2.一目惚れだった。 後
教室に着くと当然、クラスメイトから冴との関係を聞かれた。とりあえず友人の一点張り。教師と生徒が友人てのもあまりない事ではあると思うんですけど。 冷やかしも授業も適当にスルーし、ようやく訪れたのが昼休み。学生生活において、放課後に次ぐ人気タイム。俺は学食派なので、食堂へ行くわけだが。
「西治、お昼一緒に食べよー!」
バスケットボールのディフェンスのごとく行く手を遮ったのは、権力魔人。
「冴さん、学校では教師なんですから節度ある行動取って下さいよ」
「いいじゃんよ。ほら、行くよ!」
手を繋ぎ教室を出ると、クラスメイトどもの冷やかしが聞こえて来る。
しかし、そんな事が気にならない程に俺はうれしかった。理由はどうあれ、今確かに女性と手を繋いでいる。彼女いない歴イコール実年齢なため、こうして手を繋いだ経験などないわけだ。
連れられて来たのは屋上。万年解放しっぱなしの屋上。ベンチやら花壇やらがあり、公園のような雰囲気で、校内デートに持ってこい。
俺と冴は、雨風に打たれて傷みの目立つベンチに腰を下ろした。
とここまでは、まあいい。しかしだ、俺学食派。つまり昼飯ないんですけど。
「俺弁当持ってないんで、悪いけど学食行くから」
「はっはっはっ! りん姉から聞いてましたよ! ほら、これ!」
渡されたのは少し小さめの2段弁当箱。形は楕円でピンク色。小学女子が遠足なんかで持って行くような、なんとも可愛いらしい弁当箱だ。
「俺に?」
「だよだよ!」
だよだよ? 不思議な呪文ダヨダヨ? まあ、とりあえず弁当を頂きましょうかね。
開けた中身は、半分白米、残りはボイルドブロッコリー。
「なにこれ?」
「ブロッコリー」
「……だね」
ツッコむのも面倒になった俺は、ブロッコリーを頂く事にしました。ドレッシングブロッコリーにマヨネーズブロッコリー、ケチャップブロッコリー。ブロッコリー一品だが、味は様々。調味料バンザイ。
「どう?」
「あの、ブロッコリーだね」
「美味しい?」
「いや、ブロッコリーだからさあ、美味しいって言うかブロッコリーだから」
俺の感想が不満なのか、急に黙り込むと、ブロッコリーをもさもさ。
三つ目辺りで動きを止め、俺を見るや苦笑い。
「はは、……ごめん」
「別に謝る事はないけど」
「私、料理した事ないから」
ブロッコリーも気になるところだが、ご飯も粥のようにべちゃべちゃ。料理した事ないどころか、手伝った事もないんだろう。
理由はわかってる。“病気だから”“先は短いから”周りから特別扱いを受けて来たはずだ、今更当たり前の生活に馴染めなんて無理な話だろうな。
「なあ、俺が教えようか? 清美叔母さんから料理教えてもらってるから、簡単なもんなら出来るよ」
「西治、兄ちゃんに似て優しいね。それじゃ、よろしく」
冴、本当に父さんが好きなんだな。俺を通して父さんを見てるんだろうけど、それでも、冴が振り向いてくれるなら俺は……て何考えてんだ!?
「西治、どした?」
「いんや。ところで……レタスとキャベツは違うものだって知ってるよな?」
「……し、知ってるよ」
俺のいる反対側を向き、目を合わせないところを見ると、そうか知らないわけか。しかし……なんだろう、この胸を締め付ける感じ。なんでもこなせそうな人間の持つ可愛いらしい弱点って、なんともイイね。
って言うか、この気持ち、抑えようがない。
「冴」
「――っ!」
出来心とかよく言うけど、あんなもん、つまんねぇ言い訳だな。俺はそんな言い訳はしない。この気持ちは、この行動は、出来心なんかじゃない。俺は冴を好きになっちまった、らしい。
冴は突然の口付けに驚いた風だったが、すぐに微笑むと目を閉じ、俺の首の後ろに腕を回した。
数分? 数秒? もしかしたら一瞬。今までみたいなママゴトのようなキスではない、心が触れ合うような、それは病み付きになるように気持ちが昂揚し、心地良かった。
「ねぇ、西治」
「なに」
「自分を通して、兄ちゃんの事見てるって、思ってたでしょ?」
女は怖いな。やっぱりわかってたのか。そのくせ、隠してたとは。
「最初に言ってたしな。父さんが好きだったって」
冴はその時の事を思い出したのか、顔を赤くさせて照れているようだ。今更、とも思ったが、それが女心ってヤツなんだろうな。確かに理解できん。けど、理解出来なくてもいいよな。
「うーん……私も最初は西治の雰囲気が兄ちゃんに似てたから惹かれたんだと思う。彼氏になってとか言って、ごめん」
謝られたら、何も言えないし、別に俺は……。いや、ちっとがっかりしてる。
「いいよ、もう」
「……あの、もう一回改めて言わせて」
冴はベンチから立ち上がると、俺の前に立ち深呼吸。少し赤い頬を平手で軽く2度叩くと、俺に睨むような視線を向けた。
「好きです! 付き合って下さい!」
30の女が18のガキ相手に、純粋過ぎる真っ直ぐな告白するなんてな。これを聞いて笑うヤツはいるだろうけど、そいつらに言いたい『お前は出来るのか』って。はっきり言って、俺は無理だ。恥ずかしいし、歳の差を考えればフラれるのなんて目に見えてる。だから、俺は、
「冴。それ、俺のセリフ」
「……えっ!?」
だから、俺は、目の前に立つ、純粋で真っ直ぐ過ぎる不器用な女を抱きしめ、2度と離さないと誓った。 歳の差? くだらねぇよ。愛がどうだ、なんて臭いセリフは言えない。一言何か言えってんなら……。
「好きになっちまったんだから、しょうがねぇよな」
「……ありがとう」
しょうがない、か。本当はそうじゃないさ。俺は一目惚れだったよ、冴。
「西治……」
「なに」
「苦しい……」
「あっ! ごめん!」
冴から体を離すと、互いに目が合い、くすくす笑った。
学生生活、後一年だけど……楽しくなりそうだ!
なんつって……
一目惚れだった。
おしまい
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