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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人との賭けに負けてDEX極振りするハメになった男の冒険日記

作者: 卯草翔

「なあ、チュートリアルも終えたことだし、ちょっとゲームでもしねえか?」


「ここゲームの中だぞ」


 俺がツッコむと、目の前の友人は「軽い罰ゲーム的なやつだよ」と少し言い訳がましそうに言った。


「なに、負けたらデコピンとか?」


「いつの時代だよ…もっとスタイリッシュな賭けをしようぜ!」


「っても、賭けるもんなんて持ってねえぞ」


 俺が言うと、友人は人差し指を立てて、チッチッチと左右に振り始めた。


「心配するな、俺達はそれぞれ1000ゴルドを持っている」


「えっ、そうなのか?」


「お前はアクション一筋でこういうVRMMORPGは初めてだから驚くかもしれんが、新しい世界に舞い降りた俺達冒険者は、何故かその土地の通貨を持っていることが多いんだ」


「優しい世界なんだな。アクションだったらいきなり殴り合いだぞ?」


「いや、まあそうなんだが、今はそれは置いといて、俺達は賭けるものを持っていることは理解したな?」


「まあ、理解した」


「じゃあ、成立だな」


「ちょっと待て。なに勝手に成立してんだ」


 「えっ、違うの?」みたいな顔でこちらを見つめる友人。


「こういうの好きだろ?このバトル勝ったらジュース奢りな~、みたいなやつ」


「嫌いじゃないけど、ゲーム開始でいきなりするもんじゃないだろ」


 俺が拒否の意志表明をすると、「期末テストでしばらくやってなかったから、やりたくて仕方ないんだよ…」と友人が泣きそうな声でぼそっと言った。ギャンブル中毒かよ、コイツ。


「わかったから、俺もちょっと楽しそうかもって思ったし」


「じゃあ、早速ルールを決めようぜ。そうだな…500ゴルドでどうだ?」


「所持金の半分か、いい具合にキツい賭けだな。よし、それでいこう」


「じゃあ、何で勝ち負けを決まるかだが…」


 友人が考え込む。


「早速デュエルはどうだ?」


「VRMMORPGやったことあるお前の方が有利に決まってるだろ」


「じゃあ、いつもの100円コイントスか?」


「100円玉ないし」


 再び友人が考え込む。俺もしばらく考えた後、


「「じゃんけんだな」」


 ゲーム内容が決まった。


 お互いに両手を組み合わせて、クネクネと動かす。気合十分、戦う覚悟は整ったようだ。


「よっしゃこいやー!」


「君の手は全部お見通しだ…!」


「「じゃんけんぽん!!」」


 掛け声とともに繰り出された俺の鋭利なシザースは、相手の固く握りしめた拳によって打ち砕かれた。


「よっしゃ、俺の勝ち!」


「お前いつもパー出してるじゃん…」


「期末テストの勉強で、グーを出すことを身に着けたのさ」


 友人が脳みそ空っぽな発言をしながら「500ゴルド~!」と跳びはねる。


「これ、どうやって金渡したらいいんだ?」


「えーと、多分ウインドウ開いて、所持金が表示されてるところをタップしたら…」


 突然、友人の言葉が詰まる。


「ん、どうした?」


「これさ、2連勝したら1000ゴルドにしない?」


「つまり、もう一回じゃんけんするってことか?」


「ああ、そうだ」


「俺が勝ったら、もちろん俺が500ゴルドもらうんだよな」


「当たり前だろ」


 友人がニヤニヤと笑う。こういうことを言い出すヤツは大抵負けると相場が決まっている。


「よしっ、ここで乗らなきゃ男じゃねえ!」


「いくぞ!じゃんけんぽん…!」




 ………負けた。


「ヒャッハー!!1000ゴルドいただきだぜ!」


「ちょっと待て!もう一回やろう!」


「でも、もう賭けるもの残ってないだろ?」


「じゃあ、3連勝したら1000ゴルドと今日の晩飯奢ってやるよ!」


「リアルマネーを持ち出すとは、課金厨か!よし、ラーメンチャーハンセットは俺がもらった!」


「「じゃんけんぽん!!」」




 ……なんで勝てないんだろ。


「っしゃあ!コーラも追加で頼むぜ!」


「お前、人の金だからって…くそっ、もう一回だ!」


「なんだ、次は一週間学食奢ってくれるのか?」


 これ以上ないぐらい腹が立つ顔をしながら、友人がニヤニヤとこちらを見る。


「あっ、いいこと思いついた」


 気持ち悪いニヤニヤ顔が素に戻り、友人がポンと手を打つ。


「いままでの1000ゴルドと晩飯は全てなしでいい。代わりに…」


「代わりに?」


「俺が勝ったら、お前はこれからごくりしろ」


 ……は?


「すまん、その極振りってなんだ?」


「あー、お前知らないのか。極振りってのは、RPGとかで得られるステータスポイントをどれか一つに全部注ぎ込むことだ」


「それって、面白いのか?」


「場合によっては超面白い」


 友人が真顔でうんうん頷く。


「本当に、1000ゴルドと晩飯はなしでいいんだな?」


「全然構わねえよ」


 よし、こんな好条件やるしかねえだろ!!


「もし、極振りしなかったら、一ヶ月間学食奢りだからな!」


「フッ、俺は約束を守るような器の小さい男じゃねえ!」


「準備はいいな!いくぞ、じゃんけんぽん!!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  



「ここのステータス画面を開いて、ここからステータスポイントを振り分ける」


「はい」


「最初は10ポイント持ってるから、そうだな…8ポイントをここに振ろう」


 友人は俺の手を使って、ウィンドウと呼ばれるものに表示されている俺のステータスをポチポチタップする。


 一言端的に言うと、負けた。


「よし、これでひとまずオッケーだな」


「その、STRとかVITとかはわかるんだが、今ポイントを振ったDEXってなんだ?」


「えーっと、確かデクスタリティの略で器用さっていったところだな」


「ふーん、なら俺は今ちょっと器用になったってことか?」


「まあ、そんな感じだな」


「ステータスポイントの残りは2あるけど、これは自由に振っていいんだな?」


「ああ。極振りって言っても、さすがに100%は融通が効かなすぎるからな。お前はこれから入手したステータスポイントの8割をDEXに振ればいい」


「わかった。なんとか頑張るわ」


「じゃあ、今日は解散な」


 友人が晩飯のためログアウトした。視界の端に表示される時刻を見ると18:30となっている。俺も晩飯食うか…



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 晩飯を食った俺は、ゲーム――インフィニティ・ライフ――にログインする前に、攻略サイトで情報を集めることにした。


 攻略サイトのトップページから初心者ガイドの項目をクリックする。まず最初にゲームを始めた人は武器を買えばいいと書かれている。


「レベルを上げるためには敵を倒さないといけないしな」


 読みすすめると、最初は使いやすい片手剣がいいとか、最初はこのモンスターと戦うのがいいとかお得な情報が色々載っている。


 さらに読んでいくと、ステータスポイントについて解説があった。


『ステータスポイントはキャラクターの強さを決めるステータスを上げる大事なポイントです。振り直しは基本できないので、慎重に振り分けましょう』


『ステータスはSTR、VIT、INT、DEX、AGI、LUCの六種類にHPとMPを加えた8種類です。それぞれ、攻撃力、防御力、知力、器用さ、敏捷度、運、ヒットポイント、マジックポイントを表しています』


『初心者の方がまず最初に振るべきポイントはSTRです。このパラメータを上げてないと武器を装備できないと言った致命的な問題が発生します。生産職に就かない方にとっては必須パラメータと言えるでしょう』


『反対に、すぐに上げなくてもいいパラメータはDEXとLUCです。どちらも最初に上げてもあまり恩恵がないので、レベルある程度強くなってからキャラクターの育成方針に合わせて上げていくことをオススメします』


 ………えっ?


 DEXはすぐに上げなくてもいい?あまり恩恵がない?


 俺は質問掲示板にとんで、すぐに質問を投稿した。


『初心者の者です。友達との罰ゲームでDEX極振りにしろって言われたんですけど、みなさんDEXってどれぐらい上げてるものなんですか?』


 数分して返答がきた。


『こんばんは、レベル110の戦士の者です。DEXですが正直言って上げる価値はほとんどありません。生産職の人は別ですが、戦闘職の僕はキャラ自体のDEXは今でも一桁ですw。中々鬼畜な罰ゲームだと思いますが、頑張ってください』


 どうやら俺の友人は鬼畜らしい。


 すぐに俺はその鬼畜に電話をかけた。何コールかして相手の声が聞こえてきた。


『もしも…』


「お前ふざけんじゃねえぞ!攻略サイト見たけど、DEXクソじゃねえか!」


『あー、もう気づいちゃったか』


「気づいちゃったか、じゃねえ!これからDEXに8割捧げるとかやってられるか!」


『じゃあ、一ヶ月学食ゴチになりまーす!』


 コイツ……!!


『まあ、確かにDEX上げてる人は少ないけど、全く役に立たないわけじゃないから。いつもセコい事して俺からジュース巻き上げてるお前なら、きっと凄い使い方が出来るって』


「無責任すぎるだろ!こんなんやってられるか!」


『それなら、ありがたくゴチになりま…』


 端末が壊れるぐらいの勢いで通話終了のボタンを押した。アイツ、次会ったら絶対ぶっ飛ばしてやる。


 俺はフルトランスする用意を済ませると、合言葉を口にした。


「ワールド・リープ!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ログインした俺は攻略サイトに書いてあったように武器屋に来ていた。


「いらっしゃいませ!初心者の方ですか?」


「そうですけど」


「必要であれば各武器の説明を申し上げますが、どうなさいますか?」


「あー、大丈夫です。片手剣見せてもらえますか?」


「わかりました。ゲームを始めたばかりの方はノーマルブレードがオススメですね」


 そう言って、店員さんが店の奥からいかにも初心者向けというような、装飾のない片手剣を持ってきた。


「他に片手剣は?」


「失礼ですが、お客様のレベルは1でいらっしゃいますか?」


「そうですね」


「ですと、他の片手剣は装備レベルが2以上になっているので、装備することができなくなります」


「なら、これください」


「ノーマルブレードですね。1000ゴルドになります」


 1000ゴルドと簡単に言ってくれるが、俺の全財産だ。てか罰ゲームでアイツに金奪われてたら、これすら買えなかったのか。


「お買上げありがとうございました!」


 俺が購入のボタンを押すと、店員さんがニッコリ営業スマイルで剣を手渡した。


 さてと、剣をゲットしたことだし、装備して冒険してみるか!


 俺は慣れない手つきでウィンドウを開けると、そこから装備をタップする。俺は右利きだから、右手装備の部分だな。


 空欄になっている右手装備を選んで、今しがた買った剣を選択する。


『装備できません』


 ………えっ?


『装備できません』


『装備できません』


『装備できません』


 何回も押すが『装備できません』の文字が何回も現れるだけで、一向に剣は装備されない。


 俺は装備してくれない剣を持って先程の店に戻ると、店員を呼んだ。


「すいません。さっき買った剣、装備できないんですけど」


「あっ、先程のお客様ですね。よろしければパラメータを見せてもらってもよろしいですか?」


 あまりパラメータを人に見せるのは避けた方がいいらしいのだが、どうせ隠すもんなんてないしな。


 俺がステータスを見せると、店員は一瞬えっ?とした表情になったものの説明をしてくれた。


「えーと、先程購入されましたノーマルブレードは装備レベル1の他に、STRの要求値が9なんです」


 その情報、初耳ですね…


 言われて自分のパラメータを見ると、『STR6 (6)』となっていた。


 そういや、攻略サイトにもSTRがないと武器が装備できないとか書いてあったな。


「つまり、俺の筋力が足りないということですね」


「申し上げにくいのですが、そうなります…」


 店員さんがなんとも困った顔でそう告げた。


「で、でも、パラメータポイントを振ったらSTR9なんてすぐですから!大丈夫ですよ!」


 店員さんの「頑張ってください!」を背中で聞きながら、俺は店を後にした。


 まあ、STRが足りてないのを見落としてただけで、上げればすぐに解決する問題だしな。


 俺はSTRを上げるためにステータスポイントを振り分けようとして、手が止まった。


「あと、2ポイントしかない…」


 そういえば、さっきアイツがDEXに8ポイント振っていた。おかげでDEXだけ『DEX14 (14)』と群を抜いて高い。


 いや、DEXなんてどうでもよくて、これだとどう足掻いても


「剣が装備できない…」


 俺はログアウトして、災いの元凶に再び電話をかけた。


『さっきは突然切りやがって、一体どうした?』


「どうした、じゃねえ!剣が装備できねえじゃねえか!」


『剣って片手剣だよな?普通、初心者用片手剣なら誰でも装備出来るだろ』


「お前がDEXに極振りなんかしたせいで、STRが足りないんだよ!」


『えっ、STRが足りないってマジ?』


「マジだよ」


『…ひゃ、ひゃははははっっ!!お前、面白すぎるだろ!初心者用の剣とか小学生でも持てるっつの!』


「持てないようにしたのはお前だろうが!」


 コイツ、今全力でバカにしやがったな。


『まあ、そうだな…最悪装備できなくても、他のアイテムと同じように実体化して使うことは出来るんじゃね?』


「どういうことだ?」


『あー、手伝うからとりあえずログインしてくれ』


 ツー、ツー、ツー…


 仕方ない、会ったら一発殴ろう。話はそれからだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 先程罰ゲームをした場所で待っていると、アイツが姿を現した。


「いや、悪い。ちょっとログインに手間取っちゃっ…」


「とりあえずゲームなら殴ってもいいだろ!」


 俺は顔面目がけて右ストレートを繰り出した。が、俺の拳は顔に届く前に掌で簡単に止められた。


「俺、STR13あるから」


 どうやら、俺は武器を装備するどころか、コイツを殴ることすら叶わないようだ。


「で、剣を使う方法だけど」


 俺はウィンドウを可視化させると、友人に手を預けた。


「このストレージっていうところから、持っているアイテムを使ったり実体化させたりできる」


 何度かタップして武器のカテゴリを開く。


「ここからノーマルブレードを選択して実体化させると」


 俺の右手に剣が現れた。うわ、片手で持つと想像以上に重い。


「これで一応剣を使うことは出来るけど、装備している武器と違ってパラメータは上がらないし、操作性も悪いから」


 そう言って俺の手を離した。


「それと、町の中では暴力、武力行為は全部無効化されてるから。というかマナー違反」


「わかった…」


「じゃあ、早速敵を倒しに行こうぜ!」


「そういやちょっと聞きたいんだが、お前何レベ?」


「まだ1」


 ということはコイツは最初の10ポイントの内、少なくとも7ポイントをSTRに振ったのか。


「確か、最初は南門を出てすぐの場所が敵のレベル的にいいんだっけ」


「攻略サイト情報?」


「ああ」


「じゃあ、それを信頼して行くか」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「俺が敵を止めるから、その間に横から攻撃しろ!」


「了解!」


 俺達は南門を出てすぐの街道付近で、赤い豚と戦っていた。


 名前はレッド・ピッグ。俺達の初陣の相手だ。


「よし、今だ!」


「おらあぁっ!」


 相方が剣身で豚の突進を防いだところを俺が斬る。その予定だったのだが


「うわ、重た!」


 俺が振った剣はフラフラとした軌跡を描いて、豚の背中にドスッと埋まった。


「お前、全然斬れてねえじゃん!」


「しゃあないだろ、重くてまともに振れねえんだよ!」


 もう一度トライしてみるが、やっぱり剣身がブレて鈍い音を立てて背中に埋まった。


「斬れないなら、もう殴れ!」


「クソがー!」


 俺は剣をその場に置き、豚の腹を蹴った。が、ぽよんぽよんのお腹に埋まっただけで、全然ダメージになっていない。


「アタッカー交代!防ぐだけなら剣が振れないお前でも出来るだろ!」


「くそっ、俺はお前より器用なんじゃねえのかよ!!」


 剣を捨てて蹴りに行くヤツの、どこが器用っつんだ。


 俺は剣を拾うと、豚の正面に立った。豚が赤い顔をさらに赤くして突進してくる。


「うおっ、ちょっと予想以上の迫力…」


「お前、豚に押し倒されてるようじゃ、いよいよシャレにならねえぞ!」


「剣が振れない時点で十分シャレになってねえよ!」


 俺がなんとか豚を受け止めきると、横から友人が剣を振りかぶって思いっきり背中を斬りつけた。豚が鳴き声を上げながら目の前で爆散していった。


「よし、ようやく初白星だな」


「俺、レベル2に上がるまでずっとこんなんなの…?」


「まあ、レベル上げて剣を装備出来るようになるまでは、一緒にレベリングするから」


 コイツは俺を陥れたいのか助けたいのかどっちなんだ。


「っしゃ!次行くぞ!」


 友人が次の豚目がけて走っていく。あれ、なんか走ってる速さが微妙に違うような…


「あ、俺AGIも上げてるから」


「だろうと思ったよ!」


 俺が剣をえっちらおっちら運んで移動している間に、友人は既に豚に斬りかかっていた。


「さっきと同じ要領で頼む」


「ラジャー」


 俺は豚の突進を受けるため、体の前に剣を突き刺す。その際、あえて剣を縦向きに突き刺してみた。


 ウウーッと鳴きながら豚が剣目がけて突進し、突き出した鼻が刃の部分に軽く刺さった。この状態で剣を前に倒すと


「おっ、切れてる!俺ちょっと器用じゃね?」


「それぐらい猿でも出来るだろ」


 やかましいわっ!と言いたかったが、めんどくさいので口にはしなかった。


「よし、2体目撃破!この調子だと、あと2匹でレベル上がりそうだな」


「えっ、でも俺まだ3分の1ぐらいしかゲージ伸びてないぞ」


「あれ…あっ、あれだ、トドメ刺したヤツは経験値が多く貰えんだよ」


 つまり、一緒に戦っているようにみえて、どんどんコイツとの差は広がっているということか。


「ちょい、次は俺にトドメ刺させろ」


「でも、お前剣で殴るしかできないだろ」


「だから、お前にギリギリまで体力削ってもらって、最後に俺が殴るんだよ!」


 …なんと情けないヤツなんだ、俺は。


「お前、男としてのプライドを捨ててしまったのか…」


「お前のせいで捨てざるを得ない事態になってんだろ!」


 コイツ、悪いことしたなとか思ってないんだろうか。いや、多分思ってないな。


 俺はようやく罰ゲームとしての極振りの意味が理解できた。


「じゃあ、なんとかギリギリで残すから、トドメは頼むぞ」


「おう、任しとけ!」


 俺達は次の標的を見つけ、剣を突き刺す。


「なんか、さっきのよりデカくねえか?」


「そりゃ、豚によって個体差はあるんじゃねえの?」


 そういうものなのか、と思いながら先程と同じように剣を突き刺し、突進を受け止める体勢に入る。


「うわっ、やっぱさっきのヤツより重い!」


「もうちょっと踏ん張れ!俺が斬ったら少しはマシになるだろ」


 俺が止めている間に友人が横から剣を振りかぶって斬る。しかし、豚は勢いを止めることなく突っ込んできた。


「ぎゃあ!腹思いっきり踏まれた!」


「そんぐらい大丈夫だ、もう一回やるぞ!」


 俺は立ち上がり再び剣を地面に突き刺した。そこに鼻頭に剣の筋がついた豚がもう一度突進してくる。


「今度は止めてみせるぜ!」


「よし、体力ギリになった!叩け!」


 俺は突き刺した剣に体重を預け、剣に突き刺さっている豚の顎を全力で蹴った。少しの手応えとともに、目の前の豚がガシャーンと爆散した。


「おっ、なんか今いい感じのファンファーレが」


「レベルアップだ!」


「おっしゃ!」


 多分、今倒した豚は今までよりレベルが高いやつだったんだろう。


「これで、念願の片手剣装備…!」


「他のステータスポイントはDEXに振れよ」


 俺はステータスを開け、レベルアップでゲットした5ポイントをSTRに1ポイント、DEXに4ポイント振り、ノーマルブレードを装備した。現状の俺のステータスはこんな感じだ。


 HP 71/108  MP 63/63

  STR 15 (9)

  VIT 6 (6)

  INT 6 (6)

  DEX 18 (18)

  AGI 6 (6)

  LUC 6 (6)

  パッシブエフェクト 無し


 どうやら、括弧のない数字が装備品を含めた数値を、括弧内がキャラクター本体の数値を表しているっぽい。


 というか、レベル1の時に体力が100だった事を考慮すると、俺豚に踏まれて4割近くダメージ受けてたんだな。


「じゃあ、そろそろスキルポイントも振っていきたいし、一度町に戻るか」


 友人の一言により、一旦冒険は終了した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 どうやらスキルを習得するためには、まずクラスというものを習得しなければならず、クラスを習得するためにはなんらかのギルドに加入しなければならないらしい。


 友人には戦闘職として戦士ギルド、騎士ギルド、魔法使いギルド、ヒーラーギルド、生産職として鍛冶ギルド、裁縫ギルド、料理ギルドの場所を教えてもらった。最初はこの辺りから始めるのが分かりやすいらしい。ちなみに、ギルドの掛け持ちはシステム的に不可能となっているそうだ。


 俺はアイツと一緒に戦士ギルドに加入したかったのだが、STRが二桁もない俺が入っても仕方がないと諦めることにした。


「すいません、こちらに加入したいのですが…」


 戦士ギルドの代わりに俺が訪れたのは鍛冶ギルドだった。


「おっ、新入りかね?ちょっとついてきてくれ」


 いかにも業物造ってそうなお爺さんが出てきて、ギルドの中へと案内される。


「君、レベルはいくつかね?」


「2です」


「初心者か…どれ、少しステータスを見せてもらってもいいかの?」


 俺はここにきてDEX18のステータスを自信満々に見せた。


「お主は、最初から生産職希望でこうしたのかね?」


「いえ、本当はアタッカーとかやってみたかったんですけど、事情があって…」


「だとしても、このステータスは鍛冶をするにはもってこいのステータスじゃ。是非、鍛冶ギルドへ入らんかね?」


「是非ともよろしくお願いします」


 ひとまず、鍛冶ギルドへの加入が決まった。それはいいのだが、これからどうしたものか。


「ちょっと待っておれ」


 お爺さんが俺を残して奥の扉へ消えてしまう。しばらくすると、お爺さんがなにやらゴツいハンマーを持ってやってきた。


「鍛冶ギルド加入のお祝いじゃ。大事にするんじゃぞ」


 どうやら、鍛冶のための道具らしい。俺が受け取ると、すぐにストレージに格納された。


「鍛冶ギルドに所属している間は、奥の鍛冶場の金床と溶鉱炉、修理に必要な材料は自由に使えるぞい。一度、試しに自分の武器を修理してみるとよい」


 そのままお爺さんに連れられて奥の部屋へ。


 部屋に入ると、何人もの鍛冶師が険しい顔つきでゴンゴン金属を叩いていた。


「丁度そこの金床が空いておる。武器を出して砥石を持ってくるのじゃ」


 言われるがままにそれらを持っていき金床に置く。金床必要あるのか?


「…あの、すいません。俺、修理のスキルとか持ってないんですけど」


「それなら、今取ればいいじゃろ」


 俺はウィンドウを開いてスキルと表示されたところをタップすると、鍛冶ギルドと表示され、その中に修理クラスというものがあった。ひとまずそれをギルドポイントで習得し、修理クラスの中にある修理スキルをスキルポイントを使って習得した。


「スキルは大丈夫じゃな。では、次に砥石を水で濡らして、金床の端にある突起に固定するのじゃ」


 なるほど、ここで金床使うのか。


「砥ぐ刃を手前に向けて、両手で浅い角度で向こうに押し出すのじゃ」


「こんな感じですか?」


「そうじゃ。手前に引く時は力を入れずに刃が砥石に引っかからないようにするのじゃ。最悪、少し持ち上げてもいいぞい」


 この作業を丁寧に繰り返し両刃とも行うと、お爺さんが「もういいぞい」と砥ぐのを止めた。


「武器の耐久値が元に戻っとるじゃろ」


「なんか、修理っていうからもっとゴンゴン叩くのかと思ってました」


「あれをするのは、武器が壊れてしもうた時と、武器を新しく造る時じゃ。ただの修理なら砥ぐだけで事足りるわい」


 それ鍛冶じゃなくね?と思ったが、素人同然の俺がいきなり出来るもんでもないだろうしな。


「それと、鍛冶、修理の依頼がそこの掲示板に貼っておるから、まずはそれをこなしていくのもよいぞ」


 掲示板に目を通すと、修理依頼のものや、ランク5以上の片手剣を作ってくれなど難易度の様々な依頼があった。


「それと、最後に」


 掲示板に目を向けていたお爺さんがこちらに向きなおった。


「人の武器を預かるということは、即ちその人の命を預かるということじゃ。一つ一つの作業に魂込めてやるんじゃぞ」


「わかりました!」


 気難しい人かと思ったが、普通にいい人だったな。


 俺は鍛冶ギルドを後にすると、事前に決めていた待ち合わせ場所に向かった。


「おっ、随分遅かったじゃねえか」


「ちょっと、色々あってな」


「俺は早速片手剣の武器スキルを覚えてきたぜ!」


 そう言ってぶんぶん手を振り回す友人。


「そういや、そっちは何覚えてきたんだよ」


「それは秘密だな」


「どうせロクでもないもん覚えてきたんだろ。ま、スキルも覚えたことだし、もっかい冒険行くぜ!」


「また赤豚倒しに行くか」


「いーや、あんなんと戦ってても面白くねえ。もっと強いヤツと戦おうぜ!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「強い敵と戦いたい気持ちはわからんでもないが、これは無理だろ!」


「俺達に敗北の二文字はない!」


 俺達は南門から町を出て街道を5分程走り、赤豚ゾーンの向こうまで来ていた。


 そんな初心者丸出しの無謀さを纏った俺達の前に立ちはだかったのは、ゴツい斧を持った亜人。頭の上に表示されている「アックス・オーク」という名前とその横に6と表示されたレベルがヤバさを物語っている。


「俺らレベル2だぞ!勝ち目ないだろ!」


「だからこそ燃えるんだろ!」


 頼りにならないが頼るしかない俺の相方が、剣を抜いてなにやら構えをとる。


 すると剣が光りだし、次の瞬間ありえない加速度で腕が動いた。


「おりゃー!スラッシュ!!」


 相方が叫びながら光る剣をオークに向かって振った。しかし、オークに届く前に斧で簡単に弾かれた。


「なにっ、俺のスキルが通じないだと!?」


「てか、お前やばいって!」


 スキルを弾かれてがら空きになった相方の腹目がけて、オークが斧を振りかぶっている。


「くそっ!」


 俺は抜剣し、なんとか迎撃に成功したのだが、


「こんなん無理」


 オークの力に負けてしまい、結果、俺の剣が相方の腹にめり込んだ。


「お前、剣めり込んでるじゃねえか!」


「しょうがねえだろ!こっちはSTR一桁だ!」


「威張ることじゃねえよ!」


 一度距離を取って状況を立て直すことにした。相方のHPは幸い直撃を免れたため7割残って…えっ、あれで3割食らうん?


 対して、オークはHP満タンだ。勝ち目ねえだろ。


「よし、逃げるぞ」


「この世界は逃してもらえるほど優しい世界じゃねえよ」


 前を向くと、オークがこちらに向かって斧を振りかざしていた。


「俺かよっ…!」


 なんとか横っ跳びで斧を躱したが、剣を持ってるせいか体勢を崩してしまう。そこにオークが凶悪な笑みを浮かべて近づいてくる。


「くそっ、これでも食らえ!」


 俺は地面に転がってる小石を掴むとオーク目がけて投げた。大して狙って投げたわけではなかったが、小石はオークの顔目がけて放たれ、


「オオッ!?」


 オークの眼球にヒットした。


「今、もしかして俺のDEXが仕事したんじゃね!?」


「ああ、ナイスだぜ!」


 友人がオークが目を押さえた隙を狙って、背後からスラッシュを叩き込む。今回は斧に邪魔されることなく剣が届いた。


「よっしゃ、初ダメージ!」


「でも、2割ぐらいしか減ってねえぞ!」


 ノーガードでスキル当てて2割しか減らないのかよ。


 俺は立ち上がると、相方の元へ戻った。


「この調子でいけばなんとかなるんじゃね?」


「もしかしたらワンチャンあるかもしれねえな」


 俺はそこらに落ちている小石を何個か拾うと、オークの目を狙って投げた。しかし、


「フンッ!」


 オークは斧を顔の前に出して小石を全て防いだ。


「同じ手は通用しないか」


「やっぱりワンチャンないかー」


 オークがこちらに向かって斧を構える。って標的俺かよ。


「お前は死ぬ気で凌げ!その間に俺が後ろから斬る!」


「凌げって、これは赤豚じゃねえんだぞ!」


 そんなことを言ってる間に、オークが脳天目がけて斧を振り下ろしてきた。


「うわあぁ!」


 なんとか剣でガードするも、力の差がありすぎる。俺は片手剣を両手で持つが、それでも押し込まれていく。


 その時、手首の力が抜けて剣が斜めになった。終わったと思ったが、斧はそのまま刃の上をシャーと音を立てて滑り、剣が途切れた瞬間ドゴッと足元に小さな穴を穿うがった。


「今だ!!」


「スラッシュ!」


 オークの背後から相方がスラッシュを首筋に当てた。オークが喉が詰まったかのようにあえぎ、少しよろめく。


「俺だって!」


 俺は頭上に掲げたままの剣を横に振った。砥いで切れ味の上がった剣がオークの額に傷をつけた。


「あと体力半分!」


「行けるぞ、これ!」


 俺達は距離を取って迎撃体勢を整える。今度はオークが相方目がけて突っ込んでいった。


「いや、俺、あんなん防げねえよ!」


 相方がわたわたと慌てる。ここで死なれては勝ち目はゼロだ。


「なんとかなってくれ!」


 走ってもAGIがないため追いつけないので、俺は右手に持つ剣を逆手に持ち替えて思いっきり投げた。剣は投げ槍のようにまっすぐ飛んでいき、驚くことに走っているオークの足首に刺さった。オークの足が重くなり、バランスを崩して前のめりにつんのめった。


「マジで頼もしいぜ!スラッシュ!」


 倒れ込んでくるオークの顔面にお得意のスラッシュが炸裂した。しかし、倒れ込みながらもオークは意地で斧を横薙ぎに振った。


「ぐあぁぁ!」


 相方の腹に斧が直撃し、3メートルぐらいふっ飛ばされた。体力はあと数ドットあるかないかだ。


「俺はもう無理だ!お前だけでも逃げろ!」


「この世界はそんな優しい世界じゃないんだろ!」


 俺は背後からコケかけているオークの足首に刺さった剣を回収して、一旦距離を取ろうとする。だが、その時オークがもう片足で踏ん張り、斧を水平に薙ぎ払った。


「ヤバいっ!」


 慌てて俺は身をかがめると、すぐ頭上を斧がぶんっと通過した。あと少しで首チョンパだった。


 俺は上を見上げると、目の前にオークの股間があった。パンツ的な布を身に着けており、見たくないものは見えないようになっている。


「ここだー!!」


 俺は剣を両手で持つと、思いっきりオークの股間にぶっ刺した。


「ウオッ、ウオオッ!?」


「これが日本の子どもに代々伝わる必殺技、カンチョーだ!!」


 オークが斧を取り落として、悶えるように身を捩った。俺はぶっ刺したまま剣をスクリューしてえぐっていく。


「スラッシュカマせ!!」


「おおぉぉ!!」


 相方がフラフラながらも立ち上がり、剣を構えた。一瞬の間を置いて剣が光り出す。


「スラッシュッッ!!」


 白い光を纏った剣が目を見張る速さで繰り出され、オークの胸を斬った。一瞬、オークの動きが固まり、次の瞬間には大きな音を上げて爆散した。


「か、勝った…!?」


「っしゃああーー!!」


 相方が勝利の雄叫びを上げた。その時、先ほどと同じファンファーレが聞こえてきた。


「レベルアップもきたぁー!!」


「っしゃああーー!!」


 俺は立ち上がると、雄叫ぶ相方とパチンとハイタッチした。


「にしても、なんでこんな見違えるほどに強くなったんだよ!?」


「俺のDEXが仕事したんだよ!!」


「おおーっ!DEXすげえわ!正直、戦闘職じゃ産廃パラメータだと思ってたわ!」


「DEX極振りを舐めんなよーっ!!」


 俺は全力のドヤ顔で誇らしげに叫んだ。でも、正直、俺自身もDEXなんて力にならないと思っていた。


 STRやAGIのように筋力がアップしたり、速く動けるようになれるわけじゃない。だけど、DEXは強敵とも対等に戦うことのできる技術を授けてくれる。


 そりゃ、もちろんSTRの方が使えると思うが、でも、DEX極振りも面白いのかもしれない。


 俺はこれからのDEX極振りライフに少しだけ可能性を感じて、IL初日の冒険を終えた。


読んでいただきありがとうございます!

評価や感想欄で感想、意見を下さるとありがたいです。特に鍛冶のシーンは付け焼き刃の知識で書いたので、「ここ違う!」という箇所があれば感想欄に書いていただけると、今後の参考にさせていただくことができます。

よければ、連載の「インフィニティ・ライフ」も読んでみてください!

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