人形劇縦書き表示RDF


人形劇
作:石子


その町には人形劇の劇場がありました。
人形たちはいつもいろいろな世界をみせてくれるので、たくさんお客さんが来ます。
それは遠くの異国の物語だったり、不思議な世界のお伽噺だったり、日常を切り取ったような身近なお話だったり。
子供たちだけでなく、この町の人たちはみんな人形劇が大好きなのです。
人形たちもそのことに誇りをもっているので、人形つかい達と力を合わせていつでもすばらしい劇を観てもらいたいと思っていました。
彼らはいつものようにおしゃべりです。
今日はどんなショーを見せてくれるのでしょう?

「私、ほんとうは遺産なんていらないのよ。おじい様が私のことを想って遺してくれたお金もお屋敷も、数々の装飾品も他の人から妬みをかうだけ。一緒に住んでいるおばさまは今まで散々酷い仕打ちを私にしていたのに、急に媚を売るようにやさしくなったのよ。魂胆がみえみえで、もううんざりだわ」
アルメリタは伏せ目がちにそう言いました。
それでもよく通る彼女の声は劇場の隅まで響いて聞こえます。
長いまつげですらっとした体型の彼女はいろいろな衣装に身を包み、いつもこの劇場の主役です。
今日はお屋敷の遺産のお話でしょうか。

そして、その彼女に向かい合うように立っている二人の男性。
ひとりはハンサムな顔立ちで、王子様の役がとても似合いそうなトーマ。
もうひとりは少し丸い体型で、やさしい顔立ちのコーネリアです。
「アルメリタはなにも悪くないのにね。でも、このままでは君の命を狙う人達がでてくるかもしれない。そのことがとても心配だよ」
トーマが大袈裟な動作とともにそんな事を言います。
「そ…そうだよ。アルメリタが危ない目に遭うかもしれないなんて、考えただけでぞっとするよ」
コーネリアも遅れを取るまいと、前に出てアルメリタに語りかけました。
そんな二人を少し満足そうにちらりと見ると彼女はもう一度目を伏せたのでした。
「ああ。二人ともありがとう。私のことを心配してくれるなんて、やさしいのね」
言いながら中央に移動します。
「私も屋敷にいてもいつも不安なのよ。私、父も母もはやくに亡くしたでしょう?おじい様は私を溺愛していたから遺産をすべて私に遺してくれたんだけど、本来なら遺産を受け取る権利があった人は私を殺そうとしているんじゃないかって思うの」
アルメリタはまさに悲劇のヒロインそのもの。悲しそうにそんなことを言いました。
トーマもコーネリアもそれを聞いて、やはり悲しそうに俯きます。
「やはり、おばさまは私のことが憎いでしょうね。せっかくおじい様と一緒に暮らしていたのに、一銭も遺産をもらえないなんて。でも私がもし死ねば、遺産はおばさまのもの」
アルメリタは意味深にそんなことを言います。その言葉を聞いて、トーマとコーネリアの二人はハッと顔を上げました。
「あのおばさんは前からアルメリタのことを好きではないようだったからね」
「私、どうしたらいいかしら?」
「ボク達だってなんとかしてあげたいけれど……」
会話が途切れ、しばらく沈黙が支配します。しかし、すぐに顔を上げたのはいつも穏やかな表情のコーネリアでした。
「アルメリタが危険な目に遭う前に、おばさまの方を何とかしたらどうかなぁ?」
アルメリタとトーマは体ごと彼の方を振り向きます。二人には彼の言うことの意味がわかっているようでした。
それを感じ取ったのか、コーネリアはそのままセリフを続けます。
「おばさまが死んでしまえば、他には遺産を受け取れるほど近しい親族はいなかったはずだよね?例えば事故にみせかけて亡き者にしてしまうのはどうかなぁ?」
コーネリアは変わらぬ表情でそんなことを提案します。
「私、そんな怖いことできないわ」
「もちろんアルメリタは何もしなくていいんだよ。ボクがなんとかするから」
「あら。そんなに私のことを想ってくれているなんて、うれしいわ」
アルメリタは嬉しそうな声でコーネリアに近づきます。それを見ていたトーマも一瞬思案するように動きを止めたかと思うと、すぐに二人に向かって言いました。
「コーネリアだけでは不安だな。僕もアルメリタのために協力するよ。計画を立てるのは僕のほうがきっと得意だからね」
「トーマまで、私のために協力してくれるなんて、とても心強いわ。非力な私はなにもできないけれど……」
「君は何もしなくていいんだ。僕とコーネリア二人でなんとかするからね。……まずはおばさんを人気の無いところに呼び出して……」
計画は順調に練られていくようです。


そんな様子を、お客さんの入っていない静かな劇場の隅で聞いていた人形たちはひそかに言葉を交わし合います。
「アルメリタはいつも私を操って、とても素敵な声で素敵な演技をつけてくれるけれど、とても狡賢いのよね。でもそういうところも好きだわ。もう長い付き合いだもの」
「僕たちが出演する劇なんかより、彼らの方がよほど劇的な展開を向かえそうだね」
「でも、この劇場もアルメリタの受け継いだ遺産のひとつだもの。計画がうまくいけばきっとここはこの先も安泰だよ」
「ええ。どんな手段を使ったっていいわ。彼らがこの人形劇場をとても誇りに思っているのは確かだものね」
「これからも良い劇を続けてくために、是非、彼らの計画が成功してほしいね」
人形たちのおしゃべりは続きます。
もちろん、その声は三人の人形つかい達には聞こえませんが……。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう