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第92話:お祭り〈その3〉 ★
 未来が人の流れのない屋台の角を陣取り、例の口笛を吹いていた。左手には金魚をすくうための道具を手にしているが、まったく使用していない。今や未来のうちわとなって、風を起こしている。

 未来が口笛を吹く度に、金魚がボールへと勝手に飛び込む。ボールの中にはもちろん水が張ってあるが、わざわざ飛び込みたいとは思わないだろう。未来の命令であるから飛び込むのだ。

 金魚達は律儀にも指示に背くことはない。涙が出てくる光景だ。金魚達が狭いボールの中にポンポンと入って行く姿は何とも哀れである。ある一定の金魚がボールに溜まると、未来が強く口笛を吹いた。その合図で、金魚達が一斉にボールから飛び出る。

 拍手喝采、周りの声が鳴りやまない。屋台のおっさんまで拍手している。お前が観客に回ってどうするのか? 未来の芸を見た春日井達が驚き賞しながら、口を開く。まずは、お馴染みの春日井からだ。

「すげー! 金魚が芸してるぜ! 金魚って、頭良かったんだな!」

 お前よりも頭いいかもな。思わず言葉が飛び出そうだ。続いて青木が言葉する。

「凄いですね。金魚があんなに懐くなんて知りませんでした」

 一般人には懐かないだろう。未来であるから特別なのだ。大杉が未来を指差し、はやし立てる。

「あのイケメンのお兄さんが金魚を操っているのよね? 今から、金魚を操るテクニックを教えてもらいましょうよ! そうすれば、こんどから金魚すくいの天才になれるわよ」

 止めてくれー! それだけは勘弁だ。そんなことをすると、俺と未来が知り合いだとバレてしまうだろ。また俺に妙な噂が流れてしまう。次は、怪しいサーカス団の一味だと誤解されそうだ。

 俺が拒否オーラを放っていると、ウェスタが未来の所へと走りだした。あ、もう無理だ。俺は諦めて未来の所へと進み出る。足が重い。せめて未来が妙な真似をしないことを祈る。

 未来が俺に気づき口にする。

「あ、タックンだ。もしかして、後ろの人達はお友達かな?」
「タックンの知り合いかよ!?」

 春日井が仰天しながら俺に向く。俺は未来から目を逸らして口を開く。

「あぁ、ちょっとな……」
「どうも初めまして。拓海の兄です」
「マジかよ! タックンにお兄さんなんていたんだ!?」

 未来のバカな言葉に、春日井が反応する。俺は未来の頭をぶっ叩いて否定開始だ。

「そんなわけないだろ。あの姉貴にこんな兄貴がいたら、今頃俺はおだ仏してる」
「柊君のお兄さん、初めまして。私は大杉おおすぎ美月みずきって言います。お兄さんは独身ですか?」
「そうだよ。今はフリータイム。暇を持て余してるところなの。せっかくだから、俺と付き合ってくれない? 十分に楽しめると思うけど……」
「黙ってろ!」

 俺が未来を殴りつける。こいつに出会ってから、俺の暴力レベルがアップした。シバルがこいつをむやみやたらに叩く理由がよくわかる。こいつがいらないことを言っては行動に移すからである。

 未来が頭を抑えながら、可愛い子モードで俺を見つめる。

「何するの、タックン! 頭叩くなんて、ひどいよ〜」
「お兄さんがお姉さんに進化した!?」
「何ですか、今のは!?」

 春日井と青木が仰天する。大杉と桜井に関しては言葉もないらしい。呆然としながら、未来に目を向けていた。俺は未来の頭をもう一度叩いて、睨みつける。

「こんな所でバカなことをするのは止めろ」
「いった〜い。こんなにポコポコ叩かれたら、本当にバカになっちゃうよ」

 未来が頭を抑えながら、眉をしかめる。流石に参ったらしい。ここで桜井が口を開く。

「えっと……お名前は?」

 俺達は自己紹介を済ませ、お喋りをしていた。ふいに未来が口を開く。

「ところでさぁ……。さっきから気になっていたんだけど、シバ君とヒュプ君はどこに行ったの?」
「え?」

 俺はしばらく沈黙していたが、すぐに辺りに目を向ける。二人がいない。ヒュプは理解できるが、シバルが迷子? そんなことがありえるのか?

 春日井達はよくわかっていないようだが、桜井に関しては理解したようで周りを一緒に見回している。しかし、いない者はいない。未来がため息をつきながら声を漏らす。

「シバ君のいる場所は想像がつくよ。だけど、ヒュプ君はどうかな? ちょっとわからないね。俺はシバ君を探してみるから、ヒュプ君は君達に任せるよ」

 未来が俺と桜井に目を向ける。俺は頷き、ウェスタを見る。こいつまで迷わないように気を配らなければいけない。未来は春日井達に顔を向け、言葉する。

「俺はちょっと用ができたから、また機会があれば会おう。じゃあね」

 未来は一言述べると、バク転をしながら、近くにある木の枝へと飛び移った。俺達がぶっ魂消る中で、忍者のように木から木へと飛び移りながら消えて行く。最後の最後に余計な事をする奴である。

 こんな展開、どのように言い訳をすればいいのだろうか? 言い訳などこれっぽっちも思いつかない。俺が言葉を無くしていると、春日井と大杉が目を輝かせながら口を開いた。

「カッコイイー!」

挿絵(By みてみん)

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