ、私の方が奴を生かしてはおかなかったんだ」

 もはや追いかけたところで追いつけまい。これから日の出と言うこともあって、ヴァンパイアであるエーベイスの力は半減していたはずだ。私ならば楽に仕留めることができただろう。

「そうは言うが、俺たちの依頼はあくまでもガスラー殿の護衛だ。この場を離れ、何者かにガスラー殿が襲われれば本末転倒ではないか」
「……まぁ、一理あるか」

 とはいえ、そもそも依頼を受けているのはアルサートだけで、私一人で追いかけアルサートが番をすればいいだけのような気もするが……どの道、後の祭りである。

「お二方、この惨状は……」

 危険が去ったことを感じたのか、ガスラーが天幕から恐々と出てきた。そして周りに散らばるゴブリン共の死体に顔を顰め鼻を覆う。

「……見ての通り襲われたが、支障なく撃退した。それよりも商人殿、お怪我はないかな?」

 エーベイスが去った方を残る未練で睨みつけてから、諦めてガスラーの方を見る。アルサートの言うように、ガスラーを守ることがとにかく肝要であることだし。

「大丈夫です、問題ありません」
「左様か。ならば少し早いが出立するとしよう――直に日が昇る」
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