タムラ先生 夜間外来(改編)(4/183)縦書き表示RDF


タムラ先生 夜間外来(改編)
作:浅見 希



4-ふたりの救急搬送


タムラ先生 夜間外来 
N−4. ふたりの救急搬送  
「はい救急病棟、え・・・」
「二人? そう、ほかに受け入れる所ない!」
「なに、そうか、しょうがねーな」
「受け入れ OKです。 はい、6分後、わかりました!」

予定通り、サイレンの音が聞こえてくる。
サイレンが止まる。近隣の住民の事を考えてサイレンは、早めに止める。
救急隊員が非常に重そうに運んで来る。
毛布の掛けられた、ストレッチャーが異常に盛り上がっている。
そう、二人乗っている。重いわけだ。
男と、女が乗っている。しかも重なり合って。
救急隊員も、何故か面白くなさそう。

 西川麗奈はすでに待合室で待機していた
「はい、第二外来室に入れて!」
重そうに運ぶ、実際重い あわせて110kg以上あるだろう。
「そのまま、乗せて」そうストレッチャーごと、
「重いでしょ!」
救急隊員、「はぁ・・はい!」

「何時ごろから、なんだ?」
「2時間半前からです。」苦しそうに女性が答える。
「どうしたんだ?」
「実は、ソノー」
「やっていたんだろ?」「そんな事見ればわかる!」
「違う!」
「どうして、そうなったかと、聞いているんだ!」
「はい、やっている時、突然別の女友達が部屋に入って来たんです!」
「そしたら、・・・・抜けなくなってしまったんです。」
「焦れば、焦るほど、抜けなくなってしまったんです。」
 「先生、痛いです・・、千切れそうです!」
 「早く何とかしてくださいよ!」
「自業自得だな!」
 「このままだと、どうなるんですか?」
「君の大事な物は、腐って千切れてしまうな!」
 「えっ、うそ、先生助けてくださいよ!」
 「何ぼ、かかってもいいですから!」
「先生、絶対、息子助けてください!」
 「お願いしますよ! 絶対、ねえ、先生!」

「当たり前だな!」
「何で鍵閉めなかったんだ!」
「すいません」「急いでいたんで!!」
「女遊びが過ぎるんだ、もっと、節度をわきまえろ!」
 「すいません!」
「誤るのは、その下にいる女性か?」
「それとも訪れた女性か?」
 「・・・・」返す言葉の無い男、うつむく。
「おい、いい加減な付き合いで、女を悲しめるなよ!」
 「先生、痛いです、本当に、千切れそうです!」
「どうする、これから心を入れ替えるか?」
 「はい、絶対に!」
「絶対になんだな!」
 「はい絶対に、今日みたいな、へまはしません!」
 「きちんと鍵を閉めてから、やります!」
「ばかやろう、そうではないだろう!」
「あっちこっちに手を出して、女を苦しめるな!」
 「はい、わかりました、これから、決して、このような事をしません!」

タムラ先生、投げやりな言葉で、やりきれない気持ち。
こちらは、真剣に飯も満足に食べられない状況なのに、
実際こんな患者で、救急外来の1つを埋めてしまうなんて!
 麗奈も、黙って頷く、
「ほんとにもう!・・・ 仕事放棄したくなりますね!」
ふたり、無言で見つめあう。
「“膣痙攣ちつけいれん”なんて」ラブゲームのレッドカードだ、許せない!
このような、作為的なことの方が多いが、
女性の体で、まれに特別体質で、真面目に子作りしていて、
なる事もある、まれにだが。
そんなカップルは、本当に可愛そうだ。

脂汗が顔中からにじみ出ている、もう限界だろう。
こんなときの“決しては”、決して当てにならない。
タムラ先生は、後でもう少しきついお灸を吸えるつもりだ。

「麗奈君、そろそろ準備できたか?」
 「はい、すぐに!」 
「先生、痛い・・・」男は失神してしまった!
 もう、男は限界に近い、しかし、こうなってくると女は強い。
彼女は、抜けないだけが主な苦痛だ。
男は男性器、千切れそうになり、生きた心地がしない。
女はさほど苦しくはない。恥ずかしさが勝る。

主任はタムラ先生と目を合わせ、麗奈に指示する。
注射器をタムラ先生に渡す、女にセルシン10mgを2/3静注。

 1分ほどして、女性の膣の緊張が徐々に緩和して来た。  
男がうめく、やっと膣が緩まり黒く充血した男性器があらわになった。
 「フー、痛かった!」
惨めになった下半身を見て少し納得、彼女から離れて隣のベッドに横になる。
 本当に安心した様子で、自分の息子を、ゆっくりとなでる、
他で見ている看護師や医者の事など眼中に無い様子で。
 
われに返り、急に恥ずかしさを感じ、麗奈をみる、
麗奈は事の次第を察して、すかさず毛布をかけてあげる。
 
一方、女性の方は、薬が効いたのと、安心したせいか、
裸身をはだけ出したまま眠りについてしまい、かすかに寝息を立てている。
 彼女の性器は、痙攣がまだ少し、時折起こる。
そんな彼女にタムラ先生は、それに気付き、すかさず、
彼女にも毛布をかけてあげた。

やっと、診察室に静寂が戻った。
タムラ先生と、看護師の麗奈は黙って、
お互い見つめるだけが精一杯のジェスチャーだ。

「どうします、患者さん?」
「どうするか?」
「誰か空いている奴いるか?」
 「今日は、学生さんが2人ほどいますけど?」
「学生か、この状況まずいだろう?」
 「大丈夫でしょう!」
「今の若い娘、慣れているから!」
「うむ・・」「君がそういうなら大丈夫だろう!」
「じゃー、君に任す」

「そう言って、いつもの様にタムラ先生は、当直室に直行」

レベーターに向かいかけたときタムラ先生は、
麗奈に声をかけた
「あ、そうだ、あの時、ありがとう、助かったよ」
「君は、あの近くに住んでいるのか!」
 「そうです、両親と一緒に暮らしていますわ!」
「先生こそ、何でまた休日に仕事です、の?」
「あれは、昔世話になった先生が、急用で!」
「どうしてもと、頼まれたのだよ!」
「あんな場所で、お会いするなんて奇遇ですわね?」
「ほんとうに・・・、」
「でも助かったよ、君がいてくれて!」
 「あそこの看護師さん、綺麗な方ですね?」
「先生、お気に入りなんでしょう!」
「そんな事はないよ、あの看護師は、先輩の娘さんだよ!」
 「娘さんだって、恋愛してもいいじゃなくて?」
「そういう君、あの青年に、電話番号書いた紙、渡していただろう?」
 「先生、目ざといですね?」
「それは、君の事いつも見ているからな?」
 「それはどうも、先生、いつも口だけでしょ?」
「そんな事はない、ほんとうに君の事好きだよ」
 「じゃー、先生、私に誠意見せてくださいよ!」

麗奈は、あの日、痛いほど、背中に目線を感じていた事、
十二分に承知していたのだった。
 それなの、あえて、あの青年にメモを渡したのだ。
タムラ先生は、もう一人患者さんで気になる娘がいるのを、
麗奈は承知していた。

任せておいた看護学生の一人が、青ざめてナースセンターに飛び込んで来た。
あの男の患者が、トイレから逃げ出したのだ。
残された女性に行き先を聞くも、彼女は男の名前すら知らないらしい。
会ったのは、今日がはじめて、どうも援助交際らしい。
 タムラ先生にその事を話すと、
「そんな事は、事務長に何とかしてもらえ!」
「俺には関係ない!」
「俺は、患者を治療するだけだ!」と言って受話器をガチャンと置いた。
怒っている、様子がはっきりとわかる。
 受付けがしっかりしていれば、そんな事は起こらない。
それに、看護学生に任したのもまずかっただろう。
今となっては、後の祭りだ。
当直室に、麗奈が、看護学生を連れてやってきた。
横たわって、テレビを見ていたタムラ先生は

「過ぎた事はしょうがない、あの女の娘はどうしている?」
「麗奈君?」
「はい、すいませんでした!」
学生もそろって「すいませんでした」と深々と誤る。
「もうその事はいい、それより、残されたあの女の子だ。」
「あの女の子、かなり傷ついているだろう!」
「麗奈、あの子の面倒、ちゃんと頼んだぞ!」
「はい、必ず」
「もう良い、眠い、明日オペだ、」
「早く寝かせろ」
 「はい、わかりました」「本当に申し訳ありません」
三人は深々と頭を下げて、当直室を後にした。

帰る途中、心の中に染みた、“タムラ先生の優しさに”
麗奈は本気で好きになりかけていた。 
それに、二人の看護学生もそれ以上に“素敵”とハートに響いた様だった。


---- タムラ先生の夜間外来 4 --------

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