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第85話:捨て犬〈その6〉
 夜中になり、夜の散歩を開始する。真夜中なのにウェスタとヒュプが元気溌剌だ。それもそのはず、こいつらはこの時間帯を待ちに待っていたのだ。それは散歩の際に、チビの紐を持つことができるからである。

 とりあえず、公園までは俺がリードを持つことにする。公園に着いたら、人目を見て交代だ。今回は首輪を強めに締めているため、外れることはないだろう。チビの様子を見て、苦しくない程度にしておいた。

 公園へと到着する。俺はヒュプに紐をわたす。ヒュプが喜んで受け取り、公園内を駆けだした。ウェスタも嬉しそうにヒュプの後を駆ける。

 俺は二人を見守りながら休憩しようと思い、ベンチに目を向けた。ベンチには先客だ。例の黒猫である。何やら必死に格闘している。俺が近づいて見ると、黒猫がポテトチップスの袋を躍起になりながら開けようとしていた。

 俺は黒猫に近づき声をかける。

「おい、開けられないのか?」
「ニャア」

 黒猫が俺に向いて助けを求める。仕方がないので、俺はポテチの袋を持ち上げ開封してやる。俺がポテチの袋をベンチに置いてやると、黒猫がむさぼり食べ出した。猫がポテトチップスを食べるなんて聞いたことがない。こいつは猫ではないだろう。一体なんなのか?

 ヒュプに目を向けると紐を持っていない。次はウェスタの番だ。ウェスタが紐を持ち、チビを連れて走り回っている。チビも楽しそうだ。俺はベンチの隅に腰を掛ける、ポテチを挟んで黒猫だ。

 ウェスタ達の様子を伺いながら、黒猫に目を向ける。ポテチに必死だ。そんなに美味いのか? おもむろに俺が黒猫に言葉する。

「それで、お前は何なんだ?」

 昔、シバルに聞いた質問と同様のものだ。黒猫は俺の問いを無視する。ポテチを食べること以外に興味はないようだ。仕方がないので、俺は黒猫を様子見る。
 黒猫はポテチの袋に顔を突っ込んで、どんどん奥へと進んでいく。バタンッと後ろの扉が閉まり、出られなくなるようなトラップに、見事に掛るタイプであろう。

 黒猫をポテチの袋に入れて持って帰り、シバルに見せて質問したいが、命の恩人にそんな失礼な事ができるわけがない。俺が黒猫に目を向けていると、黒猫がポテチの袋から顔を出した。満足したのだろうか。俺が黒猫に問いかける。

「もう食べ終わったのか?」
「ニャウ」

 黒猫が首を振る。やっぱりただの猫ではない。猫が人間の質問に答えるとは思えない。俺が続いて口を開く。

「俺にもわけてくれないか?」
「フー!」

 黒猫が毛を逆立てる。そんなにポテチが好きなのか? こいつの人生はポテチで出来上がっているらしい。身体に悪いことこの上ない。俺と黒猫が奇妙なやり取りをしているところに、ヒュプがやってきた。ヒュプが黒猫を指差し、口を開く。

「猫!」
「そうだな」
「飼う!」

 何を言い出すんだ、こいつは? この猫はお前らの命の恩人だぞ。そんなお偉い方を飼うだなんて、恐ろしい言葉を吐くものだ。

 しかし、ヒュプの言葉は冗談ではない。ヒュプが黒猫を捕まえようと追いかける。黒猫は俊敏に避けるが逃げようとはしない。
 それもそのはず、まだポテチが残っているのだ。ここで逃げるとポテチを置いていくことになる。黒猫にとってポテチは命そのものだ。

 俺がヒュプを言葉で止める。

「止めとけよ。それに今はチビがいるだろ?」
「チビと猫!」とヒュプ。
「フー!」

 黒猫がヒュプに威嚇する。仕方がないので、俺がヒュプを説得だ。

「駄目だぞ。それでなくても、あのアパートはペット禁止なんだ」
「大丈夫!」

 ヒュプが無茶を言う。俺が改めて説得を試みる。

「それに、チビだって、いつかはいなくなるんだぞ。そんな寂しいことは二度とご免だろ?」
「ん〜」

 ヒュプが悩んでいる。ガサゴソと音がし、俺が顔を向けると、黒猫がポテチの袋を引きずりながら逃亡しようとしていた。ヒュプがそれに反応する。

「やっぱり飼う」

 ヒュプが黒猫に襲いかかる。黒猫はポテチを諦めて逃げようとするが、ヒュプの手がわずかにかすった。黒猫がそのままぶっ倒れる。ヒュプの能力により眠らされたのか。俺は今後の事件を想像しながら、倒れる黒猫を見つめていた。

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