2-死ねなかった! 27歳のママ
タムラ先生 夜間外来−2
2. 死ねなかった! 27歳のママ
どたばたと夜間外来玄関に運び込まれ、インターホンを1人の男が押した。
「どうしました?」
「実は、女が薬を飲んで・・・」
「飲んで、どうしたんですか?」
「死にそうです、死にそう・・・」そのまんま立ち去る足音が、2人分の足跡!
あわてて、当直の看護師が降りて行くと、そこには意識がもうろうとした、
若い女性が仰向けに倒れ込んでいた。
それを見た看護師は、ナースセンターに戻り同僚を連れてストレッチャーを
引いて患者の下へ急ぐ
「どうしました? どうしました?」
「・・うぅ・・」我慢だ。
バイタルチェックの後、患者をストレッチャーに乗せる。
睡眠薬と、アルコールの臭い、先ほどのインターホンでの話と合致するので、
当直の医師に事の状況を説明、診察室に来てもらう。
とにかく胃洗浄だ、それは誰も一致の意見、それぞれが準備にかかる。
現在、診察室にいるのは、看護師の、石田ルミ子とタムラ先生、
少しまずい組み合わせだ。
「・・・・うっ・・・・」我慢だ。
「おい、もっと口を開けろ」
「ウルシシイ・・・」くぐもった声(苦しいと言っているつもり)
足を力の限りにバタつかせる、右足、左足と。
膝から大腿まで脚全体を使って、左、右と。
シックな黒のハイヒールが暴れて、ドアにあたって鈍い音。
普段は、お淑やかに振舞っているのであろう彼女は、
今はもう恥も外聞もなく乱れきって、スカートはまくれ上がり、
パンティーもずり落ちそう。
その体をタムラ先生は両足と両腕で必死に押さえ込んでいる。
診察台が大きく揺れる。
必死で抵抗している。
診察台の回りは水浸し。
看護師の石田ルミ子が、ゴムのジョウゴの様なものを立ち上がって持ち上げ、
生食を注入しようとしている。
タムラ先生、懸命に彼女の体を抑えるのが精一杯だ。
なかなか上手く出来ない看護師に、大きな声で怒鳴るように、
「胃管(34Fr)を上に持ち上げろ、もっと高く!」
「そう、そこで固定しろ!」
近くにある点滴スタンドに器用に固定。
「生食500ml」かなりイラついているタムラ先生
「全部ですか?」
「そうだ、全部だ!」更に大きな声で!
「ウー・・」体を動かしジタバタする27歳の患者
「もっと口を開けさせろ!」
少しもたついていると、
「鼻を摘め」やっと口が少し開く。
やっと開いた口に胃管の先を押し込んでいく。
「もっと奥までだ!」
いつもと違う看護師で、テンポが狂うタムラ先生
かなりイラついているのが明らかだ。
「そうだ、生食流せ!」
黙って頷き指示に従う、看護師の方も、なんかふてくされている。
“なんで、私なのよ。” “まったく!“
実はいつものコンビの麗奈は、別の患者で手が離せない。
医者と看護師、慣れたコンビでないと仕事がスムーズに進まない。
そして、お互いイラついている今が、その典型だ。
もう少しで、爆発寸前、我慢強いというか既に限界のタムラ先生!
我慢、我慢と心で必死に頑張っている。怒りに対して!
生食がほぼ2mの高さから、一気に胃の中に流れあふれた生食が、
口の周りにこぼれる。またしても患者の体と周囲に生食が溢れる。
胃液と、バルビツール酸の混じった独特の臭いが辺り一面に広がる。
患者の着飾った高級な服も下着も全てビショビショ。
暴れて、ブラウスはかろうじて一番下のボタンが止まっているだけ。
ブラジャーも、ずれて片方の乳首が飛び出している。
20歳の娘がもし正気で、この場面を外野的に見たら、
おそらくこの様な恥ずかしい馬鹿げた事は起こらないかも・・・
そんな場面など眼中になく、タムラ先生事は、看護師から胃管をうばい、
「かせ、俺がやる!」「上の方を持っていろ!」
タムラ先生は手際よく彼女の体に完全にホールドの状態にして、
患者の鼻を摘み、チューブを咽喉の奥、気管に素早く入れてしまう。
「流せ!」「早くだ!」
「はい!」
今度はうまく、胃の方に流れ腹部が盛り上がる。
そして患者の口を押さえる。
タムラ先生、危なく手を噛まれそうになるが、そこはうまくかわす。
そして、口を押さえながら体全体を左右にゆする。
時にはうつ伏せにもする。
この様な時、女性と言えども、ものすごい力を発揮する。
油断禁物だ。
以前新米のころ、タムラ先生も指を噛まれた事がある。
何事も経験だ。
5分ほど経った時、患者を横向きにさせ、胃の内容物を吐かせる。
さすがに、不慣れな看護師もバケツは用意してあった。
口を開けたと同時に、胃の内容物、バルビツール系の薬品の臭いと
胃液の混じった独特の、匂いが充満する。
「臭い!」と、看護師つい言葉に・・・
「バカヤロウ、当たり前だ!」
「何年やっている!」看護師に向かって叫ぶ。
吐き出して、少し落ち着いたせいか、今度は患者が
“シクシク”、時おり“ワンワン”大きな声で泣き喚く。
「何で、死なせてくれないのよ!」泣きながらわめく
「何錠飲んだ!」と、タムラ先生
「えーと、セルシンが50錠、フェノバールが70錠 あと、うーん・・・」
「そんなもんじゃ死ねないよ!」
「ワーッとまた泣き出す!」
「男に振られたか?」
3. 4秒間の、空白時間
「信也、ったら、また別の女と浮気して!」
「もう10日も帰ってこないの、くやしぃー!」
「そんな奴のために死ぬのか!」
「だって、あいつ、私を売り飛ばそうとしたのよ!」
「そんな事、お前、想像出来たんじゃないか?」
「そうかも!」
「でも、あいつ優しいんだ!」
「優しい奴がお前を売り飛ばすか・・・!」
「お前は、何度騙されたらわかるんだ!」
「いい加減に目を覚ませ!」
男女の関係、疎いはずなのに、タムラ先生全て理解している様な、話っぷりだ。
「もっと、自分を大切にしろ!」
そろそろ、いつもの彼女の泣き上戸が、始まりそうなので、
タムラ先生は退散を考えていた。
そこへ、やっと 看護師の西川麗奈が、ぶつぶつ何か言いながらやって来た。
どうも、一息ついたタイミングで麗奈を呼び出したらしい。
その事に、麗奈も不機嫌。
しかし、麗奈を見てタムラ先生は急に機嫌がよくなった。
「もう一度洗浄やっておこう、安全のために!」
「黙って、手際よく続ける。」
黙って麗奈の手際いい作業に、見とれてしまっている。
「先生、これ持って下さい。」
まるで、先ほどの医者と看護師の行動が逆になっている。
「おぅ」とロートを上に持ち生食を手際よく注入する。
その後の処置も完璧に行われた。
患者は出すものを出してしまい、安心したせいか、
すやすやと寝息を立てている。
「入院だな!」
「はい、部屋は用意してあります。」
「そうか、さすがだなー、君は!」
「後はヨロシクな」
「・・・・!」
「明日、いつものホテルで食事でもどうだ?」
「明日は無理だと思います!」
「どうして?」
「先生忘れたのですか?」
「九州で、学会でしょ!」
「あ、そうか、じゃー今度!」
「そう、今度ですね、はい。」
「先生、いつもそうなんだから!」
「ごめん、ごめん 悪かった!」
「イィエ、いつもの事ですから。」
ばつが、悪くなり、話を仕事に戻し
「すまんがいつもの指示通り、点滴持続だ。」
「処方箋は後で書いておく!」
「よく観察しておく様に!」
「院内で馬鹿な真似、させるなよ!」
言い終えると、さっさと、いつものように当直室に直行。
患者の名前は、内海翠 近くのクラブで働いている。
チーママとして切り盛りしている。
仕事は出来る、商売繁盛、そこへ群がる“悪い奴ら”
人が良過ぎるのと、男に弱い、すぐに騙されてしまう。
ここに運ばれてくるのも2度目。
タムラ先生は、ベッドに寝転んでタバコをふかし、
“翠 なんとか立ち直らせて、やらなければ?” と考える。
あいつ、いい女だよ、なあ・・・・母性を感じてしまう美人だし・・・
-- ---- タムラ先生の夜間外来 −2 --------
DrDr――――Fin―Tamura―――DrDr
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